逗子市さんぽ「桜山・蘆花記念公園から延命寺」
○「国木田独歩文学碑(逗子市浄水管理センター)」(桜山9-2)
逗子(新逗子)駅前から逗11.12のバスに乗り鎧摺(あぶずり)で降り、少し戻ると葉山町と逗子市の境に逗子市浄水管理センターがあります。センターの敷地内に「国木田独歩文学碑」がありますが、ゲートで囲まれた立入禁止の公園の中にあり傍まで行けない文学碑は初めてです。
�狄犹劼虜修笋涸陲�れて 夕日さびしく残るなり
沖の片帆の影ながく 小坪の浦はほどちかし��
初冬の逗子の浜辺の暮れなずむ頃の情景を、叙情的にうたいあげた詩「たき火」の中の一遍が刻まれています。明治28年11月、徳富蘇峰の媒酌で佐々城信子と結婚し逗子で暮らし始めましたが、あまりの貧困生活に耐えられず帰郷し両親と同居しました。翌年、信子が失踪し協議離婚しています。
【鐙摺の不整合� �
国木田独歩文学碑の手前に、「鐙摺の不整合」があります。不整合とは、ある地層が堆積後または火成岩・変成岩の形成後に隆起し、陸上で風化・削剥作用を受け、その浸食面上に新期の地層が堆積したとき、両者の関係を不整合といいます。
○「岩ヶ谷遺跡」(桜山9-2)
逗子市浄水管理センター入口の小さな鳴鶴公園の崖に、中世の「岩ヶ谷（いわがやつ）遺跡」のやぐらがあります。ここは鳴鶴ヶ崎といって、裏山から縄文・弥生時代の土器片、土師器（はじき=素焼きの土器）の包含層や、近世の古銭寛永通宝、茶椀、陶器また鉄鍋をかぶせたと思われる年少者の人骨が発見されています。
【鳴鶴ヶ崎】
昔は「泣きつらがさき」だといって、通る人からいやがられたくらい道が悪かったのです。「なきつるがさき」という名は、源頼朝が鎌倉に飼っていた鶴がここまで飛んできてはよく鳴いたから、この名をつけたそうです。
○「鐙摺の不整合�◆�(桜山9-2)
バス道路を少し戻ると、切通しバス停の手前から左に逗子桜山ニューライフがある海側に下りる露頭に、「切通しの鐙摺の不整合」と呼ばれる地層が露出しています。地質を学ぶ学生は、必ずここを訪れると聞いています。
○「太陽の季節文学碑」(新宿1-6)
バス道路を戻り渚橋を渡ると、平成17年石原慎太郎の芥川賞50周年を記念した｢太陽の季節文学碑｣があります。記念碑の左上のゴールドの太陽のモニュメントは印象的で、太陽をモチーフにした岡本太郎の「若い太陽」のオブジェとともに、「太陽の季節 ここに始まる」と石原慎太郎の文字が刻まれています。ハーフマイルビーチの逗子海岸の一角にあります。
○「蘆花・独歩ゆかりの地碑(柳屋跡)」(桜山8-8)
渚橋から田越川に沿って行くと、富士見橋の手前に「柳屋跡」があり、そこに「蘆花・独歩ゆかりの地」碑があります。明治30年小説家徳富蘆花は赤坂から逗子に拠点を移し、田越川沿いの旅館柳屋に宿を取って、4年間ここで執筆活動を行いました。兄蘇峰が主宰する國民新聞に逗子をはじめとする湘南地域の自然を描いた「湘南歳余」「湘南雑筆」を連載、随筆集「自然と人生」や代表作となった小説「不如帰」を発表しました。
○「蘆花記念公園」(桜山8-13)
少し戻り、住宅街を抜けて左手に仙元山に連なる桜山という丘陵の方へ足をのばすと、徳富蘆花の名を冠した「蘆花記念公園」が整備されています。ここはかつて、徳川宗家十六代当主・徳川家達の別荘があった一帯を活用したもので、蘆花記念公園といいつつ蘆花が住んでいたわけではありませんが、蘆花が滞在していた柳屋からは目と鼻の先ではあります。園内には郷土資料館、散策路などがあります。
【郷土資料館】
昭和59年に開館した郷土資料館には、逗子・葉山ゆかりの文学者関連資料や市内の文化財、民俗資料、歴史資料などが陳列されているほか、背後の丘陵地から発見された長柄桜山古墳からの出土品なども展示されています。建物は、大正元年頃に横浜の実業家の別邸として建てられた、築100年程度の木造平屋建てです。郷土資料館からは、葉山港や相模湾、江の島や、富士山などを望むことができて風光明媚なスポットでもあります。
○「長柄桜山古墳ハイキングコース」(桜山7.8丁目)
平成11年3月、地元の考古学愛好家の方によって発見された四世紀後半に造られたとみられる全長90ｍと88ｍという大規模な二基の前方後円墳を歩くことができる山道が、郷土資料館の裏手からハイキングコースとして整備されています。古墳は、逗子市と葉山町の市町境に位置していますが、古墳に埋葬されていたのが誰なのかはわかっていません。ヤマトタケルの東征伝説の経路として、焼津から三浦半島の走水へとたどり着いてそこから東京湾を渡って房総半島へといった伝承になっていますが、ヤマトタケル伝承と各地の古墳の位置はかなり一致することから、古代の様々な人物の伝承を繋ぎ合わせつつ創造されたのがヤマトタケル伝説で、そのモデルの一人となったといわれる鎌倉・三浦半島付近を支配していた鎌倉別という人物の墓説が有力だといいます。当時の国際情勢とヤマトと東国の間の海上交通の発展が、海上交通の要衝であったこの逗子葉山地域にヤマト王権と密接な強い首長を登場させ、長柄桜山古墳という大規模な遺跡群が残されることになったと考えられています。ハイキングコースは郷土資料館裏手からだけではなく、六代御前の墓の裏手から登るコースや長柄交差点付近から登るコース、葉桜住宅付近から登るコースなどがあるので、色々なコースが楽しめます。
○「六代御前の墓」(桜山8-2)
「六代御前の墓」は、初代・平正盛から6代目(平正盛-忠盛-清盛-重盛-維盛-六代)の平家嫡流の男子であることから「六代御前」と呼ばれた平維盛の嫡男（清盛の曾孫）の墓と伝承がある墓跡です。平維盛の嫡男（清盛の曾孫）の名は史跡看板にはありませんが、平高清とも言われているが異説もあるようです。文治元年（1185）の壇ノ浦で平家滅亡の折に捕えられたて処刑されるところでしたが、文覚上人のはからいで助けられ、その弟子となり、三位の禅師と名乗っていましたが、正治元年（1199）に源頼朝が亡くなると、文覚上人は政争に巻き込まれ流罪となり、庇護者がいなくなってしまい、2代将軍頼家（2代鎌倉殿）からは、「さる人（平維盛）の子なり、さる人（文覚上人）の弟子なり、たとひかしらをば剃り給ふとも、心をばよも剃り給はじ」と謀反の心あり、との嫌疑をかけられ再び捕えられて斬られてしまいました。齢26歳。これにより、平家の嫡流は断絶してしまいます。階段を上った所にある「六代御前の墓」。大きなケヤキが目を引きます。
田越川のほとりの刑場で処刑されたと伝わっていますが、この刑場は片瀬などにあった鎌倉郊外の刑場にしては小坪から離れ過ぎています。田越川沿いの道路脇に「六代御前最後之故址」碑があります。
【六代御前墓地の庚申塔】
墓地の階段左に石塔が３基あり、１基が法華千部供養塔、１基が湯殿山（月山、羽黒山）供養塔、１基が享保15年（1730）銘の庚申塔です。
○「延命寺抱辻の地蔵堂(山王田の塚)」(桜山8-3)
田越川に沿って渚橋へ少し戻ると、地蔵堂があります。地蔵堂は、「延命寺抱辻の地蔵堂」あるいは「山王田の塚」とも呼ばれています。『逗子町誌』には、「地蔵堂 桜山八□七 県道の脇に元禄九年銘の像（地蔵石仏（高53.2cm））があり、享保八年の供養塔、文化三年の六十六部供養塔などが並んで居る。もと刑場のあととの噂もあり、昭和四十三年、近くの工事現場から人骨が多く出た」とあります。田越川のこの辺りは、昔の処刑場だったようです。
○「宗泰寺」(桜山7-7)
田越橋からなおも田越川に沿って行くと、右手に「宗泰寺」があります。鎌倉時代の創建、本尊は阿弥陀如来。江戸時代と明治22年の2回火災に遇っていますが、室町後期作の阿弥陀如来、不動明王、十王像が残っています。『新編相模国風土記稿』には、「宗泰寺 海長山と号す、真言宗延命寺末 本尊十一面観音」とあり、『逗子町誌』には、「海長山と号す、古義真言宗、本尊阿弥陀如来、逗子延命寺末、本寺に、昔閻魔堂にありし閻魔二体の像を祀る」とあり、本尊が十一面観音から阿弥陀如来に替わっています。
【十王と奪衣婆像】
十王と奪衣婆像の十一体とも寄木造で、閻魔王と奪衣婆は玉眼嵌入、ほかは彫眼となっています。像高は、閻魔王が36.8�僉�奪衣婆(三浦半島では珍しい)が30.3�僉�他は24�兪宛紂Ｌ段犬砲茲蝓△海僚讐α�は貞享二年(1685)に鎌倉扇ヶ谷の仏師加賀によって造られたことがわかります。近世の十王信仰を物語る貴重な作品です。仏の教えでは「六道輪廻」といって、生き物は死後、六つの世界(地獄・餓鬼・畜生・修羅・人・天)のどこかへ生まれ変わると考えられています。次の生を受けるまでの間、閻魔大王を中心とする十王によって生前の罪が裁かれ、六道のどの世界へ行くかが決められるのです。そのため生前に悪行を犯さないよう努め、また遺族はその取り調べの期日に合せて法要を営みました。これらの十王は、すべて如来・菩薩・明王の化身とされています。また冥土の入口、三途の川のほとりでは奪衣婆(だつえば)という鬼婆が待ちかまえ、死者の衣服をはぎ取るともいわれています。
【湘南七福神の福徳大黒尊天】
湘南七福神の福徳大黒尊天を祀り、この大黒天は信貴山成福院より勤請した身の丈四尺、小槌を高く打ち振る財福、福徳を招く霊験あらたかであるとされています。
○「金剛寺」(桜山7-10)
なおも東に向かうと「金剛寺」があります。創建年代や寺の縁起は不明。『新編相模国風土記稿』には、「金剛寺 恵日山と号す、古義真言宗 逗子村延命寺末 本尊弥陀」とあり、『逗子町誌』には、さらに「外に不動尊、観世音の像を安置す」とあります。文政4年（1821）にはすでに無住となり、本寺延命寺が兼帯する状態になっていました。金剛寺本堂前には、庚申塔などが並んで立てられています。
○「逗子経塚」(逗子4-4)
金剛寺から路地を北に向って歩いていると、図書館の東南の民家の前にふと「逗子経塚」の説明板がありました。経塚とは、経典を主体として埋納したところです。なぜか逗子市には経塚が多いようで、一時期流行したようです。
○「延命寺」(逗子3-1)
図書館の北に「延命寺」があります。寺伝では天平年間（729〜749年）に行基菩薩が自作の延命地蔵尊を安置して寺を創建して黄雲山地蔵蜜院延命寺と号したことに始まります。平安時代には弘法大師が立ち寄り地蔵尊の逗子を設立し、住民の尊信が高まり、この地蔵を逗子と呼びました。弘法大師生誕千二百年記念事業として昭和52年、現在ある本堂の落慶を記念し「逗子大師」と称号しています。弘法大師生誕の四半世紀前には創建されていたとされる古刹です。『逗子町誌』には、「逗子・名称・起源につきては当地の古刹延命寺に、行基作と傳ふる延命地蔵あり、それを安置する厨子(長さ三尺五寸)弘法大師下野の国二荒山(現在栃木県)の登参の砌当寺に立寄り設けられしものにして住民尊信の標的となりたれば、何時しか此土地を称して逗子と呼ぶに至ると傳ふ。今に傳はる地蔵尊はそのまゝなれど厨子は度々の火災にて焼失し後世の作なりと」とあります。
【逗子の地名発祥地】
延命寺は「逗子」という地名の発祥地で、寺の門前に「逗子の地名発祥の寺」と刻まれた石碑が建っています。弘法大師が、行基作の延命地蔵を安置する厨子を造ったことから、この辺が「厨子」と呼ばれるようになり、近年になって「逗子」という字が使われるようになったのだといいます。
【三浦道香の墓】
境内の鐘楼の手前には、三浦道香主従の墓といわれる７基の宝篋印塔が祀られています。北条早雲が、西相模の要衝小田原城を手に入れた後、永正7年（1510）、早雲の軍は権現山城（横浜市神奈川区）において、山内・扇谷両上杉の連合軍によって大敗北を喫し、早雲は両上杉の壁の厚さを思い知らされました。そこで早雲は、両上杉を直接相手にしたのでは勝目はないと判断し、扇谷上杉の重臣で相模国中央部から東部にかけて勢力を持つ三浦氏の討滅に的を絞りました。永正9年（1512）8月、早雲の軍勢は三浦氏の本拠・岡崎城を急襲しました。時の当主・三浦道寸（義同）はついに支えきれず、この住吉城に逃れました。奮戦むなし、ここ住吉城でも戦いに敗れ新井城 （三浦市）に逃れました。この時、道寸の弟・道香は逗子の延命寺境内で、家来たちと自害したと伝えられます。永正13年（1516）、三浦の新井城も早雲によって攻められ、三浦一族は滅亡しました。新井城址には三浦道寸の墓がある。このときに北条早雲が三浦道寸攻略のために築城したのが玉縄城です。
○「三浦胤義遺孤碑」(逗子4-12)
図書館から西に向かい田越川を渡ると、左側マンション(京急新逗子駅東側)の手前の駐車場に「三浦胤義遺孤碑」があります。三浦胤義は、源頼朝の右腕となり鎌倉幕府の創設に貢献した三浦一族で、創設後は主要な役職を任されていました。源頼朝の台頭による武家社会を面白く思わないのが旧政権朝廷。次第に緊張が高まり、起きたのが「承久の乱」です。この戦いが、兄・三浦義村と弟・胤義が敵と味方に分かれて対峙するという不幸を招きます。この戦いの結末は朝廷側が敗れ、弟胤義はこの戦いで亡くなります。そして、現在の横須賀市大矢部の祖母のところにいた三浦胤義の4人の子(9.7.5.3歳)が、この田越川で首を切られたそうです。この碑は大正11年に、その霊を慰めるために建てられました。
○「亀ヶ岡八幡宮」(逗子5-2)
逗子市役所の北に「亀ヶ岡八幡宮」があり、市役所東側に参道入口があります。勧請の年月は明らかではありませんが、『新編相模風土記稿』によれば「八幡宮、村の鎮守なり、延命寺持」とあり、古老の言によると、昔は真言宗延命寺が別当として管理し、御神体は常には同寺に安置され、大祭にあたってこれを奉持し、行列を連ねて社殿に遷し、祭儀を執行するのが例であったと伝えます。常には古くからの慣習で「亀岡八幡宮」と呼称し、亀岡の称については、当社の境内は公の地籍上「高畠」という小字になっており、なだらかな岡で亀の背中のようであったというところから、鎌倉の「鶴岡八幡宮」に対し「亀岡八幡宮」と名付けられました。
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