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2017年01月20日08:34

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長編小説 角が有る者達 第137話または第8話

ミカタの問題

「世界というのは広くて長くて大きくて平和であるようでいてその実ただ食い散らかす堕落と食い散らかされる誠実が幾重にも重なってできる複雑怪奇な迷路なのです。
 次の分岐点の先に何があるかなんて誰にもわかりません、だけど地獄への近道は幾らでも存在しかつ巧妙に隠されているものなのです。片手を当てれば出口に必ず辿り着くなんて裏技の対策法幾らでも考えられます。だから人生に裏技なんて存在しません。
 僕は、その裏技が世界のどこかに必ず存在すると思い込んでしまいました。
 なんて短絡的で能天気で無価値な阿呆でしょう、だから僕はゴブリンズに入ったのです。ここにいれば誰かが裏技をこっそり教えてくれるかもしれません。それほど僕はその裏技を見たかったのです。ですがここにその裏技の答えはありませんでした。
 それを知った僕は早々にここを去るべきでした。それなら僕はまだまだ裏技を探し続ける事が出来たのに、まだまだ愚かであり続ける事が出来たのに、僕はその分岐点を選び続ける事が出来たのに。
 彼は僕から裏技を探す事を止めさせてしまいました。
 リーダー、どうして貴方は僕に、『隠れ鬼』なんて名前をつけたんですか?」
 

〜???・『会議室』〜

「煙だ!」「何も見えない!」「こども達か逃げたぞ!」「ゲホゲホ、畜生が」
ケシゴ「ルトー、貴様ァ!」

 ケシゴの声が聞こえる。
 ルトーは掌サイズの箱を取り出す。一辺に網が張られて中にプロペラが入り込んだ吸煙ファンが仕込まれている。ルトーはそのスイッチを押してしまった。
 煙はファンの中に消えていき、彼等の視界は晴れていく。そして見えるのは椅子から立ち上がった男達と、顔を真っ赤にしたケシゴと、冷ややかな目でそれを見るルトーだ。
 ケシゴはこめかみからピクピクと血管を浮かべさせながら何か言おうとするが、あまりに怒りが収まらないので口が震えている。ルトーはそれに全く気にせず軽口を叩く。

ルトー「くすくす、どうしたおじさん?
 邪魔者消えて本性出しやすくなった見たいじゃないか?
 おじさんには気味悪い敬語よりそっちの方が向いてるよ?」
ケシゴ「貴様ァ!ころ、殺してやる!」

 そう言いながらケシゴはサングラスを外し、ルトーを見る。
 ケシゴの才能の1つで『その目を直視すると恐怖に包まれ動けなくなる能力』を発動したのだ。
 その目を直に見たルトーは恐怖に包まれ動けなくなる・・筈だった。だがルトーは全く怯えた様子を見せない。

ルトー「どうしたの、僕をじっと見つめちゃって・・まさか、気があるの?」
ケシゴ「な、何!?何故俺の能力がきかない!?」
ルトー「さあ何故かな?ほらほらもっとこの体を見るがいい!」

 そう言いながらルトーは挑発的にくるくると回る。ケシゴは怒りのあまり押さえ込もうとするが、ルトーはくるくると回りながら素早く後ろに下がり離れる。

ルトー「はははははは、そんなのろまな動きで僕を捕まえようなんて百万年早いよーっだ!」
ケシゴ「おのれ、小娘がーーっ!」

 ケシゴは走り出すが、ルトーもまた素早く後ろに下がり、手を伸ばしてもギリギリで届かない。
 ルトーはニヤニヤ笑みを浮かばせながら、ちらりとケシゴの胸元を見る。
 そこには演説するときには無かった小さな機械が胸元のポケットに挟まっていた。

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

ルトー「バーカ、いつまでも僕の幻想を追いかけてろよ、ニセケシゴ」

 ルトーはダクトの中でニヤニヤと笑みを浮かべる。ケシゴの胸元のポケットに隠してあるのは小型のプロジェクターで、そのプロジェクターから立体サイズのルトーがケシゴの目の前に映し出されているのだ。
 そしてケシゴが捕まえようと動けば勿論立体映像も動くのでどうやっても捕まえる事はできない。そもそも実体がないからどうあっても捕まえられないのだが。

ルトー(さて、本当ならここで逃げてさよならだけど今はあの三人の逃げる時間の為の足止めもしないといけない。
 それならこいつを使って・・)

 ルトーは胸元から半分に折れた桜の枝を取り出す。それをダクトの入り口から外に向かって投げた。
 枝は空中で光輝き始め、部屋の中にいた全員が思わず目を瞑ってしまう。
 その間に光の中からなにかが現れる。
 それは銀の鎧で全身を包んだ剣士だった。剣士は鞘のついた剣を構え、怯んでいる男達に切りかかる。

男達「ぐわあああ!」
男達「やられたぁっ!」
剣士改めアーサー王「我こそはアーサー王!
 貴様等と合間見える為再び現世に降臨する者なり!」
男達「ひ、ヒイイイ!」
ケシゴ「ち、新手が来やがったか・・この、早く捕まりやがれ!」
偽ルトー「やーなこった!」

 会議室はもはや、混乱と闘争のるつぼになっていた。男達は突然現れた剣士に次々と気絶させられ、ケシゴは立体映像相手にむきになっている。
 端から見ていたルトーは笑みを隠せなかった。

ルトー「くくく、これは楽しい事になってきたぞ、ユウキからアーサー王の使い方を聞いといて良かった!」

▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 それは、昨日の事。
 アイアン・ユウキ号内部での事だ。
 僕、ルトーはユウキに聞いてみたんだ。

ルトー『ゆ、ユウキさん!
 聞きたい事があるんだ!』
ユウキ『ん、なにかな?
 果心と自分の関係について以外なら答えられるよ』
ルトー『そ、それはいつか果心から聞くよ!
 それより僕がユウキさんの枝を折ったらアーサー王って奴が出てきたんだ!
 あれ、一体何なんだ?』
ユウキ『ああ、あれね。
 あのアーサー王は貴方の『望み』が生んだ分身よ』
ルトー『僕が生んだ、分身?』
ユウキ『貴方、あの枝を折る時『強くなりたい』って願ったでしょう?
 だから枝の魔力が反応し、貴方が心の中で描いていた『強さの象徴』が姿を得たのよ』 ルトー『・・そう、なんだ。
 それなら、僕を直接強くすればもっと良かったのに』
ユウキ『それは駄目よ。
 それでは貴方は正しく強くなる事はできない。あのアーサー王は貴方に強さを見せてくれる。
 その強さを見て、貴方自身が強くなるまで、あの枝の力は終わらないわ。ポケットを見なさい』
ルトー『?(ガサゴソ)あ、あれ?
 僕のポケットに枝が・・?』
ユウキ『それは貴方が正しく強くなるまで、貴方のそばから決して離れない。
 よくよく考える事ね、隠れ鬼。
 死角から戦う事が貴方の『角』でもーーーー』

▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
 
ルトー(正面から戦う事が、僕の『夢』だという事を、か。
 確かにあの力に僕は惹かれている。
 だけど・・)

 ルトーは男達と戦う剣士を見つめ、眉をひそめる。

ルトー(皆を守るだけなら、あんな荒々しい力いらない。
 ユウキさん、貴女の解釈はきっと間違っている。あれは僕が望む力じゃない・・)

 気付けば、自分の手を強く握りしめていた。あまりに強く握りしめていたので肌を裂き血が吹き出る程だ。
 しかしルトーはその痛みを全く気にしなかった。

ルトー(あれは、僕が憎んだ力の象徴だ。
 僕が絶対手に入れたくない、僕が最後に叩き潰すべき、強敵なんだよ)

 ルトーは侮蔑を込めた目でアーサー王を睨み付ける。アーサー王が男達を倒したあとも、それは変わらなかった。

フォト



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

〜???・通路〜

メル「急いで、二人共!」
マルグ「そんな早く走れるかよ!
 リッド、大丈夫か?」
リッド「わ、私は、大丈夫・・」

 三人は暗い通路を走っているが、ゴブリンズに入り少しずつ体を動かす訓練を始めたメルはまだ息がきれていないが、
 マルグとリッドはそうは行かなかった。
 リッドがすぐに息を切らしてしまい、なかなか先に進めなくなっていたのである。
 メルはもどかしさを感じ、強く話しかける。

メル「いいかい二人共、後ろにあるのはきっとアタゴリアンの方だ。
 さっきは何か理由があって猫をかぶってたんだろうけど、今はもうそれがない。
 次になんかあれば死んじゃうかもしれないんだよ」
リッド「わ、分かってる、わよ・・でも、体が・・」

 リッドは汗を流しながらも動こうとするが、普段走った事がないのか足が遅い。
 みかねたマルグがメルに話しかける。

マルグ「なあメル、お前さっきセキタって奴を出せたんだよな?
 その力をもう一度使ってセキタを出せないか?」
メル「ダメだ、あの力を使うには一定量の物質を変換する必要がある。
 普段なら片手一杯の土とか木の板とかあれば生成できるけど、この通路にそれは無いんだよ」

 メルが通路に目を向ける。そこにはただ真っ直ぐに向かう通路しか見えなかった。
 ふと、向こうから何かが近付いてくる気配がする。メルはそれが何か確認する前に急いで腕を変化させ、大きな盾を作り上げる。
 盾が出来た次の瞬間、その盾に強力な衝撃が走る。

メル「うわああああ!」
マルグ「な、なんだ?どうしたんだメル!」
メル「敵だ、敵が来ている!」

 メルは盾を解除し、その姿を見る。
 そこには黒い長髪に白いスーツの女性が立っていた。メルはその女性の名前を知っている。

メル「あれは、ペンシさん!」
マルグ「メル!?お前あのボインな姉ちゃんと知り合いなのかガハァ!」
リッド「黙れ」

 リッドがマルグを蹴飛ばすのを尻目に、メルはもう一度盾を生成しペンシに話しかける。

メル「ペンシさん!
 貴女は確かあの船で僕達と共闘した!
 あれが一時的な関係であれ、確かに僕達は味方だった筈!
 ここには力が無い一般人が二人いる、彼等を助ける為もう一度その攻撃を止めて下さい!」
ペンシ「・・・・馬鹿者が。
 貴様等ゴブリンズにかける情けはない」
メル「彼等は違います!
 貴女の正義は弱きを助ける事にあるのでは無いんですか!」
ペンシ「・・・・・・」

 ペンシは構えたままメルを見て、二人を見て、メルを睨み付けた。

ペンシ「・・・・そうだな。
 少なくとも、ペンシの正義は弱きを守る為にあった」
メル「それなら・・」
ペンシ「だが、ダメだ。
 私は今、ダンス様の命令を正義と見て行動している」
メル「ダンス!?」(まさかここでダンスの名前を聞くなんて!)
ペンシ「そして奴の命令はこうだ。
 『逃げ出した者は誰であれ討ち殺せ』!」

 メルの目が見開き、急いで盾を構える。その盾をペンシはかかと落としで無理矢理床に叩きつけた。
 床が破壊され、大きな破片が吹き飛んでいく。メルが驚いた顔で盾を見てしまう。僅か1秒に満たないリアクションだったが、ペンシの前にその反応は迂闊だった。
 1秒未満の油断は、ペンシの左手の拳がメルの顔面に飛び込むには充分過ぎたのだ。
 ズギュル、というよくわからない音と共にメルの顔面に拳が入りメルは何が起きたか分からないまま、床に頭から叩きつけられる。
リッドが思わず悲鳴を上げたのが聞こえた。

リッド「メルウウウウウ!!」

▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲


アタゴリアン〜避難所〜

 ススは怪我人の治療を終えて、携帯でシティ達に連絡をとっていた。

スス「ええ、私はしばらくここから動けないわ。また怪我人が来たら私が治療しないといけないもの」
シティ『そんな事言わないで戻ってよよスス。
 チホの視線が熱すぎて辛いのよ』
スス「ま、しばらく会ってなかったんだから良かったんじゃない?
 これを機会に家族に会うのも・・ふぁ・・」
シティ『あらあくび、かなり頑張ったみたいね』
スス「いや、なんか急に眠く・・あれ?
 体が・・うごかな・・・・」

 ススは突然倒れ、体がうごかなくなる。
携帯からはシティが何度もススを呼んでいたが、ススが手を伸ばす事は無かった。
 いや、ススだけではなく避難所中の人間がいつの間にか眠ってしまっていた。
 全員が寝ている中、アイが運んできた鼠少女がむにゃむにゃと寝言を呟く。

鼠少女「・・・・むにゃむにゃ・・作戦・・・・第二段階・・・・・・成功・・・・・・ぐーぐー・・・・」

 その後ろで、青い枕がピンク色に変わっていった。

フォト




続く

 





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