古戦場めぐり「吉田郡山城の戦い（広島県安芸高田市）」
◎『吉田郡山城の戦い』
「吉田郡山城の戦い」は、天文9年（1540）から天文10年（1541）まで、安芸国吉田の吉田郡山城（安芸高田市）周辺で行われた、大内氏に従属していた毛利氏当主・毛利元就と尼子詮久（後の尼子晴久）との戦いです。実際は城外での戦闘が主で、いわゆる籠城戦ではなかったため、郡山合戦とも呼ばれています。結果は、毛利氏が吉田城を守り抜き尼子氏を追い返しました。
安芸国の毛利元就ははじめ出雲国の尼子氏に臣従していましたが、天文6年（1537）に尼子家当主・経久が隠居して家督を孫の晴久（詮久）に譲ると、従属先を周防国の大内氏へと替え、その支援を受けて安芸・備後国の北部に勢力を拡張していきました。これを憤った晴久は元就を征討するため、元就の居城・安芸国吉田郡山城攻めを企図するのでした。
晴久は天文9年（1540）6月下旬、先遣隊として叔父・尼子国久ら新宮党に命じて備後路より3000の軍勢を送り込みましたが、その行軍の途次、元就に与した甲立五龍城主・宍戸元源らの激しい迎撃を受け、このときは兵を引いています（犬飼平の合戦）。そこで晴久は、今度は自ら総大将として兵を率い、出雲国赤穴より石見国を経て安芸国口羽、多治比へと至る石見路から再び攻め入りました。尼子勢は9月4日、郡山城の北方約4キロに位置する相合村の風越山に本陣を置きました。このときの軍勢は、尼子久幸、国久・誠久ら新宮党や出雲・伯耆・因幡・備前・美作・石見の分国から集められた大軍団であり、その総数は3万ほどといわれます。
この尼子氏来攻の報を受けた元就は、すぐに大内氏に援軍を要請する一方で、城下の農民や町人を郡山城内に収容しました。毛利方は総勢で8千とされていますが、その大半はこの収容した領民たちであり、実質的な戦闘要員は3千にも満たなかったといいます。戦いは9月5日から始まりました。はじめのうち、尼子勢は吉田の町に放火してまわり、それを防ごうとする毛利勢との間に小競り合いが生じる程度でした。本格的な戦いが始まったのは12日のことで、尼子勢が大挙して郡山城下に押し寄せ、後小路に放火したため、郡山城からは500騎の精兵が出動して槍分に伏兵を置き、尼子方の数十人を討ち取りました（槍分・大田口の合戦）。
23日、尼子勢は風越山から郡山城の南方にあたる青山・光井山（三塚山）の間へと本陣を移しました。このことによって、尼子勢は多治比川と数条の畷を挟んで郡山城と対峙することになりました。26日には尼子方の湯原宗綱が、毛利への援兵として駆けつけた小早川興景・杉元相（別称を隆相）の率いる大内軍先遣隊を迎撃するために、向原の坂・豊島方面へと出撃しましたが、大内勢と呼応して郡山城からも軍勢が出撃してきたので、挟撃されて討ち取られました（池の内の合戦）。
10月11日に至って、尼子誠久らが率いる新宮党が押し出し、多治比川を渡河して城下に進出しようとする構えを見せました。これに対し元就は、迎撃のための軍勢を編成し、赤川元保・児玉就方・平佐就之ら400を先鋒として油畷より出撃させ、元就自らも後詰として兵を率いて出陣します。この毛利勢に尼子方・三沢為幸隊があたって激戦となりましたが、元就は戦機を見計らって三日市から渡辺通・国司元相の500、十日市より桂元澄ら200の伏兵に、三沢隊の両翼を衝かせて敗走に追い込み、三沢為幸を討ち取っています（青山土取場の合戦）。
そして12月3日、元就が要請していた大内義隆からの援軍本隊が到着しました。大内氏からの援軍は陶隆房（のちの陶晴賢）率いる1万の軍勢で、翌天文10年（1541）1月11日、尼子本陣から郡山城への進軍を扼す天神山に布陣したことによって、毛利勢は駆逐作戦の展開が容易となり、逆に尼子勢にとっては攻めにくくなりました。毛利勢はこの機を逃さず攻勢に出ることとし、1月13日に3000の軍勢を出して、宮崎長尾に布陣していた尼子勢に攻撃をかけました。毛利勢は尼子勢の第二陣まで崩しましたが、後陣にあった吉川興経隊が力戦して支えたため、尼子勢を壊滅させるまでには至らなかったといいます（宮崎長尾の合戦）。
一方、援軍の陶隊は尼子本陣の青光山の攻撃を決し、背後より急襲をかけました。このとき尼子勢は各所に分散して兵を出していたため、本陣は手薄となっており、総大将である晴久も危機に陥りましたが、久幸の奮戦によって免れることができました。しかし、この戦いで久幸は討死を遂げ、尼子勢は戦意を喪失。その夜の軍議で撤退を決めたのです（青光山の合戦）。
撤退を始めた尼子勢に対して毛利勢は追撃を敢行しましたが、積雪に阻まれて追撃は難航しました。また、追われる尼子勢も撤退は思うようにいかず、途中の犬伏山や江の川で多くの兵を失ったといいます。この敗戦がきっかけとなって、尼子氏は衰退の一途を辿ることとなりました。
○「吉田郡山城」(安芸高田市吉田町吉田)
「吉田郡山城」は、南北朝時代の建武3年（1336）毛利時親が郡山東南麓に旧本城を築城、後に元就が郡山全山を城郭化し、さらに輝元が改修を加えた大規模な山城で、毛利氏約260余年間の居城でした。郡山城は、北流する可愛川とそれに注ぐ多治比川との合流点の北側にあり、標高390ｍ、比高190m、範囲は約1�匯擁�に広がります。遺構は山頂に本丸、周囲に二の丸、三の丸ほか、御蔵屋敷の壇、勢溜の壇、姫の丸の壇など、大小約270の曲輪が配され、所々に石塁の跡が見られます。
現地案内板によれば、天文9年（1540）9月、尼子晴久が3万の大軍を率いて来攻しましたが、毛利軍は少勢ながらよく戦い、翌年1月尼子軍を敗退させました。その後、毛利氏はこの城を本拠として、中四国・北九州にまで勢力をのばしました。天正19年（1591）輝元の広島城移城後は廃城となり、江戸時代に入って建物、石垣等も壊され、堀も埋められました。郡山城は中世山城の特徴を今に伝える貴重な遺跡です。城跡は広大で遺構も良好に残っています。登城口は「少年自然の家」「清神社」からの二つがあります。
【百万一心碑】
郡山城の改修に際して、元就が人柱に代わり「百万一心」と彫った石を埋めさせると工事が上手くいった、という伝説があります。その後、幕末に長州藩士が山中で実物を発見したと自書していますが、現在に至っても石は未発見のままで、郡山城最大の謎となっています。
【三矢の訓】
「一本ではたやすく折れるが、三本束にすれば折れがたい」と、元就が一族の結束を説いた有名な逸話です。初見は江戸時代の書物で真偽は不明ですが、元就の人柄を象徴するエピソードとして定着しています。子どもたちに送った「三子教訓状」がそのルーツともいわれています。
○「清神社」(吉田町吉田)
「清(すが)神社」は、戦国時代、毛利氏の祈願所だった神社です。郡山山麓にあり、郡山築城以前から祇園社として存在していました。正中2年（1325）以後の棟札が完存し、社宝も多くあります。ことに郡山の鎮守社として戦国時代には毛利氏の祈願所として尊崇され、社領があり、江戸時代にも蔵米3石余の寄附がありました。現在の社殿は元禄7年（1694）建立のもので、境内にそびえる老杉は樹齢1000年以上ともいわれています。5月5日の例祭は吉田の市入りとして知られ、340年の伝統を持つというだんじり子供歌舞伎が奉納されます。現在では、Jリーグサンフレッチェ広島の必勝祈願所としても有名になりました。
○「郡山公園(興禅寺跡)」(吉田町吉田)
郡山公園一帯は毛利氏時代の興禅寺跡で、元就が永禄10年（1567）京都から能役者観世太夫宗節ら一座を招き能狂言が催されたことや、この寺の南麓に内堀が掘られた記録が残っています。公園内は、池や庭石を配した閑静な日本庭園の趣で、桜や紅葉が美しい町を一望できるいこいの場です。
【土生玄碩の碑】
郡山公園内に「土生玄碩の碑」があります。土生玄碩（1762〜1848年）は、吉田の出身で江戸時代後期将軍徳川家斉に召され、江戸幕府の奥医師を務めた眼科医です。シーボルトに葵の紋服を贈るという国禁を侵してまで、眼病治療の薬や治療の情報を得る（シーボルト事件で投獄される）など、眼の治療法の向上に努め、日本で初めて白内障の手術に成功しました。西洋眼科の始祖といわれています。
○「毛利元就墓所(洞春寺跡)」(吉田町吉田)
元亀2年（1571）、元就は75歳の生涯を閉じました。その後、孫の輝元によって菩提寺洞春寺が建立され、境内に墓が建てられました。墓標として「ハリイブキ」の木が植えられています。命日の7月16日（新暦）には、毎年墓前祭が行われています。墓域内は前域・後域に分かれており、1列目の石灯籠は七代広島藩主浅野重晟と吉田出身の名医土生玄碩で山口県士族18人が奉納したもの、2・3列目は毛利氏親族のもの、4列目は五代広島藩主浅野吉長奉献の石灯籠が並んでいます。後域には、広島藩主浅野吉長寄進の石垣をめぐらし、標樹に近く「贈従三位大江朝臣元就卿御墓」の墓碑があります。
○「毛利隆元墓所(常栄寺跡)」(吉田町吉田)
永禄6年（1563）、元就長男隆元は41歳で佐々部（安芸高田市高宮町）にて急死しました。その後、父元就や弟の元春、隆景によって菩提寺常栄寺が建てられ、寺には正親町天皇の自筆「常栄広刹禅寺」の額が掲げられました。寺は後に山口に移動しました。
○「毛利一族墓所」(吉田町吉田)
元就墓所の下段で、洞春寺境内跡にあります。郡山初代城主毛利時親以来歴代一門の墓が、明治2年にここに改葬されました。狭域内は時親から8代豊元(元就祖父)までの合墓で、それぞれの墓は大通院谷にあったものです。広域内には、正面左から元就の兄興元とその長子幸松丸、隆元の夫人の墓が並んでいます。吉田の各地に散在していた歴代一門の墓が、ここに集められました。
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