古戦場めぐり「文禄慶長の役・名護屋城（佐賀県唐津市）」
◎『文禄・慶長の役』
「文禄・慶長の役」は、文禄元年（1592）に始まって翌文禄2年（1593）に休戦した「文禄の役」と、慶長2年（1597）の講和交渉決裂によって再開されて慶長3年（1598）の太閤豊臣秀吉の死をもって日本軍の撤退で終結した「慶長の役」を、合わせた戦役の総称です。この戦役が、秀吉が明の征服を目指す途上の朝鮮半島で行われたものであるということから、「唐入り」や「唐御陣」と呼ばれました。
�（枯修量髻�1592〜93年）
本能寺の変で織田信長が倒れた後、日本の支配者となった豊臣秀吉は、次なる目標として明（中国）の征服を決意しました。十分な海軍力を持たない秀吉は、朝鮮半島を通り陸路明に侵攻する計画を立てて、そのために李氏朝鮮を日本に服属させる交渉を側近の小西行長と対馬の宗義智に命じました。当時、明の冊封体制下にあった朝鮮との交渉が決裂すると、天正19年(1591) 8月、秀吉は「唐入り」を宣言し、総勢15万8800人からなる朝鮮出兵の軍勢を編成しました。
文禄元年（1592）4月12日、小西行長率いる一番隊1万8700が釜山浦に上陸します。日本軍はその日の内に、釜山城を攻略すると北上を開始しました。これに対して朝鮮側は、急遽8000の兵を編成し、漢城の南方約100�劼涼藹�で日本軍を迎撃しようとします。しかし4月27日、この部隊は日本軍の火縄銃による一斉射撃を浴びて壊滅してしまいます。忠州での朝鮮軍大敗の報が届くと朝鮮国王は首都漢城を放棄して平壌に移り、5月1日、小西行長率いる一番隊は漢城を無血で占領します。その他の部隊、釜山浦に上陸した加藤清正率いる二番隊も、5月3日に漢城に入城し、5月8日までに八番隊までが漢城入城を果たしました。6月16日、平安道担当の一番隊が平壌を占領し、朝鮮国王はさらに鴨緑江方面へと逃れました。一方、二番隊は咸鏡道に進軍し、同地に避難していた朝鮮国王の王子二人を捕虜にしました。
陸上では破竹の進撃を続ける日本軍でしたが、海上では朝鮮水軍の前に苦戦していました。名将李舜臣率いる朝鮮水軍は、5月2日に玉浦沖で、29日には泗川浦で日本水軍を撃破します。秀吉は、脇坂安治・九鬼嘉隆・加藤嘉明の三水軍将に海上の警固を命じましたが、7月7日に閑山島付近で脇坂艦隊73隻が惨敗を喫し、さらに救援に駆けつけた九鬼・加藤艦隊も大打撃を受けてしまいます。そのため秀吉は、日本水軍に対し朝鮮水軍との戦闘を避けるように指示を出します。制海権を失った日本軍は、漢城・平壌へ海路兵糧を輸送する事が不可能になり、日本軍の物資の輸送路は寸断されていました。
日本軍は朝鮮半島南部支配を確保するため、10月4日、細川忠興率いる2万の軍勢で晋州城を包囲します。籠城する3800の朝鮮軍は、10月10日に晋州城から撤退しました。朝鮮国王からの援軍要請を受けた明は、祖承訓率いる5000の援軍を朝鮮へ派遣しますが、この部隊は平壌の小西行長の反撃を受け壊滅してしまいました。
事態を重く見た明はひとまず日本軍と停戦協定を結び、その間に李如松を提督する4万3000の軍勢を編成します。12月23日に鴨緑江を渡り朝鮮入りした李如松は、文禄2年（1593）1月5日、平壌を包囲しました。不意を突かれた小西行長率いる日本軍1万5000は、1月7日の総攻撃で平壌城外壁を明軍に突破されて漢城へ退却しました。李如松はさらに漢城攻略を目指し、明軍2万を率いて南下しますが、宇喜多秀家を総大将とする日本軍4万1000が、1月26日、漢城城外の碧蹄館で迎撃しました。この戦いで、騎馬を主力とする明軍は日本軍の鉄砲隊の前に大敗を喫しました。一方の日本軍も、2月12日に幸州山城の攻略に失敗し、また兵站の不足にも悩まされていました。そのため、明軍と日本軍の間で講和が締結され、4月18日に日本軍は漢城から撤退しました。秀吉は明との交渉を有利にするために、慶尚南道の沿岸に待機している日本軍に特使を送り、前年攻略に失敗した晋州城への再攻撃を命じました。本国からの増援部隊を加えて9万3000もの大軍を投じた日本軍に対して、朝鮮側は官・義兵約7000を集中して迎撃体制を整えます。6月22日から本格的に開始された日本軍の猛攻によって、29日、晋州城は激戦の末に陥落し、城内に居た者は数万の一般民衆にいたるまで皆殺しにされました。
��慶長の役（1597〜98年）
秀吉は再び朝鮮侵略を決意し、慶長2年（1597）2月22日、総兵14万1490人の動員計画を発表しました。この頃、朝鮮水軍は文禄の役で日本水軍を悩ませた李舜臣が失脚し、元均が指揮をとっていました。7月15日、漆川梁海戦で朝鮮水軍は日本水軍に大敗を喫しました。この海戦で元均は戦死し朝鮮水軍は壊滅状態となり、制海権を握った日本軍は漢城を目指し進撃しました。慶長の役における秀吉の主目標は、慶尚道・全羅道・忠清道・江原道の南部四道の征服でした。7月22日、李舜臣が白衣従軍を命じられ再び朝鮮水軍の指揮に復職しました。日本軍は年内の漢城攻略を諦め、厳しい冬の到来に備えて朝鮮半島南岸の倭城へと撤退しました。12月22日、明・朝鮮連合軍5万7000が加藤清正の守る蔚山倭城を急襲しました。慶長3年（1598）1月4日、1万3000の日本軍が救援に到着して、明・朝鮮連合軍は慶州へと撤退しました。
7月、漢城周辺に10万に達する明軍が集結し、忠清道南陽湾に1万3000の明水軍が到着しました。明・朝鮮連合軍は4路に分かれ、麻貴率いる明兵2万4000・朝鮮兵5500の東路軍が加藤清正の指揮する蔚山倭城を、董一元率いる明兵1万3500・朝鮮兵2300の中路軍が島津義弘の指揮する泗川倭城を、劉てい率いる明兵1万3600・朝鮮兵1万の西路軍と、陳りん率いる明兵1万3200・朝鮮兵7300の水路軍が小西行長の指揮する順天倭城を、それぞれ攻撃目標として南進しました。
8月18日、豊臣秀吉は伏見城で62年の生涯を閉じました。しかし、秀吉の死は朝鮮半島にいる日本軍には秘密にされました。董一元率いる中路軍は麻貴率いる東路軍と合流し3万6700に膨れ上がった軍勢で、10月1日に泗川倭城を強襲しましたが、島津隊の反撃を受け大敗を喫しました。明・朝鮮連合軍はこの敗戦以後、島津氏を「鬼石曼子」と呼び恐れるようになります。10月8日、五大老からの派遣された使者徳永寿昌と宮木豊盛が泗川倭城を訪れ、秀吉の死と撤退命令を伝えました。島津隊は小西隊と合流し帰国する予定でしたが、この時順天倭城は明・朝鮮連合軍の西路軍と水路軍に包囲されていて、小西隊は脱出することができませんでした。島津義弘・立花宗茂らは艦船500隻に分乗し小西隊の救出に向かいますが、日本軍の出撃を知った李舜臣もこれを迎撃するため光陽湾を出発しました。10月18日午前2時頃、日本軍と明・朝鮮連合軍は露梁津で遭遇し激しい戦闘を行いました。この海戦で日本軍は200隻近い兵船を失い、明・朝鮮連合軍は名将李舜臣を失います。小西隊は、海上の封鎖が解かれた隙に順天倭城を脱出することに成功しました。11月25日、最後に残った日本軍小西行長・島津義弘・立花宗茂らが、釜山浦を撤退して日本に帰国しました。これにより、7年間におよんだ朝鮮の役は日本の敗北で幕を閉じました。
○「名護屋城跡」(唐津市鎮西町名護屋1931-8)
「名護屋城」は、豊臣秀吉の「文禄・慶長の役」に際し築かれました。加藤清正以下諸将の分担で、天正19年（1591）10月からわずか5か月足らずという驚異的な早さで、主要部のほとんどが出来上がったといわれています。総面積17万�屬蓮�当時では大阪城につぐ規模で、周囲には130以上に上る諸大名の陣屋が構築され、全国から20万人を超える人々が集ったとされています。
【名護屋城博物館】
「名護屋城博物館」は、特別史跡「名護屋城跡並びに陣跡」の保存整備事業と、文禄・慶長の役(壬辰・丁酉倭乱)及び日本列島と朝鮮半島との長い交流の歴史を調査・研究・展示紹介して、平成5年10月に開館しました。
○「清水山城」(長崎県対馬市厳原町)
「清水山城」は、安土桃山時代に現在の長崎県対馬市厳原町の清水山（標高206m）に築かれた城です。豊臣秀吉が文禄・慶長の役に際して、本陣の名護屋城から朝鮮への経由地となる壱岐と対馬に兵站基地となる城を築くことを命じ、厳原の西にある清水山上に軍監・毛利高政によって築城されたと伝えられています。清水山城は、名護屋城（唐津市）、勝本城（壱岐市）と結ぶ兵站線の駅城で、この延長に上対馬の撃方山城（うつかたやまじょう）があり、朝鮮の釜山にも倭城がありました。毛利高政は秀吉の命を受けて国内兵力の動員に当たるとともに、軍監として対馬に来て渡海する各軍団の監督に当たったもので、名護屋城と朝鮮を往来しました。この戦役に、島主宗義智は島内の兵２千を率いて小西行長の軍に加わりましたが、朝鮮の地理と民情に通じていたので、常に先陣にあって和戦両面に活躍しました。現在は一部の石垣のみが残されており、山麓の厳原市街地からも見ることができます。
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