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mixiシネマクラブコミュのリップヴァンウィンクルの花嫁

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コミュ内全体

2016年 日本
監督 岩井俊二
出演 黒木華・Cocco・綾野剛

代理教員をしている皆川七海は、SNSで知り合った男性と結婚。ところが浮気の容疑をかけられ、早々に家を追い出される。すると「何でも屋」の安室から、豪邸での住み込みのメイドの仕事を紹介され、そこでメイドの里中真白との奇妙な同居生活を始めることになる。
「リップヴァンウィンクル」は、SNSでの真白のハンドルネーム。

「リップ・ヴァン・ウィンクル」は、アメリカの民話に基づくアービングの小説。
樵のリップは、妻と生まれたばかりの娘と暮らしていた。彼は勤勉ではなかったので、妻にいつも「もっと働け!」と怒鳴られていた。
ある日森に行くと、仙人たちがボウリングをしていた。やがて彼らは酒盛りを始めたので、リップも飲むと、眠ってしまった。
目を覚ました彼が村に戻ると、村の様子は一変していた。自分の家は荒れ果て、崩れかかっている。知り合いは村に一人もいなくなっていて、誰も自分のことを知らない。「妻はどうしている?」ときくと、数年前に亡くなったという。やがて彼の娘を名乗る人が来て、父親は20年前に山へ行ったきり行方不明になったという。彼は、互いに面識のない娘に引き取られた。


写真左:笑顔に溢れる「花嫁」七海。
写真中:大きく手を振る七海。
写真右:薬指に残る指輪の感触を確かめる七海。

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 本作は、一人暮らしと結婚生活を描いた第1部、真白との同居生活を描いた第2部、再度の一人暮らしを描いた第3部の3部構成となっており、主人公は一人暮らしから結婚生活へ、結婚生活から豪邸へ、豪邸から一人暮らしへと3度(厳密には4度)の転居を経験する。

■第1部 虚構に満ちた現実
 七海は、電脳空間でしか本音が言えない。自分の殻の中に閉じこもっている主人公に対し、ネット授業の生徒であるカノンは引きこもりで、顔は映らずパソコンの中だけに登場する。主人公の分身のような存在だ。
 現実世界の結婚式は、新郎新婦の少年・少女時代を演じる役者が登場するなど、滑稽なほど虚飾にまみれている。七海の父はにこりともしない。七海にとって自分のための結婚式なのに自分のものでないようで、緊張からか表情がこわばっている。
 浮気の容疑をかけられた七海は家を追い出され、行く当てもなくさまよい、安室に電話で「ここはどこですか」と問う。スマホがあれば確認できることなど、わかっているはずだ。家を失い、職を失い、頼る人もいない彼女には、自分が何者でどこに属しているのか説明できなかっただろう。
 リップ・ヴァン・ウィンクルが村に戻ると、知り合いは誰もいなかった。彼は、口うるさかった妻の安否をきく。妻なら、20歳ほど年上になってはいるが、生きていれば夫の自分を認識できるはずだ。しかし実際には亡くなっていて、誰一人として彼を認識できなかった。人は単独では、自分が何者かを説明できない。人は人に認識されることで、自分が誰なのかを説明できるのだ。リップは、互いに面識のない娘に引き取られる。彼にとっては妻の、娘にとっては母の思い出があり、それを共有することで親子関係を証明できるからだ。
 電脳空間でしか人と繋がれない七海は、孤立無援に陥った。やがてバッテリーが切れ、他者との繋がりを完全に断ち切られてしまう。長い道のりを歩いて来たのに、映像では不思議なことに人も車も全く通っていない。本当はいたのに、目に入っていなかったのだろうか。夕暮れ時となり、ようやく通行人の姿が見えるようになり、ショーウィンドウからウェディングドレスが見え、視聴者は皮肉だと感じるが、当の七海は茫然自失で気づかないようだ。
■第2部 虚構世界にある真実
 七海は自分の結婚式では顔をこわばらせていたが 自分が代理出席する側になると、結婚式が終わったとたん、家族役を演じた他人どうしで大笑いし、姉役だった真白と意気投合する。ここでは、現実世界に喜びがなく虚構世界に喜びがあることが表現されている。
 真白と豪邸で暮らし始めた七海は、初めて相手の意に反し「この仕事辞めます」「二人で暮らせる家を探そう」と言って涙を流す。他人の顔色を窺うのではなく、真に相手を思いやっての提案である。
 家を追い出されたときはウェディングドレスに注意を払わなかったが、真白と部屋探しに行ったときは、店の奥に見えるウェディングドレスに気づいている。二人は試着と称し、記念撮影する。日本には同性婚はないから、これはどこまで行ってもまがいものである。結婚も偽物、指輪も偽物、だが七海は、現実の結婚では見せなかった笑顔に溢れている。ここでも、現実世界に喜びがなく虚構世界に喜びがあることが表現されている。
 二人はウェディングドレスを着たまま豪邸に帰り、酒を酌み交わし、ピアノを弾き、ダンスを踊り、二人だけの宴に興じる。サクラの出席者など要らない。指輪も証明書も。画面はBGMだけの無声になり、逆光やスローモーションを用いた幻想的なシーンが続く。本物ではない虚構世界の結婚式が、現実世界で満たされなかった二人の、至福の時を描き出す。この二人が出逢ったのは、結婚式のサクラがきっかけだったというところに皮肉がある。
■第3部 再び現実生活へ
 真白の死を知った七海は、声をあげて泣く。夫に追い出されたときも、大声をあげなかったのに。真白の葬式シーンには、本物のAV女優・男優が登場する。ここは演技ではなく本心なのだということで、監督が本物の起用に強くこだわったところだろう。
 服を脱いで裸になるとき、あらゆる装飾性は剥ぎ取られ、ありのままの自分がさらけ出される。真白の母が裸になり、心が壊れ汚い仕事も金のため粛々とこなしてきた安室も、頼まれもしないのに裸になる。ここで初めて、真白の職業がAV女優であることの意味がわかる。母も安室も真白も、みんな裸だ。そこに何の貴賎があろうか。黒木華が、立場上裸になれなかったことは残念だ。
 リップが村に戻ると、全てが変わっていた。物語は最後に、再び一人暮らしに戻った七海の引越しシーンを描く。彼女が新婚生活から追い出された日は雨だったが、今度は晴れ渡ったすがすがしい朝(音楽はどちらも「G線上のアリア」)だ。引きこもりのカノンも「東京ってどんなところ?」と、外の世界に興味を示す。
 安室は頼まれもしないのに、家具をプレゼントする。一人暮らしなのに、二人で椅子を二つ運ぶ。七海はこの部屋に、誰かを招くつもりだろう。それはカノンかもしれないし、いつかこの町で出逢うであろう愛する人かもしれない。別れ際には「ありがとうございました!」と大きな声をあげ、大きく手を振る。冒頭では小さくしか手を挙げることができず、授業では声が小さかった彼女がである。
 安室が帰ると、七海はまた一人になる。だが彼女はもう、孤独ではない。七海は、薬指に残る虚構の指輪の感触を確かめる。そこには、愛にはもともと形なんかないのだという強いメッセージが込められている。ベランダの外は雲一つなく晴れ渡り、彼女の視界を遮るものはない。真白は、見晴らしの良さにこだわっていた。最後にカメラはすうっと引いて行き、七海を取り巻く都会の風景を映し出す。彼女はもう、人ごみの中でとまどうことはない。虚構に満ちたこの世界にも、真実の愛はきっとあるはずだ。

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