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2019年03月17日22:44

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【多事So Long〜音楽版〜】音楽ジャンル細分化の功と罪。<その2>

●〜AORからヨットロックへ!?〜

再び洋楽シーンへ戻しますが。
ここ数年の間、いつの間にか「ヨットロック」なる名称を目にすることが増えました。
これ、なんぞや!?という印象を強く抱くと思いますが・・

発端は、00年代半ばにアメリカのとあるプログラムが作った、
コメディ映画のタイトル。AOR当時の名作やヒット作の誕生秘話を、完全にでっち上げ
面白おかしく揶揄するようなもので、それが新世代らを中心に人気となり、
AORに属する分類が、アメリカを中心にして次第にヨットロックと
呼ばれるようになった・・という。

語源が醸し出すイメージ同様、穏やかな海辺をゆらゆらのんびり揺れるヨット・・
それは日本人がイメージするだろう「優雅さや美しい光景」といったポジティヴな
ものではなく、ハイテククルーザーでもスピーディーなモーターボートでもなく、
風のみを頼る原始的で、ある種の“時代遅れ”的なイメージ・・
まさにネガティヴな意味合いとしてのもの。

他方、先述のように「AOR」という名称(解釈)は殆ど
日本固有のものといってよく、厳密に言えば諸外国でのAORとは、
メロディアスな旋律が特長の、80年代当時の「商業ハード系ロック」を
指しているので、日本で代表的なものとして解釈されるボズ・スキャッグス、
ボビー・コールドウェル、マイケル・マクドナルド、スティーリー・ダン・・
この辺りは元々AORに含まれなかったりします。

なので、ヨットロックという分類や呼称は、日本がかねてより分類化していた
当時の作品群を、アメリカその他としては寧ろ今になってようやく分類特化された・・
と言ってもいいかもしれません。但し、発端がコメディで
当時の古さを背景にして揶揄、冷笑することが出立点なので、
その印象や認識を後々の今へと尚も引きずっている・・というのが実情だったりします。

その点で日本が分類化したAORは=「大人っぽくて都会的な洗練された音楽」という、寧ろポジティヴで他とは一線を画す意味合いが強いので、それがいきなり
真逆の意味を持つ新分類へと統合されることに対する、戸惑いや嫌悪感、反発心や
忌避感さえも醸成させ、混乱や困惑をもたらす市場は、日本だけなのかもしれません。

しかしその一方で、揶揄や冷笑から始まったヨットロックとしての扱いから、
次第に当時のクオリティを新世代らが再発見し、寧ろ高評価する方向へとシフト。
とりわけDJ系統のクリエイターらがヨットロック分類に特化したミックスを作ったり、
波及の上でリスナー側も追従、愛好する層は徐々に増えて来ているのが現在。

その占有度合いや分布をざっくり眺める限り、本国アメリカよりも欧州その他の国で
多く好意的に親しまれている、といった所でしょうか。
そう考えると、ヨットロック(日本が定義するAOR)が再ムーヴメントを起こし、
世界市場全体に拡大化されるとすれば、日本でも後追い的にAOR再ブーム到来の
本格的な幕開けを、ヨットロックの新名称で飾る・・という可能性がありそうですが。
その鍵は「アメリカ国内での動向」にあり、アメリカで揶揄冷笑から真面目に
ポジティヴに再評価されるなら、ワンテンポ遅れて日本へ再輸入される・・
という流れになる可能性があると。

問題はその際、AORとしての固定観念で親しんでいたファン層が、
ヨットロックの本当の語源を知る知らないに関わらず、単にこの新しい名称を
すんなりと許容するのか否か、という。

結局の所「なんだ、今まで聞いて来たAORのことじゃないか・・」とし、
何でわざわざヨットロックとして認知し直さなきゃならないのかと、
その意味での反発は起こりそうでもあります。しかも語源の理由を知った暁には、
一層拒否感を持たれかねないという・・。

しかし。では日本の新世代らが、AORという分類や認識を、当時愛好していた世代が
神経に刷り込まれているそれと同等にあるのかといえば、寧ろその逆に近く、
AORという分類すら知らなかったり、定義についてピンと来ない層の方が
ずっと多いように思うわけで。とすると、彼らにとってはAORより、
ヨットロックという認識を持たれた方が、次代や市場の活性を担ってもらうことまで
考えればより適正ではないか、という気がして来るんであります。

何故なら、あの当時からのAORの概念上にあるのは、
「なんクリ」にあった様式美学や、当時の若者文化が得てしてアメリカ文化に憧れ
踏襲する流れに殆どあり、アメリカ=「L.A.・カリフォルニアの青い空やビーチ」、
「N.Yマンハッタンの摩天楼」・・その光景を主体にしたオシャレ感や躍動感が
分厚く下地にあったのに対し、今の世代にある文化素地にアメリカは殆どなく、
あったとしても今や「HIPHOP」に観られるストリート感覚であって、
オシャレ感そのものが全く変わっているからです。

ここに、幾ら当時の大人っぽさやオシャレ感を無理矢理嵌め込んでも、
素地や環境が全く変わってしまってるため、どうしたって合うはずがない・・。
その意味で、元来のAORにある定義はおろか、AORの名称に拘り続けるのは
もう無理が生じている・・と冷徹にみなした方がこの先のためかもしれません。

ここで問題となるのは、ではある時からいきなり、一斉にAORの名称を消し、
全てヨットロックとして記載し直した上で再スタートが切れるのか、
またはそうすれば皆が納得しすっきり感が生まれるのか・・!?
決してそうならないでしょう。

どういう格好か、一定期間は「並列化」を余儀なくされ、ある種の
「棲み分け化」が起こる・・じゃあその際、何を基準にして選り分けるのかという、
まさしく他のジャンルと同様の曖昧性と、混乱の基をここでまた作り上げることになる。
単にリリース年代で分けるわけにもいかず、ロックテイストとポップステイストで
振り分けるわけにもいかず・・“ヨット”にある風情やイメージで分けるとしても、
その定規なんてあるはずもなく・・

逆に、仮に測れる定規があったとしても、きっちりより分けられた時、
受け取るファン層にとって、果たして感性にフィットするかどうかは全く別の話。
その作業結果は、最終的に多様な音楽ファンにとってここでも「不幸」を招きかねない。

あるいはもっと別の視点として、そもそもAORもヨットロックも、
共通する呼称にあるのは「ロック」にある。ではボビー・コールドウェルは
ロックの概念やテイストを含んでるのか?ジェームス・テイラーは?
マイケル・マクドナルドは?アル・ジャロウは?・・該当するアーティストや作品は
数多く、それを考えると実はジャンルを曖昧にした大元は
この「ロック」にこそあるんじゃないのか!?という。
と考えると、ヨットロックという呼称も実はまだ不適切と言える気がして来ます。

何れにせよ、ヨットロックという名称や分類が日本で浸透し、今までのAORに馴染んだ
世代はもとより、今の世代やこれからの世代にとって有効機能するのかどうかは
まだまだ不透明性にあり、普及にあたってはアメリカやその他の国よりも
より難しいお国柄に日本はある・・と思いますし、明暗を分ける鍵や諸条件については、
かなりセンシティヴなものを要する、と思ったりします。

果たしてそんな高度な術を、日本の主要音楽産業やメディアが、あるいはその下に
追従するプロアマ問わない属性の誰かが、巧いこと講じられるとは簡単に思えず。
結局、人が手を下せない“時代性”やら“空気”やらによって・・まさしく
「ヨットを揺らす」な如く“風まかせ”にするしか方法はない・・といった所ですかねぇ。
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