古戦場めぐり「月山富田城の戦い（島根県安来市）」
◎『月山富田城の戦い』
「月山富田城」（がっさんとだじょう）は、島根県安来市広瀬町富田に所在した城で、月山（標高197m）に営まれました。戦国時代に山陰の覇者尼子氏が本拠を構え、170年間の尼子氏六代の盛衰の舞台となりました。この合戦は、大内義隆が毛利氏などの諸勢力を引き連れて攻め込んだ「第一次月山富田城の戦い」と、大内氏滅亡後に毛利元就が行った「第二次月山富田城の戦い」に分けることができます。
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天文10年（1541）に尼子晴久率いる尼子軍は、毛利氏の本拠である吉田郡山城を攻めたものの、大内軍の援軍を得た毛利軍に撃退されました（吉田郡山城の戦い）。天文11年（1542）1月11日に出雲に向かって大内軍本隊が出陣します。4月に出雲に侵入し、赤穴城の攻略に6月7日から7月27日までの日数を要し、10月になって三刀屋峰に本陣を構えましました。その後、年を越して月山富田城を望む京羅木山に本陣を移します。天文12年（1543）3月になって攻防戦が開始されましたが、城攻めは難航します。4月末には、尼子氏麾下から大内氏に鞍替えして参陣していた三刀屋久扶、三沢為清、本城常光、吉川興経などの国人衆が再び尼子方に寝返りました。大内軍は5月7日に撤退にとりかかり、義隆と晴持は別々のルートで周防まで退却を図ります。義隆は、宍道湖南岸の陸路を通り、石見路を経由して5月25日に山口に帰還します。しかし、中海から海路で退却しようとした晴持は、船が途中で転覆したため溺死しました。安芸への撤退を続ける毛利軍でしたが、石見の山吹城から繰り出された軍勢の追撃によって、元就と嫡子隆元は自害を覚悟するまでに追い詰められました。この遠征は、1年4ヶ月の長期間にも及んだ挙句に大内側の敗戦となり、晴持を失った義隆は、これ以後政治に対する意欲を失ってしまいます。この戦いは大内氏衰退の一因となった一方、尼子氏は晴久のもとで勢力を回復させ、最盛期を創出します。
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周防・長門を攻略して大内氏を滅ぼして勢力を拡大した毛利氏は、石見銀山を巡って尼子氏と対立していましたが、弘治2年（1556）の忍原崩れと永禄2年（1559）の降露坂の戦いでは敗れていました。しかし、永禄3年（1561）12月に尼子晴久が亡くなると、嫡男尼子義久が家督を継いだ後に、雲芸和議を経て永禄5年（1562）には石見銀山を手中に収めることに成功します。一方の尼子側は、家臣団における不和や雲芸和議による不満の噴出もあって、出雲西部・南部国人衆の多くは毛利側へと離反していました。
永禄5年（1562）、毛利軍は石見路を経由して出雲国へ侵攻します。12月には宍道湖北岸に本陣となる洗合（あらわい、荒隈）城を築きます。月山富田城の防衛網である「尼子十旗」と呼ばれる支城群のうち、赤穴城や三沢城などいくつかの城は戦わずして毛利に降っていますが、白鹿城などは毛利軍に抵抗します。白鹿城には城主の松田誠保とその父松田満久、さらに援軍である尼子氏家臣牛尾久清が軍勢を率いて籠もっていました。白鹿城攻略のため、白鹿城の北にある真山（新山）城を元春が占拠して布陣し、さらに和久羅山を押さえ、中海に児玉就方麾下の水軍を派遣して封鎖するなど、白鹿城と月山富田城の分断を進めました。
永禄6年（1563）、幕府の仲介を得て大友氏との和議を結んだ隆元は、遠征軍に合流すべく白鹿城に向かう途上に安芸の佐々部で急死しました。8月13日の夜に白鹿城への総攻撃が行われ、小白鹿城と呼ばれる出丸を占拠し、牛尾久清にも手傷を負わせたものの、本丸を落とすことはできませんでした。9月下旬になって、尼子側は義久の弟である尼子倫久らが援軍を白鹿城に送りましたが、毛利軍の包囲網を突破することはできませんでした。後詰が敗退したことで城兵の士気は下がり、10月に降伏しました(白鹿城の戦い)。
白鹿城を制圧した毛利元就は、尼子氏の拠点を次々と制圧しました。4月17日、毛利軍は月山富田城への総攻撃を行いました。しかし、士気旺盛な尼子軍は善戦し、連日攻め立てる毛利軍の城内侵入を阻止しました。28日に総攻撃を中止した元就は、洗合城に一時撤退しました。
同年9月、再び毛利軍は月山富田城を包囲しました。この時、飯梨川を挟んで対峙していた両軍の中で、山中幸盛（鹿介）が品川将員（狼介）を一騎打ちで討ち取ったとされます（山中幸盛・品川将員の一騎討ち）。しかし、毛利軍は力攻めを行わずに兵糧攻めを続けたため、やがて城内の兵糧が窮迫しました。やがて、冬になり兵糧が底をつき始めたところで降伏を認める高札を立てたため、尼子方の籠城兵が集団で投降するようになります。さらには、尼子氏の譜代の家臣までも投降し始めました。永禄9年(1566)11月21日尼子氏は降伏します。毛利側は義久ら尼子一族の生命を保証し、28日に城を出た義久らは安芸国に引き取られ幽閉されました。なお、和睦の交渉をしている間も逃亡兵が続出していたため、開城時の城兵は僅か300余名だったといわれます。また、熊野城など残っていた尼子方の城も月山富田城陥落後に開城しました。大内氏に続いて尼子氏を滅ぼした毛利氏は、中国地方最大の戦国大名となりました。
○「月山富田城」(安来市広瀬町)
「月山富田城」は、島根県安来市広瀬町富田に所在した月山（標高197m）にある山城です。戦国時代に山陰の覇者尼子氏が本拠を構え、170年間の尼子氏六代の盛衰の舞台となりました。天然の地形を利用した最も難攻不落の要塞城といわれ、「天空の城」とも呼ばれていました。その後、城を巡っても度々攻防戦が行われましたが、最終的に尼子氏は毛利氏によって滅ぼされ、城も毛利領となりました。城郭跡は国の史跡に指定されています。
【山中御殿】
大手門を上がったところに3000平方メートル余りの平地があり、ここは城内の重要な場所でした。「山中（さんちゅう）御殿」といわれた建物のあったところで、平地と石垣の上下2段に分かれた構造をしています。現在の石垣の内側に古い石垣が発見されており、何度か改修を行って現在の姿になりました。石垣の組み方や虎口の形状から、現在の石垣は近代の城に近いものと推測されています。
【七曲り】
「七曲り」は山中御殿から山頂への軍用道です。大変険しい登城道で、七曲り以外に主郭部への道はありません。
【本丸】
月山最高所（吐月峰）に位置し、別称は"甲の丸"ともいわれます。二の丸とは深さ7〜8mの堀切で仕切られ、ここに所在する「勝日高守神社」は城の守護神社で、築城以前から所在したと伝えられます。
【勝日高守神社】
「勝日神社」は古事記にその記載があり、当地で大國主命が思案していると、海中に光が現われ、国土経営を助けたといわれ、山頂に大國主命の幸魂神(さきたま,さちみたま,さきみたま)を山麓に大己貴命(おおなむちのみこと)を祀ったとされています。平家の武将藤原景清が出雲に入り月山に築城するにあたって、お社があっては恐れ多いと里宮をうつしたのが富田八幡宮です。その際に白羽の矢を放ち、中った場所を里宮の場所と定めた「矢中松（やたてまつ）の伝説」が残っています。現在、山頂の勝日高守神社は里宮に対して奥宮です。月山富田城の歴代城主の信仰が厚く、特に尼子氏はたいへん熱心でした。
【山中鹿介幸盛記念碑】
月山富田城本丸跡に、山中鹿介を偲び明治期に建立されました。碑の文字は陸軍少佐熊谷宣篤、撰文は漢学者山口美道。両人とも島根県出身。
【城安寺】
菅谷口にある臨済宗の寺院。雲竜寺と号し、聖観音を祀ります。寺伝によると正和年間、源翁和尚の開山といわれます。堀尾忠晴と共に一時、松江に移りましたが、のち広瀬に戻り、さらに広瀬藩陣屋の予定地とになったため、現在地に移されました。この付近に里御殿があったといわれます。寺にある木造広目天立像（像高97.6cm）は明治35年、木造多聞天立像（像高95.7cm）は明治36年に重要文化財に指定されています。2体ともヒノキの寄木造りで、鎌倉時代の作、本尊の脇侍です。境内には広瀬藩9代藩主松平直諒の墓、また寺宝に直諒の御抱絵師であった堀江友声の描いた富田城絵図や尼子十勇士の絵巻物が伝わります。
【厳倉寺】
御子守口にある真言宗の寺院。睡虎山と号し、聖観音を祀ります。縁起では神亀3年（726）、聖武天皇の命により行基が建立したと伝えられます。もと月山の南にある高木山を佐々木義清が御子守神社とともに、城内に移したものと伝えられます。本尊の木造聖観音像は高さ1.8m、ヒノキの一木造りで、脇侍の帝釈天立像とともに重要文化財に指定されています。堀尾吉晴の墓があります。
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