渡辺玲子は、超絶的なテクニック、玲瓏で知的な音楽性、切れ味鋭い官能性とその広いレパートリーで日本のみならず世界のヴァイオリン界をリードする逸材である。
東京生まれ。3歳よりヴァイオリンを始め、松井宏中、鈴木共子、田中千香士、堀正文、大谷康子、海野義雄の各氏に師事。第50回日本音楽コンクールにおいて最年少(15歳)優勝。同時に第1回増沢賞(全部門を合わせて最も優れたものに与えられる賞)を受賞。その後、「若い芽のコンサート」でNHK交響楽団と共演して衝撃的デビューを飾った。
1985年からは、ニューヨークのジュリアード音楽院に全額奨学生として留学し、ヴァイオリンをJ.フックス、室内楽をJ.ラタイナー、F.ガリミア、S.ローズの各氏に師事。1992年同音楽院大学院を修了。
1984年ヴィオッティ、1986年パガニーニ両国際コンクールで最高位を受賞。その後、ニューヨークを本拠地として世界各地でオーケストラとの共演、リサイタル、音楽祭への参加と国際舞台での活躍がめざましい。フランスのフィガロ紙は、“彼女は全曲を通じ、文句の付けようのないほど見事であり、その光あふれる音色と、一種言葉に出来ないような魅力が曲全体を通じ、疑いを差し挟む余地のない優美さに光輝いていた”、ワシントン・ポスト紙は、“身についた優美”と見出しをかかげた記事で絶賛し、シラキュース(アメリカ)のヘラルド・ジャーナル紙は、“マリア・カラスがもしもヴァイオリニストであったなら、彼女のように奏くだろう”と書いた。これまでに国内の主要オーケストラはもとより、ロサンジェルス・フィル、セントルイス響、ナショナル響、(ワシントン)、ボストン・ポップス管、ドレスデン・シュターツ・カペレ、ベルリン・ドイツ響、ハンブルク・フィル、フィルハーモニア管、フランス国立放送フィル、イェーテボリ響、オスロ・フィル、バンクーバー響、シラキュース響などと次々に共演、いずれも高い評価を得ている。また、共演した指揮者では、G.シノーポリ、V.アシュケナージ、L.スラトキン、A.デイヴィス、F.ルイジ、秋山和慶などが挙げられる。
このようにコンチェリストとして活躍していた渡辺玲子だが、1994年にはカザルスホールで自らプロデュースして<渡辺玲子ニューヨーク・コレクション>と題する5回の演奏会を催し、その意欲的プログラムと演奏が絶賛を博し、あらたな進境を披露した。
近年は、1995年にフランス国立放送フィルとパリ・デビューを果たし、その成功を受けて同楽団の日本ツアーに、またロサンジェルス・フィル、ハンブルグ・フィルなどと共演した。そのうち、ドレスデンにおいてシノーポリ指揮ドレスデン・シュターツ・カペレと共演したベルクのヴァイオリン協奏曲は演奏会と同時にテルデック・レーベルによってCD録音も行われ、渡辺玲子のデビューCDとして1997年春にリリースされた。さらに、1996年には、日本フィルとのヨーロッパ・ツアーで成功を収め、1997年には、BBC交響楽団とのロンドンでの共演と日本ツアーで大好評を博した。また、1998年春にはウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団、秋にはロシア・ナショナル管弦楽団の日本ツアーでも共演した。1999年3月には、ニューヨークのリンカーンセンターにおいてニューヨーク・リサイタル・デビューを果たし、ニューヨーク・タイムズ紙はその演奏を“圧倒的なテクニック、華麗な音色、劇的な音楽表現”と評し、見出しに“ヴィルトゥオーゾの圧倒的迫力に脱帽”と掲げて絶賛した。2000年9月には、ミッコ・フランク指揮バンベルク交響楽団日本ツアーのソリストに抜擢され、日本ツアーに先立つドイツ、オーストリア・ツアーでは地元紙が“エネルギッシュな和音とヴィルトゥオーゾ的なパッセージは聴衆を魅了した”と評した。2001年にはJ.S.バッハのヴァイオリンのための無伴奏曲全曲演奏に取り組み、CDも発売された。2003年6月にはサンクトペテルブルク交響楽団との日本ツアーを行い、その演奏会がライブ・レコーディングされ、CD発売されている。
2004年10月〜12月にかけては、浜離宮朝日ホール(東京)にて音楽の真髄に迫る「ブラームスとその系譜」と題したリサイタルシリーズを行い、演奏とともにその時代を見通したユニークなプログラムでも注目を集めた。2005年は、東京で行われたラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン音楽祭に参加したほか、日本の主要オーケストラとの定期演奏会をはじめ、各種演奏会でソリストをつとめている。
2004年4月、国際教養大学開校とともに特任助教授(春学期)に就任し、音楽と演奏について教鞭をとっている。2005年第35回エクソンモービル音楽賞奨励賞受賞。ニューヨーク在住。
困ったときには