「雨のあとに虹」　コミュニティコミュの雨のあとに虹・Part３　その４８

「お呼びでしょうか？」
桜田は朝から無表情な顔で言った。菊池は桜田の横で黙って立っていると
「忙しいみたいだね。」
岸田は言った。
「そうなに忙しくありません。」
桜田が言うと
「忙しく見えたよ。」
岸田は言った。
「繁華街で老人を刺した犯人を捜さなければいけないだけです。」
桜田が言うと
「それは一課の連中に任せて特別プロジェクトを担当する気はないかい。」
岸田は強い口調で言った。
「何かあったのですか？」
菊池は言った。
「中国マフィアの青い龍がアメリカマフィアのマクマホンファミリーと組んで日本を荒らすらしいよ。」
岸田が言うと
「情報は聞いています。」
桜田は言った。
「さすがだね。」
岸田が言うと
「その対策としてSITの松田警部補が時々一課と合同で動いています。」
桜田は言った。
「それなら話が早いね。」
岸田が言うと
「どういう意味ですか？」
桜田は言った。岸田が合図をすると官房長室の奥から精悍な中国人の青年が出て来た。桜田と菊池が青年と視線を合わせると含みを持たせたように笑みを浮かべた。
「彼は北京警察の林元精警部補だよ。」
岸田が言うと
「林元精です。」
林ははっきりとした日本語で言った。
「林警部補は魯文仁を逮捕するために日本に来られたから力を貸してあげてほしい。」
岸田は言った。
「よろしくお願い致します。」
林が言うと
「こちらこそよろしくお願い致します。」
菊池は言った。
「その節は大変失礼しました。」
桜田が言うと
「こちらこそ失礼しました。」
林は言った。
「林警部補とはすでに面識があるみたいだね。」
岸田が言うと
「三田人志と国分源太の事件で会っていますよ。」
菊池は言った。
「何の話だね？」
岸田は惚けたように言った。

　梅川は総武鉄道のターミナル駅の改札口を出て来た。今日も割り込み乗車をした中年男がいた。マナーの悪い乗客に不満を持った梅川はいつも怒りを抑えるのが精一杯である。どのような理由があってもマナーの悪い人に暴力行為をしてはいけない。梅川自身もそれは理解していたが先日は自分の感情を抑えられなくなり武藤を刺してしまった。梅川は正義感が強い男である。正義感が強いからマナーが悪い人を許せないのだ。それならば武藤を刺した自分は悪ではないのかと言われれば何も反論が出来ない梅川であった。複雑な気持ちで梅川が券売機の前で路線図を見ていると
「マナーが悪い乗客に毅然とした態度で対応するのは良いことだよ。」
鎌田は梅川の後ろに立つと言った。
「俺はマナーが悪い乗客には本気で腹が立つよ。」
松丸は鎌田の横で言った。梅川が振り返って松丸と鎌田を見るとふたりとも会話に夢中であり梅川の顔を見なかった。
「少しでもマナー違反がなくなるといいね。」
鎌田は言った。
「そうだね。」
松丸が言うと
「お待たせしました。」
よしみは小走りで来ると笑顔で言った。
「たまにはゆっくり昼食をとりましょう。」
松丸は言った。
「どこかお勧めのお店はありますか？」
よしみが言うと
「僕がご案内しますよ。」
鎌田は言った。
「お願いします。」
よしみが言うと
「任せてください。」
鎌田は言った。三人が楽しそうに歩いて行く姿を梅川は黙って見送っていた。

「お疲れ様でした。」
立花は言った。
「久しぶりにキャンペーンガールの仕事をしたので緊張しました。」
久美子が言うと
「久美子さんはリラックスしているように見えましたよ。」
立花は言った。
「私が立っている位置から観覧車が見えるので少しだけ落ち着けました。」
久美子が言うと
「観覧車に乗って都内を一望するのは気分爽快でしょうね。」
立花は言った。久美子が観覧車を見ると諸岡がドアを開けて入って来た。
「お疲れ様です。」
久美子が言うと
「次は最近になって爆発的な人気を誇っているふたり組みのデュオが出演します。」
諸岡は言った。
「諸岡さんの企画がお客さんも喜んでいますよ。」
立花は嬉しそうに言った。
「私は企画を考えただけですよ。」
諸岡が言うと
「その企画が成果に繋がったのですよ。」
立花が言うと
「あのふたりにコネクションがある堀川さんには驚きました。」
諸岡は言った。
「私は路上ライブをした時に歌を聴いたのがご縁でした。」
久美子が言うと
「高村社長と久美子さんは顔が広いですね。」
立花は言った。
「それほどでもないですよ。」
久美子が言うと
「失礼します。」
本間みさはドアを開けながら言った。
「よろしくお願いします。」
中野まゆみはみさに遅れて入って来ると言った。
「時間まで珈琲を飲んで休んでいてください。」
立花は笑顔で言った。