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2016年08月06日01:51

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編集者の本当の仕事(その9)

 オーナーシェフのお店よりも、オーナーウエイター、オーナーウエイトレスのお店が良い。
 オーナーシェフのお店で食事をしていると、シェフが出て来て「いかがでしたか」と尋ねられた。たいしたものである。たいした自信である。たいした勤勉さである。ただ、ここは日本である。日本人というものは本人を前にして「不味かった」とは言えないものなのだ。ところが、意地悪そうなウエイターがお客の耳元で「どうですかねえ、ここの味」と、尋ねたら分からない。日本人は奥ゆかしいが底意地は良くない。ひっそりと悪口を言うのは大好きなのだ。
 作家をシェフだと考えるなら、編集者とは、まさに、このオーナーウエイターとかオーナーウエイトレスのことなのだ。
 オーナーシェフのお店は立派なものだと思うが、どうしても、オーナーの身勝手な味になってしまうし、お客はそれに従うか、従えないなら、黙って来なくなるものなのだ。それでもお客を入れるほどの味のものが出せるなら、それでいいが、なかなかそうはいかないものなのだ。やはり、正直な批判の目には晒されている必要があるのだ。
 あまり深くものを考えない人は、そうは言っても、一人でやっている人はたくさんいると思っているかもしれないが違う。先にも書いたが一人で競技している個人競技のアスリートがいないように、作家も、シェフも実は一人ではビジネスをしていないものなのだ。
 しかし、編集者はお客になってしまってもいけない。編集者がお客になって、つまり、ただのオーナーになってシェフの料理に注文をつければ、それはシェフに対する先生になってしまうからなのだ。時に味の分からないつまらないお客の要望に、涙を飲んで答えましょう、と、シェフに味を変えさせること。それが編集者の大切な仕事なのである。
 つまり、編集者の本当の仕事は、作家と読者の間を中継することにあるのである。しばしば、編集者が作家に代わって小説や本をプロモーションしているのは、まさに、ウエイターがお客を賄っているのと同じことなのだ。賄いは自分に任せてシェフは料理に集中して欲しいということなのだ。
 誰に相談することもなく小説を書き始め、誰に読ませることもなく小説を書き続け、それで良い小説が書けると思う人は作家には向かない。その人は、読み手を見ていないからなのだ。読み手に向かっていない文章は日記でしかない。
 しかし、多くの人は読み手を持たない。そこで読み手を上手に組織するのが編集者というものなのだ。作品を読ませ、読んだ人の感想を上手に次の作品に反映させるのは、編集者の大切な仕事、本当の仕事なのである。
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