「俺は王子だし、王様になるべきなのかもしれないよ。でもよお。俺は俺の星の制度には馴染めないんだよ。おかしいだろう。いつもなら、地球人の悪口を言うんだけどよ。本当は俺、自分の星があまり好きじゃないんだよ。いや、好きだよ。自分の星だからさ。自分が生まれた星だからさ。でも、俺、地球で孵ったわけだろう。いや、そんなこと関係ないんだよ」
ギャオスは、自分の言っていることが分からなくなると、首を百八十度後ろに曲げたりする。首が真後ろに回る生き物なのだろうが、そうと分かっても少し気味が悪い。
「チョコレートあるよ。デメルのチョコレート。あれ、お前、好きだろう。あっちじゃ食べられないんだろう、チョコレート」
そう言うと、ギャオスはくるりっと首を回して、その三角の顔と頭を激しく上下させた。羽根も左右に広げ、羽根の中央あたりの上部についている手と思われるものを震わせる。喜んでいるのだ。
「俺の星はさあ。全体主義のようなところがあるんだよ。言っておくけど、俺の父親、現王が圧制を強いているからじゃないよ。そうした習性なんだよ」
「あっち向いてほい」
何も言わずに、右の人差し指をギャオスの右に向け、ついでに筆者自身も顔を右に向けた。ギャオスは左を向く。つまり、筆者と同じ方向を見てしまうのだ。今度は指を下に向け、顔は上を向いた。ギャオスは上を見た。つまり、筆者と同じ方向を見てしまう。彼はそうした習性なのである。やっぱり彼は鳥に近いのだと思う。
「それだよ。その習性だよ。俺はそれが嫌いなんだよ」
「でも、最近は、日本もそんなものじゃないのかな。それをウルトラマン次郎は日本人はロボットにでもなろうとしているようだって言っていたよ」
「そうだな。インターネットの正義感とか、ちょっと気持ち悪いよな。正義の弱い者いじめって感じするよな。悪いヤツがいる、皆でとことん成敗しようって感じな。あれは俺の星でさえないやつだな」
正義の弱い者いじめ、それは確かにそうかもしれない、と、筆者は思いながら、冷蔵庫に入れておいたデメルのザッハトルテを半分に切ってギャオスに出してやった。けっこうな散財だが、今夜のギャオスには、そのぐらいして慰めてやりたいと思ったのだ。
ログインしてコメントを確認・投稿する