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獅詩倭歌噺〜LION STORY〜コミュの獅噺 陸ノ壱

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『キラキラ〜約束〜』

〜憧れは今日も安らかに眠り、
それらを輝かせるものにまた憧れる〜




俺は、

いつしかこの世界に生まれ落ち、

身に着けた覚えのない、

【本能】というやつに従い、

この糸で、

この罠で、

違う生き物を、

エサを、

捕らえ、

喰らい、

時に蓄え、

満足し、

眠る。

言い忘れたが、

寝床は別にある。

それは俺のこだわりだ。


【感情】?

なんだそれは?

身に着けた覚えはないよ。


それはもしかして、

俺が時々無意識に、

この空を見上げることを説明できるのか?


そうか。


だが、もういい。

生きてる意味なんてたいした意味を持たない。


どんな意味があるにしろ、

俺が、

たった一匹で、

生きてることに変わりはない。

この【日常】に変わりはない。


今日も、明日も、この先も、

いつしか、この世界に疲れ朽ちるまで、

俺は、

ここで、

たった一匹で、

生きていくんだ。





そう思っていた・・・。







あいつは俺を仲間だとでも思ってるのか?

いや、そんなことまで考えてないだろうな・・・。

ほら、

またこの時間。

俺が朝飯を終えて満腹で、

昼寝の準備を始める頃、

あいつはやってくる。

というか、

俺の糸に絡まって、

ジタバタもがきやがる。


「今日は何の用だよ?」

と聞くと、


「あなたと話をしに来たんだ。」


と言う。


「俺はお前と話すことはないよ。」


と言うと、


「私はあなたと話したいことがいっぱいあるんだ。」


と言う。


昨日も、一昨日もこの調子。

こんな言い合いをここ三日間続けてきたんだ。


「お前、俺の正体がわかってんのか?

本当はお前なんかエサにして食ってしまうんだぞ?」


「知ってるよ。でも、あなたはそうはしないことも知ってる。」


「それは、、、

俺が今満腹だからだ。

もし、

そうじゃない時にお前が来たりしたら、知らないからな。」


「それも知ってるよ。」


「・・・。」


こいつと話してると全く調子が狂う。


だから俺は毎回、

こいつに絡まった糸を切って、

「もう来るなよ!」


と言って逃がしてやるんだ。



「あなたは、どうしてずっとこの場所に居るの?」


「なんだまだ居たのか?

そんなの決まってるだろ。

ここが俺の巣だからだよ。」


「でも、朝も、昼も、夜も、

あなたはここに居る。

どこかに出かけたりはしないんですか?」


「見ればわかるだろ?

俺にはお前みたいな立派な羽があるわけじゃないし、

ここを離れれば敵も多いんだよ。

行けるものなら俺だって・・・。」


「やっぱり出かけたいんだ?

なら、私が教えてあげるよ!

あなたが行きたい場所や知らない場所のこと、

私が代わりに行って、見て、あなたに教えてあげる。」


「・・・。」


「じゃあまた明日来るから!」


「・・・。」



あいつは俺を仲間だとでも思ってるのか?


まあいい。


今は満腹で眠い。


夜に備えて眠るとしよう・・・。




最近の夜は冷えるな。

もうそんな季節か。

そろそろ準備をしなくちゃな。



時折、【本能】が教えてくれる情報を頼りに、

俺は今日も一匹で、

生きている。





夜が明けると、

間抜けにも俺の糸に絡まる哀れな奴らがもがいてる。

きっと何が起こったのかもわかっていないんだろうから、

ゆっくり近付き、一瞬で包んでやる。

俺なりの優しさだ。



「なんだ。今日はお前はひっかからなかったんだな。」


「もうわかったからね。糸の位置も、あなたのことも。」


「なんだそれ。じゃあ用はないだろ?

早くその自慢の羽でどこかに飛んでいきな。」


「用ならあるさ。」


「ん?」


「用ならある。」


「なんだよ?」


「あなたが行きたい場所はどこ?」


「またその話か・・・。そんなのはないよ!」


「じゃあ知りたいことは?」


「ないない!早く帰れ!」


「・・・。また明日来るから!」


「ふう、やっと行きやがった・・・。

ふん。

行きたい場所か・・・。」



俺はまた無意識に、

いや、今に限っては意識的に、

空を見上げていた。


【くも】一つない、


真っ青な空だった。



次の日も、

その次の日もあいつはやって来た。


「今日はあそこに咲いてる花のことを教えてあげるよ。」


「【花】?昨日お前が言ってた【草】ってのとどう違うんだ?」


「ん〜、花は綺麗に咲くことが出来るんだ。中には甘い蜜を出すやつもある。」


「【咲く】ってのはなんだ?」


「ん〜、成長して新しく生まれ変わるみたいなもんさ。」


「ふ〜ん。俺には出来ないことだな。」


「覚えてないだけさ。きっとあなたも咲いたはずなんだ。」


「その辺はよくわからんが、あの花は【咲いた】後はどうなるんだ?」


「後は・・・、時期が来れば枯れるかな。」


「【枯れる】ってのは【死ぬ】ってことか?」


「似てるけどちょっと違う気がする・・・。」


「【枯れる】と【死ぬ】は違うのか・・・。

なあ、じゃあなんで花は咲こうとするんだ?

咲かなきゃ枯れないんじゃないか?

草は咲かないからそんなに早く枯れないんだろ?」


「咲かなくても枯れるんだよ。時期が来れば。」


「なるほど。じゃあ咲いた方がいいんだな。」


「・・・。

あなたは変な質問をするね。」


「そうか?

そんなことよりもう帰れよ。

今日は喋り過ぎた。」


「うん。楽しかった。じゃあまた明日。」



俺はいつからこんなにお喋りになった・・・?



ああ、夜は本当に冷える・・・。


身を縮めてうずくまり、

【咲いた】自分と【枯れた】自分を想像してみる。


眠るにはまだ早い・・・。



次の日、

その次の日、

そのまた次の日、

あいつは来なかった。


別に、

どうってことない。

別に、

気にしてなんかいない。

別に・・・、

いや、

たださ、

ただ、

ちょっと聞いてやってもいいことがあっただけさ・・・。


そんなことをぼやいていた四日目の明け方。

糸の端に誰かがもがいてる感触がした。

まだ寝ていたい中行ってみると、

あいつが居た。


「なんだよ。お前か。」


「やあ・・・、久しぶり・・・。」


「俺はまだ満腹じゃないぞ。

本当だったらお前なんか食ってやるとこだぞ。

まあ、

もうお前は食いもんに見えねえけどな。」


「・・・。

それは困ったな。

今日はあなたに食べられようと思ってこの時間に来たのに・・・。」


「なんだそれ?!

ん?

なんだ、自慢の羽を怪我したのか?」


「そうなんです。

片方の羽がこれでは、

私はもう満足に飛ぶことが出来ない。

今日はなんとかここまで来れたけど、

私にはもう、飛ぶ力が残ってない・・・。」


「だったらそこでじっとしてな。元気になったら帰れよ。」


「待ってください!」


「なんだよ?」


「私は、もう飛べないんですよ!

もう生きてはいけないんですよ・・・。」


「なに言ってんだ?

俺なんか元々飛べないよ。

それでもこうやって生きてる!

羽がなくたってな、

飛べなくたってこうやって生きてる!」


「私は・・・

私はあなたとは違う・・・。

私はこの羽で、花から花へ、草から草へ、

自由なようだけど生きていくために、飛んできたんだ。

私はあなたのように生きてはいけないんだよ!」


「だったら、そこで死ぬのを待ってればいい。

お前が死んだら俺が食ってやるよ。」


「うん。

だから、

そのつもりで来たんだよ。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

勝手にしろ!」




今夜も冷える。


一匹で生きてることは当たり前で、

慣れるとか、慣れないとかの問題以前に、

その意味すら知らない【寂しさ】や、

【孤独】を感じるとか言う以前に、

一匹で過ごす以外ありえないのが

俺の人生だったのに・・・。


ここには、

俺しか居ないはずで、

それ以外、

隅々まで把握できてしまうこの【能力】で、

俺以外、

誰かの存在を、

感じる。


この糸の先に、

俺の人生に、

誰かの存在を、

感じる。


それはとても不思議で、

糸から伝わるこの感覚はなんなのか、

答えがわかる筈もなかった。


ただ少し、

ほんの少しだけ、

暖かい気がした。


寒い季節なだけだと、

自分に言い聞かせてたけど。





この時は、

いずれ来る【別れ】なんて、

第一、

【別れ】っていう言葉自体、

知るはずもなかったんだ。


俺だけ、

知らなかったんだよ・・・。





いや、

知っていたはずだったか・・・。





「おい、生きてんのか?」


「はい、なんとか。」


「聞きたいことがあるんだ。」


「ほんとに?めずらしい!なんですか?」


「うるさいな・・・。やっぱりいい。」


「だめですよ!ほら!笑ったりしないから。」


「わかったよ。

・ ・・お前のことだ。」


「私の?」


「そう。

お前は、

お前らはなんて呼ばれてる?

人間に。

なんて呼ばれたことがある?」


「人間にですか・・・。

私は・・・、

アゲ、

いや、

大まかに言えば

【蝶】

ですね。」


「チョウ・・・か。

チョウ?

・・・。」


「あなたは?」


「俺?

俺は【クモ】だそうだ。

ちなみに、

いつものんきに空に浮かんでる、

あの白くてでっかいのも【くも】って呼ばれてる。

どう考えても同じには見えないんだがな・・・。」


「へえ、不思議だね。」


「ああ、不思議だな。

なんだ、

片方の羽が無くなっても

まだ元気そうだな?

元気ついでに俺の朝飯分けてやろうか?」


「い、いえ、そういうのはちょっと・・・。

でも、

ありがとう。」


「なんだ、そっか。

じゃあ俺は忙しいからまたな。」


「うん。またね・・・。」








そんな他愛もない会話をした次の日の夜、

あいつは死んだ。








あの時は。

なんとなくわかったんだ。

もちろん、

自分の糸のことなら隅々までわかるのが俺の自慢でもあるんだが、

あの時は、

なんとなくだ。

ただなんとなく、

あいつが呼んだ気がしたんだよ。


あいつは、

最後に、

とんでもないことを言いやがったんだ・・・。





*陸ノ弐へ続きます→

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