僕はどうやら上品ぶったところがあるようだ。一九六〇年代には、薬局で他に客がいるとタンポンを買うこともできなかった。デルフィーヌが初めてタクシーの中で僕のコートの中に手を入れ、ペニスを弄びはじめたときは、恐怖と快感のあまり危うく失神するところだった。ちなみに、彼女には電車のなかで弄ばれたとこもある。他に乗客のいないコンパートメントで、彼女が通路側のカーテンを閉めたとき、僕は舌を縺れさせながら言った。「でも、車掌が来たら?」「それよ。それが刺激的なの」あのとき、僕らはまだ二十五歳だった。その後、気づいたのだが、女性にとって、僕は公の場で愛撫したくなるタイプの男らしい。レストランのテーブルの下でとか、電話ボックスの中でとか、待合室でとか、夜、人通りの少ない道に停めた車の中でとか……きっと、こうした経験は誰にでもあることだろう。だが、僕は今まで一度も友だちにこの話をしたことがない。なぜか? それは慎みというより(それでは言葉が弱い)、僕の極度のはにかみのせいだろう。あるいは「かまととぶり」というべきか。その例なら僕の過去にいくらでも見つかる。
(ヴェイエルガンス『母の家で過ごした三日間』より)
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【フランソワ・ヴェイエルガンス François Weyergans】
1941年ベルギー・ブリュッセル生まれ。パリ在住。モーリス・ベジャールのドキュメンタリーを始め、何本かの短編映画を監督・制作したのち、1973年『道化師 Le Pitre』を発表、作家としてのキャリアをスタートさせる。代表作に『コプト人マケール Macaire le Copte』(1981年、ドゥ・マゴ賞)、『ボクサーの錯乱 La Démence du boxeur』(1992年、ルノドー賞)、『フランツとフランソワ Franz et François』(1997年、フランス語大賞)など。本書は、ウエルベックやトゥーサンの作品を抑え、2005年ゴンクール賞に輝いた。
(白水社のサイトより引用)
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