観終わったあとにただよう、このすっきりとしない印象はいったいなんだろう。いかようにも解釈できる、もやもやとしたこの感触こそ黒澤作品「羅生門」から継がれてきた日本映画のお家芸なんだろうか。是枝監督が自ら原案・脚本・編集にもたずさわった、いまの日本映画ではめずらしい完全オリジナルの司法サスペンス。ベネチア映画祭では惜しくも受賞ならず。
福山雅治が弁護士を演じると聞くと、いかにもやり手な熱血野郎、あるいはクールな立ち居振る舞いを想像するけど、今回はそのどちらでもなく、やっつけ仕事とまで言わないながらどこか醒めたままのような低温体質。いや、同時にいくつもの案件を抱えつつ仕事を推し進めていくという弁護士という人種は、案外このくらいのほうがリアルなのかもしれない。
対峙する容疑者役に役所広司。物語が始まったあたりでは、このキャラなら別に彼でなくてもいいのにと思わせながら、終盤に近づくにつれて、いやこのやっかいな人格の持ち主は、やはり役所広司でないと演じられないなと確信してしまう名演技。今回初めて“是枝組”に彼を引き入れたのは、けっしてネームバリューに頼ったのではないと納得がいく。
これまでの司法もののように、法廷場面におけるやりとりが物語のクライマックスになるのではなく、留置場の接見室におけるガラス越しのふたりの心理的な駆け引きのほうに重心を置いている。そして最初に書いたように、どこかすっきりとしないままのエンディングを迎えるが、タイトルの持つ意味だけはうっすらと見えてきて、ゾクゾクとした戦慄を覚えてしまうのだ。
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