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2017年02月24日05:40

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追悼・鈴木清順監督/ルパン三世に敗れた職人監督

映画監督の鈴木清順さん死去
http://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=2&from=diary&id=4444747

 TVアニメ『ルパン三世』第2シリーズに「監修」として、鈴木清順の名前がクレジットされているのを見た時には、これは本当にあの鈴木清順なのかと驚いたものだった。
 考えてみれば、『ルパン三世』第1シリーズから関わり、第2シリーズではシリーズ構成も担当した脚本家の大和屋竺は、日活時代からの鈴木清順の直弟子であり、清順監督を筆頭にして結成された脚本家グループ・具流八郎の一人でもある。大和屋の他に、山崎忠昭や宮田雪といった、日活アクションを支えてきた仲間たちによって立ち上げられた『ルパン三世』シリーズに、清順監督が参戦するのはごく自然な流れだった。清順監督は、さらに最若手の弟子として、浦沢義雄も『ルパン三世』でデビューさせている。

 しかし、遡って第1シリーズ当初、大和屋たちが敷いたハードボイルドでシリアスな大人向け路線の『ルパン三世』は視聴率を稼ぐことができず、監督の大隅正秋ともども、半ば追い出されるような形で戦線離脱を余儀なくされている。その後を継いで、ファミリー向けのライトなコメディにガラリと変貌したルパンを作らされることになったのが、Aプロダクション演出グループという匿名で監督を担当した、高畑勲・宮崎駿の、後のスタジオジブリコンビである。よく宮崎駿の監督デビューは『未来少年コナン』だとされることが多い。しかし、共同監督ではあるが、この旧ルパンの後半こそが、宮崎駿の実質的な監督デビューなのである。そしてそれが、鈴木清順との確執の始まりでもあった。

 視聴率不振で打ち切られた第1シリーズは、再放送で人気が爆発し、第2シリーズの製作が決定した。再び大和屋以下、旧スタッフが招集されたが、テレビ局側が要請したのは、初期のシリアスなルパンではなく、高畑・宮路線のおちゃらけルパンであった。だったら俺たちを呼ぶなよと、大和屋たちにしてみれば憤慨ものだったとは思うが、彼らはギャグに特化したルパンを描き続け、第1シリーズを上回るヒットを飛ばした。
 清順監督の「監修」という立場がどの程度のものだったのか、名前貸し程度に過ぎなかったのか、長らく謎ではあったが、飯岡順一の『私の「ルパン三世」奮闘記』によって、毎回シナリオ会議に参加して指示を出すほどに熱心に関わっていたことが語られている。原作やアニメ初期のシリアスさこそ失われてしまったが、破天荒なエンタテインメント性は、清順グループによって支えられることになったのだ。大塚康生に代わって作画を担当した北原健雄の極端にマンガチックにデフォルメされたキャラクターデザインも、人気に拍車をかけた。

 しかし、そこに再び宮崎駿が「乱入」してくることになる。
 第2シリーズのヒットで、ついに長編映画化されたのが『ルパン三世 ルパン対複製人間(クローン)』であったが、これに監修として参加したオリジナルスタッフの大塚康生は、実際は途中参加で、殆ど口出しできる状況ではなかった。ないがしろにされたと憤慨した大塚は、次作『カリオストロの城』の監督に宮崎駿を招聘する。
 テレビシリーズで手一杯な清順グループは、脚本として参加することしかできなかったが、あろうことか、宮崎・大塚コンビは、この第一稿を無視して勝手にプロットを変更してしまう。もっとも、江戸川乱歩『幽霊塔』をモチーフとした展開はそもそも清順グループの脚本にもあったもので、宮崎・大塚が行ったのは、露骨な「クレジット外し」であった。
 清順グループも、宮崎・大塚も、お互いに「自分たちこそがルパンのオリジナルを築いた」という矜持がある。それがぶつかり合うのだから、タダですむはずがない。『カリオストロの城』は第一作ほどにはヒットしなかったが、アニメーションとしての評価は高く、大塚率いるテレコム・アニメーションと、宮崎駿には、引き続いてテレビシリーズのエピソード制作の依頼が届く。大塚は任された作品を、わざと旧シリーズのデザインのままに作画する。作監の北原健雄は、最初はそれを自分の絵柄に修正していたが、しない方がいいと判断するに至ったのだろう。無修正のまま、通すようになる。
 そして極め付け、『死の翼アルバトロス』と最終回『さらば愛しきルパン』の脚本・監督を宮崎駿が担当することになるが、宮崎のつけた条件は、清順グループを一切関わらせないことだった。

 先述した『私の「ルパン三世」奮闘記』に、鈴木清順と宮崎駿の緊迫したやりとりが記されている。『アルバトロス』の絵コンテに、「どこが面白いか分からない」と突っ込む清順監督に対して、宮崎駿は「テレビアニメなんてこんなもんです」と嘯く。筆者の飯岡順一は清順監督寄りで、プロデューサーの藤岡豊の覚えめでたい宮崎駿を恨んでいる嫌いがあるから、どうしても宮崎駿が不遜に見える書き方をしているが、客観的に見れば、清順監督のツッコミの方がただの言い掛かりのイチャモンである。清順監督、自分が『殺しの烙印』を作った時に、日活の社長から「訳が分からない」と難癖を付けられて解雇されたことを忘れたのだろうか。
 清順監督は、結局、何一つ『アルバトロス』と『愛しきルパン』に関われなかった。さらには自分たちが用意した最終回の脚本も、宮崎駿に乗っ取られる形になった。しかもその内容は、「これまでの第2シリーズのルパンは全部偽物で、本物のルパン一味が偽物をたたきのめす」という話であった。これで清順監督が怒り狂わないわけがない。
 しかし、『アルバトロス』と『愛しきルパン』は、第2シリーズ中でも屈指の名編として評価されている。この勝負の軍配は、完全に宮崎駿に上がっていた。

 ところが二人の「勝負」はこれで終わったわけではなかった。
 テレビシリーズ『ルパン三世 PART掘戮製作され、劇場版第3作も企画された時、再び監督の依頼が宮崎駿に持ち込まれた。もはやルパンに興味も関心もなくなっていた宮崎駿は、その企画を旧知の押井守に押し付ける。押井は後に『天使のたまご』や『機動警察パトレイバー THE MOVIE』の原型となるプロットを提出するが、これがよみうりテレビや配給の東宝に「訳が分からない」と修正を求められる結果になる。それを拒否した押井は監督を下ろされたが、映画公開の日程は既に決められていた。
 急遽、監督を依頼されたのが鈴木清順で、吉田茂承との共同監督で、突貫作業で作り上げたのが『バビロンの黄金伝説』である。脚本は浦沢義雄と大和屋竺であるが、これはもうシリアスなルパンかコミカルなルパンかと論じるのもバカバカしくなるようないい加減なもので、『ランボー2』との併映で何とかヒットはしたものの、作品の評価としては最低レベル、劇場版ルパンシリーズの中でも忘れてしまいたい黒歴史となってしまった。

 鈴木清順と言えば、『けんかえれじい』であり、『野獣の青春』『殺しの烙印』であると認識している日活時代以来のファンもいるだろう。『ツィゴイネルワイゼン』『陽炎座』『夢二』の大正浪漫三部作こそが、清順美学の最高峰だと評価する向きもあると思う。
 しかし、鈴木清順の名前が最も人口に膾炙したのは間違いなく『ルパン三世』であり、にもかかわらず、その最大の仕事でろくな評価を受けなかったというのは、決して小さな傷ではなかったと思う。
 『ルパン三世 PART掘戮如⇔詭收興腓唯一脚本を担当した『悪のり変装曲』は、原作エピソードの『悪のり』と『変装曲』を無理やり合体させ、中盤はルパンが迷宮をただひたすらさ迷うという、完全オリジナル作品だったが、この「訳の分からなさ」こそが、鈴木清順の鈴木清順たる所以だった。ところが「監修」していた頃には、こうした不条理性を、鈴木清順はあえて抑えていた。
 それは「宮崎駿路線」を製作から要請されていたからであって、職人監督としての自負もあった鈴木清順が、あくまで「黒子」に徹することを決意していたからではあったろう。しかし、「模倣」を強いられて、鈴木清順に何ができたのかということを、問わずにはいられなくなる。第2シリーズの多くの貧弱なストーリー、『バビロン』の惨状を見て、「何やってんだ、鈴木清順」と落胆したファンは決して少なくはなかっただろう。

 『ルパン三世 PART掘戮鮑埜紊法∪興腑哀襦璽廚痢悒襯僖鷸粟ぁ戰轡蝓璽困悗良帰はほぼなくなってしまった(浦沢義雄が『モンキーパンチ漫画活動大写真』の構成を担当したくらい)。テレビスペシャルの監督は、出崎統や大隅正秋、杉井ギサブローといった、パイロット版製作にかかわった、大塚康生繋がりのスタッフに依頼されるようになり、その後を継いだ新人たちも、彼らに育てられた者ばかりになっていく。久しぶりのテレビシリーズだった『ルパン三世(PART)』の製作もテレコム、監督も『カリオストロ』繋がりの友永和秀であった。
 鈴木清順の影は、『ルパン三世』から一掃されてしまった。実験的な宮繁之の『GREEN VS RED』や、小池健による一切のギャグを排したハードボイルドな『LUPIN THE RD』シリーズを観るにつけ、『PART供拇時に、鈴木清順がもっと自由に、それこそ『ルパン三世 ツィゴイネルワイゼン』みたいな作品をどしどし送り出していたら、『ルパン三世』の世界はもっと広がっていたのではないかと思う。
 もう一本、起死回生の「清順ルパン」を劇場で観てみたかった。

 合掌。




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