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2017年01月05日20:13

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長編小説 角が有る者達 第133話

『悪魔の角と山羊の角』

アタゴリアン〜噴水広場近くの裏道〜

「やめてえええ!」
「た、たすけてくれえええ!」

 大通りから離れた人気のない道で、観光客達が騒いでいるが、動き出す事が出来ない。何故なら彼らの体を黒い人型の人形が掴んでいるからだ。
 そしてそれを少し離れた所から眺めているのは左右違う派手な色で作られた機械人形だった。
 この金属の怪物の名前はニバリ。怪物は暴れる観光客達に声をかける。
 その声色は見た目に反して明るく中性的な声だった。

ニバリ「はいはい観光客の皆さん落ち着いて。君達はこれからアタゴリアン特別区へご案内するんだから騒がないでね〜」
「ふ、ふざけるな!離せ、離しやが・・ひっ!?」

 観光客が人形の腕を掴んだ瞬間、人形の腕が泡に変化し観光客の手を覆う。更に泡は広がり観光客の全身があっという間に泡の中に包まれていく。

「う、うわーっ!やめろ!出せ、ここから出せええ!」
ニバリ「無理だよ。バブルソルジャーの泡に掴まったらもう出られない。
 ま、特別区にいけば自然に出られるから安心してね〜」
「出せ、出せ、ここからだし」

 て、と言い切る前に観光客を閉じ込めた泡は地中に沈んでいく。もう一人の観光客はそれを見て顔が青ざめ、最早何の意味もない言葉を吐きながら、泡に閉じ込められ地中に消えていく。

ニバリ「特別区に観光客二名様ごあんなーいっと。
 いやーバブルソルジャーは便利だなー。封印移動術式を組み込んだ自立人形、らしいけど私は魔術は理解出来ないからよくわからないけど、ちょっと勉強したらこんな事出来るのかなー」

 ニバリは巨大な爪でぽりぽりと頬をかいた後、数メートルはある巨体で跳躍する。 
 そして白い建物の屋上に跳躍し、広場の確認をする。
 そこには、広場で顔の無い人形が誰かと対峙している。ニバリは其れを見て、
 まず全てを疑った。

ニバリ「えっ、何あれ」

 そして次の瞬間、全てを理解した。理解した上で更に全てを疑った。

ニバリ「どうして・・?どうしてそうなの?
 どうして、貴方はいつも何時も囚われてるの・・?」

 ニバリは再度全てを、疑った。全てを理解した上で全てを疑い、全てを悟った。
 そして金属の怪物は、静かに頭を横にふる。

ニバリ「あー、あはは、そっかそういう事か・・。
 やっぱり君は『悪魔』だ。うん、極悪非道の下衆野郎。残虐無情な悪魔だ。
 ズルいよ、ほんと。
 ニバリを見捨てた癖に、今更出てくるなんて酷すぎるよ」

 金属の怪物は巨体な腕で拳を作る。憤怒と悲しみのままに、その悪魔の名前を囁いた。

ニバリ「ほんと、最低最悪の存在だよ。
 セキタ・・」

フォト



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〜噴水広場〜

 顔の無い人形から、大量の糸が噴出される。
更にその糸に炎が絡まり、空中を赤く染め上げていく。
 メルは拳を人形に向ける。

メル「行くぞ人形(スパイダー伯爵)!
 能力発動、『だらしない男(ルーズマン)』!」

 メルの拳が分離され、人形を殴り飛ばす・・筈だったが、腕は離れない。
 グーを人形に向けたままだ。メルははて?と首をかしげる。

メル「あ、あれ?
 腕が離れない?」
セキタ「当たり前だろ?
 お前は今『エッグの能力』を使用しているんだ。1つの能力を使えば他の能力を使えないから、今のお前は何の力も使えない訳だ」
メル「え?」

 メルは他の能力を発動させようとする。
 だがいつもならすぐ変化する筈の腕が、全く変化しない。腕は全くそのまま腕のままであった。 

メル「ええ?
 嘘だろ、これじゃ戦えない!」
セキタ「なら後ろで下がって見てな。
 俺の戦い方を見せてやる」

 そう言うが早いが、メルはセキタに吹き飛ばされていく。噴水近くに飛ばされたメルは体勢を整え着地し、仲間(セキタ)に目を向ける。
 その側で二人のやり取りを見ていた女の子が声をかける。

リッド「あ、貴方達は誰なの!!
 何故彼等と戦い、私達を助けてくれたの!?」
メル「セキタ・・」

 メルはセキタの方が心配で、それに答える余裕は無かった。女の子もメルの様子を察したのだろう、目線を向こうの男性に向ける。そのままもう一度訊ねた。

リッド「彼は誰?」
メル「・・彼はセキタさ。
 僕の知ってる限り、最強で、素晴らしい人物だ」

 二人の目線の先で、セキタと人形が対峙する。人形の糸は燃え上がりながら空で網を作り上げていく。
 一方セキタは腕の強化をやめ、ファイティングポーズで一歩ずつ近付いていく。
 それに違和感を感じたメルが叫ぶ。

メル「どうしたのセキタさん!
 何で硬化しないんだ!?」
セキタ「・・・・」

 言うが早いが、セキタは人形めがけて走りだしていく。人形は空中で待機させていた糸を操り、あっという間にセキタに巻き付かせてしまった。
 メルは「あ!」と声を上げるが、よく見れば糸が絡み付いているのは右手だけで、他の部分には一本も糸が絡んでない。
 そして左手で糸を掴み、一本背負いの要領で糸を引っ張りあげる。
 驚いた事に人形の体ごと宙に上がり、人形は石畳の道に再び顔面からうちつけられてしまう。更に自分の糸が絡み付き、動く事ができなくなってしまった。
 あまりに簡単に人形を倒してしまい、メルも女の子も思わず言葉を失う。
 セキタは糸の中でもがく人形を睨み付けながら叫ぶ。
 
セキタ「見たかメル!
 能力なんか使わなくたって戦えるんだ!」
メル「!」
セキタ「お前はあまりにも沢山の能力を使えるから忘れてるかもしれないが、人間は昔から知恵と勇気だけで生きてきたんだ!
 能力に拘らず、自分を信じて真っ直ぐ闘え!」
メル「う、うん!」

 メルは思わず前に出てきてセキタの横に並ぶ。まだ少し手が震えているが、その目はギラギラと輝いている。
 それを見て、セキタは僅かに笑みを作った。

セキタ「わかったみたいだな、なら闘うぞ!」
メル「うん!」

 人形の体の肘や膝から刀が付き出され、絡み付いた糸を切り裂いていく。
 糸がバラバラにほどけ、両手と六本足に刃の付いた人形が姿を現した。メルは眉をひそめ、セキタは体を硬化させていく。

セキタ「俺が囮になる。お前は奴の頭を狙え」
メル「え?でもあの人形、顔が砕けても何も出来なかったよ?」
セキタ「あれは幾ら傷付けても倒れない。だったら傷を広げればいいんだよ。行くぞ!」

 セキタは両手を翼に変化させ、飛翔する。
 メルは穴が開いた人形の顔を一睨みした後、真っ直ぐ走り出していく。
 二方向からの攻めに対し、六本足の人形が敵と決めたのはセキタの方だ。
 人形は六本ある足をくねらせ、刃をくねらせる。足は細く派手な色彩が施されていたが、ギラギラと輝く刃の一本を引き抜き、セキタめがけて投げつける。
 セキタはそれをかわし、六本足の間を抜けようと高度を下げる。人形も負けじと大量の糸を無作為に吐き出し、壁を作り上げる。
 セキタは足を刃に変化させ、糸の壁を切り裂いていく。そして穴からセキタが入り込み、人形の懐近くまで迫るが、膝から飛び出た大量の刃が彼の体を守る盾となり、正面からの攻撃を防いでいた。
 セキタは笑みを浮かべる。

セキタ(良いぞ、上手い具合に俺だけを見てくれている。後はメルが殴りやすいよう刃の盾を壊すだけだ)

 そう思うが早いが、セキタは腕を硬化させ人形の正面に設置された刃を殴り破壊する。
 人形の肘に設置された刃が煌めき、セキタに斬りかかろうとする。
 動きの少し遅い刃をセキタはよけるため跳躍しようとして、何かが一瞬自分を抑えた事に気づく。セキタはそれを始めは糸が絡まったかと思ったが、それは次の瞬間違うと気付いた。
 自分の後ろから跳躍してきたメルが刃の前に躍り出たからだ。
 セキタの目が見開き、人形の刃が振り下ろされ、メルの肩から腹部まで切りつけていく。

メル「ぐっ!」
セキタ「メル!?」

 セキタはメルの背中を掴み、六本ある足の一本を思いきり蹴飛ばし、その反動で跳躍し人形から距離を取る。
 人形がバランスを崩し動けなくなったのを確認してからセキタはメルを睨み付ける。
 “何をやっている、何で俺を押し退けて前に出てきた。
 見ろ、そんなうかつな事をしたせいでお前は死にそうなんだぞ”
 そう口を開こうとして、ハッと気づく。
 メルの体中に糸が巻き付けられていたのだ。体のあちこちに糸が巻かれていて、それが刃止めの役割を果たしたのか傷は浅い。
 セキタは察する。
 これは自分が戦っている間メルは自分の体にばら蒔かれた糸を自分の体に巻き付けさせ、鎧代わりにしたのだと。
 セキタが何かを言う前に、メルが口を開いた。

メル「セキタ・・無事みたいだ・・、良かった。
 今度は、守る事が出来た・・」

 その言葉と共に浮かべた弱々しい笑みをセキタに見せて、メルは気を失う。
 セキタは言いかけた言葉の代わりに、メルをそっと寝かせた。

セキタ「・・馬鹿が。
 そこで見ていろ、メル。
 悪魔の戦い方をな」

 両手を翼に変化させ、セキタは人形めがけて一気に跳躍する。
 早く、速く、力強く。
 体勢を立て直した人形はこちらを見て最後の人質、マルグをセキタの目前に出す。
 それを見たセキタは笑みを浮かべる。

セキタ「馬鹿だな、守るべき人質を前に出してくれるなんて。
 お陰で簡単に救出できる」

 セキタは両足を変化させ、巨大な掌を作り上げる。そして更に翼に力を入れ、速度を上げていき、僅かに角度を傾けマルグのすぐ側を通り過ぎる。

マルグ「え・・むぐ!」

 何かを言い切る前にマルグは巨大な手に掴まれ、糸から強引に開放される。
 そしてそのままの速度で、人形の頭部めがけて高速飛行し、一気に角度を傾け、水平に飛んでいたセキタは垂直に飛行しながら、人形に向かっていく。

セキタ「人形!
 お前は最後までーーー」

 人形は硬化したセキタと衝突、縦に真っ二つに裂けてしまう。血も肉も出ない人形の真ん中を高速で通りすぎてから、セキタは言葉の続きを叫ぶ。

セキタ「ーー最後まで、影鬼に相応しくない臆病者だったな。
 無策でも未熟でも戦いをやめなかったアイツの方が、よっぽど似合っている」


 真っ二つに裂けた人形は動きを停止し、倒れてしまった。そしてそれきり、人形は動かなくなった。



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