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2018年05月29日16:08

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北が被る「怒りと敵意」の代償 東洋学園大学教授・櫻田淳

 下記は、2018.5.28 付の【正論】です。

                        記

 ≪墓穴を掘った崔善姫氏の発言≫

 5月24日、ドナルド・J・トランプ米国大統領は、来月12日にシンガポールでの開催を予定してきた米朝首脳会談を中止する意向を表明した。トランプ氏が公表した金正恩朝鮮労働党委員長宛て書簡には、「残念なことに、直近の貴下方の声明に表れた激しい怒りと露(あら)わな敵意にかんがみ、私は現時点ではこの長く計画してきた会談を実施するのは不適切だと感じる」という一節がある。

 マイク・ペンス副大統領は、シンガポール会談に際して、「(金正恩氏が)ドナルド・トランプ大統領を手玉に取れると考えるのは大きな過ちになる」と述べた上で、「ムアマル・カダフィのリビア」と同じ末路を「金正恩の北朝鮮」がたどる可能性を指摘した。北朝鮮の崔善姫外務次官は、ペンス発言を「無知でばかげている」と激しく非難し、北朝鮮サイドからシンガポール会談を中止する可能性に言及した。トランプ氏を会談中止の判断に追い込んだのは、この崔善姫発言における「怒りと敵意」であったと説明される。

 無論、トランプ氏が金正恩氏宛ての書簡を公表した翌日の段階で、会談復活に含みを持たせた発言をしている事実から判断すれば、この書簡それ自体が会談開催を見据えた対朝駆け引きの一環であるという推察も成り立つ。筆者は現時点では以下の2点を指摘しておく。

 ≪他人を試す姿勢が信頼を損ねる≫

 第1に、崔善姫発言に表れるような北朝鮮の「怒りと敵意」の姿勢は、特に日米両国との「対話」の土壌を確実に切り崩すであろう。実際の事前交渉に際しても、トランプ麾下(きか)の米国政府は、マイク・ポンペオ国務長官が披露したように、「恒久的、検証可能にして不可逆的な大量破壊兵器の放棄」という従来の方針に「北朝鮮の体制保証」を抱き合わせた懐柔案を示してきた。

 けれども北朝鮮政府は、それに応じていない。金桂寛第1外務次官は「われわれを追い詰め、一方的な核放棄だけを強要するなら、そのような対話には興味を持たない」と表明している。金桂寛氏にせよ崔善姫氏にせよ、北朝鮮外交官の発言には、対米交渉における「優位」を確保しようという意図が働いていると説明されるけれども、そうした「激しい言辞で他人を試すような姿勢」は、特にフランシス・フクヤマ氏(政治学者)の言葉にある「高信頼社会」として「信頼」の価値を重んじる日米両国には嫌われるものであろう。

 他人に「対話」を求めるには、「悪罵(あくば)」の言葉を投げ付けないというのは、最低限の作法である。対外関係において、「不作法」が何らかの「利益」を生むようなことがあってはならない。北朝鮮が絡んだ対外関係を評価するには、これは大事な視点である。

 第2に、現下の米朝関係における「急速冷却」は、強硬一辺倒と評された安倍晋三内閣下の対朝政策方針の正しさをかえって示唆している。というのも、北朝鮮を取り巻く東アジア国際政局の中で、日本が「蚊帳の外」に置かれていると唱える声は、頻繁に聞かれたからである。北朝鮮政府も、そうした「蚊帳の外に置かれる日本」を演出してきた。

 『朝日新聞』(電子版、5月12日)は「全世界が来たる朝米(米朝)首脳会談を朝鮮半島の素晴らしい未来の一歩と積極的に支持歓迎している時に、日本だけがねじれて進んでいる」という『朝鮮中央通信』論評の一節を伝えた。

 この論評に示されるのは、朝鮮半島融和という「大勢」を強調しつつ、その大勢に従わない日本を批判するという姿勢である。東アジア国際政局での日本の「孤立」や「疎外」を演出することは、そのまま日本に対する圧力になるというのが、北朝鮮政府の思惑であったと推察される。「村八分にされる」とか「蚊帳の外に置かれる」といった事態が、日本人が総じて嫌うものであるという定番的な日本理解に立てば、北朝鮮政府は、日本国内で「孤立」や「疎外」の感情を刺激することが対日戦略上、有効であると判断したのであろう。

 ≪日本は国際社会で孤立しない≫

 しかしながら、米朝関係における「急速冷却」は、日本が「蚊帳の外に置かれている」といった風評に惑わず、一貫して米国を含む「西方世界」の側に立つことの理を確認させている。日本は「アジア大陸に接していても、その一部ではない」のであるから、「西方世界」との協調が確固として維持される限りは、国際社会での「孤立」を招かないのである。

 この数週間、日本国内で世の耳目を集めたのは、「潰せ」という言葉の下に、悪質反則行為に及んだ日本大学アメリカンフットボール部の不祥事の顛末(てんまつ)であった。日本大学の対応も、トランプ氏を激怒させた北朝鮮外交官の発言も「自らの内輪でしか通用しない理屈や言辞」を掲げて外の世界に対峙(たいじ)していた意味では、類似の趣を帯びている。激しい「言葉」を恃(たの)む危うさは、古今東西に共通のものであろう。(さくらだ じゅん)
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 http://www.sankei.com/column/news/180528/clm1805280005-n1.html
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