また英語も「言語」であり、その実体は「音」にあるので、今の一般的英語教育のような発音軽視では決して高い効果は期待できない。ただでさえ限られた授業時間数の中で発音記号や音声学を教える暇などないという現場の主張があるそうだが、それは本末転倒もはなはだしい。「読み方もわからない英単語」の「和訳」だけできて何になるというのか? なお、発音習得については旧来「母音、子音」といった音素の理解、習得を基礎として、音節単位の発音、さらに単語、フレーズ、文といったより長い単位を「意味に即して発音できる」能力へとつなげていくのが順序とされてきたのだが、英語圏におけるEFL(English as a Foreign Language:外国語として学ぶ英語)や、ESL(English as a second Language:第2言語として学ぶ英語)の専門家たちのアプローチは「先に文のメロディを覚えさせる」というものだ。つまり母音や子音などの音素を後回しにして、ナチュラルな発音がなされた英文を全体的にざっくりとメロディでとらえてしまう。具体的な訓練方法としては、生徒の口にカズー(という楽器)を加えさせ、母音や子音を発音したくてもできない状態にして、聞こえてきた英文を真似させる。するといやでも「メロディだけ」を模倣するようになり、文の抑揚や強弱だけを先に強く意識するようになる。そのあとで徐々に正確な母音や子音を習得させるという順序になる。 これは絵画にたとえれば、全体的なデッサン、構図を先に考え、徐々に細かいパーツを仕上げていくことに似ている。樹木を描くとき、葉っぱ1枚1枚を丁寧に描きながら最終的に1本の樹木にするのと、先に樹木の全体像、輪郭などを捉え、あとから細部を描きこんでいくのとでは、結果的にどちらがより優れた描写となるかを考えてみるとわかりやすいだろう。