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音樂工房:高秋美樹彦コミュの日本の音樂分類事情

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日本の音樂分類事情
 遙か昔、宇宙の彼方では、帝國軍と聯合軍が──ンな譯はないが、以前、吹田文化會館「メイシアター」で、

『古典派からロマン派音樂へ』

と題された音樂講習會(セミナア)に出席する機會に惠まれました。


そこで氣になつたのが、『古典派』の音樂に對しては「クラシツク」と言ひ、『浪漫派』の音樂とは判然と區別してゐた事でした。
日本では音樂を分類する時、「歌謠曲」や「フオオク」とか「ロツク」といふやうな音樂を、一般に大衆音楽と言つてゐて、藝術音樂と分けて考へてゐるやうですが、その藝術音楽をクラシツクと簡單に定義してゐるやうです。
でも、この日本の定義は可笑しいと思はれます。


どうしてかといふと、クラシツクといふ言葉は西洋音樂史の分類によるもので、しかも歴史上のある時期に對して述べられたものだからで、それは、

『ルネツサンス音樂・バロツク音樂・古典派・ロマン派・國民樂派・現代音樂』


といふ風に、大雜把(おほざつぱ)なものでしかありませんが、この分類法から得られた一部だけを取上げて、これらの總てを「クラシツク」と呼ぶのは、どう見ても定義を誤つたとしか思へません。


第一、「クラシツク」といふならば、日本の民謠だつて立派な「クラシツク(單に古いといふ意味ではだが、但しソナタ形式が確立されたといふ觀點(くわんてん)から眺めると明かな相違はあるのだが)」といふ事になりますし、古典的な用法を現代にも適用してゐる音樂といふならば、それこそ所有(あらゆる)音樂が過去からの遺産によつて今日があり、それはなにも新しい作品や分野(ヂヤンル)が、過去の古い形式があつたればこその新しさなのだから、

「日の下に新しきものなし」

といふ格言を持出すまでもない事のやうに思はれます。


かと言つて、シユウベルトやストラビンスキイの音樂を聽きに行く時に、いちいち、

「ロマン派の音樂を」

とか、

「國民樂派の音樂を」

鑑賞しに出掛けるとは、言つてゐられません。


外國でも同じやうにさう言つてゐるのだらうかと思つて、その場にゐあはせた藝大生の人に尋ねたところ、英語圈の國では、このやうな藝術音樂を、

「Reality music(リアリテイ・ミユウジツク)」

と呼んでゐるとの事でしたが、これが本當かどうかは、保證のかぎりではありません。


では、どうして日本で、

「クラシツク」

と呼ばれるやうになつたのかといふと、それは謂(い)はれのない事でもなく、日本に輸入された状況も關係して來るだらうし、なによりも日本民族が、

「能」

だとか、

「歌舞伎」

だとかの傳統(でんとう)的なものを尊重したがる傾向が強いといふ事が、最も大きな影響を及ぼして、

「クラシツク」

といふ外來語に比重を置いた所爲(せゐ)ではないでせうか。


そこで、次のやうな提案をしたいと思ひます。
日本で言はれてゐる藝術的音樂に對しては、

「クラシツク」

と呼ばず、

『純音樂』

と呼んでではどうかと考へます。


それと對比して、

『民衆音樂』

は、

「輕音樂・通俗音楽」

ともいふやうですが、これも統一して、

『世俗音樂』

と呼びたいと思ひます。


と言ひますのも、

『民衆音樂』

といふ言葉は、なんだか民衆を侮辱したやうな雰圍氣(ニユアンス)が感じられるからで、これは王宮などがあつた昔ならいざ知らず、現代に於いては全く無意味(ナンセンス)な事だと思はれますので、これまでのやうな用法を辭(や)めて、これからは、

『純音樂・世俗音樂』

を含めた總(すべ)ての音樂を、

『民衆音樂』

と呼ぶ可きだと思ひます。
何故なら、それは如何なる音樂も民衆のものだと考へるからです。
唯、『民衆音樂』といふよりも、一般には『大衆音樂』といふ言葉の方が多用されてゐると思はれますが、『大衆音樂』といひ言葉を避けたのは、三田村鳶魚(みたむらえんぎよ・1870-1952)氏の『大衆文芸評判記』に

「大衆と書いて昔は「ダイシュ」と読む、それは坊主書生のことである。それに民衆とか、民庶とかいうような意味のないことはわかっている。通俗小説というのがいやで、それを逃げるために、歴史的意義のある「大衆(だいしゅ)」という言葉を知らずに使うほど、無学な人の手になったものである」

といふ一文が氣になつたから『民衆音樂』とする事にした譯です。


また、これらの名稱(めいしよう)は、文學に於いても同等に扱へ、

『民衆文學』

は總ての文學の、

『純文學・世俗文學(推理小説や通俗小説を含む)』

を含み、

『世俗文學』

は、當然(たうぜん)、探偵小説や推理小説、さうして怪奇小説やSF小説とか時代小説などの通俗小説の事だと、定義できる譯(わけ)です。


けれども、

『純文學』

と、

『世俗文學』

との差は、一體(いつたい)何處にあるのかといふ事も問題になつて來ますから、そこを詳しく述べれば、

『世俗文學』

は、道徳的な解決や常識的な結末の作品といふ事になり、それは例へば、勸善懲惡(かんぜんちようあく)といふ主題は、大抵(たいてい)は、

『世俗文學』といふ事になります。


一方の、

『純文學』

は、善と惡とは何なのかを考察し、それを決定されたものとは考へず、飽(あ)くまでも比定の段階で事件を展開して行つたり、もつと言へば、惡に善が負けてしまつた物語、となつたりするものだと言へるでせう。


これらの意味では、

『世俗文學』

は事件の奇抜さと共に、その解決方法としては、世間の常識的なものを損なはないやうな作品であるのに比べ、

『純文學』

は小説である以上、

『世俗文學』

と同じやうに事件の奇抜さはあるものの、言ひたい事を押さへてまで常識に阿(おもね)たりせず、寧(むし)ろ世俗的には非常識な結論であつたとしても、それを表現しようとする傾向があり、言葉を換へて言ふと、讀者に媚(こ)びる部分が異なつてゐるのが特徴だと思はれます。


といふ事で、第一に、

『民衆音樂(文學)』

といふ枠組があつて、その下の階層に、

『純音樂(文學)』

『世俗音樂(文學)』

といふ分類による構成から成立してゐる事に氣がつかれるだらう。


筆者は、

『純音樂・純文學』
や、

『哲學・科學』

が民衆のものではなく、なにか專門家の爲にだけ存在するといふ考へには反對で、それは例へば、

『眞理』

を見つけた者が教祖に祭られる爲にだけ、それが作用するのではなく、信仰者ばかりか民衆にとつても作動しなければ、

『眞理』

とは呼べないといふ事でも、納得出來るでせう。


そこで音樂の話に戻れば、

『純音樂』

と、

『世俗音樂』

の違ひはどのやうなものかといふと、

『純音樂』

は、心と頭腦で味ははうとする鑑賞に耐え得る音樂の事であり、

『世俗音樂』

は、肉體的な運動を助ける爲に演奏される音樂の事である、と定義出來るものと思はれます。


そもそも、音樂は原始においては、危険を報せる爲に太鼓を叩いたり、戰鬪の時に戰士の氣分を昂揚させたり、人が死んだ時の鎭魂の氣持を表現する事に使用出來る、と氣がついた事から發展したものと思はれますが、この色々な用途から言語が派生し、太鼓を一度叩けば「一」といふ概念が生れ、二囘叩けば「二」といふ具合に決定されて行きますが、これでは少ない數(かず)は理解出來ても、量が増えると不便なので、「一」は太鼓の音、「二」は笛の音、といふやうに變化して行つたのではないでせうか。


この考へがもし正しいとすれば、その意味はでは擬聲語(オノマトペ)こそ、言語の祖語(あるいは素語?)とも呼べるものだと思はれます。


再び話を音樂に戻しますと、

『純音樂』



『世俗音樂』

の違ひを解り易く説明するには、

「ラヂオ體操(たいさう)」

の音樂をどう聽くか、といふ事を考へてもらふのが一番でせう。


「ラヂオ體操」

の音樂を、體操するのが目的である場合には、即(すなは)ち、

『舞蹈音樂(バレエ)』

のやうに、ある物語を傳(つた)へる爲に肉體を表現手段とし、音樂との一體感を目的とするのではなく、肉體の運動だけを目的として音樂が附隨するのであるならば、音樂は二義的なものとなり、

『純音樂』

とは呼べませんが、

『ラヂオ體操』

の音樂を、

『純音樂』

として聽く爲には、體操せずに椅子に坐つて鑑賞した時にこそ、これを音樂として頭腦で聽いてゐると單純に考へられる譯です。


勿論、

『ラヂオ體操』

を音樂として鑑賞する時に、運動するのには適してゐるが、

『純音樂』

として鑑賞に耐へられるものかどうかは、また別の話でして、その音樂が「藝術音樂」のどの位置に納まるのかを判定する必要があるのでせうが、幸ひにも、

『ラヂオ體操』

の音樂は、その兩方に充分耐へられる可き内容を備へてゐる、と筆者は考へる次第です。

 

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