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2018年04月27日07:19

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長編小説 角が有る者達 第183話

ダンス・ベルガードの紅絨毯

 この物語には残酷な表現が多々含まれています。フリークス・サーカス内の話になったらその表現がありますので、もし気持ちを悪くされたら一旦ブラウザバックするのをおすすめします。




〜某国内・某町・料理店「肉麺」〜

「へい、チャーシュー麺お待ち!」
「はいよ」

 そこは古い料理店。カウンターに並べられた3つの席の真ん中に仕事休みの男が、料理人が精魂込めて作り上げたチャーシュー麺を受け取っていた。
 チャーシュー麺のスープは醤油、麺はかたゆでだが、チャーシューはこの店秘伝の方法で作られており、この店の店主の密かな自慢でもあった。
 男は割りばしを割りれんげを取り、箸で麺をすくい上げてから口に運ぶ。
 ずずっという音が店内に響き渡り男の食欲を満たしていく。
 料理店の頭上には古いテレビがおかれており、外国の結婚式が映し出されていた。

男「ああ、この味・・・癒されるー」
店主「お、結婚式が遂に始まったか・・・ってなんだこれ、龍が出てきてるぞ?
 これも結婚式なのか?」
男「ああ、さっき解説でやってたぜ。
 なんでも花嫁と花婿が怪獣を倒すんだってさ。でも二人の力だけじゃ危険だから色んなハンデがあるんだってさ」
店主「ふぅん、外人さんの考えてる事は分かんないねぇ。
 ところで南手さん、仕事のあとひまかい?」
男改め南手面奴(なんてめんど)「ん?
 なんだ、また麻雀か?」
店主「あったり前よ!
 新しい戦術をみつけたんだ、今度こそお前に勝ってやるさ!」

 店主は白い歯を見せて笑みを浮かべる。だが南手は頭を横にふった。

南手「すまないな、この後やらなきゃいけない事があるんだ。麻雀はまた今度でいいか」
店主「おう、いつでも待ってるぜ!
 お、らっしゃーい!席は自由にどうぞー!」

 客が新たに入り、店主はメニューやコップを出しに向かっていく。それを眺めた後、南手は足元にある鞄を見た。
 鞄の中には当然のように小さな木箱が入っている。その一面には『B.O.M』という文字が烙印されていた。
 再度視線をテレビに向けると、果心が刀を向けている場面が映されていた。
 それを見ながら、南手は食事をさいかいする。

南手(あと少しだ、あと少しで全てが終わる。終わってしまうんだ・・・。
 人生最後のラーメンなのに、味は全く変わらないな・・・)

 スープはいつものように美味しく、チャーシューはいつものようにまずかった。



△   ▼   △


〜アタゴリアン広場〜

ハサギ「あ、あの龍は学校でであった、月龍・・・いや、朧か。
 まさかというかやはりというか・・果心の部下になっていたんだな、貴様」
ライ「あいつ、海でみたドラゴン!
 ち、俺が殺したかったのに!」
イシキ「・・」

 ハサギやライ達が広場に写し出された画面に食い入るように見ている中、イシキは静かに他の人間達に目を向けていた。
 避難者や怪我人・・・しっかり映像に目が釘付けになっている。
 ナンテの軍隊・・・こちらも映像を見ている。しかし表情は無表情で、何を考えているかわからない。
 イナカ・・・画面に映されていたチホを見てから、じっと画面に意識を集中させている。
 マンボウマン・・・彼等は、画面をみていない。ただ、兵器を睨み続けている。
 それを見て初めてイシキは『本当の』笑みを浮かべ、マンボウマンに近づいていく。

イシキ「よう、マンボウマン」
マンボウマン「むむ?
 我に話しかけてくるとは、貴様・・・さては相当の猛者だな!?名を名乗れい!」
イシキ「イシキだ。
 君に聞きたい事がある」


▼△▼△▼△▼△▼△▼


フリークス・サーカス内

果心「行きなさい、朧!
 あの哀しき龍の命を潰せ!」
朧「グウオオオオ!!」

 巨大な金色の龍(オボロ)が、二色の竜(ニバリ)に絡み付いていく。
 朧の体は細長く、一気に全身を使って締め上げていく。
 ニバリは抵抗する素振りを見せず、龍は自分の有利を獲得したかに思えた。

朧(獲った!)

 しかし、紫の部分に巻き付いた体が動き出したくても動けない。
 妙に思った朧がそちらに目を向けると、紫色の部分からまるで餓えた男のような、紫色の細い腕が何本も現れては朧の体に巻き付いていく。

フォト



朧「何っ!?
 奴の体から大量の腕がっ!?」

 朧は体をくねらせ腕を離そうとするが、腕は全て恐ろしい力で締め付けており逃げ出す事が出来ない。
 朧には自らの存在を『薄く』させ、あらゆる物理攻撃を受け流す『朧月』という魔術があるが、紫の腕に捕まっている部分だけは何故か薄くする事が出来ない。
 更に長い体を握りしめられ、鈍い痛みが朧の全身に広がっていく。

朧「ぐうう・・っ!?」

 朧は思わず逃げ出そうと顔をあげてしまい、その無防備な顔をニバリの本来の巨大な掌に捕まってしまう。

朧「がっ!?」

 みしみし、と朧の頭から嫌な音が響いてくる。それが自分の頭蓋を砕く音だという事を、激痛と共に理解した。
 朧は素早く黄色の足に絡み付けていた尾を離し、ニバリの頭部に何度もぶつけていく。それで怯んだのか、手の力が一瞬緩んだ。
 その隙を逃さずニバリは素早く退避し、体を捻らせ紫の腕を引きちぎり、ニバリから距離をとっていく。

朧「ぐ、が・・!なんだ、あの紫の体は!?魔術が何も発動できない!」
ニバリ「・・・っ!」

 ニバリは両翼をはためかせてから口を大きく開き、朧に向かって飛んでいく。
 朧は舌打ちしながらも紫色の部分に気を付けて逃げるしか、今は打つ手が無かった。
 一方、その下ではダンス達が大量の死体に足を取られ、身動きがあまりとれなくなっていた。
 辺りは暗闇と死体だらけだが、果心が先程まで立っていた場所と、チホが捕まっている場所にスポットライトが照らされているので、二人はとりあえず合流しようとする。だがシティは一歩一歩が小さく、いつ倒れてもおかしくないくらい動くのがおぼつかない。

ダンス「ち、シティ!
 お前は動くな!」
シティ「う、うるさいわね!
 こんな死体だらけの場所で一人にしないでよ!早くチホを助けにいかないと!」
ダンス「何をほざく、果心を助けに行くんだ!助けに行きたきゃお前一人で行け!」
シティ「む、無理言わないでよ!
 こんな所、一人で歩けって言うの!?
 私をチホの所まで連れてけー!」
ダンス「黙れシティ!
 お前はいつもどうしてそんなに騒ぐのが好きなんだ!?」
シティ「ダンス、お願い!」
ダンス「うるさ・・・っ!」

 傍若無人なシティの言い分に、ダンスは苛つきながらシティの方に振り向こうとする。
 その苛つく顔を睨み付けようとするが、シティの顔は蒼白だった。
 そこに普段の高飛車な彼女の姿はなく、恐怖に震える女性の姿が、ダンスの目に映る。
 そして、その姿を見るとダンスもまた先程までの強い言葉をぶつける事に躊躇いが生じてしまう。
 
シティ「お願い・・・!」
ダンス「シティ、チホなら気にするな。
 奴は牢屋の中にいる。その中にいる限り攻め入れる奴等なんていない」
シティ「・・・っ!
 そっか・・そう、だよね」
ダンス「それにお前はいざとなったら鉄板だの電柱だのを出して浮かび上がる事だって出来るだろう?
 いつものお前を忘れるんじゃない」
シティ「・・・」

 シティは反論する事なく、ダンスの足元を見る。それにようやく気付いたダンスは、ああと一人納得してから口を開く。

ダンス「まさかお前、死体を見るのは初めてなのか?」
シティ「あ、当たり前じゃない・・・!
 私、人を殺した事無いのよ、死体なんて・・」
ダンス「ハッ!こいつは笑い草だ。
 破壊神と謳われたシティ様が、人を殺した事さえないなんてな!」
シティ「う、うるさいわね!
 果心の所に行くんでしょ!?早く・・・きゃ!」

 ダンスはシティの両足を片手で掴み、もう片手で肩を抱いて持ち上げる。その動作があまりに素早かった為にシティが気付いた時にはもうお姫様抱っこされた後だった。

フォト



シティ「なっ!?」
ダンス「口のうるさい女だ、お前と話してると時間があっという間に過ぎちまう。
 こっちの方が早い」

 そう言いながら、ダンスはシティを抱っこしたまま果心の元へ歩いていく。
 足元には大量の死体がひしめき、ダンスはその上を全く気にせず踏みつけていく。
 それを見てシティの顔は青ざめていくが、ダンスは下らない、と言いたげな顔で死体を次々と踏みつけながら果心の元へ向かっていく。
 死体も死体で傷がついたり血が噴き出てたり蛆が湧いていたり腐っていたりと様々な種類があるので、歩く度にダンスの綺麗なスーツが血や肉や虫で汚れていく。
 その最中に、シティの顔色がみるみる青ざめていくのに気付いたダンスは、ため息混じりに話しかけていく。

ダンス「こいつらは、ただの幻だ。
 本物の死体じゃない。
 そもそも生き物ですらないんだ。
 だからお前が気に病む事は何もない」
シティ「で、でもあんた・・・服が、足が汚れていくよ・・?」
ダンス「この程度の死体がどうした。
 俺はこの日の為にもっと沢山の人を殺したぞ」

 二人は花嫁に向かい、死体だらけの道を歩いていく。シティが下を見ないよう、ダンスは話を続けていく。

ダンス「俺はユーを蘇らせる為に、国を取り戻す為に、何百年もあらゆるものを犠牲にし続けてきた。
 祈祷師のふりして戦争の中に飛び込んで死体を集めては、ズタボロの死体を集め、洗い、実験に使っていた。
 共同墓地を掘り起こして大量の遺体を集めた事だってある。
 俺はもうとっくの昔に、汚れてるんだよ」
シティ「そこまで・・そこまで、しなきゃいけない事なの?
 大切な人を蘇らせる事は、大切な世界を作り上げるには、そんな事を、続けなきゃいけないもの、なの・・?」
ダンス「そうだ。続けなきゃいけないんだ。
 俺はアタゴリアン人として生まれた。
 死ぬ時もアタゴリアン人として死ぬ。
 それこそ俺の絶対の信念だからな」
シティ「・・・」
ダンス「お前達、能力者は戦争に勝った。
 だから世界中で普通に生活できるようになった。
 だったら、俺だって同じ事が出来る筈だ」

 ばきり、ばきり、ぐしゃり。
 死体の顔や腹部の上を歩く度になにかが折れたり潰れる音が聞こえてくる。
 それでもダンスは止まる事も下を見る事もしない。

ダンス「俺達は一人じゃない。
 数百年の時間が俺に仲間をくれた。
 俺に好機(チャンス)をくれた。
 たとえ、何を犠牲にしてでも俺は進まなきゃいけないんだ・・・・輝かしい栄光に向かって、前にな」

 死体の山を進み、服を汚し、それでもダンスはシティを下ろそうとせず進んでいく。その顔は真っ直ぐ果心に向けられている。
 その顔をシティは見れなかった。
 ダンスの歩いた道には死体の血肉で出来た赤い道が出来上がっている。それは暗闇の中で赤く紅く輝き、まるで赤絨毯と見違えてしまうような錯覚を覚えた。
 だがそれは偽りだ。だって絨毯の合間にある血だらけの顔がこちらを睨んで・・・。
 そこまで見て、シティは無理やり視線を外し気持ち悪さを振り払う。

フォト



シティ(・・・やっぱり、最低ね。
 こいつは前しか見えないんだ・・前しか、見たくないんだ。
 こいつはダンクとは違う。私を助け、チホを助けてくれたダンクとは、
 やっぱり別人なんだ)

 シティはそう思い、ダンスから目を離す。それは狂気に入りかけたダンスの顔を見たくないからだけではない。

シティ(私、あいつにキスしちゃったんだよね、一回目は私からで二回目はアイツからで。
 こんな奴に・・)
ダンス(やはりこいつもこの死体の数にまいっているか。
 早く果心の所へ連れていかないと、さすがにまずいな)

 二人の思考はずれながら、果心の元へ向かっていく。
 スポットライトの下に果心がいるのを二人は見たので方向は分かったが、足元から聞こえる音はなるべく聞かないふりをしていた。

 やがて、果心の姿が見えていく。
 ダンスは眉をひそめ、シティはある事に気付いた。

シティ(あれ?ダンスとダンクが近づいたら互いに入れ替わるって話なかったっけ?
 確か船ではそれで大惨事になったのよね。
 あ、このままじゃやばい)
ダンス「貴様!
 何をやっている!」

 ダンスの言葉にシティはハッと気付くが、次の瞬間には腕から離れてしまい、シティの体は下に落ちてしまう。
 幸い下は、木製の床だった為に死体の上に落ちる事は無かったが、シティが起き上がったすぐ横に死体の山が積まれていて思わず恐怖と怒りで頭がいっぱいになり震え上がる。

シティ「ダンス、何すんの」
ダンス「ダンク!何でこんな事をした!」
シティ「よ・・・」
 
 しかし、死体への恐怖もダンスへの怒りも、目の前の光景を見て薄れていく。
 何故ならシティの眼前には、果心から刀を奪ったダンクが立っていたからだ。
 その全身は血にまみれ、刀にもべっとりと血がついている。
 そのすぐ下にはぐったりと倒れている果心の姿が見えて、純白のドレスが真っ赤に染まっている。
 ダンスはそんな血塗れの果心に向かい走り出していき、何度も叫んで意識があるか確認する。

ダンス「果心!おい、果心!
 しっかりしろ!目を覚ませ、おい!」
ダンク「よう、シティ。
 あの傷は治ったんだな。本当に良かった」

 ダンクは叫ぶダンスを無視し、血塗れの刀を握りしめたままシティに向かい歩き出していく。
 シティは目を丸くしながら血塗れのダンクに話しかける。
 
シティ「ダンク・・・あんた、なにをした、の・・・?」
ダンク「ああ、果心を殺して刀を奪った」
シティ「・・・え・・・?」

△ ▼ △ ▼ △ ▼



 
マンボウマン「ほう?
 我に聞きたい事とは、何だ?」
イシキ「君の創造主、ダンクの事だ。
 君は彼からどんな依頼を受けたんだ?」
マンボウマン「モラモララ(笑い声)、我に主の秘密を語れというのか?
 笑止!我が秘密を簡単に語ると思うか!?だがお主がイシキなら大丈夫、なんでも質問せよ!」
イシキ「・・・よし、じゃあひとつ目の質問。
 お前ら、はっきり言ってナンテ・メンドールの仲間だろ!」
マンボウマン「モラ!?」

 マンボウマンはイシキに細長い顔を向ける。イシキは一瞬も表情を崩さないまま話を続ける。

イシキ「それは正解という意味だな。
 ダンクには『ナンテ・メンドールの手伝いをしろ』と命令された。
 そしてナンテ・メンドールが確実に計画を発動できるように俺達がこの広場で『待機』できるよう戦況を調整していた。
 違うか?」
マンボウマン「そ、その通りだ・・・。
 我は最強のマンボウマン。
 その気になれば奴等を一掃する事など容易い。だが、それをすれば彼等が城に入り全面戦争に突入。ナンテの計画が崩れてしまう。
 だから我は、お前達が進みすぎないように戦線の調整をしていたのだ・・・」
イシキ「賢明な判断だな。
 俺達は避難者や弱い奴等を守る事を念頭に入れている。
 ここで奴等を崩してしまえば、避難者達は怒りの儘に突き進む可能性がある。
 被害者と加害者の逆転なんて、あっちゃならない事だからな。
 質問を続ける。
 あの時、ダンクはチホが父親を刺し殺すのを阻止する為に現れた。
 だが・・・」

 イシキは一度口を閉じる。それを他の誰かに聞かれないか辺りを注意深く見渡し、誰もがテレビに釘付けになっている事を確認してから、もう一度マンボウマンに目を向けた。

イシキ「そうしなければ、奴は決して俺達の前に姿を現すつもりはなかった。
 あの出来事は誰の計画にもない、完全な予想外事態(ハプニング)。
 だからこそ、ダンクは俺達の前に現れ、皆を守らざるをえなかった。
 逆に言えば、あの事態さえなければダンクは俺達の味方には成り得なかった」
マンボウマン「・・・」
イシキ「ダンクは、本当はナンテ・メンドールの味方をしていた。違うか?」

 イシキの質問に、マンボウマンは表情を強張らせていく。そして少し顔を横にずらした後、こう言った。

マンボウマン「・・・そうだ。
 奴は、ナンテ・メンドールは、我が創造主にこう話を持ちかけていた。
 『こちらの計画の情報は全てお前に開示する。ただしある時点までゴブリンズの味方をし、我らが合図すればその時こそ本当に裏切れ』、と・・。
 」
イシキ「そのタイミングは、いつだ?」
マンボウマン「・・・・・・」
イシキ「答えろ、魔法生物。
 一体、いつ裏切れと言われたんだ。
 早く答えろ!」
マンボウマン「・・・今、なんだ。
 結婚式が始まり、敵が現れ、果心林檎が刀を抜いた、その時に・・・」
イシキ「ちっ!」

 イシキはテレビの画面を再度みる。
 映像の中では竜と龍の激突する映像が流れ、花嫁の姿は映し出されなかった。
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