小指
吉田嘉七
これは小指だ
牛肉大和煮空缶のカンカラの中で
今融けてゆく肉体の一部
さっきまで笑っていた貴様の小指
こいつを除く大部分の肉体
それは中華民国雲南省龍陵県の
名も無い山でねむりつづけろ
しかし貴様の魂の全部をくくりつけ
いつか故郷に連れてって
おふくろさんの掌に
ちょこんと座らせてやろうじゃないか
しわくちゃな生命線と運命線の間で
赤ん坊より小さな小さな貴様は、
もう銃把は握れやしない
ただしっかりと抱きしめられて
生まれたままの顔で笑え
夕やみの谷間の壕の中で
ちろちろと燃えているのは
おい、高橋兵長、
貴様の小指だ
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