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2015年07月21日11:55

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四方田犬彦著「わが煉獄」を読んで




照る日曇る日第800回


 映画や文芸評論の本を読んだことはあるのだが、詩集も数冊出している著者の最新版をちょっと読んでみましたが、なかなか難しい、というかコメントしずらい作品です。

 ダンテを思わせるいかめしい表題につづくのは、なんだか途方もない罪業を犯した卑少なおのれを厳しく罰してほしい、とヨブのように叫び続ける著者の内面の告白でした。

 「わたしの軀を牛糞で覆ってほしい/軀だけではない わたしの魂にも」

 などと訴えられても、読者である私にはどうすることもできません。

 世界中を呑気な観光客のように遊覧するとみえたのは、おそらく表向きの陽気な見世物で、放浪する主人公の魂は、かのヴェルギリウスのように悲痛で、かのシャーミッソーのごとく憂愁に浸され、かの彷徨えるユダヤ人のごとく絶望に閉ざされ、、かのランボーのごとく狂気に満ちているのでしょう。

 もちろんここで繰り広げられているのは「煉獄」のような暗黒世界だけではありません。

 詩篇の中には、カルタゴに捕えられて両瞼の筋を切られたローマの将軍レグルスや、仏蘭西革命の革命家マラーを暗殺したシャルロット・コルデーへの「讃歌」、2004年のコソボ暴動にまつわる悲劇のドキュメントなど、古今東西の史実や多種多様な題材がちりばめられていて、読む者をけっして退屈させることはありません。

 その詩文が、あまりにも知的かつ散文的でありすぎる、などと呟いたりするのは、蜀を得て隴を望む者の不遜な嘆かいでありましょう。

 
    早朝は軽トラ多しわが国の土台を支える人たちが行く 蝶人

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