mixiユーザー(id:2938771)

2020年01月05日01:14

47 view

あの時、SМは終わっていた、その8

「ダメ、お尻はNGなの。言ってあるから。書いてあるはずだから。宣材見て。事務所に聞いて。お願い。ダメ、絶対に無理。それだけは嫌なの」
 SМビデオの台詞ではない。ただのグラビア撮影の時の台詞だった。モデルの女は涙を流していたが、緊縛されてしまっているので逃げることは出来なかった。泣きながら、最後の最後まで拒み続けた。
 そして、全てが終わった。その女は、三人の男に連続でお尻を犯されて行った。痛い、苦しい、もう帰して、と、訴え続けていた。ビデオではないので、その声はどこにも残らなかったが、その涙でぐしゃぐしゃになった顔は撮影され、グラビアとして残された。衝撃的なグラビアとなったのである。
 ところが、縄を解いた後、女はぐったり疲れたように床に横たわり、誰かお尻じゃなくて、今度は前で、もう一度して、お願い。それがダメならバイブを、と、そう言ったのだった。ビデオではないので、そちらは残らなかった。撮影も終わっているので、その様子は写真にも残らなかったのである。機材などの片付けに追われて誰も相手にしないと、その女は怒りはじめた。モデルの女を不機嫌なまま帰すことはエロ本屋には出来ないのだった。次の仕事も頼む可能性があるからなのだ。仕方なく筆者がバイブで彼女の相手をした。すると、お尻にバイブを、そして、舌で前を、と、その女は要求して来た。お尻が好きなのだ。それなのにビデオでもないのに、撮影中には、嫌がっていたのだ。つまり、抵抗したり、嫌だと拒絶したほうが自分が興奮するからそうしていたというわけなのだ。
「この出版社の人たちは、いいのよ。あれで強引にしてくれるから。他の出版社はすぐに、そうなの、大丈夫、確認するね、と、引いてしまうのよ。そういう演技だからって、そんなの恥ずかしくて言えないじゃない。だから醒めてしまうのよ。あーあ、これで、バイブじゃなくて、本物で最後にしてくればここの出版社の人たちが最高なんだけどなあ」
 スチール撮影だと言うのに演技をする。本気で興奮し、興奮したら、もう、SМはどうでもよくなって快楽に走る。不思議な女だった。
「最近は、SМ雑誌の人は、優しい人ばかりになったから」
 優しい人ばかりとなり、そして、行儀の良い善人ばかりになったから、彼女は演技をし、そして、気分だけでも高めようとしていたのだ。
「して欲しいのよ。でも、してもらうのは嫌なの。してもらうぐらいなら、何もされないほうがいいの。でも、して欲しい。仕事だっていう理由で強引にしてもらいたいのよ。そこが分かってもらえなくなったのよ」
 そんなものは、はじめから分かっていなかった。エロ本屋はモテない集団だったので、仕事を理由にしたいことをしていただけだったのだ。ただし、次の仕事のこともあるので、ギリギリで自制はしていたのだ。それだけのことだった。
 筆者は彼女に言われて気づいたのだった。見回せば、そんなモテない男たちは皆どこかにいなくなっていた。残っていたモテない男たちも、いつの間にか、そこそこにモテたりしていた。モテるから優しくなっていたのだ。モテるから強引なことはしなくなっていたのだ。どうせ嫌われるのだから好きなことをする、どうせ自分を嫌う女なのだから、女ではなく読者の喜ぶことをしてしまおう、と、そんなエロ本屋はいなくなっていたのだ。そして、見回せば、ダサくて気持ちの悪い見掛けのエロ本屋もすっかりいなくなっていたのだった。それでも、まだ、女にモテないまま、いろいろな人に嫌われながら筆者はエロ本を作っていたのだった。取り残されたような気持ちになった。気が付けば、すでにエロ本も、マニア世界も、SМも、終わっていたのである。
4 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2020年01月>
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031