古戦場めぐり「石津の戦い（大阪府堺市）」
◎『石津の戦い』
「石津の戦い」は南北朝時代の延元3年/暦応元年（1338）5月22日、和泉国堺浦・石津（堺市一帯）において、南朝方の北畠顕家と北朝方の高師直が戦った合戦です。石津河原の戦い・石津合戦・堺浦合戦・堺浜合戦などとも称されます。北畠顕家は、南北朝時代の南朝方の公卿・武将で、父は北畠親房です。足利尊氏を九州に敗走させた功により、鎮守府大将軍となり、建武4年/延元2年に各地を転戦しています。
延元元年/建武3年（1336）暮れ、足利尊氏に対抗するために、京都を脱出して吉野に逃れた後醍醐天皇は、頼みの綱であった楠木正成を失い、陸奥国多賀城にいる北畠顕家に対して、義良親王（後の後村上天皇）を奉じて、上洛して尊氏を討つように命じました。足利尊氏が天皇に叛旗を翻して京都を占領した時、南朝方の武将の一人として、東北の武士団を率いて上洛して奮戦し、その武功は誰もが認めるものだったのです。再び、足利家の手から京都を奪回するために、再度北畠顕家が招請されたわけです。ですが、顕家に反抗する北朝方の領主に攻められて、南陸奥の南朝方拠点である霊山城に追われ、ようやく北朝方の抵抗を排して、延元2年/建武4年（1337）8月11日に、義良親王を奉じて、10万騎を率いて霊山城より南下を開始しました。騎馬隊を巧みに用いた戦略が功を奏し、各地で北朝方の勢力を牽制・交戦しつつ西進し、12月23日に鎌倉入りします。12月25日には、斯波家長を攻め滅ぼして鎌倉を占領しました。その後も快進撃は続き、延元3年/暦応元年(1338)1月に入ると、箱根を突破して美濃にまで到達しました。しかし、北畠顕家軍の快進撃の進路はここで阻まれます。
1月28日、美濃の青野原（岐阜県大垣市）の戦いで、足利家の武将・高師冬、桃井直常らの軍勢に敗れてしまいます。美濃を突破できれば、近江を経て京都に進撃することができたのですが、その進路を阻まれてしまったのです。顕家は、北朝方主力が近江国から美濃に入ったことを知り、美濃の突破を中止して進路を伊勢に転じます。軍勢の立て直しを図り、伊勢から大和に入り、南から京都に入ろうと試みます。2月21日、顕家は大和国を占領しますが、奈良で再び桃井直常らの軍勢と戦いますが、この般若坂の戦いで、北朝方桃井直常に敗れて敗走します。北畠軍の戦力の衰えは、長距離遠征の疲れによるものだったのかもしれません。この戦いの後、義良親王は父皇のいる吉野へ向かい、顕家自身は河内・和泉に回ります。そして、青野ヶ原の戦いに伊勢から駆けつけていた、顕家の弟の北畠顕信らは別働隊を率いて、京都の南、男山八幡宮に進出しました。顕家は、河内国から和泉国に転戦して戦力再建を図り、3月に天王寺に軍を集結した兵を分け、顕信やその将兵を救援するため差し向けました。西上してきた南朝軍の軍勢の旗印といえる親王も、すでに吉野に遷し、兵を分け寡勢となっていた顕家の軍は、5月6日には石津・堺浦を焼討にして、細川顕氏・日根野盛治ら現地の北朝方勢力と尚も交戦を続けました。これに対して、尊氏の命で兵１万8000を率い、男山の顕信に備えていた師直は、自ら兵を分け顕家討伐に向かいます。5月16日に天王寺から堺浦に向かって出撃、顕家の軍兵を待ち受けていました。師直は顕信の男山を包囲する一方で、河内・和泉に主力を送り込み、顕家の軍と一進一退の攻防を繰り広げました。
延元3年/暦応元年(1338)5月22日、和泉国は堺の石津（大阪市阿倍野区）で両軍は激突、顕家軍は善戦したものの寡勢に加え、長征の疲労や北朝方についた瀬戸内海水軍の支援攻撃まで受けて、死地に立たされ、顕家は兵200とともに、石津で北朝方に包囲されて決死の戦いを続け、顕家と彼に従う20騎ほどの武者は最期まで獅子奮迅の働きを見せました。顕家は吉野に向かおうとしますが、奮戦中に落馬し、力及ばず壮烈な戦死を遂げました。時に北畠顕家、21歳という若さで討ち取られ、顕家の他、名和義高・南部師行らの西上軍の有力武将も戦死します。ここに、南朝軍の主力は壊滅しました。顕家戦死の報がもたらされた吉野では、武士、僧、公家など、多くの者が涙を流さずにはいられませんでした。特に、顕家の父・親房の嘆きはたいへんなものだったそうです。男山八幡宮で戦っていた北畠顕信の軍勢も、7月5日には高師直の軍勢に敗れて四散しました。閏7月26日、後醍醐天皇は顕信を鎮守府将軍に任命し東北の平定を指示しますが、顕家を失った痛手を回復するには、まだまだ多くの時間を必要としました。これによって、南朝は大打撃を受ける一方、北朝方の室町幕府は中央のみならず、顕家の根拠地であった奥州においても、有利な戦いを進めていくことになりました。
○「石津古戦場」(堺市西区浜寺石津町中5丁3)
延元3年/暦応元年(1338)5月22日、南朝方の北畠顕家・南部師行らの軍勢と北朝方の高師直の軍勢が石津で激突します。善戦むなしく、北畠顕家は若干21歳にして討ち死にして。北朝方の勝利に終わります。
現在、石津太神社前の旧紀州街道を南に向かうと、石津川に架かる太陽橋を渡ったところに、「北畠顕家奮戦の地」という碑とともに、南北朝時代、石津（河原）の戦いで戦死した南朝の忠臣・北畠顕家と南部師行の供養塔があります。昭和12年、顕家公600回忌に当り、追福のため町の有志が五輪塔を建てました。慰霊碑には、北畠顕家の奮戦の様子とこの地に五輪塔が建てられた経緯が書かれています。この戦いで顕家に従い、家臣108人と共に戦死した南部師行の33代子孫の男爵南部日実氏が揮毫しています。北畠家は村上源氏の庶流であることからか、源顕家公と刻印されています。石津の戦いは、南北朝の戦いの中でも有名な戦いのひとつです。北畠顕家は、『神皇正統記』を記した北畠親房の子で、若くしてその才能が認められ出世していきます。官位は正二位権大納言兼鎮守府大将軍。顕家とともに討ち死にした、甲州波木井梅平の城主・南部師行は、明治時代になり、南朝への忠誠が認められ正五位を追贈されています。
「南無阿弥陀仏」とかかれた碑の裏には、「正徳三年(1711)巳年四月建立、行家」と書かれています。解説書によると、碑の裏面の「行家」は家ではなく、「行もう」（こうもう）と刻まれているとのことです。これには二説あり、� 峭圓發Α廖焚召頬篩鬚靴拭砲汎匹鵑如�当時徳川幕府の目を恐れた人たちが、こういう形で顕家の霊を弔ったと解釈するもの、��河内源氏の源行家の墓とするもの、です。源義経の叔父の源行家という人が、源頼朝に嫌われ、この石津で殺されたとの話があり、この碑は「源行家の墓」と信じられて、この地に植えられていた老松を「行家の松」と呼ばれていたようです。行家は、源義経の叔父であり、平氏打倒の決起を促しました。義経とともに都を落ち、途中大物浦で暴風雨にあって西国渡航に失敗した後は、次第に追い込まれ、逃亡の末に和泉国近木郷の在庁日向権守清実の屋敷（のちの畠中城、貝塚市）に、潜伏していたことから、考えられないこともありません。
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