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2019年07月07日19:43

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『射手と双子の嬉し恥ずかし初体験☆』第2話

『射手と双子の嬉し恥ずかし初体験☆』第2話

 シュラは困っていた。
 アテナとハーデスの聖戦が終わった後、冥界の崩壊によって世界のことわりが崩れてしまった。冥府から逃亡した亡者や魔物は地上に出没し、さらに様々な次元の歪みや異変が世界各地に現れるようになった。
 この状況に対応するため、アテナとハーデスは前代未聞の講和を締結することになった。そして地上に出ることが出来ない冥闘士たちの代わりに、ハーデスは死した黄金聖闘士たちを現世に復活させて、魔物や亡者の捕縛を彼らに請け負わせ、世界各地の異常に対処させることになった。
 そんなわけなので、復活した黄金聖闘士は、第二の生をのんびり楽しむどころか、常に忙しく世界各地を飛び回る羽目になっている。かくして聖域の十二宮は、主人不在のまま空になっていることが多い。だが常に全ての宮が空というわけでもない。ポセイドンやハーデスとの聖戦は一段落したが、どこかの神が突然に復活してアテナに戦いを仕掛けてくる可能性も皆無ではないので、手の空いた黄金聖闘士たちが交代で宮に詰めて、常にいくつかの宮は守護者がいるような体制になっている。次期教皇たるアイオロスや、その補佐官を務めるサガのように、ほぼ聖域から動かない者もいる。
 そして「宮に詰める」といっても、前述したように今すぐに戦う相手がいるわけではないので、黄金聖闘士たちは自宮でゴロゴロしたり、あるいは自宮の掃除や手入れをしたり、自主訓練をしたり、と、自分の宮から動けないだけで、実際は休養日のようなものだった。ただやはり「詰めている」という意識はあるので、完全にはリラックスは出来ない。
 このように聖域では人手が常に足りない状態なので、黄金聖闘士たちは、任務で各地に派遣され、任務と次の任務の間の待機時間には、十二宮に詰めたり、あるいは居住区の私邸でのんびり休暇を過ごしたり、または修行地に戻って次の辞令を待ったり、と、席の温まらない日々を送っている。
 そしてその日は、サガが教皇の間でのアイオロスの補佐という執務を休み、双児宮に守護として詰めている日だった。
「最近、少し体がしんどくて…」
 と、サガが自分からその日を双児宮への日直日にして欲しいと、アイオロスに申し出たのである。
 アイオロスは、しんどいなら休暇を取っては、と言ったが、サガは
「そこまでするほどでもない。一日ゆっくり出来れば、それでいい。それに、ずっと放置されている双児宮の片付けもしたい」
 と言い、この日は双児宮に詰めていた。そしてサガの代理として、シュラがアイオロスの補佐に入ったのである。
 だが前述のように、シュラは朝から困っていた。
 次期教皇アイオロス様が、一向に仕事に身を入れてくれないのである。にやにやとだらしない笑みを顔に浮かべ、時おり「ぐふふ、げへへ…」と品のない含み笑いまでし、心ここにあらずという感じで、何かに気を取られて考えにふけっており、書類がちっとも片付かないのだ。
「アイオロス…」
 たまりかねて、とうとうシュラは苦言を呈した。
「朝からずっと笑っていますが、何かいいことがあったんですか?」
「いや〜…。ちょっとね…ぐふふ…」
 そしてアイオロスはうつむき、含み笑いをこらえた。どういう「いいこと」があったかは、シュラに言うつもりはないらしい。
「何があったか知りませんが、真面目に仕事をしてください。後でサガに怒られますよ」
「う〜ん、でもさあ…」
 そしてアイオロスは含み笑いを続けるのだった。
 シュラはため息をついた。
 アイオロスが朝から上機嫌なのには、理由があった。

(以下はアイオロスのエロい妄想なので省略)

 という具合で、常に昨夜のサガとの性生活を振り返り、反省し、評価し、新たな挑戦への計画を練り、今夜はサガをどんな風に可愛がろうかとそればかり考えながら、アイオロスはサガとの勤務時間を過ごしているのであった。
 これでよく仕事になってるな…というと、それにはちゃんとからくりがあって、サガが「まだ仕事に不慣れな次期教皇への助言」という形で、ほとんどの事柄に事実上の決定を下して、アイオロスはそれにめくら判ならぬ、めくらサインをするだけで仕事が終わっているからだ。だがシュラはサガほど踏み込んだ真似をしないので、結果として未決済の案件が溜まり続けているのである。
 サガが傍にいなければ少しはアイオロスの妄想も静まるかと思いきや、結局、サガが傍にいようがいまいが、アイオロスの妄想癖は一向に収まらないのであった。
 シュラは再びため息をついた。
 アイオロスから詳しい話を聞いたわけではないが、シュラも「最近、サガ様が教皇の間のアイオロス様の寝室に毎晩泊まっている」という話は、耳に挟んでいた。ずっとアイオロスがサガを想っていたことはシュラも気付いていたので、彼は敬愛するアイオロスの恋が成就したらしいことを素直に祝福していた。そしてアイオロスが朝から嬉しそうにしているのも、やっと結ばれたサガとの恋に浮かれているのだろう、と察知はした。まさかあそこまで過激な妄想をアイオロスが仕事中にたくましくしているとまでは、知る由もなかったが。
 だがシュラは、二人の恋の成就に対するかつての祝福を、少しばかり後悔する羽目になった。だって、朝からまったく、ちっとも、全然!仕事が進まないのだ!
 その後もシュラは何度か苦言を呈したが、アイオロスの態度は一向に変わらなかったので、とうとうシュラは「だめだ、こりゃ」とさじを放り投げ、残った仕事とアイオロスへの叱責は、明日以降のサガに任せることにしたのだった。

 派遣先のアルバニアから聖域に帰還したデスマスクが、教皇シオンとアイオロスへの報告のために十二宮を上っていると、双児宮に達した時、彼はサガが柱を背にして座り込み、ぼーっと空を眺めているのを見い出だした。
「よう、サガ、双児宮にいるとは、珍しいな」
 デスマスクが挨拶すると、サガは彼を見て、傍らに置いてあったほうきを手にして立ち上がった。
「ああ、デスマスク、お帰り」
「どうした?今日は休みか?」
「いや。宮への日直日にしてもらった。少し体がしんどくて…。ちょっと休みたくてな。双児宮の掃除もしたかったし…」
 はあっとサガがため息をつく。そういえばサガの顔色もやや青ざめて、少しばかりやつれているように、デスマスクには思えた。
「顔色が悪いな。病気か?体調管理はちゃんとしろよ。聖闘士は体が資本だろ」
「いや、病気ではない…大丈夫だ」
 だがサガの顔色も表情も冴えず、彼の「大丈夫」はデスマスクを一向に安心させなかった。
「大丈夫って顔じゃないぞ。何かあったか?」
「そういうわけでは…。ただ、アイオロスが…」
「アイオロスが?」
「…その、毎晩求められるので…体がちょっと…」
 サガはそこで口を閉ざし、顔を覆ってうつむいてしまった。
「あ〜、あ〜、あ〜…」
 デスマスクは呆れながらも事情を悟った。
 アイオロスがサガへの恋を成就させたらしい話は、デスマスクも知っていた。
 十四歳で亡くなったアイオロスだが、復活した際は二十七歳の肉体が与えられた。だが頭の中身までは、いきなり二十七歳まで成長するというわけにはいかなかったらしく、まだまだ十四歳、つまり多感な思春期の頃の延長上にある。つまり、全てのことがエロく見えるという、性欲ギンギンのお年頃なのだ。その状態で長年のサガへの想いが実った結果、初めての性体験が強烈に脳裏に焼き付いたアイオロスは、サガとのセックスがもたらす肉体的快楽に夢中になり、未熟なこともあってサガの身体的な都合には気付きもせず、夜ごと盛りまくり、そのあふれ出る性欲を思いのまま愛しいサガにぶつけまくっているらしい。それもかなり激しく。
 つまり、それがサガの体の不調の原因だ。
「自慰を覚えた猿かよ…」
 「猿に自慰を教えると死ぬまでやっている」という話を思い出し、デスマスクはアイオロスの振る舞いをそう酷評した。
「デスマスク、それはいくら何でもひどい…」
 さすがにサガがデスマスクをたしなめたが、デスマスクは渋い顔でサガに助言した。
「サガ、あんたもつらかったら、今日はやめたいとか、ちゃんとアイオロスに言えよ」
「だが…」
 サガは顔を曇らせて、うつむいた。
「私がアイオロスにしたことを考えたら、彼を拒むなど…そんなことは許されない」
 デスマスクが確認する。
「あんたは罪悪感でアイオロスに抱かれてるのか、サガ?」
「そ、そういうわけでは…!私も、彼のことが好きだ。だから彼には出来る限り応えてやりたいと…」
「だったらなおさら、我慢なんかするなよ。不満はきちんと伝えろ。一方が一方の犠牲になるような関係は正常じゃないし、長続きしないぞ」
「そう…かもしれないが…」
 煮え切らないサガの態度にデスマスクがため息をつく。過去のことがあるだけに、アイオロスに強気に出れないサガの立場も分かる。だが少々、優柔不断が過ぎるとも思った。
 その時、デスマスクはあることに勘づいた。
「そういえばサガ、ゴムはきちんと使ってるのか?」
「?」
 単語の意味が分からないらしくきょとんとしているサガに、デスマスクが改めて問う。
「コンドームだよ!」
「コ…!」
 たちまちサガは裏返った声を上げ、顔を真っ赤にした。
「そ、そんなもの…!」
「ちゃんと使ってるのか?」
「…でも、私は女性ではないし、避妊の必要は…」
 使ってないんだな、と、デスマスクは理解した。
「いや、男同士ならなおさら使わないとダメだろ」
「???」
 デスマスクの言葉の意味が分からず首をかしげているサガを、デスマスクは指でちょいちょいと招いた。
「ちょっと耳貸せ、サガ」
 そしてデスマスクはサガの耳を軽く引っ張って引き寄せ、耳元でぼそぼそと説明した。
「…そうなのか?」
 またも初めての知識に、サガは目を見開いた。
「そうなんだよ!だからアイオロスの体のためにも、あんたの体のためにも、きちんとコンドームを使え!そしたらあんたの体の負担も少しは減るから」
 だがサガは戸惑うだけだった。
「で、でもそんなもの、どこで手に入れれば…」
「アテネ市の薬局にでも行って買ってくればいいだろ」
「やっ…!」
 あっさりと言ったデスマスクに、再びサガは声を裏返させた。
「そ、そんな…恥ずかしい真似…!」
「あのなぁ…。世の男たちはその恥ずかしいのを我慢して買ってるの!」
「で、でも…」
 まだぐちぐちとためらうサガに、デスマスクは何度目かのため息をついた。
「あ〜、あ〜、分かったよ。後でおれが持ってる奴を分けてやるから…。その後はアイオロスに買わせるなり、自分で買うなりしろよ」 
「す、すまない、デスマスク…」
「あ〜、へいへい。ごちそうさまでした」
 デスマスクは手を振り、サガと別れて再び十二宮を上り始めた。がっくりとした重い疲労感を肩に感じながら。
 こんなに疲れた調子であと九つも宮を上らなきゃならんのかよ…と、デスマスクは人知れずぼやいて、十二宮の長い階段を上っていくのだった。

 その後、デスマスクから分けてもらったコンドームを使ってみたアイオロスとサガだが、お互いに「直接、触れ合わないと物足りない」と言い出して、使うのを止めたため、結局、サガの肉体への負担の軽減にはつながらなかった。
 アイオロスとサガの間の齟齬が解消されるのは、もうしばらくの時を要することになる…。

<FIN>

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