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シャーク◎市屋の面白い話コミュの僕と彼女と就職活動【前編】

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「ホタテノスシガデキタノ・・・」

長い沈黙を破り
ようやく零れ落ちた彼女の言葉を
都合良く脳内変換してみたが
すすり泣く彼女の前では
現実逃避は無理だと悟った。
土砂降りの中、天気予報を見るくらい
彼女が伝えたいことは明らかだったけれど
それでも受け入れ難い現実を少しでも遠ざけたくて

「えっ?何?」

と聞き返した。
涙声のせいで
さっきより「ホタテノスシ」っぽく聞こえたが
無論彼女が言いたかったことは
好きな寿司ネタの話ではなく
警察学校で同期だった男性を好きになってしまった。
だから別れて欲しいとのことだった。
頑固な彼女が決めたことには
何を言っても無駄だってことは
経験則から理解していたけれど
心変わりをした理由が
どうしても知りたくて何で?と尋ねた。

「・・・ 学生の頃は夢のあるあなたがかっこよく見えたけど
今は普通に働いている人が格好よく見えるの・・・」

彼女の言葉を聞いた瞬間、愕然とし
吐きそうになった。
サラリーマンなんてつまらない人間の
なるものだと思っていた。
自分は矢沢永吉の様に
成り上がるミュージシャンになると
信じて疑わなかった。
だからと言って特別な何をする訳でもなく
気の向くままにギターをかき鳴らしていたら
瞬く間に4年半の大学生活は終ってしまっていた。
そして今の自分は・・・

ただの無職だ。

自分では世俗に染まらない無色のつもりでいたが
彼女から見たら国民の義務も果たせない
サラリーマンより遥かに格好悪い
ただのクズ野郎に成り下がっていた。
大好きな彼女を失いたくなかったけれど
引き止めるための言葉はどこにも見当たらず
ただ言えたのは「ありがとう」だけだった。
こうして2年半続いた彼女との関係は終わった。

いつも傍にあったものを
失ったショックは大きかった。
それが自分の愚かさが招いた結果だと思うと
後悔してもしきれなかった。
そして、大好きだった彼女が
今はもう別の誰かの腕に抱かれていると思うと
嫉妬で狂いそうだった。
寝ても覚めても浮かんでくるのは彼女のことばかり。
何も手につかなかった。
それまでの人生一度たりとも
食欲が落ちることなんてなかったけれど
この時ばかりは食事が一切喉を通らず一ヶ月で10kg近く痩せた。
見かねた友人たちが、女の子を紹介してくれたり
合コンに連れ出してくれたりしたが
前向きになることは出来なかった。
どうしても彼女ことを諦められなかった。
何をやっても無駄かもしれない。
でも仮に1%でも気持ちを取り戻す可能性が
あるとするならばすべきことはただ一つ。
「就職」だった。
彼女に認めてもらうためとは言え
就職に向け踏み出すには勇気が必要だった。
ギターを置くことに抵抗はなかった。
自分に才能がないことは薄々気づいていたから。
それ以上にあったのは
社会の歯車になることへの不安。
今までやりたくないことからは一切目を背け
好き勝手生きてきた自分が
ルールで縛られた社会に適応出来る自信がなかった。
父親の様に朝早く起きて会社に行き
終電近くまで働き帰宅する。
そんな社畜の生活を送る自分の姿が
想像出来なかった。
それでも私の取るべき道は就職活動以外なかった。

就職しようと思ったものの
音楽以外にやりたい仕事なんて何もなかったし
何をどうしたら就職出来るのかさっぱりわからなかった。
それでも一日でも早く就職したかった私は
バイト先の司法書士事務所に就職を試みた。
司法書士事務所に勤め
やがて司法書士なんてたいそうな資格を取れば
彼女も認めてくれるだろうと思った。
所員の方たちからも卒業したらそのまま就職したらどうだと
冗談交じりで言ってくれていたので
自分さえその気になれば就職出来る自信があった。

所員の募集はしていないか所長の奥さんに尋ねると

「所員は募集しているけど・・・君は今月いっぱいで・・・」

バイトをクビになった。
彼女に振られてうつ状態だった私は
仕事を勝手に早退したり、休んだりしていたため
当然と言えば当然の結果だったが
完全にあてが外れてしまった私は途方に暮れた。

とりあえず、友人のアドバイスに従い
就職情報サイトなるものに登録し求人情報に目を通した。
就職氷河期なんて言われる時代だったが
そこには沢山の求人が並んでいた。
相変わらずやりたい仕事なんてものは
全く見えてこなかったけれど
色々な求人を見比べているうちに
自分が仕事に求めるモノは見えてきた。
ずばりそれは「お金」と「見栄」。
ミリオンセラーのミュージシャンの様に
大金は稼げなくてもそれなりに
余裕のある暮らしがしたいと思ったし
人前で格好つけられる仕事がいいと思った。
そんな条件で探してみるとぴったりと一致する求人を見つけた。
初任給:25万円。
職種:人材派遣の営業
会社の名はテレビCMでのその名をよく耳にするものであった。
これしかない。
そう思った私は迷わずエントリーした。

人材派遣会社の入社試験を受けた帰り道。
どうしても頑張っているアピールをしたくなってしまった私は
彼女に電話をかけた。
すると、電話に出てくれたものの
冷ややかな反応だった。
話せば話すほど彼女の心が遠ざかるのを感じた。
それでもどうにか切られないようにと
すがるように話していると
やがて携帯の向こうから見知らぬ男の声がした。

「もう嫌がってるんだからやめてやれよ」

新しい彼氏だった。
瞬時に脈拍が上昇し
頭が熱くなって行くのを感じた。
言いたいことは山ほどあったはずなのに
「好きなら彼女の気持ちを考えろ」と言う
男の言葉が正論過ぎて
言い返すことが出来なかった。
唯一言えたのは

「お前は警察官のくせに泥棒か!!」

と言うみすぼらしい台詞だけだった。
それすら彼氏に

「で?」

の一言で一蹴されてしまい
負け犬の遠吠えとなった。

これを期に彼女はメルアド、携帯電話の番号を変え
私は連絡を取る術を失った。

底からどん底に突き落とされた様な
絶望的な状況の中、先の人材派遣会社から
採用通知が届いた。
今の自分には働く意味なんてもうないと
思ってみたりもしたが
例え今すぐじゃなくてもいつか彼女と巡り会った時
堂々と男らしく好きと言える人間になりたいと決意し
大学卒業後、半年間の長きに渡ったニート生活に終止符を打った。

2003年3月。
同い年の友人たちと
ほぼ1年遅れで私の社会人生活はスタートした。
オフィスは名古屋の中心街にある高層ビルの一室。
1階にはカフェがあると言う
ドラマにでも出てきそうなお洒落な環境だった。
学生時代、司法書士事務所でアルバイトする以前は
家庭教師の営業のアルバイトをしており
そこでは年間1000万円以上売り上げていた。
だから自分の営業スキルには多少自信があった。
売るものが変わった。
その程度にしか思っていなかった。
バンバン契約を取って
30万、40万稼ぐようになればサラリーマンだって悪くない。
そう思ったのも束の間
入社後直ぐに厳しい現実に直面した。
同じ営業でもそのスタイルが大きく異なっていた。
家庭教師の営業は新聞等に掲載した広告やHPを見て
反応があった家庭に訪問する反響営業にあるのに対して
人材派遣の営業はニーズの有無に関わらず
訪問する飛び込み営業だった。
初任給が他と比べ抜きん出ていた理由にようやく気付いた。

飛び込み営業は門前払いが当たり前だった。
それでもドラクエで例えるなら「ガンガンいこうぜ」のコマンドしか
持ち合わせていない社風であったため
例え一度断られても翌週にはまた訪問しなくてはならなかった。
朝9時過ぎにオフィスを出て、17時に戻るまで
30社以上を訪問し、距離にして毎日10km以上歩いた。
帰社後はミーティングや報告書の作成に終われ
帰宅できるのは毎日23時過ぎだった。
朝起きて、出社し、帰宅し、すぐ眠る。
そんなコンパスで描いた様な変化のない毎日を送っていると
自分の人生がどんどん摩耗して行く気がした。
同期の中では一番早く契約を取り、その後も順調に新規顧客を
開拓して行ったにも関わらず
自分の人生このままでいいのかと言う
疑問符が常に頭に浮かぶようになり
モチベーションは日に日に低下して行った。

疲れきった週末。
彼女の声が聞きたい。
心底思った。
もしかしたらと思い
ダイヤルした彼女の番号はやはり使われておらず
繋がることはなかった。
彼女の友達に聞けば連絡先は判るはず。
そう思った私はメールを打ち始めた。
しかし、今電話をして一体何を言うつもりだろうか。
弱音を吐けばその瞬間は楽になるのかもしれない。
でもそんな姿を見ても彼女の心は動かない。
どうせならもっと成功した自分を見てもらいたい。
冷静になった私はそっと携帯を閉じた。

入社して2ヶ月が過ぎたある日。
うっかり名刺を切らせてしまった私は
昼休みにオフィスに戻った。
幸い営業部は人気がなく
誰にも見つからず名刺の補充することが出来た。
口うるさい副支店長に見つからなくてラッキーだったと
思いながらエレベーターを待っていると
突然、背後から声を掛けられた。
振り返るとそこには支店長がいた。
営業の自覚が足りないと叱責されるかと思いきや


「お疲れ!丁度良かった!昼まだだろ?一緒に行こうか」

と笑顔で言われた。
サラリーマン1年生の私にとって
支店長と言う立場ある人に声を掛けられるのは
どこか誇らしく、ただ昼食を誘われただけなのに
自分の存在を認められた様で嬉しかった。
支店長はビルを出ると目の前にある鰻屋を指さして
あそこでいいか?と言った。
そこはうな丼でも一杯数千円する高級店だった。
支店長が平社員をこんな店に誘うと言うことは
奢りなんだろう。そうタカをくくり私は頷いた。

運ばれてきた鰻を目の前にし
支店長は神妙な面持ちでこう切り出した。

「広島に行ってくれないか?」

初めての出張!?
と一瞬心躍らせてみたものの
続けて発せられた支店長の言葉に
淡い期待は脆くも崩れさった。

「広島に支店を出したんだが、
そっちで人が足りないって言うからな・・・」

転勤の話だった。
まだ入社して間もないが
同期の中で一番契約をとっている私なら
転勤させても大丈夫だと言う支店長の判断だった様だ。
評価して貰えたことは嬉しかったが
それ以上にショックが大きかった。
しかし、サラリーマンにNOはタブー。
そして、おごりだと言われつい
ひつまぶしの上を注文してしまった私に
断る術はなく、引き攣る笑顔で頑張りますと答えた。
4500円のひつまぶしは味がしなかった。

それから転勤までの一週間
テンションは下降の一途を辿った。
広島の支店長に挨拶の電話を入れると

「うちは名古屋みたいに甘くないけぇのぉ」

よろしくの一言もないまま恫喝された。
噂通り広島はヤクザな街だった。
自分にとって精一杯の毎日を
甘いと切り捨てられたことに恐怖を感じた。
しかし、それ以上に地元を離れる事に
大きな抵抗があった。
地元で働いているのならどんなに平日が辛くても
週末に友人と遊べば幾分ストレスは解消される。
それが見知らぬ土地に行ったらどうなるのだろうか。
平日は激務。週末は孤独。
耐えられる自信はなかった。
彼女に認められたくて働き出したのに
僅か2ヶ月でドロップアウトしてしまったら
あまりにも情けなさすぎる。
だからと言って彼女と遠く離れた地で働くことに
意味があるのだろうか。
でももし彼女が仕事を辞めたことを知ったら
やっぱり別れて当然と思われるに違いない。
そして何より僅か2ヶ月で辞めてしまったら
職歴に大きな汚点を残すことになる。
それでも・・・
それでも広島は遠すぎる。
例え今回転勤を断ったとしても
やがてまた同様の話は来る。
そして定年までジプシーの様な生活を
強いられるのだろう。
お金やステータスが欲しくて入社した筈なのに
それ以上に「地元」に拘る自分に今更ながら気付いた。
色々なモノを天秤にかけながら
私は大いに葛藤した。

そして転勤2日前。
私は決心した。
朝7時。
まだ誰もいないオフィスに行くと
支店長の机に辞表を置いて

逃げた。

当然のことながら辞表を出したからと言って
それで終われるはずもなく
地元の駅に着くまでの間
携帯電話には会社と自宅から交互に着信があった。
不在着信は上限の20件を数え
このまま逃げ切るのは無理だと判断した。
電車を降りるとまず自宅に電話を入れた。
電話口に出た母親は予想に反して
怒りも驚きもすることなく淡々と
何度も支店長から電話があったから
掛けるようにと言った。
恐らく幼い頃から何一つやり遂げたことない私が
早々に仕事を投げ出すことは想像の範疇だったのだろう。
全てを見透かされていた様で
消えたくなるほどうらぶれた気持ちになった。

会社に電話をするのは躊躇した。
叱責されるのは火を見るより明らかだったから。
だからと言ってこのまま帰る訳にもいかず
やむ得ず電話を掛けた。
開口一番怒鳴りつけられることを覚悟していたが
思いの外支店長の口調は穏やかだった。
それが逆に怖かった。
兎に角一度会社に顔を出せと言われたため
出たばかりの改札を
これ以上にない重い足取りで戻った。

オフィスに入ると全身に冷たい視線が突き刺さった。
再び逃げ出したい衝動に駆られたが
この場限りだと堪え、支店長の机へ向かった。
どんな罵詈雑言を浴びせられるかと思いきや
支店長から出た言葉は

「悪かったな」

だった。そして支店長は

「転勤を一方的に押し付けその後何のフォローも
しないまま、突然辞めざるを得ない気持ちになるまで
追い込んで本当に申し訳なかった」

と言い、深々と頭を下げた。
私は支店長の寛容な態度に不意に涙ぐんだ。
そして、もっと早くこの人に相談しておけば違った
結果になってしたかもしれないと
少しじゃ済まない後悔をした。
不甲斐ない自分の行いを心から謝罪したかったが
声にならず、ただただ頭を下げるしか出来なかった。

続けて支店長はこれからどうするんだと尋ねた。
曖昧な言葉でかわすことも出来たが
辞めた後の心配までしてくれる支店長に
適当な返事をする訳にはいかなかった。
私はこの2ヶ月毎日自問自答を繰り返しながら
たどり着いた一つの結論を口にした。

「ミュージシャンを目指します」

まもなく24歳になろうとする男の発言としては
あまりにも滑稽であったが
私は真剣だった。
2ヶ月と言う早期で退職してしまう以上
まともなサラリーマンとしては生きられないと思った。
これ以上劣悪な環境で働き人生をすり減らすくらいなら
本気でミュージシャンを目指し
ダメなら前のめりで死ぬしかないと思った。

そんな私の決意を
支店長は笑うことも馬鹿にすることもなく

「広島行くより100倍つらい道だぞ。でも頑張れ」

そう言ってくれた。

辞めたら清々しい気持ちになる。
そう信じて疑わなかったけれど
最後に会社のドアを出た時
何故か寂しい気持ちでいっぱいになった。

こうして最初の社会人生活は
僅か2ヶ月で幕を閉じた。

ニートに戻った私は
ベートーヴェンの御霊に取り憑かれた様に
作曲活動に没頭・・・
するはずだった。
しかし、気づけば2ヶ月の間ほぼ手つかずだった給料を
元手にパチンコ屋を往復する毎日を送っていた。
最初はただの息抜きだったつもりが
奇しくも時代はスロット最盛期。
波に乗ればいとも簡単に
片手以上稼ぐことが出来た。
溢れ出るコインと一緒に
アドレナリンを垂れ流していると
彼女のことも音楽のことも
忘れスロットにのめり込んだ。
朝起きてパチンコに行き
夜は手にした金で酒を飲み歩く。
湯水の如く金を浪費しても
パチンコ屋に足を運べば
それだけで財布は厚みを増して行った。
そんなゴミクズみたいな生活に
薄ぺっらい幸せを感じた。
勿論そんなまやかし時間は長続きするはずもなく
一度大きく負けたことをきっかけに
歯車は狂い始めた。
10万負ければ翌日も10万負ける。
そして10万負ける。
それから一ヶ月もしない内に
生活は立ち行かなくなった。

金が尽きると途端にニートで居続けることに
不安を感じた。
せめてアルバイトくらいはしようと思ったが
今更時給800円で皿を洗う気にはなれなかった。
何かいいアルバイトはないかと情報誌を
眺めていると時給1500円の仕事を見つけた。
ホストクラブだった。
体重90kg超の自分にホストが
勤まるか疑問だったが
いつか見たテレビ番組で
ホストはイケメンだけじゃなく
汚れ役も必要だと耳にした気がするので
それなら自分に適役だと思い電話をかけた。
するとその日のうちに面接に来るように指示された。

歓楽街の中心に構えるその店は
勝手に描いていたイメージとは異なり
スナックの様にこじんまりとしたものだった。
同い年だと言う代表の顔は
松崎しげるより黒く
下卑た笑いの隙間に見せる歯は
不自然な位白かった。
それでも代表の腕には高級時計が輝き
稼いでいることを伺わせた。
「君みたいな人」でも頑張れば稼げるよと言う
鼻に付く物言いが癪に障ったが
時計だけじゃなく、スーツ、シャツ、靴。
代表の全身から漂う金の匂い魅了された。
そして、週5で入れるならと言う条件と引き換えに
ホストデビューが決まった。

「・・・起きろ!・・・こんなところで寝たら迷惑だ!
・・・おいこら!!」

男に肩を揺らされ目を覚ました。
目を開けると強烈な光が差し込み
直ぐに私は瞼を閉じた。
起き上がろうとしたが
タンクローリーの中に放り込まれた様に
世界はグルグルと周り、頭には脳細胞の半数くらいが
死滅したんじゃないかと思うほどの激痛が走った。
酷い耳鳴りの間に自動車の排気音や
周りにいると思われる二人の男の声が入ってきたが
自分の身に何が起きているのかさっぱり理解出来ず
ただ眠りたいと言う本能に従い
大の字で横たわった。

「寝るな!」

再度男の声で意識は現実に引き戻され
更に男は腕を掴み起き上がらせようとした。

一体何なんだこいつら・・・

薄目を開け、覗き込む二人の男を見ると
朧気ながらそれが制服に身を包んだ
警察官であることに気付いた。

品行方正な小市民の私は
警察の世話になるようなことをした覚えはない。
いや、警察官を泥棒と罵ったことはあったか。
でもそんなことでまさか・・・

そんな事を考えながら辺を見渡すと
そこは路上だった。
あー・・・だからか。
でも何故・・・。

断片化した記憶をゆっくりと
繋ぎ併せて行くと大体のことは把握出来た。

ホストクラブに初出勤して・・・
掃除して・・・
キャッチのやり方教わって・・・
捕まえた女の子と店戻って・・・

そこからの記憶が曖昧だったが
恐らくそこから飲みすぎて
帰宅途中にダウンしたのだろう。

警察のお世話になり
万が一自分の現状が彼女に知られたら・・・
そう思うとどんなホラー映画より恐怖だった。
足早にとは行かなかったが
何とか腰を上げ立ち去ろうとすると
一人の警察官が言った。

「ん?君どこかで・・・」

警察官に知り合いなんていただろうか。
振り返りその男に目を向けたが
過度に摂取したアルコールのせいで
焦点は定まらなかった。
泥酔の向こう側にいた私は
早く眠りに付きたい一心であり
その警察官が誰であろうと興味がなかった。
一瞥しただけで歩き出すと

「やっぱりお前は・・・」

突如、背後から肩を掴まれた。
警察官相手とは言え流石にイラっとし私は
大きくよろめきながらもその腕を振り払い

「んだゴルァァァ!!!」

思わずそう口にした。
すると次の瞬間、腕を捻り上げられ
膝から崩れ落ちた。

「てめぇぶっ殺す!!!」

そう叫ぶより先に、
私はその警察官の顔を認識し言葉を失った。
そこにいたのは・・・
彼女のお父さんだった。
先程より3倍速で世界が回り出した。
お父さんは私の腕を離すとしゃがみこみ
耳元でこう言った。

「ミュージシャン諦めてホストになったのか?
お仕事で朝まで一生懸命飲んで
公道でおやすみなさいって訳か。
とことんクズだな。
こんなクズと別れて娘は本当に大正解。
今は毎日幸せそうな顔してるから
ぜってぇ近づくんじゃねーぞ。
近づいたら・・・殺す」


それだけ言うと
パトカーに乗り込み走り去った。

私は茫然自失として
暫くの間その場を動くことが出来なかった。
気づけば大粒の涙が頬を伝った。
悔しさと情けなさ、そして後悔。
色々な感情が混じり合い泣いた。
人目をはばからず声を上げて泣いた。
いつまでもいつまでも泣いた。

コメント(1)

おいおい(゜Д゜;)
普通に面白いぢゃねーか。
どうしたシャーク!(゚д゚)

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