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2017年02月23日19:53

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長編小説 角が有る者達 第141話または第11話

『気付かされた自己紹介』

ー???ー

メル「う、うう・・は、ここは!?
 メタルトーZは!?」
リッド「あ、起きた」
マルグ「やれやれ、もう目が覚めたか。
 おそよーだせ、メル!」
メル「う・・?
 き、君達は?」
マルグ「おいおい、そんな事も忘れたのか?俺はマルグ、あいつはリッド。
 ここは・・何処だ?」

 目を覚ましたメルの前には片目を包帯で隠し、ドクロのイラストがプリントされたシャツを着ている茶髪の男の子マルグと、綺麗な金髪をポニーテールにしてまとめた女の子、リッドが立っていた。
 メルは立ち上がろうとして、自分の体の上に黒色ジャケットが掛けられているのに気付いた。

メル「あ・・」
マルグ「あ、それ俺のジャケットだぞ!返せよ!服屋のばーちゃんに百円値引きして買った大切なジャケットなんだからな!」
メル「あ、ありがとう・・」
マルグ「ふん!」

 メルは立ち上がり、マルグにジャケットを返す。そして辺りを見渡した。
 どうやら広い部屋のようではあるが天井の明かりは部屋の端まで照らしてない。
 この部屋と廊下を繋ぐ扉は破壊されており、薄暗い部屋にもう1つの灯りを射し込んでいる。
 使われてない部屋なのか、床には埃が積もり古い物が散乱している。

メル「ここは・・何処・・?」
マルグ「なんだ、お前も知らないのか?
 ゴブリンズの癖に情けねえ」

 マルグの軽口に、二人はマルグに目を向ける。対してマルグは苛立ちを隠さずに睨みつけた。

マルグ「あーホントまじで情けねえ。
 俺達は巻き込まれた側なんだぞ。
 お前が勝手に俺達を助けようとするからこうなったんだろうが」
リッド「マルグ、ちょっと落ち着いてよ!
 ここでけんかしてもしょうがないでしょ!」
メル「いや、マルグ君の言う通りだよ」
マルグ「あん?」

 メルは顔が少し青ざめていた。
 肩には力が入っておらず、背を丸くしながら話し始める。

メル「僕は、まだ弱い・・。
 ゴブリンズに入ったのも最近だし、他の誰かの力が無くちゃ戦う事だって録に出来ないんだ・・。
 二人が事に巻き込まれたのは僕のせいだ」
リッド「メル君・・?」

 メルは自分の拳を強く握りしめる。
 その手には先程マルグに渡された破片の一部が残っていた。
 
メル「君達がニバリに人質にされた時、ニバリにセキタに会わせてって言われた時に僕は迷っちゃったんだ。
 人を蘇らせるこの力を、そんな簡単に使っていいのかって・・。
 そうやって迷わなければ、アイツ等に捕まる事なんて無かったかもしれなかったのに・・本当に、ごめん」
マルグ「俺達の命を天秤に乗せてそんな考えしてたのかよ、てめぇ・・」
リッド「落ち着いてよ、マルグ!
 メル、それでも貴方は私達を二度も助けてくれたじゃない!」

 拳を振るおうとするマルグをリッドが無理矢理制止させ、メルに必死に話しかけていく。メルが顔を上げる。 
 
メル「それは・・」
リッド「私、貴方に感謝してるよ!
 ううん、私だけじゃなくて、あの蜘蛛糸に囚われた人全員、貴方に感謝してるわ!
 だって、貴方が飛び出ていなければ今頃何をされてたか分からないもの!
 だから、貴方は自分の行動に胸を張っていいのよ!」
メル「・・・・」
マルグ「・・り、リッド。
 お前、本当にリッドか?」
リッド「え?
 な、何を言って・・」
マルグ「いつもがさつで暴力バカなお前がそんなしおらしい事言うわけ」

 無い、と言う前にマルグは己の言葉を後悔した。リッドに強烈な膝げりを鳩尾に喰らったからだ。
 マルグは床に転がり悶絶する。

マルグ「う、おお・・」
リッド「これで私が本物だと理解してくれたかしら?ああ、ところでメル君」
メル「は、はい!」
リッド「私、あまり暴力は好きじゃないから。分かった?」
メル「よ、良くわかりました!」

 先程の暗さが嘘のように大きな声で返事をするメル君。
 リッドはマルグの痛みを能力で癒した後、二人に先ず自己紹介をするよう声かける。
 二人もそれに賛成したので、とりあえず自己紹介をする事になった。
 
リッド「先ずは私ね。
 私はリッド・クラウン。
 カトリーヌ孤児院の中級生なのよ。
 能力は『傷を癒す能力』。
 まだ、少ししか治せないけどね」
マルグ「俺はマルグ・ジェスター。
 同じくカトリーヌ孤児院の中級生!
 能力は秘密な!」
メル「え、秘密なの?」
マルグ「ま、まあ後のお楽しみという事で・・」
リッド「あんたの能力は『湿気が分かる能力』でしょ・・」
メル「え・・」

 薄暗い部屋の中に一陣の風が吹いた。
 マルグが物凄い目を丸くしてリッドに叫ぶ。

マルグ「リッドー!
 それは言わないでよー!」
リッド「隠しても意味ないでしょうが!
 全く、男子ってなんでそんなに見栄を張りたがるんだか。
 ついでに能力を見せたら?この部屋の湿気は?」
マルグ「う、だいたい・・40パーセント・・」
リッド「これがマルグの力よ」
メル(残念すぎる・・)
マルグ「あ、テメー!
 今残念過ぎるって思ったろ!」
メル「お、思ってないよ!(顔を背けつつ)」
マルグ「嘘つくなー!
 俺達が自己紹介をしたんだから、次はお前がやれよなー!」

 マルグが目を三角眼にしながらこちらを睨み付ける。メルは半分仕方なさそうに自己紹介を始めた。

メル「僕の名前はメルヘン・メロディ・ゴート。
 ゴブリンズにはまだ入ったばかりだけど、『影鬼』っていう二つ名を頂いている。
 能力は沢山あるんだ」
マルグ「何!?」
リッド「どんな能力なの?」
メル「先ずは『他人の一番刺激的な記憶を夢を通して見る能力』。
 次に『他人の能力を自分の能力として使える能力』。
 最後に、『他人の記憶から他人を一時的に作り出す能力』だよ」

 メルは後ひとつ知らない能力が有るのを言おうとはしなかった。今そんな事話しても意味が無いからだ。
 マルグはわなわなと肩を震わせながらメルを睨み付ける。

マルグ「なんだお前、そのいかにも主人公だけが持ってそうなチート能力の連発!
 ずりーだろ!なんだよそれ!俺なんかキノコ育てるくらいしか役立てない力なのに!ずるすぎだろ!」
メル「い、いやまあ・・そうなの、かな?」
マルグ「そうだよ、そうなんだよ!
 全く、なんで俺の力はヘンテコなのにこいつは・・!
 まあ言っても仕方ないか・・」

 マルグはポリポリと頬をかいたあと、ばつが悪そうにメルから目をそらす。リッドが呆れたようにため息をついた後、メルに話しかける。

リッド「それで、貴方達は何か私達を追いかけている奴等の事を知ってるの?
 それが分からなければ探索もできないわ」
メル「う、うん。
 さっきの自己紹介で聞いたんだけど、君達はさっき『カトリーヌ孤児院』の生徒だって言ったよね」
リッド「ええ、それがどうしたの?」
メル「・・もしかして、その職員の中に『ナンテ・メンドール』って人はいないかな?」

 メルの声は僅かに震えていた。リッドはそれに気付き眉をひそめる。だがその震えの正体を聞く前にマルグが答えてしまう。

マルグ「ああ、いるぜ。
 この孤児院を経営しているのはナンテさんのおかげなんだ」
メル「・・!!」
 
 メルは思わず息をのみ、その目が見開く、そしてリッドの疑問が確信に変わっていく。

マルグ「ナンテさんはな、俺の憧れなんだよ!
 俺達みたいな孤児を受け入れてくれてよ。
 難しいことを知っていたり、面白い本を沢山もってきてくれるんだ!
 夢は世界中の孤児を幸せにする事なんだよって俺に話してくれた時はすげー嬉しかったぜ!
 正しい力っていうのはあの人の為にあるんだよ!ヘタレなお前と大違いだな!」
メル「・・・・」

 メルの顔が少しずつ青くなり、マルグの顔が少しずつ緩んでいく。リッドは一度目を閉じて、自分の感情を整理したあとマルグに話しかける。

リッド「マル・・」
マルグ「ん?」
リッド「もう、貴方がノンケ話しをしすぎたから長くなっちゃったじゃない!
 いつまでもここで話してるわけにはいかないわ。ゴブリンズは奴等に捕らわれそうな私達を助けた、それでいいのよね?」
メル「う、うん・・」
リッド「なら次は移動よ!
 早くしないとさっきの白スーツ女が来るわ!」

 メルは俯きながらそう答える。その顔には焦りと不安が渦巻いているのはリッドには分かったが、マルグは気付かなかった。

マルグ「よーっし!
 先ずは部屋の探索だ!武器でも情報でもなんでも出てこい!」

 マルグが部屋の隅を探しだし、メルもそれに参加しようとするが、リッドがそっと近付き耳元で囁く。

リッド「何か知ってるのね、ナンテさんの事」
メル「・・!」
リッド「動かないで聞いて。
 マルは・・マルグはナンテさんの事を凄く尊敬しているの。私から聞いといて悪いんだけど、言わなくて正解よ。
 だけど・・」

 リッドが顔を上げる。メルもまた顔を上げて、二人の距離がとても近い事に気づく。
 メルは一瞬息を呑み、リッドは静かに答えた。

リッド「いつか必ず、本当の事を教えてね」
メル「・・・・うん」

 メルの心臓の鼓動が激しくなっているが、それを隠すように一、二歩あとずさる。
 リッドは両手を後ろにして、笑みを浮かべる。
 その笑みはとても可愛らしくて、それと同時に何処か危険性を孕んでいるようだ。
 メルはその時は、そう思ってしまった。
 
フォト



続く
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