古戦場めぐり「関ケ原の戦い��・松尾山と烏頭坂（岐阜県関ケ原町）」
◎『関ヶ原南部地区』
○「本田忠勝陣跡碑」(関ケ原町関が原)
十九女池の西側に位置するところに、合戦時、東軍・本多忠勝が陣をおいたとされる史跡があります。忠勝は、三方ケ原・長篠の合戦に参加して、数々の功を上げた猛将だったようです。本多忠勝は軍監として家康を守り、関が原の中央に進出します。生駒・金森・古田・織田の諸隊が備える背後にある家康の本陣（桃配山）を背にして、麾下の隊を指揮しました。福島・黒田隊など先陣が進撃し、金森・織田隊の諸隊が前進すると、忠勝も先陣の井伊直政に負けずと梨木川北方で島津隊と奮戦し、西軍武将の切り崩しにも努めています。さらには、政治家としても力量を発揮し、特に人心掌握に努めて領民の敬愛を集めたといういわれもあります。戦後、伊勢桑名十万石に転封されました。
○「西首塚」(関ヶ原町関が原2236)
「西首塚」の場所は、藤堂高虎・京極高知隊の陣跡の関ケ原中学校の北側に位置しています。西首塚は、別名を胴塚といわれています。関ヶ原の戦いは、東西両軍を合わせて約17万人。戦死者は、一日で6000人とも8000人とも伝わり、関ヶ原の勝者である徳川家康は現地で首実検をおこなった後、多くの遺体の処理を、この地を治める竹中重門(竹中半兵衛重治の息子)に供養料1000石を与えて命じました。そこで造られたのが、東首塚と西首塚であるとされています。そして、東は東軍、西には西軍それぞれに縁のある人が埋葬されているともいう説もありますが、確認できません。また、この西首塚の北側をJR東海道本線が走っていますが、明治33年の工事の際に、建設現場で五輪塔などの墓石や大量の白骨が出土したという記録が残っています。だとすると、現在の線路が通っているところまで塚があったということになるので、もともともの規模はかなりの広範囲だったことが分かります。関ケ原の戦い後、竹中重門はこの地の領主として不破郡岩手6000石を安堵されました。その後、竹中氏の子孫は徳川将軍家の旗本交代寄合として、岩手城（岩手陣屋、垂井町垂井）に居を構え、代々この地の領主として明治時代まで存続します。
○「藤堂高虎・京極高知陣跡碑」(関ケ原町関が原2491)
藤堂高虎・京極高知陣跡は、関ケ原中学校の敷地の中にあります。旧中山道の南に位置していて、松尾山付近の西軍にたいして警戒をしていました。福島正則隊に続き東軍の第2陣として進軍しました。その後は、平塚為広と戦いましたが、小早川秀秋の寝返りで戦況は一変し、平塚為広が属していた大谷吉継を破っています。
○「福島正則陣跡碑」(関ヶ原町松尾)
陣跡碑は、春日神社の境内にあります。東軍の先鋒となった福島正則（約6000人）は、ここで南天満山の宇喜多隊と対陣しました。一番鉄砲の功名を井伊直政隊に横取りされるや、正則自ら鉄砲隊を指揮して、宇喜多隊に一斉射撃を浴びせるなか、一進一退の攻防戦が続きました。首取りで手柄を立てた家臣・可児才蔵が、家康の称賛を受けたと伝わります。陣跡にある宮大杉は、関ヶ原合戦図屏風にも描かれていて、樹齢は800年余りと推定されています。戦国時代の猛将・福島正則ですが、この関ケ原合戦が最後の勇戦だったように感じます。大阪の陣では家康に牽制され、晩年は改易、信濃上高井郡に幽閉されています。関ケ原は、未だ福島が福島らしかった最後のいくさと、いえるかも知れません。
○「不破関資料館」(関ケ原町松尾21)
不破関は昭和49年から実施された発掘調査により、奈良時代に設置された不破関の内容が明らかにされました。不破関資料館には発掘調査により出土した土器や瓦、和同開珎など貴重な資料が展示されており、関全体を復元した模型もあります。現地には当時の土塁なども残っています。
【不破関】
関ケ原は歴史上、重要な場所でもあり交通の要所でした。歴史上大きな合戦が2回も起こったのは、この地の利が関係しているという説があります。壬申の乱（672年）の後、この地に不破関（ふわのせき）という関所が設けられ、東海道の伊勢鈴鹿関（いせすずかのせき）、北陸道の越前愛発関（えちぜんあらちのせき）と共に、古代律令制度下の三関と呼ばれました。関の機能については畿内（滋賀県からは大和政権の支配下）に入る侵入者をチエックする目的であると考えがちですが、壬申の乱で大海人皇子が美濃・尾張で兵力を蓄えたことなどから、謀反者などが畿内から東国に逃れるのを防ぐ機能があったと考えられています。江戸時代にかけては、歌に詠まれることが多くなり、松尾芭蕉は『野ざらし紀行』の中で、「秋風や藪も畠も不破関」という句を残しています。
【壬申の乱古戦場】
不破関に近い藤古川にかかる橋付近は、壬申の乱古戦場です。壬申の乱時には，大海人皇子軍(のちの天武天皇)が不破関を固め、東国に援軍を求めて不破関を通過しようとした大友皇子(明治になって弘文天皇を追号)軍がこの藤古川を挟んで対峙しました。大友皇子軍は、ついにこの関を通ることができず、東国に援軍を求めることができませんでした。地区住民は銘々の軍を支援し、乱後、川東の松尾地区は天武天皇（大海人皇子）を奉って井上神社と号し、川西の藤下、山中地区では弘文天皇（大友皇子）を奉って氏神とし、現在に至っています。
○「脇坂安治陣跡碑」(関ヶ原町藤下)
脇坂安治は、関が原の戦い当時は洲本城主です。東軍に通じていた安治にとって、小早川秀秋の裏切りは願ってもないことで、東軍が優勢に転じる頃合いを見計らい、自ら槍を振るい、大谷吉継隊の側面に先頭をきって躍り込んでいったといいます。脇坂軍は、朽木元綱、小川祐忠、赤座直保とともに、松尾山麓に布陣しました。これらの軍は、大谷吉継の配下に属していましたが、戦くさが始まっても傍観するのみで、小早川隊が寝返ると、この4隊も続いて西軍の戸田、平塚隊を攻撃してしまいました。秀秋に呼応した関ケ原の寝返り組４隊（脇坂安治、朽木元綱、小川祐忠、赤座直保）のうち、陣址が残っているのは脇坂さんのみです。他の三人も、たぶん近くに陣をおいていたと思われます。関ケ原合戦では東軍だった福島正則、加藤嘉明らとは、かつての同僚ということになりますが、秀吉家臣団は近江派と尾張派で対立しており、近江派だった安治は、尾張派だった正則や嘉明とは、あまり仲も良くなかったみたいです。かつて、賤ケ岳七本槍の１人として知られた安治は、西軍への参戦も本意でなく、藤堂高虎らと密約を交わしていたといわれ、淡路洲本の所領は安堵となりました。秀吉を支えた賤ケ岳七本槍の１人ですが、裏切りの武将として後世に汚名を残しています。戦国武将としては当然の行動であり、家名を遺した功績は認められますが、現在の評価・扱いが彼の本意とは思えません。
○「松尾山・小早川秀秋陣跡碑」(関ケ原町松尾)
関ケ原の戦いで一番注目されているのが、小早川秀秋ではないでしょうか。彼は天正10年（1582）、秀吉の妻高台院（おね、寧々とも）の兄である木下家定の5男として、近江国長浜（滋賀県長浜市）で生まれました。その後、秀吉の養子となり豊臣秀俊と名乗り、ゆくゆくは豊臣家の後継ぎと思われていましたが、文禄2年（1593）に秀頼が生まれると、小早川家に養子に出されました。慶長2年（1597）に慶長の役に出陣した時、秀俊から秀秋に改名しています。関ケ原の戦いでの裏切りは、後世に汚名を残すことになりましたが、彼の立場は複雑な状況であったことは確かです。秀秋は西軍として、1万5000の兵を率いて、ここ松尾山に出陣してきました。朝から傍観を続けた秀秋は、家康に催促鉄砲を打ち込まれ、遂に意を決して、友軍の大谷吉継隊を攻め滅ぼしました。東西両軍の懇願に、秀秋は複雑な事情のなかで悩み抜いた挙句の果て、豊臣家に反旗をひるがえしてしまい、東軍を勝利に導きました。彼は、関ケ原の合戦のわずか2年後（慶長7年）に死没しています。享年21歳といい、裏切りによって精神的な病気になったともいわれています。
【松尾山】
松尾山は、片道30分程度の上りはなかなか辛いものがありますが、秀秋はもっとしんどかったであろうと思われます。松尾山は、もともと戦国時代以前の応永年間（1394〜1428）に、美濃の守護代・富島氏が築城したと云われる城がありました。関ケ原合戦時、小早川秀秋が松尾山に陣を敷いたということは、単なる山に陣を置いたのではなく、かつての山城に入城したということになります。
○「烏頭坂・島津豊久碑(最後の地)」(大垣市上石津町牧田741)
不破の関の裏門にあたる旧伊勢街道沿いの鳥頭坂峠の近く、瑠璃光寺近くの林の中に、島津豊久の勇戦をたたえる碑がひっそりとたてられています。当主島津義久は薩摩より動かず、少ない手勢で島津義弘は参戦します。家康からの圧力に加え、黒田如水の侵攻に備える必要もあり、国許から援軍も出してもらえなかったようです。そこで大阪にいる家臣の他、義弘を慕う荒武者達がそれぞれ徒歩や泳いで馳せ参じたといわれ、少数ながら強者揃いで、主君を忠誠度、団結力は強力であったといいます。その昔、名古屋の「宝暦治水木曽三川工事」にやってきた薩摩の藩士たちも、この塚に必ず立ち寄ったともいわれています。豊久は、当主であり叔父にあたる義弘を救うべく身代わりとなって、討ち死にしました。実子同様の扱いで養育されていた豊久ですが、義弘には大変な恩義を感じていたそうで、一説によると義弘は豊久に家督を譲る考えだったともいわれています。
【島津の退き口・捨てがまり戦法】
石田三成率いる西軍が、小早川の寝返りで徳川家康率いる東軍に敗れ、西軍は次々に各部隊が敗走するその中で、最後まで陣から動かなかった島津義弘率いる島津軍は約300で、8万の敵を前に孤立してしまいます。敗走や撤退する場合は、敵とは逆の方向へ向かうのが常識というものですが、島津軍は徳川軍本隊の目前まで一気に突激し、驚く敵陣の脇をすり抜けて、伊勢路方向へ一直線に駆け抜けねることにしました。そこで島津隊は窮地を脱するために、「捨てがまり」といわれる特殊な戦法を選択しました。先ずは、関ケ原と養老の境にある烏頭坂で、義弘の甥島津豊久が仕掛けます。どんな犠牲を払っても義弘を生かして国許に返すことが必要でした。先ず烏頭坂にて、豊久を頭とする集団が本隊から離脱し、敵に視認し辛くするのと射撃時の命中率向上のため、座禅を組み座り込んで敵将の方に向きを変えて火縄銃を構えます。敵に向けて狙撃し、撃った後に槍や刀に持ちかえ敵集団に突っ込み、死ぬまで戦うという時間稼ぎ戦法をとります。その間に追手は足止めを食らい、義弘はその間に先に進みましたが、「捨てかまり」の兵士もほぼ壊滅し、豊久も重傷を負います。豊久の乗っていた馬が、豊久の血にまみれていたといわれるように、相当の深手を負ったと思われます。牧田の辺りでは、重臣長寿院盛淳が、義弘より拝領した陣羽織を付け、我こそは島津義弘と名乗り、身代わりとなって討ち死にします。最後となった川上四郎兵衛の「捨てかまり戦」では、味方の柏木源蔵の銃弾により、井伊直政や松平忠吉の重傷を負うことで追撃の速度が緩み、まもなく家康から追撃中止の命が出されたため、義弘自身は80名の残兵と共に、奇跡の生還を果たすことができました。島津豊久や重臣･長寿院盛淳の犠牲のお蔭と、岐阜城落城のため近江の領国に向かい敗走していた織田家家臣小林伸六郎正祐と、運よく出会い、土地勘のある者の案内に導かれ、無事大阪に行き、舟にて薩摩に帰国することを成し得ています。この戦法は、退却する部隊の一部がその場に留まり、足止めをし続けるというもので、当然足止めにまわった部隊は全滅してしまいます。その「捨てがまり」のしんがりを務めた豊久は、若干30歳の若さで亡くなりました。捨て身で家を守った豊久の忠誠心と、戦国時代のお家存続の大切さがよくわかります。
【瑠璃光禅寺】(大垣市上石津町上多良)
「瑠璃光(るりこう)禅寺」は、島津豊久の菩提寺になっています。豊久は、烏頭坂で戦死したといわれていましたが、このお寺のある多良地区までは生き延びてきたという説が主流となっています。ただ、豊久公の最期については、確たる文書が残っていませんので、色々な説があり、憶測がなされています。深手を負った豊久は、おそらく輿にでも載せられて追っ手から逃げたと思われます。何せ急な山道を2里ほど進みました。上多良の白拍子谷にて、31歳という若さで亡くなったとされます。この時、この多良の集落に辿り着いた時、助けを求めましたが、徳川に咎められるのを恐れて見殺しにしたという説と、多良の名主・三輪一斎という者が、豊久を助けて匿りましたが、豊久は追っ手に見つかった時、助けてくれた人々に迷惑がかかるのを恐れて、白拍子谷にて自刃したという両極の言い伝えがあります。
【上石津郷土資料館】(大垣市上石津町宮237)
「上石津郷土資料館」は、かつての多良城址で、江戸時代には高木氏の陣屋が置かれました。資料館は西高木家の陣屋跡に、平成5年4月開館しました。城郭を思わせる石垣や陣屋跡の長屋門も資料館の景観に取り込み、6世紀の「二又古墳群出土遺物」や、上石津地域全域から発見された石器の他、民俗資料、貴重な動植物の剥製や標本も展示し、見所満載の資料館となっております。また、関ケ原の合戦のコーナーが設けられており、島津隊の背進のルート等も解説してある他、関ケ原合戦時に豊久が着用していたという甲冑(鹿児島県尚古集成館)のパネルが展示してあります。
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