ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

ねこると創作クラブコミュの第五回ねこると短編小説大賞応募作品No.1『「嫦娥奇譚」-ジョウガキタン-』

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「嫦娥奇譚」-ジョウガキタン-

ちょいと。
旦那サマ、そうそう、アンタさまです、旦那サマ。
月もない夜更けにこんなところでお会いできたのもなにかのご縁。
あっしはケチな物売りをしておりまして、へぇ、へぇ。
最近小耳に挟んだ面白い昔話をさしてはもらえませんかねぇ。へぇ。

昔々、そのまた昔。
この辺りがまだ鬱蒼とした森になる前の話でさぁ。
ここにはえらくきれえな大きい湖があって、満月の夜になると湖面は月光に満ち溢れていたそうで。
しかし今では影も形もない。
そうですな、ちょうどあっしが立っているこの辺りかと。
ちょいと耳を澄ませればまだ波の音が聞こえて・・・そんなこたぁないですかい。
まぁ、その湖のそばに一軒の小さい小屋が立っていて、貧しい若者が一人住んでいたそうな。
若者は貧しいながらも小さな畑を耕し、籠を編み、近くの村へ作った野菜と一緒に売りに行きなんとか生活をしていたそうでさぁ。へぇ、へぇ。
ある満月の夜、若者は畑の様子が気になり外に出たらしいです。いつものように湖面はきらきらと月の光を反射していたんだが、ふとそれを遮る影が・・・、あぁ、旦那サマ、ここからが面白いところですからぁ。
若者が影の方へ目をやるとそこにはそれはそれは美しい女が立っていたんですよ。女は若者をみると恥ずかしそうに目を伏せ、自分の指をいじいじと絡ませながら
「こんばんは、今夜は良い月夜ですわね」
と話しかけてきたんでさぁ。へへ、へぇ。
若者は女の余りにも透き通った声に驚きつつも
「ほんとに、まんまるな良いお月さんです」
と返し、まじまじと女を見つめたんですなぁ。舐めまわすよ・・・ちょっと旦那サマぁ、すんませんって。
女はますます恥ずかしそうに自分の指先を見つめながら、
「実は折り入ってお願したいことがございますの」
ときたもんだ。
女は若者が物売りにくる村に住んでおり、ずっと若者のことを気にかけていたという。まぁよくある話ですな。
若者が多くの村人に慕われる姿を見て、自分の心の中にも若者の姿が焼き付いて離れず、とうとう今夜、自分の思いを告げるために小屋まで来てしまったそうな。なかなかに情熱的な女で、へぇ。
「私を妻に迎えてはいただけませんか」
若者は突然現れた女を少し不思議に思いながらも、女の余りの美しさに目がくらみ受け入れることに決めたんだそうで。決断が早いですな。へぇ。男ってやつぁ美女には弱いもんです。
それからの毎日はまさに夢のようであったそうな。羨ましい。へぇ。
どうやってか女は少ない食料から豪勢な食事を作り、小奇麗な着物を仕立て、薄汚れた小屋を磨き上げたという話です。いい女ですよねぇ、へぇ、へぇ。
段々と良くなっていく生活に若者は不思議に思いつつも幸せを享受しちゃったんですなぁ。間抜けでさぁ。
それから十年ほどたち、若者も年を取ったがどういうわけか、女は変わらず美しいままで、ある日とうとう若者は妻に訊いちまった。
「どうしてお前は年を取らないんだ」
とさぁ。
女は大きな瞳をより一層大きく見開いて、
「・・・いつかは訊かれてしまうと思っておりました」
実は女は村の出身などではなく、月に住んでいた天女であり、空の上から若者を見つけ一目惚れをし、妻になろうと思ったのだと若者に話したあと、はたたと涙を流し始め、その顔もなかなかのもん・・・へぇ。
「この十数年、あなた様と過ごした日々は大変幸せではありましたが、私は不死の者、いずれはあなた様が先に死んでしまうのがとても悲しい」
女は着物の袂から小さな包みを取り出し、若者へ渡すと、
「これは、人間も不死の者になれる薬でございます。あなた様が死んでしまうのは本当に辛いことでございますので、どうかこれを飲んではいただけないでしょうか」
若者は不死になることについて考えもせず、ぐい、とそれを飲み干しやした。馬鹿ですなぁ。
「これで永遠に一緒ですわね」
女は本当に嬉しい、と、にこり。へぇ。
これで夫婦は永遠に一緒に幸せに暮らしましたとさ、めでたし、めでたし。

…とは問屋が卸さんわけです。旦那サマ。へぇ。へぇ。
この不死薬には副作用がありまして、えぇ。
満月の夜になりますと、人間を一人、食い殺さないことには不死が保たれない、最初に説明してくれよなぁぁ。
心根が優しかった若者は満月の度に人を食い殺すことで、数年で狂っちまったんですわー。ははー。
そしてそのある満月の夜に人間を食う前の刹那、不死性が失われている天女を食っちまったんです。もちろん生きたまま臓物を引きずり出してねぇえ。骨も残さズ・・・あぁ、すみません、旦那サマァ。ァ…。
天女である女を食った若者は人間を食わなくても死ななくなり、今もどこかで狂ったまま放浪しているとかいないとか。

・・・何でこの話を旦那サマにしたか、ですかい?
マァ、お察しの通り、あっしがその話の若者で、へへへ。

ま、されこうべの旦那サマには関係ない話ですがね。ちょっと聞いて貰いたかっただけですから。
若者は狂っちゃいなかったんですよ、ぜぇーんぶ正気でやったことで。へぇ、へぇ。
ほんと、くるっちゃぁぁいなかったんですよぉぉぉ。

ゴリッ
ご馳走サマでしタ。

コメント(4)

<投稿者の竜斗さんによるあとがきがあります>

主催者さまお疲れ様です。
また参加することができて嬉しいです。
今回は怪談を書こうと思い話を考えてみましたが、
あまり怖くなかったですね。
妹にダメ出しされながらなんとか書き終えました。
話口調でいろいろとおかしい点があるのは、
永い年月を色んな土地で暮らしたからだということにしておいてください。(笑)
あと、自分が狂っていないという奴ほど狂っているもんです。

竜斗
<投票者の感想>

・ドロドロした雰囲気がゾクゾクします。

・不気味な感じが嫌いじゃないです。

・上手くまとまってて落ち着く作品でした。へぇ、へぇ。

・不死とはどんな感覚なんでしょうか。おそらく人を狂わせるでしょうね。恋は盲目的とは言うけれど、薬を渡した天女もあるいは狂っていたのかもしれません。語り部がその若者だったとは…、最後に裏切られました。面白かったです。

ログインすると、みんなのコメントがもっと見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

ねこると創作クラブ 更新情報

ねこると創作クラブのメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング