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2019年06月17日06:29

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蟻の街の子供たち 北原怜子(きたはらさとこ)−42

聖母文庫 聖母の騎士社刊

第三章

源ちゃん

須磨先生
ご返事が大変おくれて申し訳ございません。
 先生ご担任の生徒さんたちから「蟻の街」の子供宛に送って下さった図画が、あまり見事なので、「蟻の街」からは作文でご返礼申し上げようと、子供たちと相談がきまったのは、六月だったのですが、まとめあげたら、こんなにおそくなってしまいました。
 先生が送って下さった図画を拝見しておりますと、一年間の学校の行事、学校から見える青い海、秋のとり入れ、炭焼のお手伝い、山々の雪景色、桜咲く村の小道等あらゆる場面がありありと目の前に浮かんで来ます。
 それをまねて、「蟻の街」の日常生活を、生徒たちの作文で、リレー式で書いて行くつもりでおりましたが、子供よりもっとたどたどしい、私の作文の羅列になってしまいました。どうかお笑い下さい。

 さて、いよいよ「蟻の街」の礼拝堂もでき上がりました。
 それは、丁度「蟻の街」の真ん中にあります。間口三間、奥行二間の総二階で、下は蟻の会創始者の一人、小松川さんの住居兼食堂の台所になっておりますが、礼拝堂へは外梯子で、自由に出入りできるようになっております。畳敷きの座敷が十畳、階段を上がってすぐの板敷がたてに二畳あります。隅田川に面した東側と、隅田公園の入口を見下ろす南側の二面は、全部ガラス窓で、言問橋から川向こうの向島一帯が一目で見渡せる明るいお部屋です。北側の板敷の中央には、十字架上のイエズス様の御像を掲げ、その前におかれた粗末な木製の祭壇の上には、聖母マリア様の塑像が一つおいてあるだけです。

 初めて、畳と、ガラス戸が入った、お御堂開きのお祝日、その日はゼノ様をお招きして、ご一緒にまずお祈りをいたしました。それから聖歌を歌い、そのあとで、私たちは、子供を中心に討論会を開きました。私たちは車座になって話し合いました。
「みんなのために、こんな立派な礼拝堂ができたことはほんとに有難いことですね。そうして、その上、こんな広い、私たちだけのお部屋もできたのですから、どんなふうにしたら、このお部屋を、天主様の御心にそうような一番意義のあるものにできるか、みんなでよく相談しましょう」
「先生」と、まっさきにけい子ちゃんが提案し始めました。
「図書部がほしいと思います」
「音楽部を作って下さい」
 と守男ちゃんが言いました。
 それをきっかけに、種々雑多な意見が出ました。その間中、一番年上の源ちゃんは、不機嫌に黙りつづけていました。


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