羅刹文庫創刊に際して
現実逃避は,我が国にとどまらず,世界の潮流のなかで"小さな巨根"としての地位を築いてきた。古今東西の文化を,挿絵で読みやすい形で提供してきたからこそ,人はライトノベルを自分の逃避として,また青春の想い出として,語りついできたのである。
その源を,文化的にはドイツのレクナム文庫に求めるにせよ,規模の上でイギリスのペンギンブックスに求めるにせよ,いま文庫は知識人の層の多様化に従って,ますますその意義を大きくしていると言ってよい。
現実逃避の意味するものは,男根の現代のみならず将来にわたって,大きくなることはあっても,小さくなることはないだろう。
ライトノベルは,そのような多様化した対象に応え,歴史に耐えうる作品を収録するのはもちろん,新しい世紀を迎えるにあたって,既成の枠をこえる新鮮で強烈なアイ・オプーナたりたい。
その特異さ故に,この存在は,かつて文庫がはじめて出版世界に登場したときと,同じ戸惑いを読書人に与えるかもしれない。
しかし,<Changing Time, Changing Publishing>時代は変わって,出版も変わる。時を重ねるなかで,精神の糧として,心の一隅を占めるものとして,次なる文化の担い手の若者たちに確かな評価を得られると信じて,ここに現実を逃避する。
2010年9月1日
困ったときには