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意味不明小説(ショートショート)コミュのアリとキリギリス、とセミ。

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夏の季節のことです。
アリは、太陽が照りつける地面の上を、餌を担ぎ這っていました。
キリギリスは、木陰が涼しい草むらの中で、歌を唄い遊んでいました。
キリギリスは、アリを見つけて言いました。
「こんなに暑いのに、えらく精が出るんだね」
アリは言いました。
「暑くて餌が豊富だからこそ、働いているのです。いずれ訪れる冬のために」
「先の苦労を心配するより、今の楽しみを謳歌すべきだ。こんな風に……」
と言って、キリギリスは歌いだそうとしました。
その時、遥か頭上の大木から、セミの歌声が聞こえてきました。
キリギリスは言いました。
「ご覧なさい。セミだって歌っているよ。あんなに大きな声で」
セミの歌声は、辺り一面に鳴り響いています。
アリは言いました。
「ごめんなさい、よく聞こえません。では、急ぎますので……」
アリは、餌を担いで去ってしまいました。
太陽の日射しと、セミの歌声は、いっそう激しさを増していきました。

冬の季節になりました。
キリギリスは、アリのところへやって来て、言いました。
「お腹が空いているんだ。少し食べ物を分けてくれないかい?」
「なぜ夏の間に蓄えておかなかったのです」
「ずっと歌ばかり唄っていたので、暇がなかったからだよ」
「呆れたことだ。遊んでばかりいただなんて」
「遊んでなんかいない」
「でも、唄ってばかりいたのでしょう?」
「仕方ないことなんだよ。奪われたのだから」
「奪われた?食べ物をですか?」
「心をです。君も聞いただろう?セミの歌声を。立派な大木のステージから、高らかに響き渡るあの声。僕もああなりたいと、それに少しでも近づけるようにと、ずっと練習を重ねていたのです」と言って、キリギリスは、その時の感動を思い起こすように、胸に手をやりました。
アリは言いました。
「やはり、呆れたことです」
「どうして?」
「あなたも知らないわけじゃないでしょう?セミがどうなったのかを。あれから三日と経たずに、死んでしまったではないですか」
「だからこそ、良いんじゃないか」
「死んでしまったことが?」
「命を賭して唄ったからこそ、今も私の中で生きているのです、セミの歌は」
「だけど、あなたはセミじゃない」
「なんだって?」
「どれだけセミに憧れようと、どれだけ練習を重ねようと、あなたがセミになることはできない」
「そんなこと、分からないじゃないか」
「いいえ、分かります。あなたはセミになれない。僕があなたになれないように」
「え、君が……?」
「勘違いしないでください。僕はあなたを羨んでも、自分を恥じてもいない。僕はあなたのように唄うことはできない。でも、餌を運ぶことができる。この世に生を受けた物ならば、それを全うするために、自分にできることをする。至極当然の理屈ではないですか?」
「確かに、セミになることはできないかもしれない」
「だったら……」
「だけど、セミを目指すことはできる」
「目指すこと?」
「例え結果が分からなくとも、いや、分かっていたとしても、目指し続けることが、生きていく糧になることだってある。君はそれすらも否定するのですか?」
「……いいえ、否定しません。でも、それならば、あなたは僕のところに来るべきではなかった。セミを目指すのならば、命を賭して唄おうとするならば、どうして食べ物が必要になるのです?」
「それは……君の言う通りかもしれない。気づかされたよ。セミを目指すと言いながら、私にはそれだけの覚悟がなかったのだね。……もう行きます。木の皮でも食べれば、何とかやっていけるだろう。ありがとう」
しばらくの間、どちらも黙っていました。
外からは、雪の降る音が聞こえています。
アリは言いました。
「ごめんなさい、よく聞こえませんでした。それで、食べ物がいるのでしたね」
「えっ、分けてもらえるのですか?」
「そのおつもりで来たのでしょう」
「だけど、どうして?」
「言ったはずですよ、生を全うするために、自分にできることをするのが当然の理屈だと。即ち、僕は餌を運ぶこと。あなたは歌を唄うこと」
「それでも、私は歌で生きていくことは、できないのです!」
「否定しなかったはずですよ、目指すことが生きていく糧になることを。今までの僕には、それがなかった。でもついさっき、見つけられたのかもしれません。いや、もしかしたら、ずっと前から……」

年が明け、夏の季節になりました。
アリは、餌を担いでいました。
キリギリスは、歌を唄っていました。
遥か頭上からは、太陽の日射しと、セミの歌声が、力強く降り注いでいました。


(終)

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