ボスが逮捕された。
刑務所に入れられ実刑は1年だったな。
あれだけの犯罪をしておいて実刑1年は軽すぎる?
それはとある事情があった。
俺はボスにある事の謝罪をしに刑務所に行って面会。
開口一番、ボスは俺に罵詈雑言を浴びせた。
証拠を表に出しやがったなと。
お互いに手出し厳禁のはずだろがと。
何を言ってるんだ?
証拠を表に出したのは俺じゃない。
証拠は被害者達に渡したが、それは誓約書にサインする前だ。
言っただろ事前の事は効力の範囲外だ。
それでその誓約書の件で来た。
有効期限を明記していなかった事は謝罪しよう。
それで、有効期限をいつまでにするかの話だが…
ボス『そんなもん破棄じゃ!今すぐにでもな!』
俺は誓約書を持って来ているが…
破棄の意思があるなら、これを破くのもアリだが。
本当に良いのか破棄で?
ボスは破棄しろと強く要求してきた。
片方に破棄の意思があるなら誓約書として成り立たないから、仕方なく破棄。
すまんが少し電話させてくれ。
電話の相手は被害者の1人で協力してくれている人。
電話をかけた時、その人はとある警察署の一室にいた。
その人と向かい合って座っているのは、かなり階級のある警察官。
俺《誓約書は破棄された。…返して差し上げろ》
仲間『分かりました』
仲間が持っていたのはあのSDカード
警察官はPCで中身を確認。
仲間『確認の為、あの方が閲覧しましたがそれはご容赦ください。このデータが全てです』
入っていたのはその警察官の娘さんの写真。
人に見られたくは無い写真だ。
ボスが無理矢理に撮影した。
つまり…
もし逮捕されたら娘の恥ずかしい写真をバラまくと脅していたわけだ。
何故娘さんの写真だけ別にして保管していたのか?
まとめて警察に証拠を出せば、他の警官が確認の為に見るわけだろ?
中には娘さんと顔見知りの警官もいるかも知れない。
そんなの嫌だろ?
これだけは直接返した方が良いと思った。
警察官《どなたかは存じませんが本当にありがとうございます…。これで娘は…。……スピーカーにしてまらえますか?》
スピーカーにしたら携帯電話からは警察官の怒りの声。
絶対に許さない、警察を辞める事になろうと絶対に地獄に落としてやると。
俺《口を挟んで申し訳ありませんが…、実は俺もまだまだやり足りないんですよ。どうです?手を組みませんか?》
交渉成立。
警察官と手を組んだ。
あ、そうそう刑務所から出たら俺に復讐する気だろ?
先輩方に力添えしてもらってな。
だが、お前がいた事務所だけど…
もう看板しか残ってないぞ?
これ、お前の事務所の“社長”か?
その社長らしき中年男が全身アザだらけで全裸で土下座している写真を見せてやった。
俺をぶち殺すとか、来た時に言ってたが…
楽しみに待っとくわ。
顔が青ざめて口数が減っていくボス。
面会終了。
1年後、ボス出所。
事務所に戻っても看板しか残っていない。
さらに系列の組織には数々の事務所が廃墟同然となったのはボスが招いた参事と言われ、今や追われる身となった。
職にも就けず、生活保護も受けられず。
気付けばホームレス。
色んな所に移り住んでも夜は敵対してたチンピラに闇討ちされ、日中は被害者達に嫌がらせを受ける毎日。
さらに元々いた組織の人達には追われて逃げ隠れの生活。
そんな元ボスの前に現れた俺。
そろそろ頃合いかと。
今の生活なら刑務所に入った方が楽?
そういや何故、実刑1年だったか分かるか?
実は俺の手違いで証拠全てを被害者達に渡していなかったからだ。
今なら誓約書も無いし手出しOKだよな。
これ、被害者達に渡そうか?
そしたら念願の刑務所生活ができるぞ。
あ、そう言えば…
お前と入れ違いで、お前の組織のメンバーが刑務所に入ったのだが。
刑務所にいる事がそのメンバーから組織に伝わった場合はどうなるやら。
出所する頃には刑務所周辺には包囲網が完成してるだろうよ。
警察に捕まっても地獄。
組織に捕まっても地獄。
積んでるって分かるかクズ。
組織に捕まったらどうなるだろうな。
タダでは楽になれないだろう。
考えるだけでも恐ろしい。
それはお前が一番知ってるだろ?
あー、そういや娘さん人質にされてた警官がそろそろ見回り強化するとか言ってたなぁ。
組織の方も広範囲を探すために他県から応援を呼んでるとか。
お前が捕まって焼却炉の中でツイスター踊らされるのも時間の問題みたいだ。
何で組織の事情知ってるのか?
今まで組織が警察のガサ入れを何度も回避できていただろ?
ガサ入れ日時を組織に流していた情報屋…それ俺だから。
警察には組織の情報を売っていた。
全て警察と組織の信頼を得る為、そしてお前を地獄に叩き落とす為にやった。
さて、これからどうする?
組織に泣き付いて情報屋は二重スパイだと言うか?
そのスパイにハメられてこうなった、俺は悪くないって泣きつくのか?
日頃から素行が悪く、出世すら出来ないレベルの無能。
鉄砲玉要員のチンピラを取りまとめて小山の大将やってたアホと優秀な情報屋…
どちらの言葉を信じるか想像できない程に馬鹿なのか?
今なら俺が話を付けて、あの警官に一時的に局地的に見回りから外してもらえる場所もある。
まぁ人気の無いダムの近くがせいぜいだがな。
言ってる意味分かるな?
そこで自分のケツは自分で拭け。
あのダムの近くに公園あるの知ってるか?
公園の丘の上に立ってる木がある。
見晴らしは最高だ。
最期に見る景色としては申し分ないだろ?
数日後、公園に来た元ボス。
木に縄を引っ掛けて輪を作る。
そんな時、声がした。
辺りを見回すと木にトランシーバーが引っ掛けてある。
俺《よう、来たか。最後に言っておく。お前には今2つの選択肢がある。そのまま景色を眺めながら幕を閉じるか、逃げれるところまで逃げてみるかだ。…俺もクソみたいなところで育った身だ。何度も死にかけた、死のうとした。でもな、生きてるヤツにしか明日は来ない。もう一度考えろ。時間は残されていないが》
元ボスは泣きながら諦めた。
逃げれるところまで逃げて、新しい生活を始めようと明日に向かって走り出した。
その矢先、公園の周りに場に似つかわしくない高級車と黒色のバンが数台来た。
車から降りたのは明らかに堅気の人間ではない男達。
タバコ吹かしながら公園の木の近くに立ち尽くす元ボスを見ている。
どうやら元ボスが空中ブランコするのを見物に来たらしい。
情報屋が高値で売ったショーのチケットは満足いただけたかな?
双眼鏡で離れたところの山中から見物していた俺。
俺のトランシーバーに通信が入る。
元ボスからだ。
待ってくれる約束じゃなかったのかと。
そんな約束知らんな。
誓約書も無いし、約束を守るメリットも無い。
まぁ頑張れや。
トランシーバーからは《助けて!頼む!助けてくれぇ!》と命乞いの声が響いた。
俺は黙ってトランシーバーが静かになるまでそこにいた。
その会話は録音していた。
録音テープは2つ用意した。
1つは被害者達に、1つはあの警察官に送った。
全て終わったぞと。
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