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日記ロワイアルコミュの競技名は人生。

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 『各選手、今スタート位置に着きました。100メートル男子、タイソン・ゲイ、アサファ・パウエル。この二人は特に注目です』

 
 織田裕二、黒!

 家でぼんやり世界陸上を見ていたら、ちょうど男子100メートル決勝だったので、これはちゃんと見とこうと思って注目選手をチェックしていたら、アメリカの最速選手の名前、タイソン・ゲイ。
 タイソン・ゲイ、これは小さいときからかわれたやろうな〜。アメリカはゲイをネタにした悪口も多いからなぁ。そんなことを考えながら観ていた。

 『さあ、今、スタートです!』

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 大学1年、秋。
 僕が友人3人(A、B、C)と大阪の京橋にある居酒屋で飲んだ後のこと。
 酔虎伝を出た僕たちは一人残らず酩酊していた。日付の変わる時間帯だったにもかかわらず、誰一人、帰宅の意思を示さない。かといって何か提案する者もいないから、ただブラブラと車で駅前を徘徊し、時間を持て余していた。深夜の駅前は、ピンキーなお店(Hなお店)以外に営業している店はなく、昼間の賑わいとは異質の空気が流れていた。
 貧乏学生4人にピンキーなお店で遊ぶ金はない。時折、歩いているキャバ嬢や風俗嬢を見るたびに、「おお〜」とか「うひ〜」とか虚しい雄叫びをあげるのみだった。
 そんな中、黄色いテントに赤字で「リンリンハウス」と、その存在を目一杯主張する店が一軒4人の目に止まった。

 A:「あれ、テレクラやんな?」
 B:「行ったことある?」
 全員:「ない」
 A:「おもろそうやん、行ってみようや!」

 車は急転回し、反対車線にあるその店の前で停まった。運転手はC。
 誰もテレクラのシステムを知らない。そこでジャンケンで負けた僕とAが入店し、偵察するという任務を与えられた。
 僕とAはドキドキしながらも、お互いに「余裕やで」の笑顔を崩さず入店し、説明を受けた。全員小心者の僕たちはソロ活動できないため、自分の携帯電話でどこからでもアクセスできるプリペイドカードを購入して、車の中から電話をかけることにした。

 A:「120分3000円、有意義に使おうぜ」
 全員:「押忍」

 カードに書かれてある番号に電話して、女の子からの着信を待つ。全員に聞こえるよう携帯電話のスピーカー機能を使う。
 …10分程でかかってきた。
 
 A:「うおっ!来た!」
 全員:「とれとれ!」

 ピッ。

 ?:「もしもし〜」
 A:[あ、もしもし]
 ?:「え〜、声が若そうやけど、いくつ?」
 A:「えっと、20」

 ブチ…ツーツーツー。

 A:「あれ、なんで?」
 B:「やっぱ、金目的の女はおっさん狙いなんじゃない?」
 A:「そっか、じゃあどうする?」
 B:「40歳設定でいくとか」
 A:「声でばれるやん、てか会ったらばれるやん」
 B:「え、会うの?」
 A:「え、会わんの?」
 B:「会っても金ないやん」
 A:「せやな…、うわっ!来た」
 全員:「とれとれ!」
 
 ピッ。

 A:「もしもし」

 ブチ…ツーツーツー。

 A:「あかんで、これ…」
 全員:「う〜む」

 それからも似たようなやり取りで成果を得られないままカードの残高だけが消耗していった。

 僕:「もう諦めて帰るか」
 B:「せやな…」

 着信が来た。

 A:「・・・」
 全員:「とれって!」

 ピッ。

 A:「もしもし」
 ?:「もしもし〜、今、何してるの?」
 A:「飲んでて帰りやねん。そっちは?」
 ?:「家でくつろいでる〜」
 A:「へ〜、どこに住んでるん?」
 ?:「なんか声が反響してるけど、なにこれ?もしかして誰かいる?」
 A:「あ、ちょっと待ってな」

 スピーカー機能のためにこの現象が起こる。Aはスピーカー機能を切って話し始めた。怪しまれないよう、残りの3人は車外で待つことにした。

 ・・・5分ほど経って、車の窓が開いた。ドア越しにAと話す。
 A:「一応、話しはついた」
 僕:「てかさあ、なんか声が変じゃなかった?」
 A:「実はな…、ニューハーフらしい」
 全員:「えっ!!!」
 A:「ないよな〜」
 僕:「怖いって!」
 B:「カードの残高は?」
 A:「もうないねん。途中で切れたし」
 B:「うは〜、最悪やな」
 全員:「う〜む・・・」
 A:「けどな、もしやで、もし仮に浜崎あゆみが、あゆ〜実はニューハーフでした〜。ってなったらどう?」
 B:「…イ、イケる。むしろイキたい」
 僕:「いや!そのポジティブシンキングは危険すぎる!」
 A:「こうしよ、とりあえず行ってヤバかったら逃げよ!」
 B:「せやな。そうしよ」
 僕:「ちょ、お前らまだ酔ってる!?」
 A:「大丈夫やって、キモかったらおちょくって逃げよや」
 B:「そうそう、ヒマ潰しやって」

 ありえないことに僕を乗せた車は、声の主の家に向かって走り出した。

 ・・・見たこともないニューハーフの家に着き、僕は心臓が悪くなるほど緊張していた。というか脅えていた。恐ろしくマッチョで犯されたらどうしようとか、実は4、5人いて全員で戦っても敵わないかもとか…、しかし、とにかくここまで来たらもう行くしかない。
 すぐ逃げられるよう、車のエンジンをつけたままにして名ドライバーのCを運転席に残し、僕らはニューハーフのいるマンションに入った。
 エントランスで僕は靴紐を結びなおし、ケツの穴をギュッと引き締めて一番最後にエレベータに乗り込んだ。

 A:「お前、ビビりすぎやろ」
 僕:「こんな、とある一日にトラウマをつくりたくない」
 B:「ぎゃははは、3人いたら大丈夫やって」

 4階に着いたエレベータは僕の気持ちとは無関係に、当たり前のようにその扉を開いた。
 静か過ぎる廊下を少し歩いて、着いた。

 A:「ここやで」
 僕:「ちょ、マジ?」

 ピンポーン。
 Bがインターホンを押した。
 僕:「おい!勝手に…」

 「は〜い」
 なかから声が聞こえた。完全に男のそれだ。

 僕:「ヤバいって!」
 B:「あゆかもしれんで〜」

 ガチャ。
 ドアノブが回り、ドアがゆっくりと開いた。
 ドアの隙間から見えた。

 岩尾!(酷似)
 フットボールアワーの岩尾がネグリジェを着ている。

 全員:「うあ〜〜〜!うあ〜〜っ!!」

 僕らは走った。エレベータに向かって。
 振り向くことはできない。
 エレベータに着いて、1階のボタンを押して、閉ボタンを連打した。
 ボタンが反応してから閉まるまでの数秒間、岩尾が鬼の形相で迫って来ていた。

 僕:「うおっ!うおっ!」
 A:「閉まれ!早く!」
 B:「来るなーっ!」

 もうすぐそこ、というところでドアは閉まった。
 僕は、1階へ着くまでに尻ポケットに入っている携帯と財布を落とさないよう手に持ち、1階に着いた瞬間、4階までの全てのボタンを押した。これでエレベータが上に戻るまで各階に停まる。時間が稼げる。
 ドアが開いて、エントランスを走り抜けると、正面入り口の横にある非常階段のドアがガシャーンと音を立てて開き、ものすごい勢いで中から岩尾が飛び出てきた。

 マジに怖い。シャレにならない。
 僕らは車に向かって全力疾走した。

 僕が一番最初に車に着いた。急いで後部座席のドアを開けると運転席のシートが倒されていて中に入れない。Cが寝ていた。

 僕:「おい!上げろ!早くシート上げろ!」

 岩尾まで、30メートルない。

 そのとき、Aが叫んだ。
 A:「うあっ!靴脱げた!」
 僕:「そんなんいいから早く乗れ!」
 A:「あかんて!ドルガバ(DOLCE&GABBANA)やって!」
 B:「うわ、うわ!来た!!早く乗れ!」
 A:「うお〜!ドルガバ〜!!」

 僕たちは全員、車に乗り込んだ。
 運転席のCがドライブにシフトチェンジしたとき。

 岩尾が脱げた靴のところまで走って来た。車からの距離約5メートル。

 A:「あ〜、とられる〜!定価7万〜」

 ガッ!
 転んだ。
 なんと、その靴に引っ掛かって転んだ。
 岩尾が転んだ、頭から思いっきり。

 岩尾:「ギャー、ギャー!」

 ウィンドウ越しに見ながらいった。

 A:「あいつ、血出して泣いてる」
 B:「…アホやな」
 A:「今やったらいける。オレ、靴取りに行くわ」
 僕:「コラ、やめとき!」

 僕の意見を無視してAは靴を取りに車を降りたので、仕方なく僕とBも付き添った。
 
 …Aが靴を拾い上げたとき、泣きながら岩尾がいった。

 岩尾:「ちょ、ちょっと、逃げないでよ。お願いだから」
 A:「うおっ、しゃべった!」
 B:「てか、おっさん大丈夫?血がすごいで」
 岩尾:「あんたらが逃げるからでしょ。大丈夫じゃないわ」
 僕:「いや、普通逃げるでしょう。怖すぎるもん」
 岩尾:「お願い、逃げないで。せめてお茶だけ、お茶だけ飲んで行って」
 僕:「ええ、そんなキャラなん・・」
 B:「どうする?なんか可哀相やけど」
 僕:「じゃ、君どうぞ」
 A:「どうぞ」
 B:「アホか!みんなでやって!」
 岩尾:「お願い・・・」

 ということで、僕たちは4人全員で岩尾の家へ行くことになった。

 部屋に入ると中はひどく殺風景で、生活感がまるでない。
ワンルームの部屋の中央に正方形の簡単なちゃぶ台が置かれてあるのみで、他には何もない。

 A:「何もないな」
 岩尾:「越してきたばかりだからね」
 A:「あ、泣き止んでる」
 B:「とにかくおでこの血流して来や」
 岩尾:「うん。そうする」

 そういって、ヤツは洗面所に行った。

 A:「どこがニューハーフなんやろ。ただのおっさんやん」
 C:「努力しろよな。青ひげやし」
 B:「適当に話し聞いて早よ帰ろな」
 全員:「間違いない」

 帰ってきた。

 A:「てかおっさん何しに大阪来たん?」
 岩尾:「会社やめたから・・・」
 A:「なんで?」
 岩尾:「・・・ホモってバレて居づらくなったの」
 B:「そりゃ、その話し方はバレるでしょう」
 岩尾:「会社では我慢してたんよ」
 A:「で、今は何してんの?」
 岩尾:「仕事探してるけど、なかなかないの」
 A:「オカマバーとかは?」
 岩尾:「あたし不細工やし、特技もないから雇ってもらえなくて」
 B:「おっさん、大変やなあ」

 おっさんは北九州出身で年齢は43歳、会社を辞めて大阪に来たのは、大阪のような都会だったらゲイの世界も開けているだろうという安易な推測かららしい。実際、故郷ではそうとう肩身が狭かったらしく、自分の本当を人に話したことは殆どないそうだ。
 腕にはリストカットの傷後が生々しく刻まれている。

 僕:「ホモの世界って、なかでも男役と女約で別れてるんやろ?」
 岩尾:「そう、よく知ってるね」
 僕:「どっちなん?」
 岩尾:「当然、女よ」
 C:「オエ〜〜っ」
 岩尾:「ひどい!」
 僕:「ゴメンゴメン」
 僕:「それはそうと、おっさん、リスカしてるやん」
 岩尾:「おっさんっていわないでよ!」
 僕:「え〜、なんでオレだけ・・」
 岩尾:「ちゃんと名前があります!」
 僕:「はぁ、で、名前は?」
 岩尾:「江頭といいます」

 僕とBは時計を見た。

 B:「惜しいな」
 僕:「惜しい」

 2時40分だった。

 僕:「で、江頭さんはなぜリストカットしたの?」
 江頭:「実はね・・・」

 おっさんは高校時代、同級生の男子生徒に恋をした。
 帰り道が同じだったので、よく二人で帰ったそうだ。
 その頃からおっさんの行動には女っぽさが見られたため、クラスメイトからは若干距離を置かれていたらしい。そのなかで彼だけはごく普通に接してくれていて、学校帰りの並木道を並んで歩くのがおっさんの何よりの楽しみだった。おっさんは彼の帰る時間を見計らい、偶然を装って現れ、毎日のように仲良く並んで帰っていた、そんなある日。
 「お前ってなんか可愛いとこあるよね」と、彼にいわれて告白を決心した。
 並木道を通り抜け、二人の帰路が分かれる交差点。高鳴る鼓動を抑え、声を上ずらせてなんとかいった。
 「オ、オ、オレ、お前んごと、す、す、す、す、すきやもん」
 そのときの彼の顔が今でも忘れられないという。
 「え、え、ええ、ちょっ、本気でいっとるとか!?と、とりあえずまた明日ね。バイバイ」
 いつまでも彼の背中を見ていた。彼は一度も振り返らなかった。
 激しい後悔の波にのまれたおっさんは、その日、一睡も出来ずに翌日、登校して死を決心した。
 教室に入ると皆がいっせいにおっさんを見た。席に着いて顔が青ざめた。
 机にチョークで、チンコ(MAX時)の絵が描かれていた。「ばってんオレのはこんなに大きくなかばい」なんていう余裕はもちろんなく、涙をこぼしながら雑巾で机を拭いたそうだ。その日、一時間目の途中に家へ帰った彼はハサミで腕を切り、自殺を図ったのだけれど、動脈血管は思いのほか硬く、あまりにも痛かったので、ほどほどにしてやめたそうだ。

 A:「おっさん、悲しいなぁ」
 江頭:「もう、思い出させないでよ」
 B:「おっさん、大阪でがんばって生きろよ」
 江頭:「ありがとう」
 B:「じゃ、そろそろ」
 江頭:「いや〜、帰らないで〜。大阪に来てから人と話すの初めてなのに〜」
 A:「けど、もういい時間やし」
 江頭:「お願い。もうちょっとだけ、ね」
 C:「おえ〜〜っ!」
 江頭:「ひ、ひどい!」
 僕:「ゴメンゴメン、わかったから。じゃあ、もうちょいだけな」
 江頭:「ありがと〜。けど、あんたたちよく見ると男前ね〜」
 
 ・・・

 全員:「さ、帰ろか」

 やや危機感を覚えた僕たちは、帰ろうと立ち上がった。ホモのお話にも少々飽きていたし。

 江頭:「え〜、ちょっとちょっと、まだいいじゃ〜ん」

 だんだんむかついてきた。

 B:「わかった。おっさん、ここに携帯番号書いてくからまた今度、時間あるときな」
 江頭:「・・絶対ばい!絶対に絶対ばい!」
 
 Bがメモ用紙に番号を書いて僕らは部屋を後にした。

 僕:「またな、おっさん」
 江頭:「おっさんていわないでよ!」
 僕:「ええ、またオレだけ・・」
 江頭:「連絡するからね〜!」

 部屋を出てエレベータに乗り、マンションを出た。
 おっさんがベランダから何やら叫んでいる。

 江頭:「番号は使われておりませんってどがんごとか!!」
 B:「ぎゃははは、また来るから別によかば〜い!」
 A:「死ぬなよ〜!」
 B:「じゃあな〜、バイバ〜イ」

        ・
        ・
        ・

 あの日から7年くらい経ったか。おっさんは今どうしているだろう。仕事には就けただろうか。それ以前にちゃんと生きているだろうか。ちょっとだけ気になる。
 7年経った今も、世の中はさほど変わってない。景気も良くなっていないし、政権も変わってない。ゲイの社会はどうだろう。やっぱりたいして変わってないんだろうな。不細工なゲイにはかなりきつい社会だというのも不動のままだろう。
 時間が過ぎるのは早いけれど、世の中の動きは早くない。いくら期待しても大きな変化はもたらされない。差別のある社会は間違ってる。けれど、それがなくなるとは思えないし、そんな社会を恨んでいても疲れるだけだ。性同一障害は病気じゃないだとか障害という記述すらおかしいなど、その異議を唱える声は多い。けれど、男女のそれに比べると、やっぱり一般社会で生活する上ではハンディキャップになるのだと思う。でも、だからといって世の中が変わるのをただ待つのでなく、自分自身が生きる道を、その目と足で模索するんだ。自分の本当を隠して一般社会で生きるのも間違いじゃないし、社会から身を離してゲイの世界で生きるのも間違いじゃない。
 誰かの一言に一喜一憂してないで、自分が思うよう、信じるままに歩いて行けばいい。
 おっさんはもういい年やし、自分で決められるやろう?
 遅くなんかない。やり直せるし、取り返せる。

 だから、負けんな!



 『40メートル地点からタイソン・ゲイが出てきた!伸びる伸びる!速い!3位、2位、他を圧倒して、今ゴールイン!タイソン・ゲイ、金メダルーー!!』

コメント(62)

いやあ……金メダルを進呈したいです。

一票!
最初笑っちゃったけど
最後なんだか涙でてきちゃったかわいい

一票涙ぴかぴか(新しい)(注 自分はホモではない手(パー))
同性愛者ってつらいんですよね。
一票ぴかぴか(新しい)
芸能人のゲイとかの人は顔がかわいかったりなんか特技があるから認められてるんだろうなーボケーっとした顔あせあせ(飛び散る汗)一般の人は周りになかなか認めてもらえなくて大変なんだろうなと思いましたあせあせ(飛び散る汗)
なかなかきっついことしたなあ…

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