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2015年12月25日20:07

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『射手と双子の嬉し恥ずかし思春期日記』第1話

 アイオロスと双子たちの思春期ネタを色々と妄想してたら短編が四つできました。
 サガとカノンが14歳、アイオロスが13歳の時期の話という設定です。
 サガとアイオロスが黄金年中組や年少組の世話をしている話も好きなのだけど、彼らを出すと登場人物が増えすぎて収拾がつかなくなるので、今回出てくるのはアイオリアだけということで。この一年後くらいには大好きな兄ちゃんも優しいサガもいないんだよなぁ、アイオリア…。
 双子たちのオリジナル子供時代設定は『雪解け』参照。
 今日はクリスマスですが、クリスマスネタでは全然ないですw

『射手と双子の嬉し恥ずかし思春期日記』

第1話:生えてきた!

 アイオロスの拳が空を切った。サガは体の重心をわずかに右に寄せて、彼の拳をかわした。すかさず、逆撃の拳をアイオロスに打ち込む。だがその拳は相手の掌底に阻まれる。アイオロスがサガの足を払い、腕をとって彼の体を投げた。地面に叩き付けられまでの短い時間に、サガは受け身をとった。地面に転がると同時に体勢を立て直し、低い位置から腹部を拳で狙う。とっさにアイオロスが背後に飛んで攻撃をかわした時。
「それまで!」
 指南役の声が響いた。
 距離を取った二人が向き合い、互いに礼をする。
「本日の訓練はこれまでといたしましょう」
「ありがとうございました!」
 二人は指南役にも礼をした。
「…すごいなぁ、サガ。ここに来て二年なのに、もうおれと互角に打ち合えるなんて」
 体技訓練を終えたアイオロスが組手の相手だったサガに声をかける。
「技も小宇宙の扱いもどんどん磨きがかかってるし…。やばいなぁ、おれ、次の模擬戦では負けるかも」
「まさか!お前だってこの二年で、同じくらい成長してるじゃないか」
 サガが笑って見せる。
 ともに成長期に入った二人は競うように身長を伸ばし、体格も筋肉も充実し始めていた。それに伴うようにして、小宇宙も、技の威力も、日に日に増大している。
「いや、でも本当にすごいって、サガ。まったく、どこで修業したんだよ、お前」
「…親が聖闘士の関係者だったので、色々とね」
 アイオロスがサガの前歴を問うと、彼はいつもこういってはぐらかしてしまう。
 サガが聖域に来たのは二年前、十二歳の時だ。アイオロスが聖域の外れの森で出会ったこの綺麗だが正体不明の少年は、最初こそ聖域で警戒された。それでも「聖域に住まわせてほしい。なれるなら聖闘士になってもいい」という彼の熱意に負ける形で、候補生として受け入れられた。「聖闘士になってもいい?そんな簡単なものじゃないぞ」というのを、大人たちは体で彼に教えようとしたのかもしれない。
 ところがサガという少年の体技と小宇宙の実力は、並の候補生どころか教官たちをさえしのいでいた。岩を砕くなど朝飯前で、次元を操り、幻術を見せ、人の精神を左右する。当然、どこでそんな技を身につけたのかと追及されたが、サガはそれに関しては「親が聖闘士の関係者だったから…」という以外は一切口を閉ざした。もともと聖闘士の候補生となる者は家庭環境に問題を抱えていることも多く、過去を詮索することははばかられる一面もあったので、人々はまもなく追及をやめた。
 そして、過去が何であれいずれにせよこれは尋常な才能ではないということで、サガは黄金聖闘士の候補ではないかと上に報告がされた。すぐに教皇への謁見がかない、星見の結果と聖衣の共鳴によって、双子座の黄金聖闘士と認められて聖衣が授与された。
 異例の展開ではあったが、その後は射手座の黄金聖闘士であるアイオロスと並んで次代の教皇候補として、講義と、訓練と、執務と、任務とで、二人で切磋琢磨する日々が続いている。
「アイオロス。今日の訓練は終わったし、アイオリアを迎えに行って、それから共同浴場に行こう」
「ああ」
 二人は別の場所で訓練をしているアイオリアを迎えに行った。今年七歳になるアイオリアは、獅子座の聖衣を授与されてはいるが、まだまだ成長途上ということで、教官たちや、時には兄であるアイオロス自身によって訓練を受けている。
 兄アイオロスの姿を見ると、アイオリアは「兄ちゃああん!」と駆け寄って抱き付いてきた。一度、自宅に戻って着替えを取ってきた三人は、共同浴場で合流した。
 脱衣所で訓練着を脱ぎ、湯気の立ち込める薄暗い熱浴室に入る。床は熱暖房で熱くされているため、木げたを履く。熱浴場の床にはモザイク画でアテナとポセイドンがアッティカ地方を巡って争った神話の場面が描かれている。ポセイドンが塩水の泉を人々に贈れば、アテナはオリーブの木を贈る。外の世界に伝わる神話とは違い、そこから先は聖闘士と海闘士の戦いの場面だ。壁面にある浮き彫りのモチーフも、やはり過去の聖闘士の戦いと彼らの赫々たる武勲、そして最終的なアテナの勝利と栄光だ。
 熱浴室に入ったアイオロスは、服を脱いだサガの裸をちらりと横目で見た。今でもサガが裸になると、アイオロスはついつい彼の股間に目をやってしまう。そして「ついている」ことを確認し、落胆してしまうのだ。
 サガに初めて出会った時、アイオロスは彼を女の子だと思った。そして一目惚れし、勢いでその場でプロポーズし、男だと言われて直後に失恋した。三分と続かなかった初恋を未だに彼は引きずっているのである。
「どうかしたか、アイオロス?」
「え、いや、何でもない!」
 湯気にかすんで見えるサガの白くて滑らかでほくろ一つない美しい肌に、男だと分かった今でもアイオロスはどきどきと胸が高鳴ってしまう。
「アイオリア、背中を洗ってあげるよ」
「わーい」
 サガに背中を洗ってもらう幼い弟でさえ、どこか妬ましい目で見てしまうアイオロスだった。
「…あ、そうだ!」
 石鹸をつけた海綿で体をこすっていたアイオロスは、あることを思いだした。今日は大切なことを友人に打ち明けようと思っていたのだ。
「サガ、おれさ…」
「うん?」
「生えてきたんだ!」
 どーんとアイオロスはサガの前で仁王立ちしてみせた。
「生えてきたって…何が?」
「いや、だからさ…下の毛が!」
 自分の股間をアイオロスが指さす。サガが彼の指先をまじまじと見ると、確かに茶褐色の陰毛が数本、うっすらと生えてきていた。
「へへへ!これでおれも大人の男ってことだよな!」
 自慢げにアイオロスが鼻をかく。サガは黙って彼の股間を見つめていた。
「サガ?」
 深刻そうにいつまでも自分の股間を睨みつけているサガの様子に、アイオロスが首を傾げた。
「あ…っ!うん!おめでとう、アイオロス」
 我に返ったように、サガが高い声を上げる。
「へへへ…。サガはまだなの?」
「…まだ、みたいだ…」
 見ると、サガの股間はつるっと滑らかな、子供のままだった。アイオロスと自分の間に生まれた差に、サガは落胆した。
「大丈夫!サガもすぐに生えてくるよ!おれより年上なんだし!」
「う…ん…。そうだな…」
 そう答えはしたが、サガはうなだれたまま、その後もじっと何かを考えこんでいた。

 カノンは、サガと一緒に聖域に来はしたが、皆の面前には姿を見せようとせず、「おれは聖闘士なんかやらないからな」と聖域の外でぶらぶらする日々を過ごしている。夜に居住区にあるサガの家に帰ってくることもあるし、帰ってこないこともある。帰ってこない夜はカノンがどこでどう過ごしているのか、サガは知らない。外泊明けはタバコと酒の匂いをさせていることが多いから、きっとろくなことはしてないのだろう、と推測はしている。
 その夜、家に帰って来たカノンは、居間でランプの明かりの中、長椅子に座った双子の兄が深刻そうな顔で考えているのを目にした。
「どうした、サガ?」
「あ…カノン、帰って来たのか」
 ようやく弟の帰宅に気付いたサガだが、それでも深刻そうな顔で考え込むことをやめなかった。
「何を考えてるんだよ」
「うん。アイオロスが…」
「奴が?」
「生えてきたんだ」
「…は?」
 サガの言葉に、カノンは目をむいた。
「生えてきたって、何が?」
「いや、だからその…陰毛が…」
 恥ずかしそうに口にした兄に、弟は黙り込んだ。
「…それで?」
「ど、どうしよう、カノン!?」
 サガは取り乱し、立ち上がると慌てたように弟に迫った。
「私の方が年上なのに…アイオロスに追い越されてしまった!どうしたら私も生えてくるんだろう?何を食べたらいいと思う?」
「…知るかよ!」
 この世の終りが来たかのような暗い顔で何を考えているかと思えば…とカノンは呆れた。アイオロスとは親友づらをしているくせに、内心は彼への対抗心や嫉妬心でいっぱいなのだ、この兄は。陰毛が生えてきたかどうかという、そんなつまらない些細なことでさえ、こんな真剣に思い悩むくらい!
「自分で調べりゃいいだろ、そんなこと!」
「うん…」
 悄然と兄はうなだれた。
「ああ、もう…寝るぞ!」
 そうして寝室に行った双子は、一つしかない寝台で一緒に横になるのだった。

 それからしばらく聖域の外で外泊する日々を過ごしていたカノンだが、何日めかに帰って来た時、サガが居間で本を読んでいることに気付いた。
「何を読んでるんだ、サガ?」
「図書室で借りてきたんだ」
 サガが読んでいる本のタイトルは『諦めるのはまだ早い!頑張るあなたの育毛術!』だった。
「…なに、それ?」
「慰問で訪ねた村の老人がハゲに悩んでいるからと言って借りてきた。どうしたら生えてくるかと思って」
 真剣に本を読んでいる兄に、弟は心底呆れた。なぜこんな馬鹿とおれは同じ遺伝子を持つんだろう…と思う。
「…学習の成果はあったのかよ?」
「ああ。タンパク質とビタミン、それにミネラルが重要らしい。特に亜鉛がいいそうだ。カキとかホタテとかレバーとか…貝類は聖域では取れにくいけど、共同食堂のおばさんに頼んでみようかな」
「ああ、そう…」
 でもそれ、頭の毛のことだよな…と弟は思うのだが、兄はいたって大真面目だった。
「それにシナモンも血行促進効果があっていいらしい。明日から朝食はシナモントーストにすることにした」
「…まあ、おれは何でもいいけどな。美味ければ…」
 と言って寝室に行くカノンに、サガが後ろからついてきた。
 カノンが夜着に着替えていると、同じように着替えていたサガが、自分の股間にオリーブオイルを塗っていた。
「…何をしてるんだ、サガ?」
「アスクレピオス神がハゲを治した話を調べたんだ。神に捧げ物をして祈って一晩寝たら、夢の中でアスクレピオス神が頭に油を塗ってくれて、そしたら毛が生えてきたらしい。だから油を塗ったら効果があるかな、と思って…」
「お前、それ、絶対に何か間違ってると思う…」
「そうかなぁ」
 そうしてベッドに入った弟の横に、兄も寝転がった。
「…カノン、お前は、生えてきた?」
 そう聞いてきたサガに、
「まだだよ」
 とカノンは答えた。
「そうか。双子だものな。私がまだなら、お前もまだのはずだよな」
 どこか安堵したような口ぶりで納得したサガに、カノンは呟いた。
「…おれは別に生えなくてもいいけどな。生えてないほうが喜ぶ奴が多いし」
「喜ぶ…って、誰が?」
「……。お前は知らなくていいんだよ、そんなこと」
 ぷいっとカノンはサガに背を向けた。
 宿や食事、衣類を確保するために、カノンはあらゆることをしていた。かっぱらいも、置き引きも、カツアゲも、万引きも、何でもやった。その中には売春まがいのことも含まれていた。声をかけてきた大人の男や女を相手に、まだ未成熟の体を見せ、撫でさせ、大人の玩具でいじらせ、手や口で相手の性器に奉仕して喜ばせてやる。させてないのは、後孔への性器の挿入だけだ。元から街にいた男娼たちに縄張りを荒らすなと制裁を受けそうになったこともあるが、カノンは彼らの用心棒たちを全員叩きのめし、相手によっては異次元に放り込んでやった。
 それでも自分が「汚いこと」に手を染めているという自覚だけはあって、兄にはそういう「汚いこと」とは無縁でいて欲しいと思っているカノンだった。
「カノン…」
 サガの腕が、ぎゅっと弟の背を抱きしめた。
「お前は…私を置いていかないでくれ。一人で大人にならないで…」
「…ああ」
「ずっと…一緒だからな…」
 そう言って、サガは眠りに落ちていった。
「ずっと一緒だ、兄さん…」
 眠ったサガにそう答え、カノンも瞳を閉じた。

<第1話・完>

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