武内義範師は、その著『教行信証の哲学』「第四章 第二十願の解明」において、歎異抄第二条の全文を引用されて、宗教的実存の本質を解明されようとする。
「一 おのおの十余箇国のさかひをこえて、身命をかへりみずして、 たづねきたらしめたまふ御こころざい、ひとへに往生極楽のみちを 問ひきかんがためなり。しかるに念仏よりほかに往生のみちをも存知し、また法文等をもしりたるらんと、こころにくくおぼしめして おはしましてはんべらんは、おほきなるあやまりなり。もししから ば、南都北嶺にもゆゆしき学匠たちおほく座せられて候ふなれば、 かのひとにもあひたてまつりて、往生の要よくよくきかるべきなり。 親鸞におきては、ただ念仏して弥陀にたすけられまゐらすべしと、 よきひと（法然）の仰せをかぶりて、信ずるほかに別の子細なきな り。念仏は、まことに浄土に生るるたねにてやはんべるらん、また 地獄におつべき業にてやはんべるらん。総じてもつて存知せざるな り。たとひ法然聖人にすかされまゐらせて、念仏して地獄におちた りとも、さらに後悔すべからず候ふ。そのゆゑは、自余の行もはげ みて仏に成るべかりける身が、念仏を申して地獄にもおちて候はば こそ、すかされたてまつりてといふ後悔も候はめ。いづれの行もお よびがたき身なれば、とても地獄は一定すみかぞかし。弥陀の本願 まことにおはしまさば、釈尊の説教虚言なるべからず。仏説まこと におはしまさば、善導の御釈虚言したまふべからず。善導の御釈まことならば、法然の仰せそらごとならんや。法然の仰せまことならば、親鸞が申すむね、またもつてむなしかるべからず候ふか。詮ず るところ、愚身の信心におきてはかくのごとし。このうへは、念仏をとりて信じたてまつらんとも、またすてんとも、面々の御はから ひなりと云々。」
武内義範師によれば、この歎異抄第二条において親鸞は(イ)念仏を信ずることの理由ないし根拠が、理性によって納得せられる仕方では、何一つ存在しないこと、(ロ)ただ、地獄は一定住み家なる自己の罪障のゆえに、悔いなく法然の教えに随従すること、(ハ)念仏を取るか捨つるかは、結局面々のはからい（決断）であることを強調しているのである。
では、浄土真宗（親鸞教学のことをここではそう呼ぶことにする）において�狎簑仟称廊瓩�強調され、�犲�力無効�瓩閥気┐蕕譴討�た。しかしこの歎異抄第二条では(ハ)念仏を取るか捨つるかは、結局面々のはからい（決断）であることとされ、�猝漫垢里呂�らい�瓩反二造砲茲辰童譴蕕譴討い襦��猝漫垢里呂�らい�瓩箸廊犲�力�瓩任呂覆い里世蹐Δ�。つまり親鸞の信仰告白において�狢称廊瓩鉢犲�力�瓩箸呂い�なる関係性にあるのであろうか。わたしは、その親鸞の信仰、あるいは浄土真宗における�狢称廊瓩鉢犲�力�瓩箸隆愀言�を、武内義範師の『教行信証の哲学』を手掛かりとしながら、浄土真宗における「聞」の意味を考えてみたい。
親鸞が法然を�爐茲�人�瓩箸靴燭里蓮∨〜海稜以�の教えに�狠蝋�一定住み家たるわが身の事実�瓩鮗�覚することができたからであろう。いや、自覚することを余儀なくされたからであろう。そのように�爐茲�人・法然�瓩箸料�遇は、まさに親鸞自身の�狠蝋�一定住み家たるわが身の事実�瓩凌爾そゞ掬�自覚に基づく。しかしその自覚は一体どこから来たのかといえば、�猖〜貝瓩箸料�遇から来たのだともいえる。親鸞は、法然との遭遇によって�狠蝋�一定住み家たるわが身の事実�瓩凌爾そゞ掬�自覚に目覚め、そしてまたその自覚が親鸞をして法然を�爐茲�人�瓩燭蕕靴瓩燭里任△襦�このことを武内義範師は次のように論じられている。
「それゆえに建仁辛酉法然に遭ったという親鸞の歴史的出来事は、彼の信仰のこの現在を通じて初めて信の意義を発揚することができた。第二十願の機に「専らにして専なれ」と執持の策励されているのも、つまりこの聞の段階から思の段階への宗教的実存にさらに一段の飛躍転入をすることを得され、第十八願の信楽を開発させるためのものであった。そしてこの第十八願の機においては、名号を決断して執持することは、もはや自己の決断に対する信頼から成立するのではなく―自己の決断がそれだけでは信頼できないことは、すでに試験済みである―むしろ〈よき人〉の自覚に全託すること、よき人の決断を信頼することにおいて成立する。ゆえに信仰は単に個人の宗教的決断というよりも、自己の決断の自覚の底を突き抜けた、汝の決断によって成立する。しかしこのことは、言うまでもなく私の決断を抽象的に否定することではない。私が汝の決断に推求することができたのは、私の決断が汝の決断と同等のものとなりえたからにほかならない。決断はかくして第二十願の反復によって鍛錬せられて、その脱自性を主体の内部の内的時間性（第二十願の〈執持名号〉）の領域から、私と汝とが真に対面し、私が汝に脱自する、推求の領域へと、飛躍転入させたのである。」
この武内義範師の論述において、注目すべき点は、�狄�仰は単に個人の宗教的決断というよりも、自己の決断の自覚の底を突き抜けた、汝の決断によって成立する。�瓩箸いε世任△襦�親鸞の宗教的決断、つまり「ただ念仏して弥陀にたすけられまゐらすべし」という法然の教えを信じるという決断は、親鸞個人の決断によって成立するというよりも、「ただ念仏して弥陀にたすけられまゐらすべし」という法然の教えが親鸞をして、親鸞自身の実存の底を突き抜けたところで、�狷鬮瓩箸靴討遼〜海箸僚于颪い砲茲辰得�立してきたというのである。
親鸞にとって法然が�狷鬮瓩箸靴徳�遇するのは、「ただ念仏して弥陀にたすけられまゐらすべし」という法然の呼び声に気づいたからである。そしてその法然の呼び声に親鸞は自身の�狠蝋�一定住み家たるわが身の事実�瓩鮨爾�自覚させられたからなのである。そして親鸞は「ただ念仏して弥陀にたすけられまゐらすべし」という法然の呼び声に�狢膸�大悲なる弥陀の呼び声�瓩鯤垢い燭里任△襦�それは�狷髻△泙気棒犬�よ�瓩箸いΝ狢膸�大悲なる弥陀の呼び声�瓩覆里任△襦�親鸞は�犲�己自身の実存の底を突き抜けた�瓩箸海蹐猫狢膸�大悲なる弥陀の呼び声�瓩鯤垢い燭里任△襦�それが親鸞にとっての、�犒�仁辛酉よき人・法然�瓩箸料�遇という歴史的出来事がもつ宗教的実存の意義なのであり、武内義範師の論述において、注目すべき点は、�狄�仰は単に個人の宗教的決断というよりも、自己の決断の自覚の底を突き抜けた、汝の決断によって成立する。�瓩箸い�真意であろう。
それでは、武内義範師が言う�狄�仰は単に個人の宗教的決断というよりも、自己の決断の自覚の底を突き抜けた、汝の決断によって成立する。�瓩箸いΝ犲�己の決断の自覚の底を突き抜けた�瓩箸海蹐箸呂い�なる「ところ」なのだろうか。つまりわたしたちは「どこ」で�狢膸�大悲なる弥陀の呼び声�瓩鯤垢�ことができるのだろうか。武内義範師は次のように論じられている。
「そしてこの推求の領域において、第二十願の執持名号の内的時間は、歴史的な時間となる。何となれば汝への推求は、さらに汝の汝へと溯源的に推求せられ、〈よき人〉法然は善導へ、善導はさらにその先へと推求せられることになるから。こうして念仏をとりて信ずる決断は、この遡源的推求によってはるかに選択本願に遡源せられる。そして私自身の内において、一念即多念、多念即一念の真実の称名が相続せられるに先立ち、すでに歴史そのものが一つの念仏の主体であり、浄土教の祖師たちにおいて、脱自的に念々（時代時代）不断の念仏を現実に行じて来ていることが知られる。したがって私の内に真実の一念多念の相即する念仏の大行が行じえられるのも、実に私がこの歴史的伝承に生きることである。さきの『歎異抄』の文にも、〈面々のはからひ〉である念仏の信が、また〈弥陀の本願 まことにおはしまさば、釈尊の説教虚言なるべからず。仏説まこと におはしまさば、善導の御釈虚言したまふべからず。善導の御釈まことならば、法然の仰せそらごとならんや。法然の仰せまことならば、親鸞が申すむね、またもつてむなしかるべからずさふか。〉と語っている。正像末の史観と表裏相即する親鸞の浄土教史観をわれわれは、行巻の〈正信偈〉において、また〈高僧和讃〉において見出すことができる。前者が客観精神の歴史であるのに対して、後者は絶対精神の歴史であると言うことができよう。そこには釈迦・龍樹・世親・曇鸞・道綽・善導・源信・法然の伝記と教えを簡潔にしかも深い洞察と心からの共感をもって叙述され、浄土教が歴史的伝統をもつことが、そしてこれらの師がこの伝統を受け継ぎつつ、いかに個性の豊かな仕方でそれを展開してきたかを示されている。〈自性唯心に沈む〉ことを嫌う親鸞の信楽は、このような浄土教の歴史的伝承において成就すると言うべきであろう〈曽我量深師『親鸞聖人の仏教史観』『本願の内観』参照〉。」
親鸞は法然を「還相廻向の菩薩」と呼ぶ。「ただ念仏して弥陀にたすけられまゐらすべし」という法然の教えは、言うまでもなく、ただ単に法然だけの教えではない。法然が念仏の教えを自らの教えとしたのは、善導との出会いがあった。武内義範師も引用しているように、『歎異抄』における�猝鐶砲遼楷� まことにおはしまさば、釈尊の説教虚言なるべからず。仏説まこと におはしまさば、善導の御釈虚言したまふべからず。善導の御釈まことならば、法然の仰せそらごとならんや。法然の仰せまことならば、親鸞が申すむね、またもつてむなしかるべからず候ふか。�瓩箸いΔ茲Δ貿阿諒�の教え、つまり浄土教の歴史的伝承が法然の教えの背後には存在している。親鸞はそのことをしっかりととらえている。親鸞にとって「還相廻向の菩薩」とは、単に法然一人だけではなく、念仏によって救われていったすべての念仏者が「還相廻向の菩薩」だったのであろう。
西谷啓治先生は、「歴史について」（『随筆集 風のこころ』収）において上記に引用した『歎異抄』第二条の�猝鐶砲遼楷� まことにおはしまさば、釈尊の説教虚言なるべからず。仏説まこと におはしまさば、善導の御釈虚言したまふべからず。善導の御釈まことならば、法然の仰せそらごとならんや。法然の仰せまことならば、親鸞が申すむね、またもつてむなしかるべからず候ふか。�瓩両�土教の歴史的伝承が�猝鐶砲遼楷� まことにおはしまさば、釈尊の説教虚言なるべからず�瓩函◆崋畭困寮盒機廾柄阿法◆嵬鐶砲遼楷蝓廚�ら始まることに注目されている。釈尊の説教とは、歴史的事実であるのに対して、弥陀の本願とは、『大無量寿経』での法蔵菩薩が修行して四十八願の発願をしてこの願がすべて成就されなければ、自分は仏にならないと誓ったという物語である。しかしこの物語は決してフィクションではなく、超歴史的事実である。なぜならば、「弥陀の本願」が真実でなければ、釈尊の説教も善導の註釈も法然の教えも真実ではなくなる。そして親鸞自身の信仰も成立して来なくなるからである。西谷啓治先生は、そのことから�猯鮖砲旅渋き瓩魏鯡世気譴茲Δ箸靴拭Ｎ鮖謀�事実とは、常に超歴史的事実において成立するのだという�猯鮖砲旅渋き瓩鯡世蕕�にされたのである。
この西谷啓治先生の�猯鮖砲旅渋き瓩鬚發辰匿二造�語る浄土教の歴史的伝統を考えた時、親鸞の�犒�仁辛酉の法然�瓩箸料�遇という意味も、ただ単に歴史的出来事ということだけではなく、その背景にある歴史的世界を突き抜け、むしろその歴史的世界を世界たらしめている超歴史的世界として、超歴史的事実という意味をもってくることになるのである。つまり「ただ念仏して弥陀にたすけられまゐらすべし」という法然の教えは、歴史的出来事の底を突き抜けた超歴史的出来事としての�猝鐶砲慮討喟辞瓩覆里任△襦Ｄ粁鮖謀�出来事としての�猝鐶砲慮討喟辞瓩�「ただ念仏して弥陀にたすけられまゐらすべし」という法然の教えとして�猜垢��畛�が出来るのである。そのことが浄土教の歴史的事実であり、�狢称呂凌深足瓩覆里任△襦��猝漫垢里呂�らひ�瓩箸い�宗教的決断もこのような歴史的事実と超歴史的事実という�猯鮖砲瞭鷭店渋き瓩砲�いて生じてくるのであり、�猝漫垢里呂�らひ�瓩箸い�自力も超歴史的事実としての�狢称呂了�実�瓩砲�いて成立してくるのである。
武内義範師が言う�狄�仰は単に個人の宗教的決断というよりも、自己の決断の自覚の底を突き抜けた、汝の決断によって成立する。�瓩箸いΝ犲�己の決断の自覚の底を突き抜けた�瓩箸海蹐箸蓮△海里茲Δ閉粁鮖謀�事実としての�狢称呂了�実�瓩鬮狆貊雖瓩箸靴栃垢�ことができるのである。つまり浄土真宗における「聞」とは、�狢称呂凌深足瓩髻崗貊蝓廚箸靴得�立してくる�犲�力�瓩任△蝓△修劉狢称呂凌深足瓩鯣瓦�にしたところでは、絶対に成り立って来ないという意味をもっているのである。
ログインしてコメントを確認・投稿する