mixiユーザー(id:63255256)

2019年11月19日01:33

214 view

義昭が黒幕の意味になるか?

○原本発見の「明智光秀の手紙」を読んできました。残るは「追伸」です。

●六月十二日「明智光秀の土橋平尉宛」追伸
「尚以、急度御入洛義御馳走肝要候。委細為上意、可被仰出候条、不能巨細候」

○ここで光秀は、前文にあった「上様の御入洛の件」を繰り返しています。「急度」は急ぐ意味ではなく、「必ずや」とか「絶対に」などの強調の意味。そのうえで「御馳走肝要」と繰り返しますので、土橋に向けて「上様の御入洛に、協力することが大事だ」と、重ねて念押しをしています。次の「委細」は、現代語なら「詳細」で、次の「為上意」は「上様から御命令として」で、続く「可被仰出候」は、「可」が推量で「被」が敬語、つまり「上様が仰せ出されるだろう」です。最後に付く「条」は「〜だから」の意味で使われる言葉。よって「詳細については、上様がおっしゃるだろうから」となります。そして「不能」は「あたわず」で「私にはできない」の意味。「巨細」は文字どおりに「巨大なことも、細かいことも」の意味。すなわち「御入洛に関する詳細は、上様が御指示なさるだろうから、そちらに従ってください。私のほうでは何も指示できません」の意味。

○さて。この手紙を「原本の新発見」と発表した大学教授たちは、「足利義昭黒幕説」を主張していますから、ここで言う「上様」を義昭の意味だとして、追伸の文章を「義昭が裏で指示を出していたことの証拠」としているんですね。確かに言葉の上では「上様がおっしゃるだろう」と書いていますし、「御入洛に協力するのが大事」と重ねて強調しています。でも、手紙全体の文意は、どうです?

○試しに「上様」を、光秀の背後にいる「主君」の意味と仮定して、「前文」を読み直してみましょう。最初の「如仰未申通候処に」は「初めてお便りをいただきました」で同じですが、続く「上意馳走被申付而示給」は少し違って、「土橋が上様から協力命令を受けて、命令を受諾したことを光秀に示してきた」となるでしょう。すなわち「味方になります」と伝えてきたわけで、光秀が「快然候」で「喜んでいます」と返事をした意味。問題は次の「然而、御入洛事、即御請申上候」です。この場合の「御入洛」は「土橋が京都へ入る」の意味になります。なぜならば、「上様が光秀の主君」である以上、特に親交もなかった土橋を通して「光秀が上様の御命令を知る」理由が、何もないじゃないですか。よって「示し給い」は「土橋が、自分のことを示してきた」の意味にしかならないんです。この場合「入洛」に付く「御」は、敬語でなく丁寧語となります。つまり「土橋さんが御入洛を示してくれた」です。光秀が京洛を制圧しているところに「味方になります。兵を率いて京へ参ります」と伝えてきたから、それを光秀が即決で了解した意味ですね。ただし、その場合、次の「被得其意」は何を意味するの?

○「私の意図を理解してくれ」と言う「光秀の意図」とは何か。土橋が味方になること、または京都へ来ることに、光秀が「ただちに御請け」で「即決の了解をしたこと」に、何か特異な意味でもあるのでしょうか。ちなみに「義昭黒幕説」を主張なさる教授は、文中の接続詞「然而」を、「これは逆接の接続詞で、しかれども、と読むのだ」と言っています。その場合、最初の一文の意味は元に戻りまして、土橋が示してきたのは「上様の御入洛の件」ですが、すると光秀は「わざわざ報せてくれたけども、御入洛の件なら、とっくに了解済み」と答えていることになって、しかも「被得其意、御馳走肝要候」ですから、「私はとっくに知っているんだ。わかったら、しっかり上様への協力をやりなさい」の嫌味な物言い。

○「候文」というのは、いちいち主語を書きませんし、補語や目的語の省略もひんぱんで、過去形や現在形の区別もとぼしいわけですよ。だから、無理やりに読もうとすれば「どんなふうにも読めてしまう」ことにはなるでしょうけど、たとえそうしたところで、細かい点での「言葉の意味」はズレてしまうし、文脈を含めた「全体の文意」も崩れていきます。だいたい「然而」を「逆接の接続詞」とまで主張して、「光秀は、土橋に伝えられる前から、義昭の入洛要求を知っていた」と解釈するんなら、「即御請」を「前から御受けしていた」と読むつもり?

○「然而」は順接です。漢文から来ている言葉なので、漢文の「読み下し」と同じに「しこうして」と読みます。直訳するなら、文語の「しかして」でいいのですが、現代口語で意訳する際は、ちょっと苦労する言葉。今回の場合なら、光秀の感情「快然候」を受けて「即御請」に意味をつなぐので、「喜んでいます。そういうわけですから、ただちに了解」という感じですね。要は「光秀が快諾した意味」を示すはず。すると、そこを不思議に思いませんかね?「上様」を義昭と見るならば、光秀は義昭の入洛要求を「土橋に伝えてもらうまで知らなかった」ことになるわけです。義昭は「本能寺の変」を知った途端に「私を京都へ戻らせてくれ」と光秀に要求してきたわけで、事前共謀は「なかった」ことになるわけです。なのに光秀は「義昭の入洛を即決承諾」ってわけなんです。なぜ、承諾?

○実を言えば、私も「上様=義昭」説に納得しているんです。だからこそ「即決で承諾したのは、事前に入洛の件を知っていたからだ」と本末転倒の解釈をされると、困るんですよ。そんなだから「大発見の原本」が価値を失ってんじゃんか。
3 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する