したり映画帖コミュの２０１４年１月下半期①

１月２１日（火）
『カンフー・ハッスル』０４
チャウ・シンチー監督・主演作品。
前作からバジェットもアップし、セット撮影でスケールがデカくなる。
キャメラワークも丁寧。安アパート（というより低所得者集落か）の女大家が主人公と追いかけっこするシーンは漫画チックに描かれてついていけなくなるが、後に、そこには理由があるというミスリーディングが用意されている。
意外に物語は単純ではなく、紆余曲折の末主人公が超人（神）に変身する理由も様々な人生を経験してきた為に超人に成りえたという具合に説得力を持つ。
追いかけっこのシーンが主人公の超人となるフリとなっているのだ。
『少林サッカー』ではチームメイトだった仲間が今回は敵役を演じるという前作からの目配せもオマケだ。
今回も貧乏人たちに容赦なく残酷さを発揮する。
そんなブラックなチャウ・シンチーが好きだ。素敵だ。（７５点）

『レッド・プラネット』００
一見ペットのようにも見えた万能マシーンが、凶暴な兵器に変貌するという中盤から『スペース・サタン』を思わせたりしてほんの少しだけ盛り上がるのに、勢いはすぐに萎えて、当時でも企画的に目新しくもない宇宙飛行士チームのサバイバルの様相を色濃くする。
個人的にＶ・キルマーが優秀なエンジニアという設定で女傑キャリー・アン・モス演じる女船長のロマンスの相手となる事に納得がいかない。
キルマーが知的能力を職業としている事に説得力を持たない。
オチとして万能マシーンを利用して脱出するというのは理解できるが、もう少し面白い方法は発見できなかっただろうか。
例えば、視察用に万能マシーンから発射されるミニヘリコプターを竹コプターのように使用するとか。
そういった工夫の跡が見られない。（５０点）

１月２２日（水）
『ゲド戦記』０６
ファンタジー小説の名作のアニメ映画化。ひどくツマラない。
人が動かない。
いわゆる“板付き”ばかりだ。
同じアニメ制作会社が作ったと思えない醜い作品である。
父親・駿との比較は控えようと心がけてみるが、今作の主題のひとつが父親越えをわざわざ扱っているのでどうしても視点はそちらを向いてしまう。
主人公の陰鬱さがアニメの楽天性を奪い、匿ってくれる魔女も村民との付き合いに洞察力の低さを心底感じてしまう。
すると、「父親だったらなあ……」と、ついはしたなくつぶやいてしまうのである。（１０点）

１月２３日（木）
『プロフェシー』０２
マーク・ヘリントン監督。
前作『隣人は静かに笑う』同様奇妙な映画だ。
アメリカの都市伝説、モスマンを題材にした作品。
かと言って傑作『キャンディマン』と違って、ホラーというより超心理スリラーと呼ぶのが適している。
赤い目を持つモスマンの痕跡を象徴するように、いたるところで赤い目を想起させるイメージが横溢する。映像だけでなく音響にも、電話や無線の混線音、電化製品の出す騒音とも呼べない程の低音等がモスマンの存在を際立たせる。
ラストもパン兄弟が『アイ』でパクッている（調べたら制作年度は同年だった）。
レントゲン写真に写った脳梗塞の痕跡からモスマンの存在を信じ始めるという物語設定も面白い。（７５点）

『死の接吻』９５
リチャード・プライス脚本。
バルベ・シュローデルことバーベット・シュローダーは、当時は本当にイカしていた。
『バーフライ』『運命の逆転』『判決前夜』『絶対×絶命』のように渋い見落とせない作品を連発していた。本作もオモロシーンが満載で当時は歓喜したものだった。
その濃度は、現在時間が経過しても風化していない。
オチが弱いとかラストが盛り上がらない、なんて常套句は無用だ。
確かに企画として過去の作品のリメイクで何も戦略がないというのは問題である。
ましてや、オリジナルが大して面白くないとなると企画されたのが不思議にしか思えない。
恐らく当時のシュローダーは自身の演出力で企画の持つ短所を補えるという自負があったと思われる。そこまで自信漲っていた作品が本作なのである。
と言うのは筆者の思い込みの判官びいきの可能性が高い。（８５点）

『ワイルド７』１１
羽住英一郎監督。
日本でアクション映画は撮れない、作れない、という以前から危惧していた限界を痛感させられる作品。それは制作者側の問題ばかりではないといえる。先ずは道路交通法などの国法の限界がある。
それによって、使用できるロケーションが限られてしまう。
東映のアクションを見ても、いつも同じような人気の少ない場所で車がひっくり返る。
やる気があっても日本映画界の犯罪者エキストラの演技が無惨。
スタントする役者の演技に厚味がないのだ。
危険から可能な限り回避する方法を熟知しているために死に際や撃たれる演技が固まってしまいレパートーリーの豊富さに欠けてしまう。まだまだ諸々の理由があるが、アクション映画を作り慣れていないため、本作のように最凶の七人が集まったという設定を活かせるような演出がまったくできていない。その役柄のリアリティがまったくない。
イマジネーションが働かないのだ。
日本的な犯罪者にダイナミズムのある犯行を求める事が日本的風土にあってそぐわない。だから敵役を空疎なテロ集団などの設定でお茶を濁してしまう。でも、作り続けないと発展はありえない。
虚しい不毛に近い戦いを、日本製アクション映画は強いられ続けるしかないのか。（４０点）

１月２３日（木）
『Ｓｈａｌｌ　Ｗｅ　Ｄｎｃｅ？』０４
ピーター・チェルソム監督。
ハリウッド版、リチャ－ド・ギア主演の方。
ストーリーは日本版とほぼおなじ。
ミドルエイジ・クライシスが主題の大人のファンタジー映画。
竹中直人役のデヴィッド・トゥーリスに泣ける。
『ＣＳＩマイアミ』でも活躍するオマー・ミラーが黒人のでくの坊役で日本版よりおいしい役割をこなす。
日本版のときも良かった渡辺えり子演じる中年おばさんのエピソードはハリウッド版でも泣かせる。
中年太り気味のおばさんの社交ダンスに賭ける情熱と思いのたけがほろりとさせる。
それに対してオリジナルでもそう感じたが、草刈民代が演じていた憧れのダンス姫役のダンスに対する思いの強さは今一つ説得力に欠く感じが否めない。
二段オチ風の構成も野暮ったい。
主人公の奥さんとの邂逅で良かったはずなのだが、テーマがミドルエイジ・クライシスからの脱出だからか、ラストは魅力的な若い女性とダンスをさせて終幕。（６６点）

『月に囚われた男』０９
ダンカン・ジョーンズ監督。
低予算を逆手に企画されたＳＦもの。
根拠はないが、カーペンターの『ダーク・スター』へのオマージュとも読める。
そのオマージュ精神からも感じ取れるようにＳＦＸもノスタルジーに近い、まさに特撮という言葉が似合うようなミニチュアが多用される。
役者も一人二役で密室の限定空間。
企画の発想からアーティストというより職人的。
父親がデヴィッド・ボウイというのが興味深くて面白い。
次回作『ミッション・イン・８ミニッツ』は傑作。（７１点）

『気球クラブ、その後』０６
園子温監督作品。
ビデオ撮りの超低予算作品。
それでいながら永作博美がキチンとした役割で、コケティッシュで奔放な魅力を振りまく。
役者へ肉迫するカメラは、初期の作風とは違う現在の作風に接近しつつある。
青春のほろ苦い思い出の１ページ。
園子温版『スタンド・バイ・ミー』の群像劇ヴァージョンか。（５４点）

『依頼人』９４
アキヴァ・ゴールズマン脚本、ジョエル・シューマッカー監督。
少年と女弁護士の活躍を描く。
『グロリア』と同じだ。
これは、脚本担当のゴールズマンの手腕というより、面白くなる要素満載の金脈設定なのだ。
少年が女弁護士に仕事を依頼するが、所持金はたった１ドルというのもウリである。
弁護士のスーザン・サランドンがいい。
敵役になるやり手検事のトミー・Ｌ・ジョーンズを丁々発止でやり返す場面は溜飲を下げる。
バツイチで母親と実家で暮らしているサランドンだが、助手役のハゲ青年をこき使う。
ここにロマンスはない。
その潔さが、まだこの時代は許されていたのだと感慨深く思う。
日本だとまずロマンス前提として相手役を設定する安易な企画となる。
少年役のブラッド・レンフロも口答えする生意気な役柄が本人の美形と相俟って野蛮さが活きる。
夭逝してしまったが、レンフロのフィルムグラフィーを見ると本作も含め、『ゴールデンボーイ』『ＢＵＬＬＹ』といったゲイ監督に愛されたのも勝手に納得できる。サディスティックな美形なんだよな。（６５点）

『ケープ・フィアー』９１
豪華なスタッフに豪勢な配役。
その中でもジュリエット・ルイスの痴女めいた思春期の娘の演技がデ・ニーロの怪演よりも印象に残る。本来スコセッシの長所のはずの個性的なキャメラワークや構図が本作のようなジャンルにあって、相当の徒となってしまう。
キャメラが自在に動きすぎて、話に集中ができない。
スリラーとしてのジャンルの鬼門かもしれない。
いつものように持ち前の話法を移植すれば完成するものではないのだよ、マーチンくん。
浅薄だったな。
カメオ出演するロバート・ミッチャムへのオマージュだろうデ・ニーロの左右の拳には『狩人の夜』よろしく「ＬＯＶＥ」と「ＨＡＴＥ」の入れ墨が彫られている。
終盤のクルーザーでの場面ではセットの川が激流や豪雨を再現する。
これも本版『恐怖の岬』へのオマージュだったのだろうか。
その野心は天晴と呼びたい。
だからといって、映画が面白くなる訳ではない。
スコセッシの自己満足にしか見えない。（６８点）