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2018年10月15日16:38

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田坂具隆 五番町夕霧楼 (1963) (ラピュタ阿佐ヶ谷)

 絢爛・東映文芸映画の宴。3本目。

 Movie Walker https://movie.walkerplus.com/mv21047/

 まだ戦火の記憶が消えない昭和25年ごろ。海の美しい丹後の与謝
の寒村で育った娘、夕子は、母が結核に倒れ、下には妹たちが2人。
木こりの父の稼ぎでは一家を養うことができず、当時はまだ、「合法」
であった「公娼」として京都・五番町の夕霧楼につとめにでる。
 夕子には、心に秘めた幼馴染みの学生僧、正順がおり、彼も京都の
鳳閣寺できびしい修行に明け暮れていた。生来のひどい吃音のために
周囲から差別される正順と、郭勤めの夕子。2人で過ごす清らかな時間
はどちらにとってもかけがえのないものであったが、悲劇的な結末が
待っていた…

 「鳳閣寺」は言うまでもなく「金閣寺」のことで、著名な金閣寺
炎上事件を背景にしている。

 なによりも、夕子を演じる女主人公佐久間良子がすばらしい。
素朴で内気な農村の少女。初めて、商売として旦那に抱かれねば
ならぬ若い女の怯え。「水揚げ」ののちは、それまでのか弱い少女
とは一変、旦那を手玉にとる、女の強さ、したたかさ。一方で、
幼馴染みの正順と、自分で遊びの金を都合してまで逢瀬を続ける
一途さ、純粋さ。さまざまな女性の表情を佐久間良子が一心に
演じきる。

 幼馴染み役の河原崎長一郎も、しいたげられる若者の暗い情念
、吃音による孤独をその暗い小さな目で見事に現している。

 「公娼」という、特異な性風俗の街、京の五番町の街並みなどは
私にとってはなつかしい京都の二昔前の記憶と連なってとても懐かしい。
 夕霧楼の女将、小暮実千代が、このような商売の常として、計算高く
人や機をみるに敏でありながら、それでも夕子を含め、娼妓たちの
身体をあずかる女主人として、同情心にも厚い、という包容力のある
存在感をみせる。

 朋輩の娼妓たちもさまざまで、特に、夕子と隣部屋で、読書好き、
自分でも短歌(俳句かも)をつくる、という文学少女の敬子(岩崎
加根子)が、その優しい顔立ちと、夕子との友情でひときわ
美しく思えた。

 昭和25年という設定で、娼妓の中には、広島の原爆で家族一切を
失い、雷の稲光に、自分を失ってしまう不幸な女性までいる。

 売春防止法が施行されるまでのわずかな期間、あだ花のように
咲いた楼閣。それでも、世の中の動きは郭にもせまって、娼妓たちが
組合運動と自分たちとの関わりを考える場面など、いかにも昭和25年
という時代背景によくあっていた。

 娼妓たちは、みな夕子のことを心から心配し、夕子が病院から抜け出
したあとは、女将をはじめ、夕子が「夕霧楼」へ帰ってくることを
願う。女性が身体を売る、という不幸な職場ではあっても、そこに
うまれた思いやりや友情は真実だった。それが夕子の唯一の救いだろう
か。

 何度も夕子の回想に登場する、与謝の海と、海岸沿いの山上に咲く
百日紅の花。哀切な佐藤勝の音楽が、物語にはかない美しさをそえて
いる。
 

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