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2017年01月30日08:52

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トランプ政権は軍事衝突覚悟で、中国海上軍事基地封鎖「南シナ海版キューバ危機」に踏み切れるか

 下記は、2017.1.30 付の【野口裕之の軍事情勢】です。

                      記

 長目のネクタイを垂らした米国のドナルド・トランプ大統領が、先の尖った竹の枝で巨大なパンダをつっついている。

 こんな政治漫画とともに、英紙フィナンシャル・タイムズ(17日付)は、米国のトランプ政権が、中国と衝突し軍事紛争を誘発する可能性が高まっているとの現状分析を紹介した。著名なコラムニストの手による記事は、南シナ海に人工礁を造成し、軍事基地化を猛進する中国と米国の間で南シナ海版《キューバ・ミサイル危機の舞台が整う》と不気味な警告をしている。

 小欄も否定はしないが、かといって断言するだけの情報に乏しい。お陰様で521回目を迎えた小欄は過去、「予断を許さない」という常套句を何度も使ってきたが、「変数の多い」安全保障の世界で、一定の自信はあるものの、万が一、分析がはずれるリスクを回避する逃げ口上だった、と告白しておく。

 しかし、トランプ氏の安全保障政策は「全てが変数」。トランプ氏自身、安全保障戦略を描けているのか否かすら判然としない。安全保障観の有無を、観測・分析の起点としなければならないのだ。

 まさか、「トランプ占い」の結果を、読者の皆様にお届けするワケにもいかない。バラク・オバマ前大統領は「口先介入」を連発し、《アジア太平洋回帰戦略=リバランス》も腰砕けで、中国を増長させ、レッドラインを超す軍事膨張や国際法無視、少数民族の虐殺…と、やりたい放題を許した。

 一方、トランプ氏は敵性の外国・組織に対し激烈な「口撃」を続行中だ。確かに、中国に向き合う姿勢はオバマ政権とは比較にならぬほど強い。ただ、「口撃」が「攻撃」へと移るのか、単なる貿易・関税摩擦解消へのブラフ→ディール(取引)なのかを見極めるには、安全保障や経済を担当する実務者の政治任用が出そろい、分析の中間報告が上がるまで、待たせられるかもしれない。当然、安全保障を担うホワイトハウスの補佐官や政府の長官級の発言も、歴代米政権以上に格段に重要となる。

トランプ氏は劣化著しい米軍を再建するのか

 その意味において、ショーン・スパイザー米大統領報道官が定例記者会見で口にした言葉に注目したい。報道官は、中国が人工礁を造成し、軍事基地化を急激に進めている情勢を念頭に、強くけん制した。

 「一つの国による占拠から防衛する」

 「南シナ海は『公海』の一部で、米国は自らの『利益』守護を確実にする」

 『公海』という認識は重要だ。が、小欄が注目するのは一歩進めて『米国の海』という認識まで、持っているかどうか。また、二歩進めて『米国の利益』とは海上貿易のみに留まらないと、自覚できているかどうか。まずは、『米国の海』『米国の利益』とは何か、米国の伝統的国家戦略を導入部に、考えてみる。

 米国の伝統的国家戦略は、「唯一の超大国」の地位を死守すること。オバマ氏もトランプ氏も「世界の警察官」を返上する主旨の発言をするが、唯一の超大国まで放棄するつもりはない。特にトランプ氏が主唱する「米国第一主義」を貫徹するには、超大国としての地位は不可欠だ。20日に発表した基本政策でも《他国が米国をしのぐ軍事力を持つことは許さない》と明示した。

 ただし、米国を唯一の超大国だと国際社会に認めさせることが大前提だ。

 ところが、日米軍事筋によれば「米軍の劣化は深刻」で「陸軍は過去80年、海軍は過去100年で、各々最小規模。空軍に至っては創設以来最少という惨状だ」。トランプ氏はロナルド・レーガン大統領(1911〜2004年)同様に「力の信奉者」と観測される。「力の源泉=軍」が沈みっぱなしの状況にプライドを傷付けられ、許し難いと感じれば、国軍の大再建に舵を切っても不思議はない。

 トランプ氏の対中警戒度は、わが国の国防にも大きな影響を与えるが、意外にも安全保障に力を入れる兆しが認められる。大統領選挙中の「公約」では、中国ではないが《イランや北朝鮮のミサイル脅威に対抗するため、巡洋艦を近代化する》と宣言。《(現在48万人の)米陸軍を54万人に増強する》とうたってもいる。

 前者=巡洋艦の近代化に関して付言すれば、トランプ氏は海軍の現有艦艇274隻を350隻に増やす目標を掲げる。超党派の国防諮問委員会が勧告した保有艦艇数323〜346隻を上回る配備数だ。

 後者=米陸軍兵力増強も数字を挙げる。財源にも触れ、オバマ政権が財政再建に伴い2013年に始めた国防費の強制削減措置を、議会と協力して撤回すると言い切っている。一応、現実を直視した姿勢だ。

 「公約」を実行に移せば、唯一の超大国への復権第一歩となろう。もっとも、戦力・兵力の増強だけでは、国際社会に唯一の超大国とは認知されない。いよいよ、前述した『米国の海』『米国の利益』の話に入る。

米国は南シナ海の「当事国」

 大西洋はじめ、太平洋・インド洋における米軍のプレゼンスは「絶対的」で、いかなる国家をも「圧倒」している。『米国の利益』に直結する『米国の海』だからだ。けれども、「絶対的」「圧倒」なる表現を使えぬのが、東シナ海や南シナ海、地中海。大国や敵対国を含む地域国家に囲まれる狭い海域で、米国の影響力は限定される。

 だが、東シナ海や南シナ海などの安全を脅かす中国の軍事行動を封じなければ、世界の海を支配してない証拠を、世界に周知してしまう。米国は自らが「当事国」だと世界に宣言し、中国の領域拡張の野望を引き裂かないと、唯一の超大国としての存在感は薄まるのだ。トランプ氏は、かかる戦略性を理解できているかは別として、海軍長官を指名した25日、「艦隊を拡充して近代化し、米海軍力の覇権を今後何十年も確実にしていく」と表明した。

 逆に、「地域の覇権国」の地位を得たい中国は、米国による南シナ海介入をいやがる。現に「米国は南シナ海をめぐる争いの『当事者』ではない」「南シナ海の領域紛争は『当事国』同士で解決する」と言い続けている。

 そもそも、南シナ海の情勢激変は米国経済にも深刻な影響を与える。南シナ海では、世界の貿易量の4分の1が通過し、年間5兆ドル分の貿易額が移動するが、うち1兆ドルが米国に向かう。南シナ海の通航の自由を中国が奪えば、トランプ氏が「公約」で強調した「平均経済成長率3・5%」は夢物語で終わる。計算高いトランプ氏が、安全保障戦略と経済・貿易戦略を連動させるのなら、「当事国」としての自覚を持つべきだ。

 「当事国」になるには、オバマ政権の戦略的失敗の立て直しが避けて通れない。中国は人工礁周辺の「領海に入るには、無害通航でも事前通知をすべし」と“公布”した。対するオバマ政権は2016年、複数回にわたり事前通告せず、駆逐艦を人工礁の周囲12カイリに駆逐艦を派遣して無害通航する《航行の自由作戦》を実行した。しかし、ここで注意を要するのは、「無害通航でも事前通知をすべし」との中国側の“公布”を無視→否定しただけで、緊張を高める中国の領有権は否定しなかった失策。

 この点、トランプ氏が米国務長官に指名したレックス・ティラーソン氏は、指名に向けた上院公聴会で発言した。

 「人工島建設を終わらせ、人工島への接近は認められないと、明確な警告を送らねばならない」

 しかも、人工礁造成をロシアによるクリミア併合とダブらせ「重要な脅威」の筆頭に挙げた。フィナンシャル・タイムズはティラーソン発言を採り上げ《中国には、人工島を封鎖する米国の脅しに聞こえる。そうなれば、中国が海や空を使い封鎖を破ろうとするのはほぼ確実》だと言い切った。

 冒頭述べたが、キューバの核ミサイル基地建設が発覚し→米軍はカリブ海で海上封鎖を実施→ソ連と全面核戦争寸前まで達したキューバ・ミサイル危機を、フィナンシャル・タイムズの記事でコラムニストが持ち出したのは、ティラーソン発言に関連してだった。

 スパイザー報道官は「中国による人工島への接近拒否」をハッキリとは言及しなかったが、ティラーソン国務長官は明言したのだった。とすれば、《航行の自由作戦》などとは比較にならぬほど、警戒レベルを上げたROE(交戦規定)を伴った作戦が敢行される可能性も出てくる。

「狂犬」とのあだ名を持つ新国防長官

 もちろん、事態を必要以上にエスカレートさせない知略は必要だ。安全保障戦略に関し、トランプ氏には、国防長官に就任した元中東軍司令官のジェームズ・マティス退役海兵隊大将ら、プロの意見に真摯に耳を傾けてほしい。マティス氏は「(敵を)撃つのは楽しくてしようがない」と放言し「狂犬」と、あだ名を付けられた。だが、マティス氏の能力について、複数の軍事筋の高い評価を小欄は聴いた。米議会の公聴会での主張も、知的だった。

 「強固な同盟国を有する国家は繁栄し、持たない国家は衰退することは歴史が証明する」 

 中東やアフリカを管轄する中東軍司令官ではあったが、沖縄に唯一の海外基地を置く海兵隊出身らしく、アジアの重要性を認識している。実際、就任後初の外国訪問(2月)も韓国と日本となった。あとは、職業軍人だったマティス氏が軍事的合理性を基に進言する安全保障戦略を、素人のトランプ氏がきちんと受けいれるか否かだ。 

 ところで、航行の自由作戦以上の烈度を伴う軍事作戦が展開されれば、わが国も「当事国」になる。南シナ海が日本にとり死活的な貿易航路であるだけではない。軍事上の出費や協力を同盟国への“リトマス試験紙”にしたいトランプ氏は、わが国に自衛隊派遣を求めてくるとの見方が「当事国」入り説を補強しているのだ。

 そのとき、「日本の安全への脅威ではなく、フルスケールでの集団的自衛権行使は日本国憲法の制約と、憲法に沿った現行の安全保障関連法の許容限度を超えるのでできない」と断れば、憲法が戦後もたらしてきた数々の厄難の中でも、最大級の国難に発展する。

 日本国憲法の「原作者」だった過去の国家犯罪を忘れている(トランプ氏に至ってはご存じない?)米国との関係は、日米外交史に類を見ないほどの、きしみが生じる。

 同時に、米国が中国を南シナ海よりはじき出せば、中国は今以上に東シナ海に侵出してくる脅威を、主権国家として覚悟しておくことだ。

 日米同盟の亀裂を取るか、中国の東シナ海侵出を取るかの二者択一であれば、中国の東シナ海侵出を受けて立とうではないか。

 トランプ氏を「異常」呼ばわりする前に、異常な憲法を改正し、わが国の領域はわが国で守る国防の自律性を強化する国策は、実現以外に許されぬ重大局面を迎えたのである。

 http://www.sankei.com/premium/news/170130/prm1701300005-n1.html
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