古戦場めぐり「備中高松城の戦い・高松城の水攻め（岡山県岡山市）」
◎『備中高松城の戦い・高松城の水攻め』
「備中高松城の戦い」は、日本の戦国時代におきた戦い。天正10年（1582）に織田信長の命を受けた家臣の羽柴秀吉が、毛利氏配下の清水宗治の守備する備中国高松城を攻略した戦いです。秀吉は高松城を水攻めによって包囲したことから、高松城の水攻め（水責め）とも呼ばれます。秀吉は開城後、すぐ「中国大返し」により、明智光秀との山崎の戦いにのぞむことになります。
天正5（1577）年。「天下布武」を旗印に天下統一を狙う織田信長は、家臣の羽柴秀吉に命じて、毛利氏の勢力圏である中国地方への進攻戦を開始しました。これが世にいう「中国攻め」です。備前・備中の国境地帯で、織田軍と毛利軍が攻防を繰り広げます。
天正10年（1582）3月15日、秀吉は毛利軍との雌雄を決するため、2万の大軍勢を引き連れて姫路城を出発しました。途中、宇喜多氏の兵1万と合流し、総勢で3万にものぼる大軍勢にまでふくれあがりました。その軍勢が向かうのは、毛利氏に味方する備中の豪族が守る城・境目七城の主城である備中高松城でした。備前と備中の国境に位置し、毛利軍の重要な防衛ラインとなっていました。北から、宮路山城、冠山城、備中高松城、加茂城、日幡城、庭瀬城、松島城の七城で、その主城が備中高松城でした。備中高松城は、低湿地に位置する典型的な沼城で、秀吉軍の兵や馬は攻め入ることができませんでした。また、城主の清水宗治は忠義に厚い武将で、降伏を勧める秀吉に対して、頑として応じなかったといわれます。地の利に助けられた堅固な城と、死をも覚悟の上で防戦する宗治を前にして、秀吉軍は完全に攻め手を欠いていました。
毛利氏の援軍が駆けつける前に、何としても備中高松城を落とさねばなりません。秀吉は参謀の黒田官兵衛を交えて軍議を重ねていて、そのとき、黒田官兵衛の進言が膠着した戦局に変化をもたらすことになります。「水によって苦しめられ城が落ちないのだから、反対に水によって攻めたらよいのではないか―」。この策を受け入れた秀吉は、直ちに水攻めに向けた築堤に着手しました。城の近くを流れる足守川の東・蛙ヶ鼻から全長約3km、高さ約7mの堤防を築き、そこに足守川の水を引き込むことで、備中高松城を水の中に取り残された浮城にしてしまったのです。この築堤工事は、わずか12日間で完成したと伝えられています。援軍に駆け付けた毛利氏側の武将、小早川隆景、吉川元春らは、孤立する備中高松城の状況を前に為す術もなかったといいます。
孤立した備中高松城の城兵を、見殺しにすることはできません。毛利氏方は、ついに秀吉に対して講和を申し入れました。城兵の安全と中国5か国の譲渡を講和の条件として申し入れるものの、清水宗治の切腹にこだわった秀吉はこれを拒否。交渉はいったん物別れに終わります。まさにそのとき、秀吉のもとに急報が入りました。京都にいる信長が、明智光秀の謀反によって命を落としたというのです。世にいう「本能寺の変」です。事態を知り、ひどく落ち込む秀吉に対して、黒田官兵衛は「光秀を討てば、天下が回ってきましょうぞ」と鼓舞します。秀吉は、信長落命の事実を毛利方に知られることなく、一刻も早く和睦を結ぶべく動き始めます。
秀吉は、毛利方に「3日中に和睦を結べば領土については譲歩する。宗治の首を差し出せば、城兵を助ける」という条件を提示します。この条件を聞いた宗治は、自分の命により主君を安泰にし、部下の命を助けることができるのならば、自らの首など安いものだと述べ、自害を決意します。戦の終わりが近づいていました。別れの宴を行った後、自らの城を取り囲む水の上へと小舟に乗って漕ぎ出した宗治は、船上で舞を踊り、美しい辞世の句を詠むと、宗治は切腹しました。秀吉は宗治の最後を見届けると、武士の鑑として宗治を称賛し、礼をつくして葬ったといいます。そして、信長の仇を討つべく、京都に向けて全軍を差し向ける。「中国大返し」の始まるのです。秀吉は、備中高松城を開城させたのを皮切りに、天下人の途を歩み、やがて太閤と呼ばれるようになります。
○「備中高松城跡」(岡山市北区)
「高松城跡」は、讃岐高松城と区別して備中高松城とも呼ばれます。城の形式は梯郭式平城で、石垣は築かれず土塁によって築城されていました。城の周囲は低湿地帯でこれらが天然の堀を形成していました。築城時期ははっきりしませんが、松山城主・三村氏の命により、備中守護代で三村氏の有力家臣でもあった石川氏が築いた城です。高松城の本丸跡には宗治の首塚があり、現在は歴史公園として整備されています。周囲には、水攻め堤防跡蛙ヶ鼻や太閤腰掛岩が残ります。また、公園内にある資料館では、さまざまな資料が展示されています。
【高松城跡公園資料館】
水攻めの古図や境目七城といった高松城水攻めに関連するする資料を展示収蔵する資料館。開館時間は10時〜15時、入館料は無料、休館日は月曜。
【清水宗治の首塚】
清水宗治の切腹後に秀吉によりつくられた供養塔が、首塚となっています。当初は石井山に安置されていましたが、明治期に本丸があった場所に移されました。
【清水宗治自刃の地（顕彰碑）】
天正15年（1537）6月4日、秀吉の用意した小舟に乗り込み、舞を舞った後に辞世の句を詠み切腹をした清水宗治。現在その自刃の地は、高松城の東にある寺の一番奥にあります。
【こうやぶ】
清水宗治の切腹前、宗治の兄・月清入道の馬の口取りだった与十郎と、宗治の草履取だった七郎次郎が「私たちもお供する」と二人で刺し違えたとされる場所です。
【船橋】
備中高松城は周囲が沼地だったため、周囲と城をつなぐ道は、戦になった時攻められないよう、並べた川船の上に板を渡した程度の船橋だったとされています。
○「太閤岩」(岡山市北区立田)
御崎宮参道脇の登山口に、「太閤岩まで800ｍ」の標識があります。織田軍の本陣跡がある「石井山持宝院跡」からは、西に展望がよく備中高松城を見下ろすことができます。その奥にあるのが、秀吉が腰掛けていたとされる「太閤岩」(幅190、奥行き140、高さ190）です。秀吉は、天正10年（1582）4月、備中高松城を攻めるため、備中高松城の北方にある龍王山に本陣を構えました。さらに5月には、石井山持宝院境内に本陣を構えました。石井山には曲輪の跡が残っています。
【蛙ヶ鼻築堤跡】
「蛙ヶ鼻」(かわずがはな)は、石井山の南に位置し堤防の跡が残っている東端の部分になります。現在は、高さ７mもの築堤が築かれたとは思えないような穏やかな場所です。ここから西へ3�劼猟號匹�造られ、現在は高松城水攻め史跡公園として最近整備されました。公園には、発見された杭の列や土をいれた俵跡などを復元整備しています。また、高松城の本丸の高さと築堤の高さを比較する展示もあります。
岡山市教育委員会が蛙ヶ鼻の横を調査した結果、幅24mにわたる土俵の跡を発見しています。蛙ヶ鼻とは、蛙の鼻のように、水にぬれてもさっと水が引いてしまうということではないかと書かれていました。雨があがればさっと水が引いてしまう、そういう地形だったのではないかと思われます。
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