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2015年06月30日07:39

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怪力乱神劇中劇 『僕の考えた世界のハッピーエンド〜全人類均一化計画』

短編小説 怪力乱神劇中劇
『僕の考えた世界のハッピーエンド〜全人類均一化計画〜』

第?話 『海は広いな大きいな』

俺は海が好きだ、大好きだ。
広い世界と潮の匂い、岩で砕けてキラキラと輝く波しぶき。
これを見る度に、俺はこの漁師の家の子として生まれてよかったと思う。
父から漁の仕方を教わりつつ兄弟や友達と共に海で遊んでいく。
タコに足を捕まれた時は本当に怖かったが、あのタコも生きる為に自分にしがみついたのだと思うと、気持ち悪い思いと共に申し訳ないと思う。
俺はこの海が好きだ、大好きだ。
生きる為に巨人にしがみついたタコに負けないように、俺もこの海で沢山の魚と、波と、風と戦って生きるんだ。
それが俺の生き方だとずっと信じていた。
あの男がこの寂れた町に訪れるまでは。




第1話 ぼくのおとうさんとぼくとぼくのせかい

僕はとても賢い家系から生まれた、生まれた時からの天才です。
お父さんは考古学者で、とても難しい事を簡単に教えてくれます。

弥生時代の生活の仕方。
フランス王朝のマナー。
第二次世界大戦の恐怖。

他にも他にも沢山教えてくれました。
そしてそれを聞いて、僕は『世界は何てバカなんだろう』と実感しました。
戦争は将来生まれる無数の才能を一瞬で刈り取るし、他の文明で必死に探して見つけた事を、その遥か数百年前に証明されていたり。
人間が皆世界中の歴史を正しく学べばきっと、もっと素晴らしい世界が作られていくんじゃないか、
僕はそうおもいながら、お父さんから知識を吸収しながらすくすくと育っていきました。


第☆話 『無数の星の一つが消えても、気づく人は少ない』


先日、知り合いのお婆ちゃんの姿が見えなくなった。
元々偏屈な性格で町の人に嫌われていたが、それでも誰かが居なくなるのは寂しいものだ。
いつも右の耳に銀のイヤリングを付けているのを覚えている、悪趣味だなと思っていたからだ。
俺は自分の家族が皆元気で巣立って行けるよう頑張らなくちゃいけねえな!



第2話 私とあの方と私の計画。


そして数十年後、私は『女帝』と共にある計画に参加し、憤怒を任される事になった。
女帝は言った。
『罪を恐れるのではなく理解する事で、我々人類の許されざる大罪は救われる希望に代わる。
貴方は私達の中で最も多くの事を知っている。
貴方ほど賢明な者なら、愚者の罪と呼ばれる憤怒計画を任せるに充分値するわ』

憤怒……私にぴったりじゃないか。
私は喜んで『憤怒計画』を構築し始める。
怒りはその元を知れば、必ず改善策が見つかる。たとえ見つからずとも、全員が怒りの理由を知れば暴力も革命も必要なくなる。
それは何て素晴らしい事だろう。繰り返される歴史は破壊され、その影で蓄積される悲しき死は栄光の未来に代わるのだ。

だから私が『憤怒計画』に置いて見せた目標は、『全人類が他者の記憶と感情を共有できる計画』。
だが科学の力でその計画をこなすのは、あまりに危険だった。
科学では原理さえ知れば誰でも使える故に、誰でも簡単に悪用出来てしまうからた。
だから私は太古の力に頼る事にした。
私の父が最後に研究していた場所は昔、魔法の国と呼ばれていた。
それは比喩でも象徴でもなく、本当に魔法を操る事が出来る国なのだ。
しかしそれは数百年も昔の話。
今から数百年前に生きた魔法が存在していた。
だが世界が科学を信仰していた為に魔法文化は廃退し、消えていった。
私はそこに希望を見いだし、知識の宝を手に入れる為魔法の国へ足を踏み入れた。
そこは今や古びた町となっていて、漁業だけで成り立っている町だった。



第◇話 漁師として、男として
俺はこの海で生まれ、この海で育った。
この海の怖さや楽しさはまだまだ知らない事が一杯ある。
俺はそれを大切な奴に伝えなくちゃいけない。
だから俺を誘拐するのを止めろ、俺を闇の中に引きずり込むのを止めろ、無機質な部屋に閉じ込めるのを止めろ!
暴れる俺の目に飛び込んだのは、取り押さえた若いスーツ姿の男の片耳にあの悪趣味な銀のイヤリングが付いていた事だ。
何故だ、何故お前がそれを付けている。
それはお婆ちゃんの孫が作った大切なイヤリングなんだぞ!?
叫んだ俺に、若いスーツ姿の男は三日月のように細い笑みを浮かべてこう言った。

「忘れちまったよ、そんな昔の話は」

目を丸くして驚愕する俺の前で、扉が閉まり闇が俺を閉じ込めた。


第3話 魔法の国の置き土産

遂に見つけた!魔法の国に残された魔法書庫の数々、そこに陳列された本は埃と蜘蛛の巣に隠されようとも輝きを失ってはいなかった!
私は夢中で埃だらけの本を手に取り、魔法の知識を吸収していく。
科学に埋もれても、知識は消える事は無いのだ!
素晴らしい、知識とはやはり素晴らしい!私は知識を吸収し貯蓄し、最後にようやくこの本を見つけた。
『ダンス・ベルガード』が書いた魔導書、そこに記されていたのは『自分の知識・人格・記憶…つまり『魂』を他者もしくは無機物に移す術』。
これだ、この魔術を知りたかったんだ。
遂にたどり着いた、私の希望!
それは私の暗い人生の闇が、この一瞬で光に変わった瞬間だった。



第★話 『暗闇に光が射し込んで…』

暗闇が俺を包み込む。
それがどうした、今更夜の怪物に怯えるものか。
俺は必ずここから脱出し、家に戻る。壁を何度も殴り、蹴り、破壊しようと試みたいが…暗闇は壁すら隠したのか、俺が幾ら走っても壁にたどり着けない。
ならば床を踏み壊せばいいと思い、思い切り足を踏み鳴らすが…。
暗闇は床すら隠したのか、何も感じない。
俺は浮いているのだ。暗闇の中で。もしかしたらあの扉が閉まった時床は落とし穴になり、俺は落ちてしまったのか?
だが暗闇は風も隠したのか、落ちている感じもしない。重力を隠したのか、浮いている感じもしない。
はねさ 一体どうなっているのか俺もわからない。
真っ暗な闇の中に俺が存在している…ただそれだけは分かった。
不安と恐怖が少しずつ俺を蝕む、だが負けてたまるか。
俺は絶対消えない、この闇の中に消されないからな。
やがて頭上から光が射し込んでくる。やった、出られる!
そう思い歓喜の表情を上げて光の方を見上げると、
そこには俺が存在していた。


第4話 『全人類均一化計画の始まり始まり』

駄目だった、全然失敗だ。
私は町に住むある老婆に実験を協力してもらい、老婆から記憶を分けて貰った。
老婆の魂が私の中に入り込んでくる。
その知識は住む私が知っている物だったが、その感情と経験は私の知らない物だった。

愛しき人との思い出、苦難しながら充実した生活、子育ての苦労と優しさ…全て私の知らない物だ。
なんて事だ。たった一人の魂の中にこれ程までに感情を揺さぶられてしまうとは。
危険過ぎる。これでは全人類が老婆の記憶で狂ってしまう!
この計画は失敗だ!駄目だ駄目だったんだ!
折角私の全ての知識を使って作り上げた計画が、たった一人の記憶の為におじゃんだ!
…まてよ、ならば逆に私の記憶を老婆に渡してみてはどうだろう?
いや、それでは老婆が中途半端に狂うだけだ。意味がない。
苦悩する私の耳に、或る少女の声が聞こえてくる。

『可哀想ね、貴方。
この世界で最も賢い貴方でも全人類の知識を共有するのは難しいわね。
ならば、全人類が貴方と同一の存在に成れば全てが解決するのよ』

そうか、そうさ、そうなのだ。
やるならば徹底的にやらなければ行けないのだ。
私は有り余る知識を活用し、魔術を改造した。
『自分の魂を他者に渡す』魔術を『自分の記憶で他者を染め上げる』魔術に変えたのだ。
初めての実験は老婆に対して……成功した。老婆は意識や性格だけではなく、姿形まで私と全く同じになった。
成功した。否、それ以上の成果が得られた。
全人類均一化計画の答えはここにあったのだ。
全人類が人格を均一化させた所で、何の解決にもならない。
だが全人類にある人格を与えてみればどうだろうか?
同じ人格同士であればいざこざが起きても直ぐに解決できる。
私の人格を、全人類に植え付けるのだ。それで全て救われる、何故こんな事に気付かなかったんだろう?
私は縁の少ない人間を集めては実験し、少しずつ『私』を作り上げていく。
そして今、私の前に『俺』が現れた。


☆最終回★『全人類均一化計画』

俺の目の前に俺が居る。
暗闇の中、俺が俺を覗き込んでいる。俺が今までの人生で一度も浮かべた事の無い笑みを浮かべながらこちらへ近づいてくる。
やめろ、やめろ!来るな来るな!
叫ぶ俺を俺が嘲笑しながら近付いてくる。
俺は逃げたいけれど、暗闇が足を隠してしまったせいで足掻く事が出来ない。
抵抗しようと拳に力を込めようとしたけど、暗闇が手を隠してしまったせいで命乞いさえ出来ない。
俺に許されたのは悲鳴を上げる事だけだアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
俺の目の前に俺が立つウウウウウウウウウウウウ!!!
俺は瞳を震わせながら、嘲笑する俺を見て見つめて向こうも見つめ返して……その目が溶けたアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!
ドロリドロリと俺の体が、顔が全てが無くなっていくウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!
そして俺はアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!
アアアアアアアアアアアアアアアアアア消える消える俺が消える消えて消えて消えていく俺が俺が俺がいなくなっていくウウウウウウウウウウウウ何処だ俺は何処だ私は何処だ私は何処にいるウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ俺は私は今アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア私がアアアアアアアアア私が悲鳴と共に生まれるウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!
ヤメテヤメテヤメテエエエエ俺を消さないでエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!


〜エピローグ〜

そして、私は部屋の扉を開け、誰もいない部屋を確認してから扉を閉める。
私は私の体を少し触り、その感触を確かめ、笑みを浮かべる。
そうだ私は……私が人類を均一化させ幸せにする。
この全人類均一化計画(皆私に染まる計画)なら全人類を幸せに出来る!
女帝よ、待っていたまえ!
貴方の憤怒はもはや誰も傷付けない!皆貴方を慕い、皆貴方の為に生きるのだから!
全ての他者の人生は貴方がハッピーエンドになる物語のための劇中劇でしかない!
女帝よ、笑みを湛えて待ちたまえ!
貴方の幸せはすぐそこにあるのだから!





『怪力乱神劇中劇』の帳はここに降りる。


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