古戦場めぐり「大物崩れ（兵庫県尼崎市）」
◎『大物崩れ』
「大物崩れ」（だいもつくずれ）は、戦国時代初期の享禄4年（1531）6月4日、尼崎から大坂にかけての地域、特に摂津大物（現在の兵庫県尼崎市大物町）で行われた合戦です。赤松政祐・細川晴元・三好元長の連合軍が、細川高国・浦上村宗の連合軍を破った戦いで、大物崩れの戦い・天王寺の戦い・天王寺崩れとも呼ばれます。
大永7年（1527）2月、桂川原の戦いで敗れて近江に逃れた管領細川高国は、援軍要請に頼みまわった伊賀、伊勢、備中、出雲で全て断られました。そんな中、備前守護代の浦上村宗がようやく要請に応じてくれました。細川・浦上連合軍はいくたびかの合戦を経て、享禄3年（1530）7月に村宗の念願であった播磨統一を成し遂げると、今度は高国の宿願である打倒晴元の戦いに移行。勢いそのままに摂津へ侵攻、摂津の要であった池田久宗（信正）が守備する池田城を翌享禄4年（1531）3月6日に落城させました。翌7日には、京都を警護していた晴元派の木沢長政軍が突然撤退、代わって高国が手配していた将軍地蔵山城の兵が京都に進行、高国の念願であった京奪回が成ったのです。
ここにきて堺公方側は、三好元長を総大将に立て直しを図り、三好軍1万5000と阿波から堺に上陸した細川持隆の援軍8000が、摂津中嶋に陣取った細川・浦上連合軍を攻撃（中嶋の戦い）し、一進一退が続いていました。ここで、播磨守護の赤松政祐という人物が登場します。彼は高国の援軍として同年6月2日に西宮の六湛寺に着陣しましたが、神呪寺（兵庫県西宮市）に陣変えしました。6月4日、神呪寺にいた赤松政祐が晴元方に内応して高国・村宗軍を背後から攻撃したため、一気に勝敗が決しました。そのような状況で赤松軍が中嶋の高国陣営を奇襲すると、それに呼応して三好軍が総攻撃をしかけたので、村宗を始め和泉守護細川澄賢（すみかた、細川政賢の子）・侍所所司代松田元陸・伊丹国扶・薬師寺国盛・波々伯部兵庫助・瓦林日向守ら主だった部将が戦死しました。中嶋の野里川は死人で埋まり、「誠に川を死人にて埋めて、あたかも塚のごとく見ゆる、昔も今も末代もかかるためしはよもあらじと人々申也」との、大敗を喫しました。この結果、それまでの膠着が嘘のように戦局が大きく崩れて、高国の滅亡につながりました。そこから地名とあいまって、「大物崩れ」と呼ばれるようになりました。
敗戦の混乱の中、高国は戦場を離脱。密告者の報を受けた三好一秀によって6月5日に捕縛されました。この時、有名な「まくわ瓜の逸話」が今日に伝わっています。近所で遊んでいた子供達に、一秀はまくわ瓜をたくさん持ってきて、「高国のかくれているところをおしえてくれたら、この瓜を全部あげよう」と切り出したといいます。子供達はその瓜欲しさに、高国が隠れていた場所を見つけたといいます。そして同月8日、仇敵晴元の命によって高国は尼崎広徳寺で自害させられました。一方、惨敗した浦上軍の将士達は、生瀬口（兵庫県宝塚市）から播磨に逃げ帰ろうとしていたところを赤松軍の追撃に遭い、ほぼ全滅したとされています。
○「大物崩れ戦跡」(尼崎市東大物町1丁目)
阪神線大物駅から西約150ｍの派出所隣に、昭和3年に昭和大典紀念として建てられた「大物崩れ戦跡」の石碑と解説板があります。この碑は、元はもっと南東の大物児童公園内あったといいます。大物児童公園がどこにあったのか、調べてみると大物町内の若宮（大物主神社）の南東に紺屋町があったのでここかもしれません。書によると、その地に「推定入道�瞑∪�みの址」の碑が建っているとあるのですが、探せど見つかりませんでした。6月5日に捕らえられた高国は、8日に広徳寺で自害させられました。
【大物城跡(大物主神社)】
大物城は、戦国時代初期に管領細川高国が戦いに敗れ、自害に追い込まれたいわゆる「大物（だいもつ）崩れ」の舞台として有名な阪神線・大物駅付近にあったとされます。『日本城郭大系』によると、大物駅の南側、現在の大物主（おおものぬし）神社にかけて城域とされています。細川両家の争いで、高国と細川澄元の抗争の代になると、尼崎が主戦場になり享禄3年（1530）に高国側が、薬師寺三郎左衛門が守った大物城を落としたとされています。その翌年には、高国は天王寺、木津、今宮で、細川晴元側に敗れ、この大物へ落ち延び隠れているところを発見され、尼崎の広徳寺で自害させられました。これも大物崩れです。また、城域とされる大物主神社は、源義経と弁慶が隠れた場所という伝説があるそうで、それにまつわる石碑と、解説板が本堂脇に用意されていますが、こちらも残念ながら大物城に関する記述は見当たりません。
○「広徳寺」(尼崎市寺町8)
広徳寺は、明徳元年（1390）京都大徳寺の言外宗忠和尚の開基と伝えられています。中世には大徳寺の塔頭如意庵の末寺でした。大物町から尼崎城築城にともない寺町に移転しました。絵本太功記十段目の「尼崎の段」や味噌すり坊主の逸話などから、太閤ゆかりの寺として有名です。
戦国時代、室町幕府の実権を握った細川氏も、内部で対立がありました。細川政元の養子高国と同じく養子の澄元・晴元父子が対立し、尼崎の地でたびたび戦火を交えています。享禄4年（1531）の両者決戦では、高国勢は総くずれになり、尼崎へ逃げ込む程の大敗となりました。追撃は激しく高国は大物の「広徳寺」で自刃しました。この戦いを「大物くずれの戦い」とよんで語り伝えられてきました。
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