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2009年05月07日14:18

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【音楽】M.Ishii: Thirteen Drums Etc.@Atsushi Sugahara

カメラータの新譜で「木と皮の鼓動」と副題の付いたソロ・パーカッションのアルバム。正確に言うと1996年に初版リリースとなってから廃盤になっていたものの復刻だ。

http://www.hmv.co.jp/product/detail/3547551

・福士則夫:ソロ・パーカッションのための『樹霊』(1995)
・北爪道夫:シャドウズ III-A〜打楽器ソロのための(1976)
・一柳慧:リズム・グラデーション(1993)
・池辺晋一郎:モノヴァランス IV〜マリンバ等のために(1975)
・高橋悠治:狼(1988)
・一柳慧:森の肖像(1983)
・石井眞木:打楽器ソロのための『サーティーン・ドラムス』作品66(1985)

 菅原淳(パーカッション)

このアルバムと同一プログラムのリサイタルが1995年の秋に開催され、その名も「菅原淳パーカッション・リサイタル−−木・皮の鼓動を求めて・・」はこの年の文化庁芸術祭優秀賞を獲得している。

菅原淳は2007年まで読売日響の主席ティンパニストを務めていた知る人ぞ知るヴィルトゥオーゾなのだ。現在は東京音大准教授、東京コンセルヴァトアール尚美(ディプロマ)講師。

このアルバムに収められている作品は全て先の芸術祭に参加する菅原淳のために書き下ろされた曲ばかりで、彼の持つ超絶技巧を十二分に意識した上で作曲されている点では他のパーカッション独奏曲とは趣が異なる。また、多くの打楽器アルバムに見られるような刺激的かつ不快な音が一切入っていないというのも特筆出来るポイントだ。つまり、このアルバムは決して「際物」ではない。

どの曲にもコメントを付けたくなるような素晴らしい作品群だが、その中から敢えて絞って解説するなら「池辺晋一郎:モノヴァランス IV〜マリンバ等のために」だろうか。打楽器はリズムのみの楽器群であり、旋律も和声も無い、という認識は改めた方がよい。このマリンバを中心に据えた曲はちゃんと和音に乗せたメロディーラインを持っており、当然拍子がある。

もう一つ特異なのはマレットを使わないように指示されていることだ。つまり指や手の甲その他、人体の一部をマレットとしているということで、加えて「吹く」という奏法も指定されているのだ。吹くとはどういう事なのかは聴くとすぐに分かる。マリンバは音板と呼ばれる木製の板を叩いて固有周波数の音を出すのであるが、それだけでは音が小さいので下側に設けられた共鳴パイプへ波動を導いて増幅しているのだ。これらは共鳴周波数に長さをチューニングした閉塞管または半閉塞管となっているので、ここへ斜めに息を吹きかけるとリコーダーや尺八のように音を出すことが出来るという訳だ。全体としてはとても柔らかな感触の中をダイナミックな旋律と細やかなリズムが駆け抜けていくという趣向で、とても癒される作品だ。

もう一つあげるなら「石井眞木:打楽器ソロのための『サーティーン・ドラムス』作品66」だろう。これは大小のドラム13個のみで構成される曲で、チューニングされた音程の太鼓を並べて使って音程を表現するものだ。ドラム以外の楽器は一切使われていない点が他との大きな違い。ティンパニも音程のある打楽器なのだが、その構成要素は3個、多くて4個なのに対してこの作品は13個の太鼓を使う。この数は半音階で1オクターブがカバーできる個数(白鍵8+黒鍵5)で、これらを縦横無尽に叩くことで音階、和声、拍子の三要素を全て同時に表現しようと言う前衛的な試みなのだ。この曲は複雑で強い音圧のパルス波と規則的なリズム、そして同時に叩くことによる力強い和声がいっしょくたに耳・体に届き気持ちがよい、というか初めての音楽体験かも知れない。

(録音評)
CAMERATAレーベル、CMCD-15085、通常CD。録音は1995年10月5〜6日、埼玉・秩父ミューズパーク音楽堂。プロデューサー:井坂紘、録音:高島靖久、編集:宮田基樹というカメラータの主力メンバーによる制作。井坂紘は元々日本ビクター勤務だったわけでこの録音もその系譜の機材により制作されている。ライナーには珍しく詳細な機器リストが載っていた。

Mic: Schoeps CMC-52U×2(メイン)、Schoeps CMC-621、Neumann U-87Ai(近接)、AKG C-414ULS×2(アンビエント)、Console: Studer 962、Monitor: GENELEC S30NF、Recording & Editing System: JVC DAS-900(Processor: VP-900、Editor: AE-900V、Deck: CR-8200+BR-8200)

初版のマスターからK2レーザー・カッティングでリマスタしたと襷に書いてあるが、それがどう音質改善に役立っているかは不明。

音質は至って普通というか、奇を衒った音は一切しない結構しっとりと落ち着いた大人のサウンドである。一部のマリンバ強打の場面で破綻しかけるようだが危ないのはその箇所のみ。残りは安心して聴いていられるCDだ。

音像は左右に多少拡がる傾向だがそれ程気持ちの悪い聞こえ方ではない。一部の大口径ドラムに関しては壁抜けして奥まったところへ音場展開する。国内制作アルバムとしては異例な高音質盤と言って良い。但し、パルシブなビームと微細な音波の出し入れが激しく、またダイナミックレンジは非常に広いため、再生は意外に難しいかも知れない。

コンテンポラリー音楽のファン、また、チャレンジャブルなオーディオ・ファンにもお勧めできる高音質盤だ。


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