18941020 NO2434 大院君の近況
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駐韓日本公使館記録 5巻 五. 機密諸方往 二 (7) 大院君の近況
文書題目 (7) 大院君の近況
文書番号 機密第二○四号 本一二参
発信日 明治二十七年十月二十日 ( 1894年 10月 20日 )
発信者 臨時代理公使 杉村濬
受信者 外務大臣 子爵 陸奧宗光
(7) 大院君の近況
機密第二○四号 本一二参
同君ノ挙動ハ平壌陥落後一時豹変ノ形アリシモ其実于今釈然タラザル所有之様子ニテ時々奇態ノ風聞有之候
本月十四日井田海軍軍医ハ嘗テ大院君ノ孫李�沛飴畆Ｎ泥轡織觴嬶薀淵螢肇篤嬰．望轡�レタル時大院君モ偶々同邸ニ帰リ居ラレ井田軍医ニ向ヒ世間ニテハ余ガ孫ハ東学党ト内通シテ非望ヲ企圖ストノ評判ヲ立テ余ガ愛孫ヲ殺サント謀リタル者アリ依テ余ハ棄置カレズト思ヒ厳重ニ取調処分セントシタル処種々ノ故障ニ妨ケラレ其曲直ヲ世ニ明ニスルヲ得ザルハ遺憾ノ次第ナリ又余ガ警務庁ノ警部巡査ヲ罰シタル次第ハ余ハ外国ノ礼法ヲ知ラザルニアラズ然レトモ我邦ニハ五百年来先王ノ定メラレタル礼法アル事ナルモ国王陛下ノ許可ヲモ得ス妄リニ之ヲ変更シ余ニ向ヒ外国ノ拝礼ヲ行ヒタルガ為メ之ヲ罰シタル譯ナリ故ニ何人モ余ガ処分ニ向テ不当ト云ハザルベシ云々此時井田軍医ハ我兵ノ鴨�儿彰潺某淵瀋�鮮境内ニハ一ノ清兵ナキ由ヲ語リタル処大院君ハ憮然トシテ聞クヲ好マザル様子ニテ本来此度ノ事件ノ興リハ東学党ニテ清国ハ我邦ノ請求ニ因テ其兵ヲ致シタルモノナリ我邦ニテ自ラ其乱民ヲ鎮圧スル能ハザリシコトハ誠ニ国辱ト申ス可キモ清国ニハ別ニ不都合ナシ唯清国ハ東徒鎮定後久ク撤兵セザリシハ一ノ過失ト称ス可キノミ然ルヲ貴国ハ大兵ヲ挙ケテ之ヲ打払フコトト為レリ其理非曲直ニ付テハ我邦ハ微力ニシテ之ヲ言フ可キ地位ニ居ラザレバ何トモ申サヌナリト述ヘテ顏色甚タ不興ノ様子セラレタリ其時別室ニ外客二人アリテシヤンパン杯ヲ出シ鄭重重ニ取扱ヒ居ルヽニ付井田ヨリ何人ゾヤト尋ネタル処商人ニテ物ヲ売ルガ為メ来リシモノナリト答ヘラレテ直チニ奧ニ入ラレ李�沛飴畭絅螢得楝團轡織螢髪哨悒蠍絅縫栃好吋弍Τ圧劵榔兪輓了�ヒリア氏外一人(同書記生ナラン)ニシテ当日ハ同領事面会ノ為メ態々出宮セラレタルモノト推察セラレタリ
翌十五日夜大院君ノ執事某(嘗テ同君入閼ノ事ニ付国分書記生ト屢屢密会シテ尽力シタル人ナリ)秘かニ国分書記生ヲ尋ネ大院君祖孫ノ近状ヲ語リテ閔氏執権ノ間二十余年ノ久キ大院君ノ境界ハ恰モ禁囚同然ニテ毫モ其権力ナカリシガ今日俄ニ最盛ノ地位ニ立タレタルハ全ク日本ノ力ナリ然ルモ同君ハ近来全ク日本ノ鴻恩ヲ忘レラレタルガ如キ様子ニテ却テ他ノ外国人ヲ引キ種々日本ノ意思ニ反対シタル挙動アリ依テ我々ハ屢々諫言ヲ進ムレトモ同君ハ本来極メ剛腹ニテ決シテ人言ヲ聴カス余ノ如キモノハ追々冷遇ヲ受クル仕合ト為リ甚タ歎息ノ至リナリト申出タル由又去十七日拙官ハ大鳥公使ニ代リ告別トシテ同君ヲ尋ネタル際同君ハ戯レ半分ニテ世間ニテハ余ヲ東学党ノ首領ト称スルヨシ余ハ素ヨリ頑固ニシテ且ツ年老タレバ改革事業ニハ全ク不向ナリ貴下ハ機務処議員等ト協議シテ善キ様改革ヲ行ハレタシト申サレシガ其口気何トナク厭味ヲ含ミタリキ
扨又同君ト警務庁ト屢屢衝突スル源因ヲ尋ヌルニ先般前警務使李允用氏ノ官位剝奪事件ノ外猶ホ他ノ事情有之趣申之ヨリ二十余年前同君勢道トシテ政権ヲ掌握サレシ際ハ左右ノ捕盜庁ヲ利用シテ刑殺ヲ恣ニシ以テ威権ヲ立テラレタル処這般ノ改革ハ首トシテ両捕盜庁ヲ廃シ警務庁ヲ置キタレバ同君痛ク不満ニ思ハレ警務庁ノ外ニ旧捕盜庁ノ捕卒八十余名ヲ存留シ同君ニ私屬セシラレメタルニ因リ警務庁ノ方ニテモ之ニ反対シ正ニ双方ノ間面白カラヌ感情ヲ殘シタリト致候間尚又同君ハ近年秘かニ富民ノ財ヲ取上ケラルル由ニテ陰暦八月中京城富民金重孝ト申ス者ノ子某ヨリ十参万両(我五千二百圓)ヲ徴收シテ其内参万両ヲ前記旧捕卒八十余名ニ分配シ朴汝道ト申ス者ヨリ五万両(我二千圓)ヲ徴收シ尚ホ本月ニ入リテ賭博罪ニテ拘留セラレタル朝士金東旭金基永ノ二人ヨリ各各五万両ツヽヲ徴收シテ放免セラレタリトノ密報ヲ得候右賭博犯二人ハ警務庁ニテ之ヲ捕ヘテ法務衙門ニ送リ法務衙門ニテ取調ノ末彼等ハ朝士タル故ヲ以テ例規ニ従ヒ擬律シテ処分方ヲ国王ニ伺出タル処今日ノ場合民心ヲ安スルハ専門要ナレバ不問ニ付ス可シトノ御指令ニ依リ不得已放免シタル趣キ法務協弁ノ直話有之候
右同君ノ近状見聞ノ侭及具報候拝具
明治二十七年十月二十日
臨時代理公使 杉村濬
外務大臣 子爵 陸奧宗光 殿
（＊私訳）
(7) 大院君の近況
機密第二○四号 本一二参
大院君の挙動は、平壌（ピョンヤン）陥落後一時豹変していたが、その実今に至ってもすっきりしない所があるようすで、時々奇妙な噂があります。
本月（＊十月）十四日、井田海軍軍医は嘗て大院君の孫・李�沛亜�이준용 イ・ジュニョン）氏が治療してくれた謝礼だと言って同邸に招かれた時、大院君もたまたま同邸に帰っておられ、井田軍医に向かって、
「世間では、私の孫（＊李�沛亜砲�東学党と内通して分不相応の大きな望みを企てているとの評判を立て、私の愛孫を殺そうと企てたものがある。
そこで私は棄て置くわけにはいかないと思い、厳重に取り調べ処分しようとしたところ、種々の差し障りに妨げられ、その曲直を世に明らかにすることができないことは遺憾とするところである。
また私が警務庁の警部巡査を罰した事情は、私は外国の礼法を知らないのではない。
しかしながら、我が国には五百年来先王が定められた礼法があることのだが、国王陛下の許可も得ないでみだりにこれを変更し、私に向かって外国の拝礼を行ったためこれを罰したわけである。したがって誰も私の処分に対して不当と言わないだろう。云々」
この時井田軍医は、我が兵が鴨�儿彰澆某覆漾�朝鮮国内には一人の清兵もいないことを語ったところ、大院君は腹を立てたようで、聞きたくないような様子で、
「本来この度の事件のはじめは東学党であって、清国は我が国の請求によってその兵を送ってきたものである。我が国で自らその乱民を鎮圧することができなかったことは誠に国辱と申すべきことだが、清国の入国には別に不都合はない。
ただ清国は東徒鎮定後長期にわたって撤兵しなかったのは一つの過失と称すべきであろう。ところが貴国は大兵を率いてこれを撃ち払うこととなった。
その理非曲直については、我が国は微力でありこの件について言うことのできる地位にいないので何とも申さないのである。」
と述べて顏色は甚だ不興の様子をされていた。
その時別室に外客が二人いてシヤンパン杯を出して鄭重に接待しているので、井田から、
「誰ですか」
と尋ねたところ、
「商人で、物を売るため来たものだ。」
と答えられて直ちに奧に入られ、李�沛阿�代わって接待していると言った。
あとで聞いたところこの外客は英総領事ヒリア氏ほか一人(同書記生であろう)で、当日は同領事と面会のためわざわざ宮中から出て来られたものと推察された。
翌十五日夜、大院君の執事のある人物（かつて大院君入閼の事について国分書記生としばしば密会して尽力した人物である）が秘かに国分書記生を尋ね、大院君祖孫（＊李�沛亜砲龍甼靴鮓譴辰董�
「閔氏の執権の間二十余年の長きにわたって、大院君の待遇はあたかも禁囚同然で全くその権力はなかったのだが、今日は急に最盛の地位に立たれたのは全く日本の力である。
ところが同君は近来全く日本の大恩を忘れられたような様子で、かえって他の外国人を近づけ様々に日本の意思に反対する挙動がある。
そこで我々はしばしば諫言を進めて来たが、同君は本来非常に剛腹（＊『剛愎』つまり『強情で人に従わないこと』ではないか）で決して他人の言うことを聴かない。
私などは次第に冷遇を受ける成り行きとなり、ため息をつくばかりである。」
と申し出たとのこと。
また去る十月十七日、私は大鳥公使に代わって告別（＊別れを告げる。10月18日から新たに韓国入りした杉村濬臨・臨時代理公使が大使の仕事に当たっている。大鳥圭介・朝鮮公使は日本へ向かった。）に当たって同君を尋ねた際、同君は戯れ半分で、
「世間では私を東学党の首領と称しているらしい。
私はもともと頑固であり、また年老いているので改革事業には全く不向きである。
あなたは機務処議員などと協議していいように改革を行ってほしい。」
と言われたが、その口気にはなんとなく厭味を含んでいた。
さてまた同君と警務庁とがしばしば衝突する原因を尋ねたところ、先般、前・警務使・李允用（이윤용イユンヨン）氏の官位剝奪事件のほか、なおほかの事情があると言われ、今から二十余年前、同君が勢道（＊「王の信任を得た人物、集団が政治を独占的に担う」状態）として政権を掌握した時は、左右の捕盜庁を利用して刑殺をほしいままにしそれによって威権を立てられていたのだが、今回の改革は主として両捕盜庁を廃止して警務庁を置いたので、同君は非常に不満に思われ、警務庁の外に旧・捕盜庁の捕卒八十余名を残して同君に私屬させられたので、警務庁の方でもこれに反対し、まさに双方の間に面白くない感情を残したと言うことで、なおまた同君は近年秘かに富民の財産を取り上げられるとのことで、陰暦八月中、京城の富民・金重孝と言う者の子の某から十三万両（我が五千二百円 ＊約一億円か）を徴收して、そのうち三万両を前記の旧捕卒八十余名に分配し、朴汝道と申す者から五万両(我が二千円)を徴收し、なお本月に入って賭博罪で拘留された朝士・金東旭、金基永の二人から各々五万両ずつ徴收して放免された、との密報を得ました。
上記の賭博犯二人は、警務庁でこれを捕えて法務衙門に送り、法務衙門で取調の末彼等は朝士（＊朝廷の配下か）であるので例規を適用して処分方法を国王に伺い出たところ、
「今日の場合は民心を安ずることが専ら必要なことであるから不問に付すことだ。」
との御指令により止むを得ず放免したと法務協弁の直話がありました。
以上同君の近況を見聞のまま具報いたします。拝具
明治二十七年十月二十日
臨時代理公使 杉村濬（＊発信）
外務大臣 子爵 陸奧宗光 殿
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