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2014年12月31日18:17

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C-2輸送機の輸出構想は、「画に描いた餅」 事実を踏まえない空虚な政策は止めるべき

 下記は、2014.12.31付の 東洋経済オンライン 清谷 信一 氏の記事です。

                       記

 現在、航空自衛隊は国産機として現在使用しているC-1輸送機(川崎重工業)の後継である「C-2輸送機」を開発中だ。ただし相次ぐ不具合の発生により、その実用化は大きく遅れており、調達予定単価も大きく高騰している。

 そんな中で、政府はC-2を民間用輸送機へと転用し、海外の航空市場で売ろうと画策している。政府の予算によって日本航空機開発協会が海外マーケットの調査を実施。その調査結果によると、2026年までにロシアなどのCISや中国を除くマーケットで現用の旧ソ連製アントノフ-124、イリューシン-76、ロッキード社製のL-100などの機体の後継機が230機ほど必要となり、そこには大きなマーケットが存在すると報告している。

 これらの機体は、いずれも後方にランプドアを有しており、通常の航空コンテナだけではなく、ヘリコプターや航空機のエンジン、美術品など、大型貨物を搭載できる。同様の能力を持っているC-2の民間転用機は、充分に海外マーケットで戦えるというのがレポートの趣旨だ。

 日本のマスメディアも、あたかもC-2輸送機の輸出プロジェクトは有望であるかのような報道をしている。2015年に入ってからも、おそらくこうした防衛産業の輸出に関する、未来への希望に満ちた報道が次々に表れるはずだ。だが、賢明な読者はそうした報道を鵜呑みにしないでほしい。C-2輸送機の輸出構想の実態を見ていくことで、日本の防衛産業の非常識ぶりを明らかにしていく。

 まず、踏まえなければならないのは輸出をするための規制をクリアできるかどうか、だ。民間市場で売るならば欧米の耐空証明を取る必要がある。

 このためエアバスはC-2とほぼ同じサイズの新型輸送機A400Mの開発にあたっては開発と平行して耐空証明をとる作業も行ってきた。耐空証明を取るためには巨額の費用と多くの試験が必要であり、開発と同時に耐空証明取得の作業を行うのはコストを削減するためだ。

 だが川崎重工業は耐空証明を取るための作業を行っていない同社には耐空証明をとった実績がないので、作業に慣れたエアバスやボーイングなどよりもより多くの時間とコストがかかるだろう。実際にMRJを開発している三菱航空機と、その親会社である三菱重工業にとっても、これは大きな苦労だ。しかもC-2はMRJとは異なり、国内で開発した専用のコンポーネントが多く採用されており、これらも個別に証明を取る必要がある。

 C-2の耐空証明を取るためのコストは機体の2機程度分のコスト(およそ400億円)ほど、掛かる可能性がある。コンポーネントを実績のある外国製に置き換えれば、その分コストを抑えることができるが、事実上別な機体となるので再設計と、各種試験なども必要であり、これまた大きなコストがかかる。

 C-2の民間転用機は売れてもせいぜい20機もいかないだろう。対してMRJは最低でも500機ほどの販売を見込んでおり、耐空証明を一機当たりに割り振ればコストはかなり小さくなる。

 そもそもC-2は調達単価が高い。ペイロードが約77トンと、C-2の2倍以上もあるボーイングC-17と同じ程度だ。円安が進んだ現在でもロシアやウクライナ、エアバスなどの競合機と比べても割高だ。しかもまったく実績がない。当然、緊急時に他のユーザーからパーツなどを取り寄せて急場を凌ぐこともできない。その上使用コンポーネントも専用なので、維持コストがかなり高くなる。

 自衛隊もPKOなどではアントノフの大型輸送機に車輛やヘリなどの輸送を頼んでいるが、滑走路が舗装されていない空港でも運用が可能だからだ。だがC-2は軍用戦術輸送機でありながら舗装された滑走路でしか運用できず、アフリカなどの奥地の空港では使用できない。当然C-2を採用した会社はこのようなPKOなどの案件を受注できず、ビジネス機会を失うことになる。

 また空自は未だにC-2のペイロード(積載量)は30トンとしているが、機体の強度不足の不具合で補強をする必要があり、その分ペイロードは低下するだろう。既にC-2のペイロードは26トン程度との新聞報道もある。また防衛省の最新のライフ・サイクル・コスト報告ではC-2のペイロードをC-1の約3倍としている。C-1のペイロードは約8トンであるので、24トン程度ということになる。

 C-2の「売り」のひとつは他の戦術輸送機よりも早く、ジェット旅客機並みの速度で民間旅客機の使用するルートを飛行できることとなっているが、重量が増加すれば当然速度も低下する、そうなればセールスポイントの一つが無くなることになる。

 防衛省の内局では性能低下をあきらめて早く実用をすべきだという意見もでている。そうすれば開発費や製造コストがこれ以上上がらないだろうからだ。だが空幕はメンツもあり、性能低下を許容したままの実用化を拒んている。C-2は現在平成28年度の実用化を目指しているが、それが実現するかどうかは予断を許さない。

 そもそもC-2をめぐっては、おかしなことが多い。空幕は東日本大震災補正予算でC-2を2機、約400億円で調達した。震災などの緊急時にはC-2が有用との理屈からだが、当時からC-2の開発は遅れており、震災の補正予算という緊急予算で要求する必要性はなかった。そもそもこのような装備は防衛省の本来の予算で要求すべきものだ。

 不整地で運用できないC-2が被災した直後の仙台空港のような環境で運用できない。当時空自の松島基地に強行着陸したのは米特殊作戦軍団のMC-130輸送機で、あり仙台空港におりたのは米軍のC-130H輸送機などだ。彼らはこのような非常時でも離着陸を可能とする機材とノウハウを有している。補正予算で要求するならばそのような組織や機体を調達すべきであった。震災の補正予算で輸送機を要求するならば、少なくとも空自の保有するC-130Hのこのような事態に対処できる近代化や、すぐに入手できる中古のC-130シリーズの調達を行なうべきだった。

 空自のC-2要求は被災者に必要な支援予算を「軍部」が組織的に掠め取ったようなものであり、被災者を喰い物にしたようなものだ。倫理面からも到底許せる所業ではない。それに異を唱えなかった政治家たちの見識も疑われてしかるべきである。

 仮にC-2の民間転用機が数機しか売れなければ、開発コストが利益を上回るし、売れた機体のサポートを最低30年程度は行わなければならない。実際、我が国の航空産業は戦後初めて開発したYS-11が思ったほど売れず、そのサポートをコスト割れで行ってきた。その悪夢の再来となる可能性は極めて大きい。

 しかも売り込みに際しては、営業コストもかかるのだ。どんなにひいき目にみても、ビジネスとして成立する余地はない。

 川崎重工はパリやファンボロ−の航空ショーで長年SJAC(一般社団法人 日本航空宇宙工業会)のパビリオンの自社ブースでC-2輸送機の民間転用機に関する展示を行っているが、権限を持った重役が控えているわけでもなく、真摯に営業を行っている様子はない。実際、筆者が取材する限り、川崎重工の関係者も民間転用機がビジネスと成立する可能性はほとんどないと認めている。

 では、なぜ、あたかも民間転用機が売れるように振る舞っているのか。それは国が掲げている政策に従わねばらない事情があるからだろう。厳しい財政環境の元、防衛費の増額は非常難しく、防衛装備品の調達単価は年々上がる傾向にある。しかも装備品の高度化に伴って維持費・整備費用が増加し、新規の装備調達予算を圧迫している。

 このため防衛・航空の技術基盤を維持するためには自衛隊向けに開発された航空機などの輸出によって、開発や生産コストを低減する方法を模索している。川崎重工はその「お上」の方針に従っている「ふり」をしなければならないわけである。また筆者が取材する限り、防衛省や経産省の現場では、C-2の民間転用機が輸出できるなどと信じている人物はいない。

 航空産業の関係者ならばC-2の民間転用が非現実的なのはよく理解しているはずだ。ところが多くのメディアは政府や防衛省、メーカーなどの発表を疑いもせず、そのまま報道する。その好例が2007年7月3日付けの日経新聞1面。この記事ではC-2「競合するボーイング、欧州エアバスが旅客機を転用しているのに対し、トラックをそのまま積めるなど積載能力が高い」とある。

 この記事を書いた記者はC-2のライバルがA400Mやイリューシンのランプドアをもった軍用輸送機であるというごく初歩的な知識もなく、C-2のライバルがボーイングの767や747などの通常のジェット旅客機を転用した民間用輸送機と誤解している。つまり専門知識がまったくない。このようなレベルの記事が日本を代表する経済紙の一面に掲載されてしまうのだ。

 では軍用機としての輸出はできないのだろうか。軍用機であれば耐空証明を取る必要はない。実際にUAE(アラブ首長国連邦)などから打診が来ているという。だが、先に述べたようにC-2は不整地の滑走路で運用できない。これは戦術輸送機としては致命的な問題である。

 またオフセットの問題もある。軍の装備の輸入に関して、輸入国からは見返りとなるオフセットを輸入金額の一定パーセンテージ要求される場合が普通である。これにはその装備の一部の生産など生産や技術移転を要求する直接オフセットと、その装備を輸入する代わりに、輸入国の輸出したい物品、例えばりんごやワイン、鉄道など、直接関係ないものの輸入や、その国に対する投資などを要求する間接オフセットに大きく分けられる。

 前者の場合対応が可能だが、後者のような間接オフセットは防衛省や経産省だけでは対応が難しい。そもそも我が国は武器輸入大国でありながらオフセットを行使したことがない。それは他国では当たり前の、装備の調達では必要とされる数量、調達期間、予算総額が議会で承認されるシステムが取られていないからだ。 これは世界的に見て極めて奇異であるだけではなく、予算管理上が事実上されてないことを意味する。

 プロジェクトの総額と期間が分からなければ、輸入額のパーセンテージに相当するオフセットの設定も、それをいつまでにそれを履行するかも決定できない。このためオフセットの行使ができなかったので、オフセットに関するノウハウもない。

 政府の武器輸出やその民間転用品輸出振興の掛け声だけは勇ましいが、武器輸出入の現状を把握しているとは言えず、理念だけが空回りしている。防衛省のこの種の「有識者」を集めた審議会でも呼ばれるのは「有識者」とは呼べない武器取引の現場も知らない人たちばかりで有識者会議とは羊頭狗肉の感がある。

 防衛省の開催した「防衛省開発航空機の民間転用に関する検討会」議事要旨には国が輸出を目論むUS-2飛行艇の消火型に関し以下のように分析している。「消防飛行艇の市場は、世界で180機程度であり、全てをUS-2の民間転用機に置き換えられれば、現在の消防飛行艇の市場価格であるCL415・1機あたりの価格約30億円と対抗できる価格帯になる可能性あり」。

 だが、競合機と想定されているCL415(現在はボンバルディア415と呼称されている)は76機以上が量産されている。双発で最大離陸重量は陸上では19.95トン、水上では17.24トンである。価格は25億円である。対してUS-2は最大離着陸重量 47.7 トン、最大離着水重量は43.0 トン、機体重量は2倍で調達単価は1機120億円であり、事実上別なカテゴリーの機体である。CL415は双発、対してUS-2は4発で運用コストも桁違いに異なる。更にCL415ユーザーがUS-2に乗り換えるならば、ハンガーや機体の洗浄設備などに対する投資も必要となる。

 このようなお伽話を大まじめに論じてもマトモな結論がでるはずもない。それを「有識者」たちが、大まじめに議論しているのは滑稽ですらある。

 航空機などの大型プラットフォームよりもコンポーネントや素材のほうが余程有望である。武器輸出を目指すのであれば、実現の可能性が低い「大物狙い」よりも、軍事や航空関連の見本市に継続的にパビリオンを出し、コンポーネントや素材を関連のメーカー、特に中小企業の支援するなどの地道な努力をこそを行うべきだ。

 http://www.msn.com/ja-jp/news/money/c-2%e8%bc%b8%e9%80%81%e6%a9%9f%e3%81%ae%e8%bc%b8%e5%87%ba%e6%a7%8b%e6%83%b3%e3%81%af%ef%bd%a4%ef%bd%a2%e7%94%bb%e3%81%ab%e6%8f%8f%e3%81%84%e3%81%9f%e9%a4%85%ef%bd%a3-%e4%ba%8b%e5%ae%9f%e3%82%92%e8%b8%8f%e3%81%be%e3%81%88%e3%81%aa%e3%81%84%e7%a9%ba%e8%99%9a%e3%81%aa%e6%94%bf%e7%ad%96%e3%81%af%e6%ad%a2%e3%82%81%e3%82%8b%e3%81%b9%e3%81%8d/ar-BBhmH7M?ocid=iehp
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