古戦場めぐり「関ケ原の戦い� �合戦の経過（岐阜県関ケ原町）」
◎『関ケ原の戦い』
「関ケ原の戦い」は、安土桃山時代の慶長5年（1600）9月15日に、美濃国不破郡関ヶ原（岐阜県不破郡関ケ原町）を主戦場として行われた野戦です。関ケ原における決戦を中心に、日本の全国各地で戦闘が行われ、関ヶ原の合戦とも呼ばれ、徳川家康と石田三成の天下分け目の戦いとなりました。
慶長3年（1598）、豊臣秀吉の死によって関ヶ原への経過が始まることになります。まず行動を起こし始めたのは徳川家康です。豊臣家の中で勝手に行うことを禁止されていた各地の大名や家臣への 婚姻（結婚）の斡旋や知行（領地）の授与などを、五奉行などに相談することなく独断で行うようになります。もちろんこの行動に豊臣五奉行のメンバーは怒り、特に五奉行の筆頭石田三成は家康を非難するようになります。しかし、石田三成は官僚（政治家）ですから、本人が合戦で戦って傷つくこともなく、実際に戦場で戦っている武断派の武将からは嫌われていました。したがって武将たちは、それぞれ家康派と三成派に分かれていくことになります。そして前田利家は、徳川家康の勝手な行動に反発しており、豊臣五奉行寄りの立場として、武断派の武将の暴発を抑える役割も果たしていました。しかし、翌慶長4年（1599）3月、仲裁を行っていた前田利家も死去します。そして、石田三成暗殺未遂事件がおこります。石田三成と対立していた豊臣家の武断派の加藤清正、黒田長政ら武将７名が結託し、石田三成を亡き者にしようと襲撃を計画したのです。しかし石田三成は事前に察知し、襲撃前に姿を晦まします。このとき、ライバルである徳川家康がこの事件の仲裁をおこなって事なきを得ました。ですがこの事件が起こったことで、石田三成は謹慎処分となり、一時的に失脚してしまいます。そして、事件を解決させた徳川家康の影響力はさらに大きくなることになりました。徳川家康は、石田三成の代わりとして豊臣家の中枢であった大阪城に入り、自ら政務を指揮するようになります。そんなある日、家康は、前田利長と浅野長政が結託し、徳川家康暗殺計画を計っていたと公表します。この一件により、五奉行の１人浅野長政は失脚します。さらに、家康はこの計画をしていた前田家を討伐するとして、兵を集めて出陣の準備を進めます。しかしこの騒動は、前田利家の妻であったまつ（芳春院）が徳川家に自ら人質となりに行き、いち早く前田家が徳川家に従う姿勢を見せたため、回避されました。人々の中にも、天下はこのまま徳川家康のものになるのではないか、という風聞が広まっていくことになりました。そして慶長5年（1600）正月、家康は各地の大名家に年賀の挨拶を求めました。ところが上杉家だけは断り、それを伝える使者であった家臣を謀反の疑いで処罰しようとします。そのためその家臣は上杉家を出奔（離脱）し、おまけに家康に 「上杉景勝に謀反の気配があります」 と報告をします。そのため家康は、これらの件について釈明を求める手紙を出しますが、上杉家の重臣直江兼続の返信は、以下のようなものでした。
「くだらない噂を信じて謀反を疑うなど子供のようなもので、釈明の必要もない。軍備を進めているのは東北の大名に対する備えをしているだけだ。そちらは京都で茶器でも集めているんだろうが、こちらは田舎者ゆえ武具を整えるのが武士だと思っている。だいたい自分が勝手に婚姻の斡旋などをしていたくせに、人に違約違反を言うのはおかしい。前田家をお仕置きしたらしいが、大層なご威光だ。あらぬ噂を真に受けて汚名を着せようというのなら、兵を率いて出迎えてやるから、いつでもかかってこい。」
これが、すでに天下を掌握しつつあった徳川家に対し、堂々と挑戦状を叩き付けた有名な『直江状』です。これが、関ヶ原の戦いの引き金になったことは確かです。
慶長5年（1600）6月、徳川家康は大軍を率いて大阪城を出発します。家康が出陣したことにより、大阪城には徳川派が一時的にいなくなりました。すかさず、石田三成は行動を開始し、友人の大谷吉継を館に招いて今後を相談します。そして三成は、家康打倒のこころざしを語ったといわれています。その後、三成は豊臣五奉行の増田長盛や、豊臣家の重臣で三成の友人の小西行長、豊臣五大老の毛利家の家臣の僧侶安国寺恵瓊などと相談し、徳川軍を打倒する計画を立案します。そして翌7月、三成はついに徳川討伐の挙兵を宣言し、「内府ちかひの条々」を交付して諸国の大名に集結を呼びかけます。ちかひとは違い、つまり間違っているという意味です。 その内容は、家康が勝手に婚姻や知行の斡旋を行ったり、無実の前田家や上杉家を攻撃しようとしたり、他にも勝手に手紙をやり取りしたとか、城の一部を無断で改修したとか、大なり小なり様々な家康の罪状を並べたて、家康の討伐を訴えた文章（檄文）です。そして、豊臣五大老の中国地方の大名毛利輝元（毛利元就の孫）を総大将として軍勢を整え、関所を封鎖して西側の大名家が徳川軍に参加できないようにし、さらに大阪城にいる東軍の武将の家族を人質に取って、必勝体制を整えます。そして翌日、すかさず徳川軍の駐留部隊がいる京都の伏見城を総攻撃します。伏見城には、徳川家の重臣鳥居元忠がいましたが、守備兵は約1800でした。一方、攻撃側には１万以上の兵力があり、多勢に無勢の状態になっていきます。結果、伏見城は炎上して鳥居元忠は戦死します。
家康は京都での戦いの報告を受けて、小山という場所で有名な小山評定を開きます。ここで「今後、徳川軍はどうするのか」が相談されますが、最初に家康が武将達に、「人質を取られ困っている者もいるだろう。ここで大阪（西軍側）に帰っても構わない。道中の安全は保証する」と発言します。すると、福島正則が「残してきた妻子を犠牲にしても石田三成を討伐する」と発言し、同じく黒田長政もそれに続き、さらに山内一豊が「城と領地を全て差し出しても家康様に協力する」とまで宣言します。これらの発言で反対意見はなくなり、上杉家に進軍中の徳川軍は、そのまま大阪方面に戻って三成と戦うことが決定されました。その後、東軍に参加した細川忠興の妻細川ガラシャ（玉、明智光秀の娘）が、「自分が人質となっては東軍にいる夫の邪魔になってしまうから」 といい、屋敷に火を放って自ら死を選びます。こうした話が伝わるたびに、東軍の結束は強まっていき、三成が人質を取ったことは逆効果に働いていきます。ただ、戦国の名将真田昌幸（真田幸村の父）だけは、当初は徳川軍に参加していましたが、小山評定の際に徳川軍から離脱します。これが、後になって徳川軍の行動に響くことになりました。東軍の先鋒として、福島正則の部隊が進軍を開始、東海道を通って、江戸から三河や尾張に一気に進んでその周囲を押さえます。家康はしばらく各地の武将や大名に協力要請の手紙を書き続けていましたが、１ヶ月ほど経ってついに出陣します。本隊の軍勢を2つに分け、1つは自分が率いて東海道から西に向かいます。もう一方の軍勢は、家康の次男で徳川家の後継者であった徳川秀忠が率いて、中仙道という山間部のルートを通り、西に進軍していきました。ですが、この徳川秀忠の部隊は結果的に関ケ原の戦いには間に合いませんでした。なぜなら途中に、徳川軍から離脱して西軍に味方した真田昌幸・真田幸村のいる上田城という城があったからです。この上田城には 2000人の兵がいましたが、徳川秀忠の軍勢は 3万8000、圧倒的な差です。これなら秀忠軍は楽勝で城を落とせそうですが、名将真田昌幸の防戦の前に大苦戦します。徳川軍の兵力の半分はこの秀忠が率いていましたから、これが戦場に到着しなかったため、家康としては大誤算でした。しかし、徳川軍の他の方面の作戦は順調に進んでいました。もともと西軍より東軍の方が、協力者が多かったこともあり、尾張・美濃と、次々と西軍に味方した武将の城は陥落していきます。
三成は、「岐阜城はしばらく持ちこたえてくれるだろう」 と思っていたようなので、これは三成側の誤算となります。しかも、毛利家・宇喜多家の軍勢は、動きが鈍く、思ったような軍事行動が出来ていませんでした。また、徳川側からの再三の寝返り要請があったことや、三成の人気がなかったことも影響し、武将や兵士のやる気に問題があったともいわれています。さらに、増田長盛でさえ、実は家康に内通しており、西軍の軍事計画を東軍に報告したりしていました。すでに情報戦の面で、西軍は東軍に劣っていたといえます。三成は、徳川軍の京都・大阪への進軍を止めるべく、関ケ原の近くにあった大垣城に入ります。
慶長5年（1600）9月14日、東軍は、この大垣城に進軍していき、いよいよ舞台は決戦の地関ケ原に移ります。戦場に到着した東軍（徳川側）は、まずは大垣城の近くに布陣します。家康の本隊の進軍が思いのほか早かったため、急に増強された東軍を見て西軍（三成側）の兵は動揺を隠し切れません。しかし、これを沈めようと立ち上がった男がいました。勇将・名将として名高かった、島左近です。そして彼は、西軍の兵の動揺を鎮めるには勝つ事しかないと考えます。彼はさっそく、兵の一部を率いて東軍の陣の前に向かい、敵を挑発します。この挑発に怒った東軍の部隊が、島左近の兵に襲いかかり、その勢いに押されて島左近の軍勢は後退してしまうのですが、これは全て左近の作戦でしたおびき出された東軍の部隊は壊滅し、そしてそれを見ていた西軍の兵は奮い立ち、動揺も鎮まったといいます(杭瀬川の戦い)。
その後、東軍と西軍はにらみ合いが続き、そのまま夜になりました。その夜は雨で見通しが悪かったため、西軍に参加していた島津軍や島左近などの西軍の武将たちは、城を出て夜襲で勝負と、三成に進言しますが、これは三成に却下されてしまいます。その行動は、全く別の人物・小早川秀秋によって大きく動かされることになりました。小早川秀秋は、血統的にも立場的にも西軍に属するべき人でしたが、大の石田三成嫌いでした。そして小早川秀秋が、9月14日に1万5000の大軍を率いて突然関ケ原の近くの松尾山という山に移動したことから、事が動き始めます。裏切りそうな小早川秀秋が、西軍の部隊をどかして自分たちの側面の山にいきなり布陣したことは、西軍の三成たちに不安を呼びました。この移動を東軍も察知し、城攻めを避けたいと思っていた東軍には絶好の機会ですから、すかさずこれを追いかけ、両軍は関ケ原へと向かうことになります。関ケ原という場所は、四方を山に囲まれたくぼ地であり、その中に入った東軍を、山の上に布陣した西軍が完全に包囲している状況です。
慶長5年（1600）9月15日、戦いは夜明けと共に始まりました。まずは、先鋒を任された東軍の福島正則と西軍で最も大軍を率いていた宇喜多秀家の軍が戦闘に入ります。その後、三成の本隊に、東軍の黒田長政、細川忠興、加藤嘉明三成の本陣の前には、勇将島左近が立ち塞がっていましたが、島左近は開戦早々に黒田長政の鉄砲隊の銃撃をまともに受けてしまい重傷、そのまま本陣に担ぎ込まれてしまいます。その後、三成は自分の部隊でなんとか本陣を維持するべく、奮闘することになります。そこで三成は、さらに戦況を有利にするべく、本陣の近くに控えていた島津義弘の部隊に攻撃を依頼します。ですが、島津義弘は戦況を見て、まだ討って出るべきではないと判断し、三成の要請を拒否しました。島津軍に要請を蹴られた三成は、次に徳川軍の後方に位置する南宮山に大軍を率いて布陣していた毛利軍に、進軍を要請します。しかし、毛利軍にいた吉川広家の部隊が突然反逆します。このまま吉川広家は毛利軍の前に立ち塞がり、味方同士で争うことを嫌った毛利軍は身動きが取れなくなってしまいます。この吉川広家の寝返りによって、このまま毛利軍はほとんどまともに戦わないまま、関ケ原の戦いを終えてしまいます。結局、毛利家は西軍・総大将ということになっていましたが、実際には総大将らしいことは何もやっていません。また、この方面には四国・土佐の戦国大名長宗我部家の部隊も西軍として参加していましたが、これも元々は東軍に参加する予定で、関所が閉鎖されていたため東軍に合流できず、仕方なく西軍になってしまったという部隊だったので、最初からやる気がなくて動くことはありませんでした。島津軍に続いて毛利軍、さらに長宗我部軍も動かないため、三成は関ヶ原の側面、松尾山に布陣している小早川秀秋に進軍を要請します。しかし、この小早川秀秋は前述した通り、西軍として参加はしたものの、実際には大の石田三成嫌いです。しかも戦闘中、東軍からも早く寝返ってくれという要請を受け続けていました。その様子を見ていて、ついに痺れを切らした家康は、ここで賭けに出ます。なんと 小早川秀秋の部隊に鉄砲隊を向け、一斉射撃したのです。秀秋はこれにビビって、家康が怒っていると思い、あわてて寝返りの準備を始めます。家康は、小早川秀秋が小心者であることを見越して、催促したといわれています。そして、迷いの吹っ切れた小早川秀秋は、ついに１万以上の軍勢を率いて寝返りを宣言し、目の前の西軍の部隊に襲いかかります。
ところが、これを予測していた人物がいました。三成の盟友大谷吉継は、小早川秀秋や西軍の武将が寝返ることは薄々わかっていたようで、最初から小早川秀秋が寝返った時に、それを抑えられる位置に布陣していました。そのため、小早川秀秋の部隊はこれに迎撃されていきなり敗れ、押し戻されてしまいます。しかし、大谷吉継の誤算はこの後でした。彼と共に、小早川秀秋を抑えられる位置に配置されていた部隊まで、小早川秀秋と一緒に一斉に東軍に寝返ってしまったのです。すでに彼らのところにも、家康から開戦前に寝返りの使者が訪れており、最初から内応している者もいたのです。この結果、大谷吉継の部隊は包囲されて集中攻撃を受け、孤軍奮闘するも壊滅します。大谷軍の消滅により、小早川秀秋の軍勢は寝返った味方と共に再び進軍を開始し、これで関ヶ原の戦いの優劣は、ほぼ決定しました。こうして、残された三成の本陣も徳川軍の総攻撃の前についに崩壊します。
9月15日の昼、開戦から約半日。様々な出来事があった日本最大の大合戦関ヶ原の戦いは、戦闘時間は約6時間で決着となりました。西軍の大将石田三成は、敗戦後に逃亡していましたが、数日後に追っ手に捕まってしまいます。そして共に関ヶ原の戦いに至る計画を立てた安国寺恵瓊、小西行長と共に、京都引き回しの上、処刑されてしまいました。西軍に味方した武将や大名はほとんど処罰対象となり、領地を保障する約束をされていたはずの毛利家も、戦後に約束を破棄され大幅に縮小されてしまいます。逆に、東軍に味方した武将には多くの領地が与えられ、そのほとんどが大名に出世しました。関ヶ原の勝敗を決定付けた小早川秀秋にも、多くの領地が与えられ、大大名に出世しましたが、彼の関ヶ原での裏切りや醜態は世間の噂になり、非難や中傷の的にされてしまいます。そして次第に彼は酒びたりの生活になり、そして関ヶ原から2年後、狂死（狂い死に）してしまったといいます。そして、豊臣家は大幅に縮小されて普通の大名家の１つとなります。家康の元に天下は再び統一され、関ヶ原の戦いから3年後、慶長8年(1603)に「江戸幕府」が開かれます。日本は江戸時代に入り、再び太平の世へと移って行きました。
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