三浦市さんぽ「油壷・三浦霊場満願所から新井城跡」
◎『三浦一族の悲話伝説』
三浦一族には、次の悲話伝説があります。
《今から500年の昔、神奈川県の三浦半島には、平安の昔より続く三浦一族という豪族が勢力を保っていた。その中でも特に有名なのが、三浦一族最後の首領といわれる三浦道寸義同（よしあつ）と、道寸の子である荒次郎義意（よしおき）である。三浦一族の本拠地である新井城（現在の油壺マリンパーク付近）に行くには、どうしても小網代の引橋(外の引橋)を渡らねばならなかった。このころ、この引橋の近くで茶店を出す老夫婦がいた。三浦一族は、小田原を本拠とする北条早雲ひきいる北条一族と対立を深めていく。永正9年（1512）平塚の岡崎城を奪われたことをきっかけに、三浦半島まで追い詰められた三浦一族は、網代にあった新井城に立てこもり最後の抵抗を始めることとなる。そんなおり、この地域は大変な賑わいとなった。老夫婦が営む茶店も繁盛を極め、人の良い老夫婦は見知らぬ旅人にまで新井城の話を、自慢げにすっかりしゃべってしまった。その中に、北条側のスパイが混ざっていたことなど、老夫婦には予想できなかった。三浦一族の最後のとりでとなった新井城は、敵を寄せ付けない名城であった。さすがの北条早雲も攻めあぐね、「兵糧攻め」に取り掛かる。さすがの新井城もこれにはかなわず、三年間たてこもったものの武士たちの食べるものはおろか、矢や衣服、暖を取る燃料など、全てに事欠くようになっていった。
それでも、命からがら脱出した三浦道寸の妻は、わずかばかりの従者を連れ、身重な体を引きずりながら逃げ惑った。現在の真光院という寺の脇にかかる急な下り坂「なもた坂」を見つけ下っていった。やっと水を得た道寸の妻であったが、それまでの無理がたたりその場で死産してしまった。妻は大いに悲しみ、川のたもとに我が子を埋めてねんごろに葬ると、若き生涯をこの淋しげな小川で自害して果ててしまった。後世になり、もし妊婦がこの小川の脇を通れば、必ず同じお産の苦しみを味わい、また産後に亡くなった女性は、あの世でも同じ苦しみに遭うという俗説が広まることとなった。
その頃、なもた坂からほどなく離れた今は高山と呼ばれる高台では、新井城を眼前に見下ろす北条方の軍勢が陣を張っていた。対する新井城では、もはやこれまで。そう覚悟を決め、新井城から敵陣に切り込んだ一人の男がいた。その名も三浦荒次郎義意。三浦道寸の子にして、弱冠ながら身の丈は七尺五寸、2ｍを越える金棒を振り回して縦横無尽に切り進むからたまらない。その中でも豪勇の誉れ高い若武者4人が先陣を切り、荒次郎義意に立ち向かっていった。しかし、たちまち倒されすっかり覚悟を決めた4人であったが、「その武者ぶり、まことに天晴れなり。いまここで討ち取るのはたやすいが、これほどの人物なら、必ず世の為に役立つであろう」と、その勇敢を惜しんみ許したといわれている。それから程なくして、追い詰められた荒次郎義意は自らの首を掻き切って自害。道寸義同率いる三浦一族は、そろって切りあい、城の崖下の湾に身を投げ、入り江の海水は血と油で真っ赤に染まり、油壺の名の由来となる程であった。この時の4人は荒次郎義意と道寸義同が死んだことを知るや、その恩義に報いるときは今と、道寸父子の後を追い自刃してしまった。この哀話を聞いた村人達は、4人が自刃した地に塚を2つ造り、この若武者4人をねんごろに弔ったといわれている。
引橋のたもとの茶店では、老夫婦が自責の念にかられていた。「誰かれかまわず、よそ者にまでお城のことをしゃべってしまった。そのせいでお城は落ちたのだろうか。もしそうなら、三浦のお殿様に申し訳ない。」やがて、老夫婦が顔をほころばせつつ自慢げに新井場のことを話した相手が北条家のスパイであったことを知ると、老夫婦は良心の呵責に耐えかね、おろかな自らを嘆き悲しみ、せめてものつぐないにと心中してしまったのである。後になって、この老夫婦の非業の最後を知った里人は、老夫婦を不憫に思い、その霊を慰めるために、茶店の跡（現在の三崎警察署の前のバス通り付近）に夫婦地蔵を祀り、ねんごろに供養したという。》
○「三浦霊場満願所」(南下浦町菊名1260)
引橋(三崎口側)バス停の南に「三浦霊場満願所」があります。昭和52年12月12日に開かれた14000�屬寮暫呂如�弘法大師開札の四国八十八カ所、花山法皇、大和長谷寺の徳道上人が定めた西国三十三観音、西国三十三観音を真似た坂東三十三観音、さらにそれを真似た秩父三十四観音の全部が1日で巡拝できる場所です。かつてこの地方を支配した三浦一族の供養塔があり、さらに龍雲山聖観世音菩薩像を中心として、右手には袈裟を付けた沢山の子供の観音様が並んでいます。
○「外の引橋」(三崎町小網代)
さらに南に向かうと、「外の引橋」があり説明板があります。引橋とは、敵の侵入を防ぐため水平に引くことのできた可動式の橋のことです。外の引橋は、現在陸橋になっている辺りで、峡谷になっており最も狭められたところで、外城の大手口にあたります。室町後期、三浦義同が北条早雲との戦いでこの橋を引いて防衛したといわれています。ここは外の引橋で、内の引橋は現在の油壷マリンパークの手前にあり、三方が海に囲まれた最も狭いところに掛けられていました。
○「高山の義士塚」(三崎町小網代)
松崎入口バス停の手前で右の油壷への旧道に入り、配水塔から最近は住宅地になってしまった中をしばらく歩くと、左手のキャベツ畑の中に小円墳のような塚が大小2つあります。これが「高山の義士塚」といわれ円墳説もあり、三浦義同の家臣の大森・佐保田父子がここで切腹したとも、北条早雲の家臣4人のお墓ともいわれています。西方の大きい塚はお花も添えられていますが、上ってみることもできます。
○「庚申塔群」(三崎町小網代)
義士塚から西に下って行くと、三差路の辻の左手に「庚申塔群」があります。石塔が9基ありますが、左の2基は馬頭観音で庚申塔は7基です。
○「なもた坂」(三崎町小網代)
さらに西に下って途中から南に向かうと、真光院の裏側を南東方向に下る坂「なもた坂」(なも田坂、なもうた坂)があります。坂の名前の由来は、近くの小網代の名主だった高橋家の屋号「なもた(田)」からとも、「名向」がなまったなど諸説あります。県道ができるまでは三崎から小網代に至たる主要道でした。永世15年（1518）北条早雲に攻められ、新井城の三浦道寸義同は自害します。道寸の身重の愛妾は城を逃れ、なも田坂の坂下の小川近くで赤子を産み落としてしまいます。愛妾は橋のたもとに赤子を手厚く葬り、自ら命を断ったといいます。以来、この橋を産後三十三日を過ぎない女性が渡ると禍が降りかかるといわれ、塩で清めてから渡ったといいます。今は小川も暗渠となり橋もなくこの坂を通る人も少ないですが、坂だけは昔の面影を色濃く残しています。
【聖徳太子塔と馬頭観音】
なもた坂の坂下に、聖徳太子塔（右）と馬頭観音（左）があります。
【向坂】
なもた坂の坂下から南方向に上る坂は「向坂」と呼ばれています。坂上は県道216号の名向小入口交差点です。
○「真光院」(三崎町小網代536)
「真光院」の開山は治承4年(1180)入阿上人によります。永正年間(1501〜21年)に、三浦義同父子の信仰を受け、一族の隆盛を祈願した三浦氏ゆかりのお寺です。本堂には、法衣の胸に三浦氏の家紋をつけた義同父子の木像があります。衣冠束帯で、像高38cm、寄木造、玉眼入りの座像です。本堂脇の観音堂には、聖観音立像があります。これは、幕末に浦賀奉行所与力の中島三郎助が函館五稜郭に向かう折り、部下の佐々倉松太郎に頼んで、御浜御殿からここに移したものといわれています。像高54cm、寄木造、玉眼入りの像です。
【庚申塔】
墓地の片隅に4基の庚申塔があります。
【向坂新道】
真光院の前を南東に名向小入口交差点に上る坂は、「向坂新道」と呼ばれています。
○「海蔵寺」(三崎町小網代1508)
真光院から北に向かい小網代湾に下って行くと、百段あまりの階段の上に「海蔵寺」があります。開山は逗子市沼間の海宝院の第二世・霊屋上人、永正13年(1516)三浦義同の開基と伝えられています。かつては石段の下にありましたが、北条早雲との戦いで戦火に遭い、江戸時代末期に現在の場所に再建されました。古くは寺宝として義同父子の肖像一幅がありました。本尊の十一面観音像は行基の作と伝えられ、義同の守護仏であったといわれています。三浦観音三十三カ所の32番。
【飛首伝説の絵馬】
本堂正面には、飛首伝説を描いた絵馬が奉納されています。この伝説は、新井城落城の時、義同の子三浦義意はみずから首をかき切ると、その首が飛んで小田原の海岸の松の枝に掛かり、3年間もそのままでした。高僧を呼び供養しましたが、効果がありませんでした。そこで、義同ゆかりの小田原の総世寺の僧・忠室が「うつつとも 夢とも知らず ひとねむり 浮世のひまを あけぼのの空」と詠んで供養したところ、たちまちのうちに首は白骨になったというものです。
【道寸祭と笠懸】
毎年5月に新井浜で道寸祭が行われます。三浦一族終焉の地となった油壺、新井城での北条早雲との壮絶な攻防は三年にも及び三浦道寸、荒次郎親子の豪勇振りや、落城の際、道寸と将校のほとんどが油壺湾に朽ち落ちたとされる悲話は、今も波静かな入江の佇まいの中にその面影を忍ばせています。道寸祭りでは、三浦一族を偲ぶ供養祭とともに、三浦一族のお家芸として永く伝えられてきた「笠懸」が披露されます。
○「白髭神社」(三崎町小網代1516)
海蔵寺の東方に「白髭神社」があります。祭神は中筒男命(なかつつのおのみこと、海上守護の神様)。社殿は、三浦義同が改築したと伝えられています。地元では、航海安全･大漁の神として漁師さんの信仰を集めています。
【カンカン石】
本殿前の細長い石は、カンカン石という石のイカリで奉納されたものです。江戸時代、子網代港が江戸へ向かう船の寄港地、風待ち港として賑わった名残です。叩くと、カンカンと金属音を響かせます。
【三浦七福神・長安寿老人】
御神体の長安寿老人は、三浦七福神の一つです。
【小網代の森】
白髭神社の東方、引橋の谷戸の奥から発した小川が小網代湾に注ぐ間の谷戸と、小網代湾の干潟の自然環境を総称して「小網代の森」といっています。 ここは観光地でも公園でもなく、もともとは谷戸田だったところが、時代の流れで次第に田圃が放棄され、手入れをする人もいなくなり自然に戻ったものです。ところがこの地区の開発計画の話が出てから、ご多分にもれず自然保護派の人々の注目を浴び、貴重な自然環境ということが明らかになり、保護が叫ばれるとともに、大勢の人が訪れるようになっています。
○「永昌寺」(三崎町小網代1425)
海蔵寺の西方に「永昌寺」があります。開基は三浦義同。もともと康安寺といい、荒廃していたのを義同が天明元年(1504)に再建し、その法名から永昌寺と改名したと伝えられています。天明2年(1782)に描かれた義同父子の肖像画が残っています。三浦系図一巻もあったそうですが、焼失してしまったそうです。お寺の上の荒井の里には、子院の霊照院があります。三浦義意の妻の法名をとったものといわれ、堂内には霊照院の持仏であったという大日如来像が祀られています。墓地の中央に、彼女のものと伝わる卵塔のお墓がありますが、後世のもので本当のお墓かどうかは不明です。
【庚申塔】
本堂脇に、地蔵堂と馬頭観音塔2基と一緒に2基の庚申塔があります。
○「内の引橋」(三崎町小網代)
油壷バス停から油壷マリンパークへ行く途中、左手験潮所へ下る道のある海の見えるあたりが、新井城の木戸口(内城の大手口)で「内の引橋」がありました。三方が海に囲まれた最も狭いところに掛けられており、ここにあった引橋を離すと陸路はなく要害堅固な島城になりました。
○「新井城跡」(三崎町小網代)
小網代湾と油壷湾の間に突き出た半島の先端部に、「新井城」の中心がありました。現在では、東京大学臨海実験所や油壷マリンパークあたりになります。三浦氏は宝治合戦の後、居城を何回か変え、永亨10 年(1438)三浦時高の代に、自然を利用した平山城である新井城を油壷に築造したといわれています。実験所構内には、城の様子を知ることのできる土塁・空掘・平場などの遺構が残っています。また、本丸跡や敵を偵察する高櫓跡と思われる場所もあります。永正13年（1516）ここで後期三浦氏は滅亡しました。マリンパーク前の駐車場あたりで新井城最後の合戦が行われました。
【三浦義同・義意の墓】
マリンパーク右手には、この辺りで戦死したという三浦義意(よしもとorよしおき)のお墓がありますがあります。また、胴網の浜へ下る道の途中、小網代湾を望む断崖の上の二の丸跡という場所には、三浦義同(よしあつ)のお墓があります。お墓の左面には、落城の際に詠んだ「討つものも 討たるるものも かわらけ(土器のこと)よ くだけてあとは もとの土くれ(土の塊のこと)」という辞世の歌が刻まれています。
【千駄やぐら】
臨海付属実験所の左手の崖に「千駄やぐら」がありました。新井城の食料貯蔵庫として使用されました。どのくらいの食料が貯蔵されていたかというと、1駄とは馬の背に米俵を2俵積む事で、1駄=2俵、1000駄＝2000俵ということになります。このほかに、6畳敷のやぐらが7つあったといわれています。幕末のペリー来航時には、浦賀からここに米俵を運び込んだともいわれています。三浦氏の城兵2000人が、7000人もの北条軍に対して、3年間も籠城することができたのは、このやぐらのおかげと、城ヶ島に家臣を配置して海からの物資輸送ルートを持っていたか
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