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短編小説 「ダメのススメ」コミュの「ダメのススメ」第一章 ?

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「おはようございまーす!!」
伝説の男の、伝説の一日の翌日、相変わらず彼は元気いっぱい。元気こそが彼の生命線。入社当初こそうるさいと感じていたその声のボリュームは今では会社の営業開始の合図となっていた。
「いや〜、昨日は楽しかったですね〜。久々あげ〜ん(あんなに)飲んだですばいっ!オーナーさんもなかなか気さくな人で、あの人は、ほんなコツ(本当に)ビックになるごたる(ような)気がするですばい!俺が保障するですばい・・・」
朝から一人、ご機嫌だね、ピーターパンさん♪相変わらず、彼は周りがバリバリ仕事の雰囲気になろうとおかまいなし。しかも、えらそうに保障しちゃったしね・・・。
会社のみんなは、胸の中で再確認・・。

(こりゃー、ビックにはなれねーよなぁ・・・)

 そんなこんなで営業時間は過ぎていく。もうそのころ私は中西さんが営業してることさえ気にしていなかった。だって、今まで一件も契約とってないんだから、期待しないのも仕方ない。そんな完封記録爆進中の彼の元に、なんとなんと一本の電話が・・・
「中西さーん、3番に電話ですよー。」
みんなが目を合わせる、何の電話だろう・・?
「あ〜、どーもどーも。中西です〜。久しぶりですね〜。元気しとったですか〜?・・・」
やけに親しそうだ。指導係田中に誰なのか聞いたところ、前に営業したおばちゃんらしい。
ふ〜ん。親しくするのもいいんだけどさ、契約とってくれないかなぁ。

「ほんなこつですかっ?!ありがとうございますっ!ほんなこつありがとうございますっ!失礼しますっ!」

・・・まさか?!
「みなさん、契約がとれましたーーーーーーー!」
うそっ?!マジでっ?!マジでーーーっ?!
従業員、総立ち!
とくに指導係田中は・・
「マジっすかーっ?!おめでとうございますっ?!」

抱き合う二人。周りでその光景に目頭を熱くする私達。鳴り止まない拍手。今になって考えると、そんなにたいしたことではない。だが、この男の場合は別物だ。心からうれしかった。毎日毎日、怒られて怒られて。それでも前向きに、明るくがんばった成果がようやく身を結んだのである。もう中西は目にいっぱいの涙をため・・・
「ありがとうございます!ありがとうございます!・・・」

事務所内はまさに金八さながらの雰囲気。紙ふぶきでも舞そうな状態の中、再び中西は語りだした・・・

「いや〜。ついに契約がとれましたよ〜。よ〜し、俄然やる気が出てきたですばい。そろそろ本気出しましょうかね〜。俺が本気になったら田中さんもウカウカしとったら、俺に抜かれる日も近いんじゃなかですかね〜♪」

空気読めよ・・。みんな喜んでくれてるのに、一人で完全に調子に乗っちゃったよね・・。ピーターパンさん、あなたは単純だね・・。そろそろ本気って馬鹿にしてるのかい。いや、君が馬鹿なんだもんねぇ。
とにかくひたすら上機嫌♪お得意の金歯キラリン連発☆

 だが、言うまでもなくそれから謎の本気?を出した彼が契約を取れるわけはなく、あの奇跡の契約が彼との別れを暗示していたのかもしれない。
 伝説の男、中西との別れは突然やってきたのである・・

 私の元に再び中西を紹介したFから電話があったのは、奇跡の契約のわずか数時間後だった。その電話の内容とはFの知人が中西の地元である大牟田で、水商売を始める事になり、馬鹿でもいいからとにかく感じがよくて、元気な人間を紹介してくれと連絡があり、一番に中西さんを思いついたらしい。その話を聞いた私自身も、中西さんのためを思うと、押しの弱い彼が営業職を続けるよりも、接客業の方がむいているのではないかと思ったし、なにより中西の家族もそっちを望むだろうと思った。その旨を私から中西に伝え、Fと電話で話させると中西も納得した様子だった。
 そして、その日の業務が終わり私達は伝説の男との別れの瞬間を迎えた・・

「今日もお疲れでした。えー、突然なんですが中西さんが今日を最後に退社し、福岡に戻ることになりました。」

私の突然の報告にみんな驚きの表情。特に指導係田中は、寂しげな表情を浮かべていた。
伝説の男、中西はいつもより2割り増しくらいの馬鹿でかい声で語り始めた・・・
「え〜、みなさん突然ですが今日をもって、退社して大牟田に帰る事になりました!初めての営業っちゅう仕事やったばってんが、立派にやり遂げたことは自分でも誇りに思っとるです!」

(あらら・・立派にって自分で言っちゃてるし。契約はあくまで一件だけなんだけどね。ハードル低いねぇ・・・。)

「みなさん、ほんなこつありがとうございました!今まで一ヶ月間、迷惑ばかりかけてすいませんでしたっ!ほんなこつお世話になりましたー!」

おー!無事に着地したよ!初めてちゃんと挨拶できたじゃん!あんた確実に成長したよ!さすが、中西!現在進行形で成長し続けてるねー!でも、忘れちゃいけない、42歳なんだけどね・・。

 まだまだ今宵の中西節は止まらない。試合前の日本代表選手かと勘違いしたのか天を仰ぎ、声高らかに語り続ける。
「男、中西必ずや東京に戻って来ます!まだまだ今はこまか(小さい)男ですけど、これから頑張ってビックな男になって、いつか皆さんにうまかラーメンば食わせるです!」

やっぱりラーメンかよっ?!最初から最後まで結局、ラーメンじゃんっ!っつうか、そんなにラーメン好きなら前の仕事を辞めんなよ!そして、ラーメンなら東京戻って来る必要ないからっ!

そう、この相変わらずな着地失敗挨拶を最後に彼は去っていった。数々のダメ伝説とたった一件の契約を残して。そして、彼は私達の記憶の中で生き続ける、永遠に・・・。



          おしまい・・・

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