富士山の見える町

　古殿町役場の玄関には「富士山の見える町・ふるどの」という大きなポスタ
ーが貼ってある。嘘かと思われるかもしれないが、本当に富士山が微かに見え
るのだ。ただし、それは年に１〜２回くらいのこと。よほど気象のタイミング
がよくなければ、拝むことはできない。最初に同行したカメラマンが「最低１
週間は張り付かないとならないですよね。その仕事だけはご遠慮します」と笑
って断ったくらい。もちろん、写真の腕の問題ではないので、地元の人から写
真を借りることになっている。
　それにしても遠い福島県で富士山が見えるのは、さすがに北限だろう。実は
古殿がそれだったのだが、後年になって羽山、そして最近は川俣町の花塚山で
も撮影に成功。北限の位置が少しずつ北にずれている。だから古殿は北限とは
名乗れないのだが、富士山が見えるだけでも立派なＰＲ材料だ。町では三株山
の上にライブカメラを設置し、遅咲きの「越代のサクラ」とともにアマチュア
カメラマンに最新情報を提供している。
　ただ、富士山が見えるといっても、実際はカメラで小さく写るだけ。それを
拡大すれば見える程度である。つまり、カメラの精度が上がっているというこ
とだろう。よく肉眼の方がレンズよりも優れていると言われるが、こうした能
力に関しては機械に勝てないらしい。機械はどんどん進化していくから、その
うち北海道から見えたなんていう日がくるのかも。仮にそんな日が来ても、福
島と違って有り難みは薄いかもしれない。